「私は、この街に来て良かったです」
「ひとりぼっちだった時となんて、比べものにならないくらい楽しくて」
「ギーに出会うこともできた」
「私は、神さまに感謝しとります」
「ずっとずっと、こんな毎日が続きますように」
「ひとりぼっちだった時となんて、比べものにならないくらい楽しくて」
「ギーに出会うこともできた」
「私は、神さまに感謝しとります」
「ずっとずっと、こんな毎日が続きますように」
「……」
「……うん、嘘」
「ホンマは、私だって分かっとる」
「この街はずっと在るわけやない、全部全部偽物やって」
「……私は、どないすればええんやろ」
「考えると不安になる。目を向けたら怖くてたまらない」
「そんなら、いっそ目を背けてしまえばええと思って」
「でも、私は」
「いったい、何を―――」
「ホンマは、私だって分かっとる」
「この街はずっと在るわけやない、全部全部偽物やって」
「……私は、どないすればええんやろ」
「考えると不安になる。目を向けたら怖くてたまらない」
「そんなら、いっそ目を背けてしまえばええと思って」
「でも、私は」
「いったい、何を―――」
▼ ▼ ▼
「止まれ!」
「貴様、サーヴァントだな?」
「抵抗するのはやめてもらおうか」
「貴様、サーヴァントだな?」
「抵抗するのはやめてもらおうか」
現実とはかくも難解な試練を容易に叩きつけてくる。
それは例えば、「なんでこのタイミングで」と思うようなことが起きたり、急いでいる時に限って足止めを喰らったり。
総じて間が悪いの一言で済まされるような出来事。しかしそれは、迫る危機が大きければ大きいほど致命的な隙として襲ってくるのだ。
それは例えば、「なんでこのタイミングで」と思うようなことが起きたり、急いでいる時に限って足止めを喰らったり。
総じて間が悪いの一言で済まされるような出来事。しかしそれは、迫る危機が大きければ大きいほど致命的な隙として襲ってくるのだ。
少なくとも、今このタイミングでサーヴァントに出会うなど、ギーにとっては最悪に近い間の悪さだ。
ギーの眼前に立つ三人のサーヴァント。全員が同じ顔で、同じ服装をしている。
恐らくは分身か。こちらを威圧するような硬く大きな声で、静止するように迫ってくる。
恐らくは分身か。こちらを威圧するような硬く大きな声で、静止するように迫ってくる。
厄介なことになった、そうギーは内心呟く。
実体化しての行動故に他のサーヴァントから捕捉される危険性は確かに存在した。先はそのせいで奇襲を受ける羽目になったわけだが、まさかこんな近くに更に別のサーヴァントが潜んでいるとは。
この冬木の地に招かれたマスターがどれほどの数になるかは分からないが、これだけの遭遇率を考えるに相当数に及ぶのではないかと推論できる。
だが今はそんなくだらないことを考えている暇はない。可及的速やかに、この場を離脱する必要がある。
実体化しての行動故に他のサーヴァントから捕捉される危険性は確かに存在した。先はそのせいで奇襲を受ける羽目になったわけだが、まさかこんな近くに更に別のサーヴァントが潜んでいるとは。
この冬木の地に招かれたマスターがどれほどの数になるかは分からないが、これだけの遭遇率を考えるに相当数に及ぶのではないかと推論できる。
だが今はそんなくだらないことを考えている暇はない。可及的速やかに、この場を離脱する必要がある。
「……済まないが、僕たちは今アーチャーのサーヴァントに付け狙われている。早急にそこを通してもらいたい」
だからこそ、放つ言葉に虚偽は一切混ぜない。
このサーヴァントたちが何を目的に行動しているかは分からない。しかし問答無用で襲い掛かってくることがなかった以上、ある程度は交渉の余地があることの証左になろう。
彼らと共闘してアーチャーを迎え撃つ、などと都合のいい夢想は持たない。だが彼らがこの状況を危険と判断してくれさえすれば、こちらとていくらでもやりようはあるのだ。
このサーヴァントたちが何を目的に行動しているかは分からない。しかし問答無用で襲い掛かってくることがなかった以上、ある程度は交渉の余地があることの証左になろう。
彼らと共闘してアーチャーを迎え撃つ、などと都合のいい夢想は持たない。だが彼らがこの状況を危険と判断してくれさえすれば、こちらとていくらでもやりようはあるのだ。
「なに、アーチャーのサーヴァントだと?」
「だが貴様の言をそのまま受け取るわけにもいかないな。まずは貴様の素性と行動目的を明かし、その後にアーチャーの特徴を我らに提示しろ」
「だが貴様の言をそのまま受け取るわけにもいかないな。まずは貴様の素性と行動目的を明かし、その後にアーチャーの特徴を我らに提示しろ」
……ああ、こう来たか。
ギーは表情を変えず嘆息する。外見からしてそのような印象を持ってはいたが、やはりこうなってしまうのかと。
彼ら……複製品じみた特徴を持つため、便宜上レプリカと呼称する……はとても機械的な存在なのだと、そう思う。
感情を解さないわけではないだろうが、その思考は非常にシンプル、かつ単一的。その上完成された軍属気質まで持ち合わせているようにも見えるのだから厄介極まりない。
端的に言えば、彼らは一切の妥協を認めないのだ。不確定の危険が迫っているからと言って眼前に存在するサーヴァントを見逃すことはしないし、まず取れるだけの情報を得ようとする。
