誘拐と人食い 04
何か物音がしたような気がして、壱岐大はふと目が覚ます
「……まぐろ?」
いつも隣で寝ているはずのまぐろの姿が無い
本来睡眠は必要無いはずのまぐろだが、大が寝ている時はいつも隣に潜り込んでいたし、大が目を覚ます頃には枕によだれを垂らして眠りこけていたはずである
目が覚めたのも契約により繋がりを得ているせいか
湧き上がる奇妙な不安感に、大はすぐに着替えてまぐろを探すために部屋を後にした
「……まぐろ?」
いつも隣で寝ているはずのまぐろの姿が無い
本来睡眠は必要無いはずのまぐろだが、大が寝ている時はいつも隣に潜り込んでいたし、大が目を覚ます頃には枕によだれを垂らして眠りこけていたはずである
目が覚めたのも契約により繋がりを得ているせいか
湧き上がる奇妙な不安感に、大はすぐに着替えてまぐろを探すために部屋を後にした
―――
ぷかり、ぷかりと
風船が浮かぶ
人々が寝静まった深夜の町で
ぷかり、ぷかりと
風船が浮かぶ
空の彼方へ飛んでいく事なく
ぷかり、ぷかりと
風船が浮かぶ
子供達の手にその紐を絡ませて
一つ、また一つと町のあちこちから
風船を手にした子供が現れる
その数はさほど多くは無い
一度に大量に姿を消すと、どうしても話が大きくなり過ぎる
目立たないようにこっそりと
人目を避けてこっそりと
一人、二人、三人の少年が
一人、二人、三人の少女が
虚ろな目付きで町外れの空き地に設営された、巨大なテントに向かって歩いてくる
『誘拐結社』の一員である『人攫いサーカス』
その団長は、サーカスのテントに向かってくる風船を持った人影を見て、粘ついたような笑みを浮かべる
組織の仲間達は、この町を避ける傾向にあったが彼は違う
この町の住人、特に若い少年少女は都市伝説ととても馴染む
契約者としても、取り込み力を増すための餌としても
既に五十人近い大所帯となっているこのサーカスだが、更に大きくなれば暖簾分けをして更に勢力を拡大する事もできる
何か強力な都市伝説が動くのに合わせて、ほんの少しずつこの町の住民を食らってじわじわと大きくなってきたのだ
大きな事件の余韻に紛れて、ほっとしたその隙を突くように
逃げ隠れが得意な『誘拐結社』の面々の中でも、彼はそんな流れを読む事に非常に長けていたのだ
だが彼の誤算はただ一つ
今この町に潜む化物は
彼よりも逃げ隠れが上手かったのだ
風船が浮かぶ
人々が寝静まった深夜の町で
ぷかり、ぷかりと
風船が浮かぶ
空の彼方へ飛んでいく事なく
ぷかり、ぷかりと
風船が浮かぶ
子供達の手にその紐を絡ませて
一つ、また一つと町のあちこちから
風船を手にした子供が現れる
その数はさほど多くは無い
一度に大量に姿を消すと、どうしても話が大きくなり過ぎる
目立たないようにこっそりと
人目を避けてこっそりと
一人、二人、三人の少年が
一人、二人、三人の少女が
虚ろな目付きで町外れの空き地に設営された、巨大なテントに向かって歩いてくる
『誘拐結社』の一員である『人攫いサーカス』
その団長は、サーカスのテントに向かってくる風船を持った人影を見て、粘ついたような笑みを浮かべる
組織の仲間達は、この町を避ける傾向にあったが彼は違う
この町の住人、特に若い少年少女は都市伝説ととても馴染む
契約者としても、取り込み力を増すための餌としても
既に五十人近い大所帯となっているこのサーカスだが、更に大きくなれば暖簾分けをして更に勢力を拡大する事もできる
何か強力な都市伝説が動くのに合わせて、ほんの少しずつこの町の住民を食らってじわじわと大きくなってきたのだ
大きな事件の余韻に紛れて、ほっとしたその隙を突くように
逃げ隠れが得意な『誘拐結社』の面々の中でも、彼はそんな流れを読む事に非常に長けていたのだ
だが彼の誤算はただ一つ
今この町に潜む化物は
彼よりも逃げ隠れが上手かったのだ
―――
動物でも閉じ込めるような檻の中
六人の少年少女がそれぞれ個別に閉じ込められていた
それぞれが風船の紐を握り締め、ぷかぷかと浮かぶ風船のように虚ろに揺れる表情で
「……お?」
そんな中、ぼんやりとした思考の中でまぐろは自分の置かれている状況に気が付いた
思考がはっきりしないのだが、いつも割とぽややんとしていたのが幸いしてかぶれ幅が小さかったのだ
だがそれでもまともな思考能力は奪われており、ここがいつもの大の部屋ではないという事ぐらいしか理解できず、それすらもさほど疑問に思わなかった