三人のうち一人は周囲を見回すように索敵しているが……アーチャーにクラスを相手に、そんな片手間の索敵など気休めにもなるまい。彼らは通常のサーヴァントが知覚し得る限界以上の距離から容易に魔弾を放ってくるのだ。
彼ら……複製品じみた特徴を持つため、便宜上レプリカと呼称する……はとても機械的な存在なのだと、そう思う。
感情を解さないわけではないだろうが、その思考は非常にシンプル、かつ単一的。その上完成された軍属気質まで持ち合わせているようにも見えるのだから厄介極まりない。
端的に言えば、彼らは一切の妥協を認めないのだ。不確定の危険が迫っているからと言って眼前に存在するサーヴァントを見逃すことはしないし、まず取れるだけの情報を得ようとする。
三人のうち一人は周囲を見回すように索敵しているが……アーチャーにクラスを相手に、そんな片手間の索敵など気休めにもなるまい。彼らは通常のサーヴァントが知覚し得る限界以上の距離から容易に魔弾を放ってくるのだ。
「……僕はキャスターのサーヴァント。目的は聖杯戦争からの脱出だ。アーチャーの特徴は白い長髪の少女。見たことのない意匠の軍服を着用していた」
しかし、かといって力づくで押し通るわけにもいかない。この近距離で戦闘行為に入ったら、腕の中のマスターがどうなるか分かったものではないのだから。
できるだけ簡潔に、問われた事項を説明する。レプリカたちはそれを聞き届けると、互いに頷き合ってからこちらを睥睨した。
できるだけ簡潔に、問われた事項を説明する。レプリカたちはそれを聞き届けると、互いに頷き合ってからこちらを睥睨した。
「貴様の言い分は理解した。アーチャーのサーヴァントに狙われているということも信用してやっていいだろう」
「そして貴様の目的はこちらにとって都合がいい。我々と一緒に来てもらおうか」
「そして貴様の目的はこちらにとって都合がいい。我々と一緒に来てもらおうか」
相も変らぬ鉄面皮で、レプリカはそんなことを言ってきた。
どこまでも大上段から、こちらが上の立場なのだと言外に言ってくるような傲慢さで、反論は許さないと威圧しながら。
二人のレプリカがこちらの腕を拘束しようと迫る。腕の中のはやては恐怖の色を一層濃くして、声にならない悲鳴を漏らした。
どこまでも大上段から、こちらが上の立場なのだと言外に言ってくるような傲慢さで、反論は許さないと威圧しながら。
二人のレプリカがこちらの腕を拘束しようと迫る。腕の中のはやては恐怖の色を一層濃くして、声にならない悲鳴を漏らした。
……どうするべきか。
彼らに大人しく従うべきか、それとも宝具を発動してでもこの場を逃れるべきなのか。
彼らは自分の目的に対して都合がいいと言った。ならば彼らのマスターは自分と同じく聖杯戦争からの脱出を目指している可能性がある。
しかしそれは所詮推測、絶対ではない。大人しく連行されたところで、良くて隷属、悪ければ殺される危険性は十分に存在する。
かといって宝具を起動して逃れたならば、仮にレプリカたちが脱出を目指していた場合にも敵対は不可避となる。
しかも、それはあくまで彼らに勝つことが前提条件。もしかしたら、レプリカたちは宝具を使ってなおこちらを圧倒する力量があるかもしれない。
彼らに大人しく従うべきか、それとも宝具を発動してでもこの場を逃れるべきなのか。
彼らは自分の目的に対して都合がいいと言った。ならば彼らのマスターは自分と同じく聖杯戦争からの脱出を目指している可能性がある。
しかしそれは所詮推測、絶対ではない。大人しく連行されたところで、良くて隷属、悪ければ殺される危険性は十分に存在する。
かといって宝具を起動して逃れたならば、仮にレプリカたちが脱出を目指していた場合にも敵対は不可避となる。
しかも、それはあくまで彼らに勝つことが前提条件。もしかしたら、レプリカたちは宝具を使ってなおこちらを圧倒する力量があるかもしれない。
目に見えて分かる八方塞がり、それがギーたちの現状だ。取りとめのない思考に埋没する暇もなく、彼らの腕がこちらへ伸びる。
自分は一体どうするべきなのか。未だ答えは出ず、ただいたずらに時は過ぎて。
自分は一体どうするべきなのか。未だ答えは出ず、ただいたずらに時は過ぎて。
「……ねえ、ちょっといい?」
路地の向こうから、そんな声がギーたちに届いた。
年若い、まだ少女のものと思われる声だった。
年若い、まだ少女のものと思われる声だった。
▼ ▼ ▼
「ふと思い出すことがある。それは、まだ私がアイドルだった頃」
「多分、ううん、きっと私は、その時輝いていたんだと思う」
「誰かを笑顔にして、誰かの夢になって、誰をも幸せにする、そんなアイドルを目指して」
「……結局、全部駄目だったけど」
「でも、そんな『夢』に一番救われていたのは、きっと私だったんだ」
「……私は、私が分からない」
「何もできない自分が嫌で、そんな自分を見たくなくて」
「でも、何かを期待されたって何もできない。したくない」
「私には無理だなんて、都合よく諦めて」
「彼と真っ直ぐ向き合うことすらできない」
「私は、何がしたいの?」
「―――私は、また、諦めるの?」
「多分、ううん、きっと私は、その時輝いていたんだと思う」
「誰かを笑顔にして、誰かの夢になって、誰をも幸せにする、そんなアイドルを目指して」
「……結局、全部駄目だったけど」
「でも、そんな『夢』に一番救われていたのは、きっと私だったんだ」
「……私は、私が分からない」
「何もできない自分が嫌で、そんな自分を見たくなくて」
「でも、何かを期待されたって何もできない。したくない」
「私には無理だなんて、都合よく諦めて」
「彼と真っ直ぐ向き合うことすらできない」
「私は、何がしたいの?」
「―――私は、また、諦めるの?」
▼ ▼ ▼
サーヴァントの気配を感じた、と傍らのヒーローが言ったのは、つい数分前のことだ。
彼が言うにはとても濃い魔力の反応があって、恐らく複数のサーヴァントが一か所に集まっているのではないか、とのことだった。
爆発的な魔力の高まりがないから戦闘は起きていないだろうと続ける彼を前に、加蓮はちょっと考えて。
彼が言うにはとても濃い魔力の反応があって、恐らく複数のサーヴァントが一か所に集まっているのではないか、とのことだった。
爆発的な魔力の高まりがないから戦闘は起きていないだろうと続ける彼を前に、加蓮はちょっと考えて。
「……なら、私が交渉してみる。あなたはタイガーを呼んできてくれない?」
口を突いて出たのはそんな言葉だった。
当然、ヒーローの彼は猛反対した。あまりにも当たり前のことだ。
そも、タイガーとの事前協議では、加蓮が先に目標を発見したなら令呪を使ってタイガーを呼び出す約束だ。加蓮とて、そんな約束を抜きにしても、マスターが何の備えもなくサーヴァントの前に身を晒すなど愚の骨頂だということは分かりきっている。
けれど。
当然、ヒーローの彼は猛反対した。あまりにも当たり前のことだ。
そも、タイガーとの事前協議では、加蓮が先に目標を発見したなら令呪を使ってタイガーを呼び出す約束だ。加蓮とて、そんな約束を抜きにしても、マスターが何の備えもなくサーヴァントの前に身を晒すなど愚の骨頂だということは分かりきっている。
けれど。
「でもさ、こんな早くに、しかも大したことない理由で令呪を使うわけにもいかないでしょ」
口から出るのはそんな屁理屈。私は反抗期の子供かと自嘲して、ああそういえば子供だったなと心の中で苦笑する。
加蓮の言葉は、ある意味では間違っていない。
令呪とはサーヴァントを縛る究極の枷であると同時に、サーヴァントを限界以上に強化することもできる切り札にも等しい。考えるまでもなく、その存在は貴重だ。
そして令呪の喪失がマスターの消滅という結果を引き起こすこの冬木において、加蓮が使える令呪は実質二画のみ。考えなしに乱用していい代物ではない。
そう、それは確かな事実であり、故に加蓮が令呪を出し渋るのも一応の道理は通る。複数のサーヴァントが集ってなお戦闘が起きていないという状況も、その考えを後押しする結果となっている。
しかし、加蓮がそうした理由は、そんなセオリーに則った理屈など度外視したもので。
加蓮の言葉は、ある意味では間違っていない。
令呪とはサーヴァントを縛る究極の枷であると同時に、サーヴァントを限界以上に強化することもできる切り札にも等しい。考えるまでもなく、その存在は貴重だ。
そして令呪の喪失がマスターの消滅という結果を引き起こすこの冬木において、加蓮が使える令呪は実質二画のみ。考えなしに乱用していい代物ではない。
そう、それは確かな事実であり、故に加蓮が令呪を出し渋るのも一応の道理は通る。複数のサーヴァントが集ってなお戦闘が起きていないという状況も、その考えを後押しする結果となっている。
しかし、加蓮がそうした理由は、そんなセオリーに則った理屈など度外視したもので。
「どうしてもっていうなら、この令呪であなたに命令してもいいけど、それでいいの?」
その言葉に一気に顔を曇らせるヒーローを前に、加蓮の心は何度目かの自己嫌悪に黒く染まる。
無論のこと、加蓮にはそんな自分勝手なことで令呪を使うような度胸など存在しない。
これは単なる子供じみた脅し。この茶番めいた脅迫が通じなければ、その時は素直に諦めて令呪でタイガーを呼び出すつもりだったけど。
無論のこと、加蓮にはそんな自分勝手なことで令呪を使うような度胸など存在しない。
これは単なる子供じみた脅し。この茶番めいた脅迫が通じなければ、その時は素直に諦めて令呪でタイガーを呼び出すつもりだったけど。
「……うん、ありがと。それじゃあよろしくね」
幸か不幸か、結果的に加蓮の要求は通った。
自分たちが戻るまでここを動かないでくださいね、という言葉を残し、ヒーローは慌てた様子で視界の向こうに消えていく。
加蓮は能面のような顔でそれを見送り、その姿が視界から消え去ってからようやく気を抜いた。
自分たちが戻るまでここを動かないでくださいね、という言葉を残し、ヒーローは慌てた様子で視界の向こうに消えていく。
加蓮は能面のような顔でそれを見送り、その姿が視界から消え去ってからようやく気を抜いた。
「なにがしたいんだろうね、私……」
加蓮がこんな暴挙に出た理由、それは彼女自身にもよくわかっていなかった。
自分ひとりでも何かできると証明したかったのか、マスターの説得という自身に与えられた仕事を見事に果たしたかったのか、それともこの身を死線に晒してタイガーの真意を確かめたかったのか。
自分ひとりでも何かできると証明したかったのか、マスターの説得という自身に与えられた仕事を見事に果たしたかったのか、それともこの身を死線に晒してタイガーの真意を確かめたかったのか。
分からない。自分が何をしたいのか。
分からない。けれど、既に道は定まって。
分からない。けれど、既に道は定まって。
「……よし、頑張れ私」