六人の少年少女がそれぞれ個別に閉じ込められていた
それぞれが風船の紐を握り締め、ぷかぷかと浮かぶ風船のように虚ろに揺れる表情で
「……お?」
そんな中、ぼんやりとした思考の中でまぐろは自分の置かれている状況に気が付いた
思考がはっきりしないのだが、いつも割とぽややんとしていたのが幸いしてかぶれ幅が小さかったのだ
だがそれでもまともな思考能力は奪われており、ここがいつもの大の部屋ではないという事ぐらいしか理解できず、それすらもさほど疑問に思わなかった
―――
音門金融の社長室に響く、苦悶混じりの嬌声
部屋に入った途端にそんなものが耳に飛び込んできて、梨々は胡散臭げな目を向ける
「社長、朝っぱらからエロ動画っスか?」
「まあそういう事になるな」
モニタを見詰める元締めの苦々しい表情と、何か聞き覚えのある声に首を傾げる
「AVかなんか紹介した客とかでしたっけ、この声?」
「阿呆、ついこの間話してただろうが」
煙草のフィルターをきりと噛み締めながら、元締めはモニタを見詰めている
そこには、目隠しをされ拘束されたまま嬲られ続ける一人の女性の姿
《という訳でぇ、なんか俺らの事を探っちゃってる、オッサンの雇った女は美味しくいただいてまーす》
《まー俺らが入る前の事らしいけど、そっちから追い出しといてまた腹探ってくるなんて酷くね? ってな感じで》
《電脳存在をイジりたいって物好きもたまにいるから、飽きたら売り飛ばすので頑張って探してねー》
《あ、雇われの女一人ぐらいどうでもいいっつーんならそれでもいいけどね?》
《アレだよアレ、今はあんたンとことと関わるような仕事は……してないよな?》
《してなかったっけ?》
《別に連絡取り合ってないからなぁ、リーダーとかと》
《まあいいや、どっちにしろ俺らにあんま構わないどいてねー? ホラ、どっちも悪い商売なんだからさー》
《そういうわけで、よーろしーくねー》
《孤高なる深淵の探求者、『闇プログラマー』と》
《頂の神に近しき冒険者、『スーパーハカー』でした》
二人の下品な笑い声と共に映像は途切れる
「うわちゃー、あゆみっちゃん捕まっちゃったんスか……つーかすっげぇ頭悪そうな奴らっスね」
何をやるにも割と自己責任な裏業界暮らしが長いせいか、さほど同情や憐憫といった感情は見せない梨々
そんな彼女の反応を他所に、椅子から立ち上がってコートに袖を通す元締め
「お出掛けっスか社長」
「ああ」
口数がやたらと少ない時は、大体怒っている
心は読まなくてもそれぐらいは把握できる程度の付き合いの長さがある
だが流石にどこに怒りポイントがあったのかまでは判らない
「珍しいっスね、社長が怒ってるのも」
わざわざ口に出して確認するのは、心を読んではいないという彼女なりの意思表示である
それを知っている元締めは、心は読まないが本心は知りたいという意味を察して語る
「うちは取立ては無茶するがあくまで契約に基づいた貸し借りが仕事だ。合意も契約もへったくれも無ぇ人攫いと一緒にされちゃ先代に申し訳が立たねぇだろ」
「……それだけっスか?」
「社会と人様を舐め切ったガキ連中には、教育が必要だしな」
「……もう一声」
「お前、もう心読んでやがるだろ」
「いや、マジで勘と経験っスよ。『組織』に居た頃から一緒じゃないっスか」
にへらと笑う梨々に、元締めは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた
「あいつら、俺をオッサン呼ばわりしやがった」
そう言い残して、扉を蹴破るように開けて社長室を出ていく元締め
「素直じゃねっスねぇ、知り合いがあんな目に遭ってたら怒るのが当たり前でしょうに。もうちょい私情を表に出しても誰も咎めねっスよ?」
本人がこの場に居れば「金貸しが私情なんて表に出してたら仕事になるか」と凄まれていただろう
「ま、実行できてなきゃ一緒っスけどね。あっしに比べりゃ社長もまだまだ若造ってこってすなぁ。そこが良いから付いてってるんスけどね」
部屋に入った途端にそんなものが耳に飛び込んできて、梨々は胡散臭げな目を向ける
「社長、朝っぱらからエロ動画っスか?」
「まあそういう事になるな」
モニタを見詰める元締めの苦々しい表情と、何か聞き覚えのある声に首を傾げる
「AVかなんか紹介した客とかでしたっけ、この声?」