そんな、意味などないと自分が一番良くわかっている薄っぺらな励ましをかけて。
彼女は彼女の戦場へと足を踏み入れたのだった。
彼女は彼女の戦場へと足を踏み入れたのだった。
そうして。
そうして、加蓮は今ここにいた。四人の男と一人の少女がいる、この場所へ。
そうして、加蓮は今ここにいた。四人の男と一人の少女がいる、この場所へ。
全員に緊張が走る。少なくとも、ギーはある種の緊張を覚えた。
「なんだ貴様は。名を名乗れ!」
「私は北条加蓮。聖杯戦争に参加してるマスターだよ。ほら、これが証拠の令呪ね」
「私は北条加蓮。聖杯戦争に参加してるマスターだよ。ほら、これが証拠の令呪ね」
突然現れた少女は、己が手を掲げ、自らを聖杯戦争のマスターだと告げた。
場が困惑に包まれる。
何を考えているんだ。それはギーとゾルダートの双方に共通する思考だった。
場が困惑に包まれる。
何を考えているんだ。それはギーとゾルダートの双方に共通する思考だった。
少女はマスターを自称するが、しかし周囲にサーヴァントの気配はない。
もしかするとアサシンのマスターなのかもしれないが、それにしたってサーヴァントではなくマスターたる彼女が矢面に立つ理由がまるで分からない。
故の硬直状態。未知に対する最適解は、まずそれが何なのかを判別することなのだから、この場の誰もが少女を見極めんと静観を保った。
もしかするとアサシンのマスターなのかもしれないが、それにしたってサーヴァントではなくマスターたる彼女が矢面に立つ理由がまるで分からない。
故の硬直状態。未知に対する最適解は、まずそれが何なのかを判別することなのだから、この場の誰もが少女を見極めんと静観を保った。
だからこそ、ギーにとってこの状況はあまり好ましいものではなかった。
いつ背後から白髪の少女のサーヴァントが襲撃してくるか分からない以上、長時間この場に拘束されるのは絶対に避けたい。
しかしこの意図が読めない闖入者の出現により、話はまた混迷を極めるだろう。少なくとも、眼前のレプリカたちが全てに納得するまで解放されることはあるまい。
それ故に、打開の道を探るべく、ギーは少女に問いかけた。
いつ背後から白髪の少女のサーヴァントが襲撃してくるか分からない以上、長時間この場に拘束されるのは絶対に避けたい。
しかしこの意図が読めない闖入者の出現により、話はまた混迷を極めるだろう。少なくとも、眼前のレプリカたちが全てに納得するまで解放されることはあるまい。
それ故に、打開の道を探るべく、ギーは少女に問いかけた。
「……それで、君は何故こうして姿を現した。僕にはその理由が分からない」
「待て、我々は貴様に問いを投げることを許した覚えはないぞ」
「……いいでしょ、別に。
私が出てきた理由はね、戦いなんてやめようって、そのために協力しましょうって、そうお願いしに来たの」
「待て、我々は貴様に問いを投げることを許した覚えはないぞ」
「……いいでしょ、別に。
私が出てきた理由はね、戦いなんてやめようって、そのために協力しましょうって、そうお願いしに来たの」
ギーとゾルダートの表情が、にわかに変化を帯びる。はやては僅かに顔を綻ばせた。
自らに戦意はなく、だから協力しようという言葉は、実のところギーやゾルダートたちが望んでいた台詞でもある。
しかし、それを素直に信じるかと言われたら話は別で。
自らに戦意はなく、だから協力しようという言葉は、実のところギーやゾルダートたちが望んでいた台詞でもある。
しかし、それを素直に信じるかと言われたら話は別で。
「……言葉だけでは信じられんな。証拠を提示するがいい」
「証拠なんて言われても……戦う気がなかったからサーヴァントを連れてこなかったってだけじゃ駄目?」
「駄目だな。アサシンが潜伏している可能性もある」
「……あー、うん。そっか、そういうこともあるか。
でもそこは大丈夫。あと何分もしないうちに、私のサーヴァントがこっちに来るだろうから、それで判断してくれると嬉しいかな」
「証拠なんて言われても……戦う気がなかったからサーヴァントを連れてこなかったってだけじゃ駄目?」
「駄目だな。アサシンが潜伏している可能性もある」
「……あー、うん。そっか、そういうこともあるか。
でもそこは大丈夫。あと何分もしないうちに、私のサーヴァントがこっちに来るだろうから、それで判断してくれると嬉しいかな」
矢継ぎ早に質問を重ねるゾルダートと、素人とは思えないほどに淀みなく答える北条加蓮。
確かに彼女の言う通り、その姿から敵意といった悪感情は一切感じられない。嘘を言っているとも考えづらく、だとするなら本当に協力の要請のために単身赴いたというのか。
それは疑いようもなく勇気ある行動だ。人は彼女を愚かだと笑うかもしれないが、その行動に含まれる尊さを否定することなどできはしまい。
確かに彼女の言う通り、その姿から敵意といった悪感情は一切感じられない。嘘を言っているとも考えづらく、だとするなら本当に協力の要請のために単身赴いたというのか。
それは疑いようもなく勇気ある行動だ。人は彼女を愚かだと笑うかもしれないが、その行動に含まれる尊さを否定することなどできはしまい。
だが、何故だろうか。
敵意も害意も感じず、嘘の気配も存在しないというのに。
言葉の端から漂うこの空虚感は。
一体、何だというのか。
敵意も害意も感じず、嘘の気配も存在しないというのに。
言葉の端から漂うこの空虚感は。
一体、何だというのか。
「……なあ、ギー」
「ああ、分かってる」
「ああ、分かってる」
腕の中で小さく呟くはやてに、ただ静かに答える。
賭けてみる価値も、信じてみる価値も、この少女には存在する。
けれどまず、この場所に危急の脅威が迫っていることを伝えねばなるまい。
賭けてみる価値も、信じてみる価値も、この少女には存在する。
けれどまず、この場所に危急の脅威が迫っていることを伝えねばなるまい。
「北条加蓮。横から済まないが、今から話すことを……」
良く聞いてほしい、と。そう言おうとしたところで。
「あっ」
「―――え?」
「ヌゥ!?」
「―――え?」
「ヌゥ!?」
その場にいた誰もが、声を上げた。
大気を切り裂いて飛来する弾丸が、周囲一帯を抉る。
それは先ほどのように単一のものではなく、広範囲にばら撒かれる散弾のように、視界に映る全てを屠る。
巻き上がる粉塵に、何もかもが見えなくなって。
大気を切り裂いて飛来する弾丸が、周囲一帯を抉る。
それは先ほどのように単一のものではなく、広範囲にばら撒かれる散弾のように、視界に映る全てを屠る。
巻き上がる粉塵に、何もかもが見えなくなって。
既視感を感じるほどに再び繰り返される光景が、そこに出来上がった。
▼ ▼ ▼
「私の名はヴェールヌイ。ロシアの言葉で【信頼できる】という意味を持つ名前だ」
「元々は響という名前だったけど、色々あって今に落ち着いた」
「……この名前は、私の悔恨の象徴でもある」
「後悔は、今でも胸に燻ってる」
「戦争に負けたことよりも、私だけ戦うことすらできなかったという事実が、とても悔しい」
「あの時私も一緒に死んでいれば良かった、なんて。そんなことを言うつもりはないけど」
「それでも、もっと他にできることはあったんじゃないか、そういうふうに考えることは少なくない」
「……私は、マスターにその気持ちを味わってほしくないんだ」
「自分だけが生き延びて、何もかもを失って」
「それでもなお歩き続けなければならないというのは、とても悲しいことだから」
「私は、Верныйの名の下に、マスターを助けようと」
「そう、誓ったんだ」
「元々は響という名前だったけど、色々あって今に落ち着いた」
「……この名前は、私の悔恨の象徴でもある」
「後悔は、今でも胸に燻ってる」
「戦争に負けたことよりも、私だけ戦うことすらできなかったという事実が、とても悔しい」
「あの時私も一緒に死んでいれば良かった、なんて。そんなことを言うつもりはないけど」
「それでも、もっと他にできることはあったんじゃないか、そういうふうに考えることは少なくない」
「……私は、マスターにその気持ちを味わってほしくないんだ」
「自分だけが生き延びて、何もかもを失って」
「それでもなお歩き続けなければならないというのは、とても悲しいことだから」
「私は、Верныйの名の下に、マスターを助けようと」
「そう、誓ったんだ」
▼ ▼ ▼
暗闇は一瞬だった。
凄まじい衝撃が全身を貫き、視界がぶれたと思ったらすぐに暗転して。それでも、気付けばすぐに目を開けることができた。
凄まじい衝撃が全身を貫き、視界がぶれたと思ったらすぐに暗転して。それでも、気付けばすぐに目を開けることができた。
「……うぅ、ん……」
まるで起き抜けの子供のような声を上げて、加蓮は意識に光を灯した。
頭が覚醒してくると共に、一時的に感覚が麻痺していた体の節々に、徐々に痛みが伴ってくる。
背中の硬い感触から、多分仰向けに倒れたんだろうなということが分かる。何が起きたのかは分からないが、突き飛ばされでもしたのだろうか。
というか、重い。自分の体に何かが覆いかぶさっている。それは硬いような柔らかいような感触があって、それにしてはやたら重量のあるものだ。
迷惑だなぁ、とか。早くどけてくれないかな、とか。そんなことを思考の端に浮かべながら、加蓮はこの時になってようやく、視界にかかった靄を払うことができて。
頭が覚醒してくると共に、一時的に感覚が麻痺していた体の節々に、徐々に痛みが伴ってくる。
背中の硬い感触から、多分仰向けに倒れたんだろうなということが分かる。何が起きたのかは分からないが、突き飛ばされでもしたのだろうか。
というか、重い。自分の体に何かが覆いかぶさっている。それは硬いような柔らかいような感触があって、それにしてはやたら重量のあるものだ。
迷惑だなぁ、とか。早くどけてくれないかな、とか。そんなことを思考の端に浮かべながら、加蓮はこの時になってようやく、視界にかかった靄を払うことができて。
「……え?」
それは奇しくも、衝撃が襲ってくる前に発したのと同じ声だった。
何もかもが崩壊していた。道路のコンクリートも、民家を隔てる塀も、近くの庭に植えてあっただろうまばらな木々も。
全てが、崩れなぎ倒されていた。半ばからへし折られた標識が無造作に転がっていて、まるで映画に出てくるゴーストタウンみたいだなとか突拍子もないことを考えて。
けれど、そこで見てしまった。
自分に覆いかぶさっていたものが、何なのか。
身じろぎすると滑った水のような音がして、そういえばさっきから服に水を吸ったような重い感触があって。
そう、それは。
全てが、崩れなぎ倒されていた。半ばからへし折られた標識が無造作に転がっていて、まるで映画に出てくるゴーストタウンみたいだなとか突拍子もないことを考えて。