「阿呆、ついこの間話してただろうが」
煙草のフィルターをきりと噛み締めながら、元締めはモニタを見詰めている
そこには、目隠しをされ拘束されたまま嬲られ続ける一人の女性の姿
《という訳でぇ、なんか俺らの事を探っちゃってる、オッサンの雇った女は美味しくいただいてまーす》
《まー俺らが入る前の事らしいけど、そっちから追い出しといてまた腹探ってくるなんて酷くね? ってな感じで》
《電脳存在をイジりたいって物好きもたまにいるから、飽きたら売り飛ばすので頑張って探してねー》
《あ、雇われの女一人ぐらいどうでもいいっつーんならそれでもいいけどね?》
《アレだよアレ、今はあんたンとことと関わるような仕事は……してないよな?》
《してなかったっけ?》
《別に連絡取り合ってないからなぁ、リーダーとかと》
《まあいいや、どっちにしろ俺らにあんま構わないどいてねー? ホラ、どっちも悪い商売なんだからさー》
《そういうわけで、よーろしーくねー》
《孤高なる深淵の探求者、『闇プログラマー』と》
《頂の神に近しき冒険者、『スーパーハカー』でした》
二人の下品な笑い声と共に映像は途切れる
「うわちゃー、あゆみっちゃん捕まっちゃったんスか……つーかすっげぇ頭悪そうな奴らっスね」
何をやるにも割と自己責任な裏業界暮らしが長いせいか、さほど同情や憐憫といった感情は見せない梨々
そんな彼女の反応を他所に、椅子から立ち上がってコートに袖を通す元締め
「お出掛けっスか社長」
「ああ」
口数がやたらと少ない時は、大体怒っている
心は読まなくてもそれぐらいは把握できる程度の付き合いの長さがある
だが流石にどこに怒りポイントがあったのかまでは判らない
「珍しいっスね、社長が怒ってるのも」
わざわざ口に出して確認するのは、心を読んではいないという彼女なりの意思表示である
それを知っている元締めは、心は読まないが本心は知りたいという意味を察して語る
「うちは取立ては無茶するがあくまで契約に基づいた貸し借りが仕事だ。合意も契約もへったくれも無ぇ人攫いと一緒にされちゃ先代に申し訳が立たねぇだろ」
「……それだけっスか?」
「社会と人様を舐め切ったガキ連中には、教育が必要だしな」
「……もう一声」
「お前、もう心読んでやがるだろ」
「いや、マジで勘と経験っスよ。『組織』に居た頃から一緒じゃないっスか」
にへらと笑う梨々に、元締めは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた
「あいつら、俺をオッサン呼ばわりしやがった」
そう言い残して、扉を蹴破るように開けて社長室を出ていく元締め
「素直じゃねっスねぇ、知り合いがあんな目に遭ってたら怒るのが当たり前でしょうに。もうちょい私情を表に出しても誰も咎めねっスよ?」
本人がこの場に居れば「金貸しが私情なんて表に出してたら仕事になるか」と凄まれていただろう
「ま、実行できてなきゃ一緒っスけどね。あっしに比べりゃ社長もまだまだ若造ってこってすなぁ。そこが良いから付いてってるんスけどね」
―――
道端で屈み込み、マンホールの奥深くを覗き込む黒服の青年と黒服の少女
「まずいね、下水道は盲点だった」
「ぶらいんどすぽっとー」
「ただの下水道ならローラー作戦で一発だけど……この町の下水道は、まずい」
「でんじゃらすー」
「まずは下水道のデータ集めか、しんどいなぁ」
「まっぴんぐー」
「あいつらが住み着いてるなら、とっくに人は攫って食ってる。奴らの伝承通り、他の奴らを犯人に仕立て上げながら」
「すけーぷごーとー」
「急ごう、奴らの居場所を突き止めて、今の人数を把握しないと。例えどんな強さでも、あいつらは数で劣る相手には絶対負けないから」
「はりーあっぷー」
「まずいね、下水道は盲点だった」
「ぶらいんどすぽっとー」
「ただの下水道ならローラー作戦で一発だけど……この町の下水道は、まずい」
「でんじゃらすー」
「まずは下水道のデータ集めか、しんどいなぁ」
「まっぴんぐー」
「あいつらが住み着いてるなら、とっくに人は攫って食ってる。奴らの伝承通り、他の奴らを犯人に仕立て上げながら」
「すけーぷごーとー」
「急ごう、奴らの居場所を突き止めて、今の人数を把握しないと。例えどんな強さでも、あいつらは数で劣る相手には絶対負けないから」
「はりーあっぷー」