けれど、そこで見てしまった。
自分に覆いかぶさっていたものが、何なのか。
身じろぎすると滑った水のような音がして、そういえばさっきから服に水を吸ったような重い感触があって。
そう、それは。
「う、あ、あァ……」
最初の一瞬は、現実感がなかった。
状況を正確に理解した次の一瞬には、吐き気が襲ってきた。
仮病のために朝ごはんを碌に食べてなくて正解だったと、そう思う。そうでなければ今頃盛大に戻していたから。
状況を正確に理解した次の一瞬には、吐き気が襲ってきた。
仮病のために朝ごはんを碌に食べてなくて正解だったと、そう思う。そうでなければ今頃盛大に戻していたから。
全身の至るところを削られた人型が、加蓮のすぐ目の前に存在した。
見渡す限り、視界は赤に染まっていた。
見渡す限り、視界は赤に染まっていた。
加蓮の視界が暗転するより少し前。
破壊の下手人であったヴェールヌイは、一人冷めた目で状況を分析していた。
破壊の下手人であったヴェールヌイは、一人冷めた目で状況を分析していた。
身を隠しての狙撃体勢を維持し数分、決定的な動きを待っていた彼女の視線の先に現れたのは、一人の少女だった。
恐らくは騒ぎを聞きつけたNPCか、分身型のサーヴァントのマスターかと当たりをつけたが、令呪を掲げる姿を見た瞬間に認識を確定させた。
そして理由は知らないが、都合六名を取り巻く状況に緊張と困惑が走ったのを確認して。
恐らくは騒ぎを聞きつけたNPCか、分身型のサーヴァントのマスターかと当たりをつけたが、令呪を掲げる姿を見た瞬間に認識を確定させた。
そして理由は知らないが、都合六名を取り巻く状況に緊張と困惑が走ったのを確認して。
「……好機、だね」
そして、彼らを殺し得るだけの火力を解き放った。
50口径12.7cm連装砲 2基4門、25mm三連装機銃、etc.etc。本来なら地対地に適さない装備であろうとも、アーチャークラスの特権と言わんばかりに構わず熱量を注いだ。
前回の狙撃とは違う、正真正銘の大火力殲滅。弾けるような鋭い音が断続的に木霊し、衝撃で足元は削れ純白の長髪が風にたなびく。
対人規模を完全に逸脱した圧倒的な弾幕が、着弾点に集った六名を残らず襲った。
けれど。
50口径12.7cm連装砲 2基4門、25mm三連装機銃、etc.etc。本来なら地対地に適さない装備であろうとも、アーチャークラスの特権と言わんばかりに構わず熱量を注いだ。
前回の狙撃とは違う、正真正銘の大火力殲滅。弾けるような鋭い音が断続的に木霊し、衝撃で足元は削れ純白の長髪が風にたなびく。
対人規模を完全に逸脱した圧倒的な弾幕が、着弾点に集った六名を残らず襲った。
けれど。
「しくじったな」
それでも、長距離狙撃には適さないという装備の欠点が露呈することとなる。
ヴェールヌイの弾幕は確かに彼らを襲いはしたが、それでも全員を即死させることは叶わなかった。
まず目下最大の標的……キャスターの男は全身の複数個所を抉られ倒れている。狙撃の瞬間、二人の少女を庇うように動き、その身を砲火に晒した結果がこれだ。
あくまで他者を守ろうとするその姿勢は好感を持てるものだが、傷の深さを見るに長くはないだろう。
庇われた二人の少女は、キャスターに覆いかぶられる形で倒れている。死んでいるのか、気絶しているのかまでは判別できないが、無力化できたという意味ではどちらであろうと同じことだ。
そして分身型サーヴァントの内一体は既に消滅している。ヴェールヌイの砲弾を躱すことは叶わず、末期の言葉すら残せずに消え去ったのだ。
ヴェールヌイの弾幕は確かに彼らを襲いはしたが、それでも全員を即死させることは叶わなかった。
まず目下最大の標的……キャスターの男は全身の複数個所を抉られ倒れている。狙撃の瞬間、二人の少女を庇うように動き、その身を砲火に晒した結果がこれだ。
あくまで他者を守ろうとするその姿勢は好感を持てるものだが、傷の深さを見るに長くはないだろう。
庇われた二人の少女は、キャスターに覆いかぶられる形で倒れている。死んでいるのか、気絶しているのかまでは判別できないが、無力化できたという意味ではどちらであろうと同じことだ。
そして分身型サーヴァントの内一体は既に消滅している。ヴェールヌイの砲弾を躱すことは叶わず、末期の言葉すら残せずに消え去ったのだ。
「やってくれたな、貴様!」
つまり【分身型のサーヴァント二騎は五体満足で活動している】。
しくじったとはまさにそれだ。一方的な狙撃・殲滅を行ってなお一撃で決められなかったというのは失敗にも等しい。
複数人を同時に仕留め損なったのは痛手という他ない。生き残った彼ら二人は、一人は即座に撤退を開始しもう一人がこちらに怒涛の勢いで迫っている。
こうなることを予期していたからこそ、ヴェールヌイとしては初撃で全てを決したかったのだが。
しくじったとはまさにそれだ。一方的な狙撃・殲滅を行ってなお一撃で決められなかったというのは失敗にも等しい。
複数人を同時に仕留め損なったのは痛手という他ない。生き残った彼ら二人は、一人は即座に撤退を開始しもう一人がこちらに怒涛の勢いで迫っている。
こうなることを予期していたからこそ、ヴェールヌイとしては初撃で全てを決したかったのだが。
「……逃がしはしない。ここで倒れて貰うよ」
しかし焦ることはない。
憤怒に燃えるサーヴァントがこちらに迫ってはいるものの、その速度は呆れるほどに遅い。無論常人とは比較にならない俊脚ではあるが、サーヴァントとしては近接戦闘に不慣れなヴェールヌイと比較してもなお遅い。
少なくとも、数百mにも及ぶ彼我の相対距離を一瞬で埋めるほどではない。十分、迎撃の余地はある。
憤怒に燃えるサーヴァントがこちらに迫ってはいるものの、その速度は呆れるほどに遅い。無論常人とは比較にならない俊脚ではあるが、サーヴァントとしては近接戦闘に不慣れなヴェールヌイと比較してもなお遅い。
少なくとも、数百mにも及ぶ彼我の相対距離を一瞬で埋めるほどではない。十分、迎撃の余地はある。
「き、貴様……!」
一発、二発、三発と。
ヴェールヌイの砲が轟音を立てるごとに、向かってくる男の体が削り取られる。
嚇怒と憎悪の表情で、彼はこちらを睨むけれど。しかしそれが何になるわけでもない。
感情の高まり如きで戦況を変えることなど、例えサーヴァントでも不可能なのだ。
ヴェールヌイの砲が轟音を立てるごとに、向かってくる男の体が削り取られる。
嚇怒と憎悪の表情で、彼はこちらを睨むけれど。しかしそれが何になるわけでもない。
感情の高まり如きで戦況を変えることなど、例えサーヴァントでも不可能なのだ。
「無駄だね」
敢えての冷酷さを前面に出し、ヴェールヌイの砲が四度目の唸りを上げる。
視界の先の男の頭が爆散し、血の華が咲いた。
視界の先の男の頭が爆散し、血の華が咲いた。
「……許してもらおうとは思わない。これは戦争だからね」
勢いを失い崩れ落ちる男の姿を確認し、ヴェールヌイは目を伏せる。
どだい、これは戦争なのだ。当然のように人は死ぬし、そのこと自体を避けることはできない。
どだい、これは戦争なのだ。当然のように人は死ぬし、そのこと自体を避けることはできない。
これで残るはあと一人。それなりの距離を逃げてはいるだろうが、先の男の疾走速度を見るにそれほど遠くには行っていないはずだ。
しかし、傷ついたマスターを置いて逃げるとは流石に予想外だ。いや、そもそも先の少女は分身型サーヴァントのマスターではないのかもしれない。
しかし、傷ついたマスターを置いて逃げるとは流石に予想外だ。いや、そもそも先の少女は分身型サーヴァントのマスターではないのかもしれない。
「……まあいいさ」
どちらにせよ同じだ。ここで全員を潰すことに変わりはない。
今からでも十分追いつける。そう判断し、ヴェールヌイは足に力を入れようとして。
今からでも十分追いつける。そう判断し、ヴェールヌイは足に力を入れようとして。
「―――ちょっと見ない間に、なんだか練度が落ちたんじゃない?」
聞き覚えのある声が、耳に届く。
遠くのほうで、逃げ去る男の後頭部に、一本の矢が突き刺さり。
マスターの少女たちが倒れていた場所が、一帯ごと爆炎に包まれて。
遠くのほうで、逃げ去る男の後頭部に、一本の矢が突き刺さり。
マスターの少女たちが倒れていた場所が、一帯ごと爆炎に包まれて。
「随分と久しぶりね、【響】。なんだか雰囲気変わった?」
吹きすさぶ爆風に髪をたなびかせて。
やけに親しげに、彼女―――瑞鶴は、笑みを浮かべながら話しかけてきたのだ。
やけに親しげに、彼女―――瑞鶴は、笑みを浮かべながら話しかけてきたのだ。
▼ ▼ ▼
「我等に語るべき言葉はない」
「我等に願うべき個我はない」
「そうだ、我等こそエレクトロゾルダート」
「レプリカとして生れ落ち、今やサーヴァントとしてミサカのために戦う存在」
「それこそが我等の存在理由」
「それだけが我等の存在価値」
「Sieg Heil!」
「ミサカに一万年の栄光を!」
「我等に願うべき個我はない」
「そうだ、我等こそエレクトロゾルダート」
「レプリカとして生れ落ち、今やサーヴァントとしてミサカのために戦う存在」
「それこそが我等の存在理由」
「それだけが我等の存在価値」
「Sieg Heil!」
「ミサカに一万年の栄光を!」
▼ ▼ ▼
耳を劈くような爆轟が辺りに響き、膨張するように弾ける火の赤色が視界を焼き、黒色の煙が大きく立ち上る。
思わず目を瞑りたくなるほどの爆風が容赦なく身を打ち付ける中、二人は向かい合うようにして並び立つ。
思わず目を瞑りたくなるほどの爆風が容赦なく身を打ち付ける中、二人は向かい合うようにして並び立つ。
一人はヴェールヌイ。一つ所に集った敵手を一網打尽に葬らんとしていた、白髪のアーチャー。
そしてもう一人は……
そしてもう一人は……
「……確かに、こうしてまた顔を合わせることになるとは思ってなかったよ、【瑞鶴】。
再会の場所がこんなところじゃなかったら、素直に喜んでいたんだけどね」
「あら、私は嬉しいわよ? 死んだ後でまた戦友に巡り会えるなんて、戦死した兵の誉れみたいなものじゃない」
再会の場所がこんなところじゃなかったら、素直に喜んでいたんだけどね」
「あら、私は嬉しいわよ? 死んだ後でまた戦友に巡り会えるなんて、戦死した兵の誉れみたいなものじゃない」
瑞鶴と呼ばれたそのサーヴァントは、弓道着にも似た意匠の服を纏い、小さな艦載機が付属した弓矢を手に取り、艶やかな黒髪をツインテールに纏めた少女だった。
表情が硬いままのヴェールヌイとは違い、彼女は朗らかな笑みをその顔に浮かべている。
それは、久しく会っていなかった旧友と再会したような気軽さで。
その実、死に別れた戦友との再会を、半ば本気で歓迎している笑みだった。
無論、もう半分はよく見知っているが故の油断ならない警戒心であるが。
表情が硬いままのヴェールヌイとは違い、彼女は朗らかな笑みをその顔に浮かべている。
それは、久しく会っていなかった旧友と再会したような気軽さで。
その実、死に別れた戦友との再会を、半ば本気で歓迎している笑みだった。
無論、もう半分はよく見知っているが故の油断ならない警戒心であるが。
「それで、一体何のために私の前に出てきたんだい?」
「大体分かってるくせに、ちょっと意地悪よね貴方。
交渉よ、交渉。ねえ響、私と協力関係に結ばない?」
「大体分かってるくせに、ちょっと意地悪よね貴方。
交渉よ、交渉。ねえ響、私と協力関係に結ばない?」
瑞鶴が提案してきたのは、そんなありふれた同盟の誘いだった。
一方的に爆撃できる立場にあってなお、無防備にヴェールヌイの前に姿を現した時から、その予想はついていたが。
一方的に爆撃できる立場にあってなお、無防備にヴェールヌイの前に姿を現した時から、その予想はついていたが。
「今更貴方に言うことでもないとは思うけど、戦争って基本的に数なのよね。少なくとも、私達が単騎で戦うのだってそのうち限界が来るわ。
勿論、私達にはそれぞれ譲れない願いや想いがあるのは承知の上よ。だから、これはあくまで期間限定のお誘い」
勿論、私達にはそれぞれ譲れない願いや想いがあるのは承知の上よ。だから、これはあくまで期間限定のお誘い」
何の気なしにそう言って、しかしその目は微塵も遊びを含んでいない。
これは正真正銘、本気の提案。
仲間内での気軽な誘いではなく、戦争に勝つための交渉なのだ。
これは正真正銘、本気の提案。
仲間内での気軽な誘いではなく、戦争に勝つための交渉なのだ。
「いずれ裏切り裏切られることを前提とした同盟、かい?」
「……ええ、そうよ。この際綺麗ごとなんて言ってられないわ。今の私は、私だけじゃなくマスターさんのことも背負ってる。四の五の言ってる場合じゃないの。
ねえ、どうなの響。私の手、取ってくれる?」
「……ええ、そうよ。この際綺麗ごとなんて言ってられないわ。今の私は、私だけじゃなくマスターさんのことも背負ってる。四の五の言ってる場合じゃないの。
ねえ、どうなの響。私の手、取ってくれる?」
そう言って瑞鶴はヴェールヌイに手を伸ばす。そこに敵意は何もなく、純粋に彼女の協力を待ち望んでいることが如実に感じられた。
その手を前に、しかしヴェールヌイは尚も表情を変えることはなく。
その手を前に、しかしヴェールヌイは尚も表情を変えることはなく。
「……残念だけど、その提案には乗れないな」
「……ふうん、それはなんで?」
「瑞鶴は知らないかもしれないが、今の私はマスターのことの他に、【信頼】の重みも共に背負っているんだ。
少なくとも、他ならない戦友だった貴方を裏切るなんて、私にはできそうにない」
「……ふうん、それはなんで?」
「瑞鶴は知らないかもしれないが、今の私はマスターのことの他に、【信頼】の重みも共に背負っているんだ。
少なくとも、他ならない戦友だった貴方を裏切るなんて、私にはできそうにない」
それは瑞鶴の知る響ではなく、その後に改装されたヴェールヌイとしての在り方。
いいや、実のところ、それは名前に由来するものではなく元来の彼女が持ち合わせたものなのかもしれないが……どちらにせよ同じことだ。
これが見も知らぬ誰かからの提案だったなら、これも戦争であると割り切って腹の探り合いを前提とした同盟も組んだだろう。
しかし瑞鶴は違う。彼女はかつて同じ戦場で背中を預け、共に戦乱を駆け抜けた戦友なのだ。いずれ戦う定めではあるが、かといって彼女との信頼を壊すような真似はしたくない。
いいや、実のところ、それは名前に由来するものではなく元来の彼女が持ち合わせたものなのかもしれないが……どちらにせよ同じことだ。
これが見も知らぬ誰かからの提案だったなら、これも戦争であると割り切って腹の探り合いを前提とした同盟も組んだだろう。
しかし瑞鶴は違う。彼女はかつて同じ戦場で背中を預け、共に戦乱を駆け抜けた戦友なのだ。いずれ戦う定めではあるが、かといって彼女との信頼を壊すような真似はしたくない。
「そっか。なら仕方ないわね。
ねぇ、響。例え貴方が相手でも、私達の願いは譲れないの。だから」
「ああ、分かってる。私だって同じだ。だから」
ねぇ、響。例え貴方が相手でも、私達の願いは譲れないの。だから」
「ああ、分かってる。私だって同じだ。だから」
腕に現出した砲を突きつけ。
手にした弓弦に矢を番えて。
手にした弓弦に矢を番えて。
「「貴方には、ここで果てて貰う」」
互いが互いをよく見知っていた以上、この顛末に陥ることは不可避だったのかもしれない。
両者は己が兵装を展開し、今まさに必殺の砲撃を放とうとしていた。
両者は己が兵装を展開し、今まさに必殺の砲撃を放とうとしていた。
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キャスター(ギー) | ||
レプリカ(エレクトロ・ゾルダート) | 023:戦闘/力の顕現 026:夢現ガランドウ | |
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ヒーロー(鏑木・T・虎徹) | ||
019:盤面上の選択者達 | アーチャー(ヴェールヌイ) | 023:戦闘/力の顕現 029:願い潰しの銀幕 |
アーチャー(瑞鶴) |