夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

生贄の逆さ磔

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
この戦いは紛れも無い敗北だった。
仲村ゆりがようやく、平常を取り戻した時、何もかもが終わっていた。
そこは戦場とはとても呼べない穏やかな海浜公園。
陽が落ちかけ、夕暮れがやがて夜へと変わりつつある頃。
意識が明瞭になった際に瞳に映ったのは、苦悶と怒りの表情を浮かべた斎藤と、顔色を無色に染めたケイジ。
そのことから、自分達を助けたあの騎士はいなくなったのだと直感が告げる。

「大丈夫かい? なんて陳腐な言葉は……必要ないみたいだね」
「……お陰さまでね。一応、お礼は言っておくわ。助けてくれて、ありがとう。
 ここは……河川敷? あの化物からよく逃げ切れたものよね」
「深山町側の、ね。新都にいたら追撃があるだろうし。
 もっとも、礼なら、ぼくたちの代わりに残って、散っていったあの人達が受け取るべきだ。
 宝具であるあの鳥も最後まで力を振り絞ってくれたしね」

改めて言葉に出されると、重くのしかかる。
先程の戦いで、自分は何の役にも立たない足手まといだった。
死んだ世界戦線でリーダーを務め上げた実績など、何の価値もない。
慰めを受けようが、認めよう。仲村ゆりは無力だった、と。

「……本当ならすぐにでもリベンジに行きたいのだけれど。
 負けっぱなしは癪に障るし。あたしの相方も随分とご立腹だし」
「だけど。それは建設的な考えではないね」
「ええ、わかってる。今は受け入れるしかない。
 私もこいつも、本調子じゃないから、仕方なく、ね」
「今は、ね」
「そうよ。必ず、あいつらには……あの黒い死神と巨体の化物にはやり返す。
 舐められたまま終わるなんて冗談じゃないわ」

それを認めた上で、ゆりは戦うと決めた。
弱いなら策を講ずればいい。弱いなら武器を持てばいい。
戦う為に、勝つ為に、やりようは幾らでもある。

「そうだね。きみの考えはよくわかった。だからこそ、準備は入念にしなければならない。
 質はともかく、ぼく達に足りないのは数だ。戦場では一騎当千の兵だろうと数でかかれば容易に討ち取られる」
「……つまり、共闘したいってこと?」
「話が速くて助かるよ」
「別に、薄々気づいていたわ。あたしを助けたってことはそういう意味合いも兼ねているんでしょ。
 そうでなければ、わざわざ危険な戦場に飛び込まなくてもよかったんだし」

だから、利用できるものは何だって利用してやろう。

「とりあえずは、互いに不戦協定を結ぶ。今はそれだけでいいかしら」

とはいえ、安易に信用することをゆりはしなかった。
眼前の彼のように善意を見せて、後ろからずぶりなんてされたら目も当てられない。
戦線メンバーならともかくとして、出会って数分即信用だなんておめでたい頭、唾棄すべきゲロカス妄想である。
それが、命の危機を助けてもらったにしろ、だ。
仲を深めた所で短い付き合いになるだけだ、どうだっていい。
無論、協力関係を結ぶ以上は自分から攻めに行くことは《今》はしないけれど。
もしも、聖杯を破壊する手段が、神様を殺す手段が、優勝以外にないならば。
ゆりは迷わず、ケイジに刃を向けるだろう。
それまではビジネスライクでいこうじゃないか。

「構わない。今は、それで」
「そう。とりあえず、連絡先は渡しておくから。何かあったらこの番号にかけてちょうだい」
「番号を登録するにも、名前ぐらいは教えてほしいんだけど」
「……ゆりよ。あんたは?」
「ケイジだ。今後ともよろしく」

その後、簡素な情報交換を済ませ、二人は別れることになった。
互いに背を向け、別々の道を進んでいく。
数分だけ、身体に残る倦怠感を誤魔化すようにじっと夕焼けを見つめる。
体の調子はひとまずは動けるまで戻った。万全とは言えないが、絶不調でもない。
戦うにしても、ある程度は、粘ることもできる。

「セイバー。絶対にやり返すわよ」
「当然だ」

敗北で終わった初戦だが、戦意は高揚している。
戦線で天使と戦っていた時を思い出す、この臨場感。
今回は和解なんてはなっからできないクソッタレ共が敵だ。
そして、あの金髪と化物と死神は絶対にぶち殺す。
自分達に敵意を向けたことを後悔し尽くしても足りない程に後悔させてやる。

「それよりも貴様、伝えなくてよかったのか? お前が死後の世界の住人だということを」
「はぁ? そんなの当たり前でしょ。あいつだって、死後から来てるんじゃないの?
 あいつがどんな理由で死んだかなんて興味もないし、わざわざいうこと、それ?」
「…………貴様がそう考えるならそれで構わん。だが、いつの時代も例外はあるものだ。
 そのことを肝に銘じておくことだな」

ゆりが沸々と殺意を研ぐ傍ら、斎藤はぼそりと引っかかることをつぶやいた。
この聖杯戦争に参加している者は皆死者のはずだ。
そもそも自分が死者である以上、生者と交わるなんてありえない。
サーヴァントも死者、参加者も死者。死者である以上、勝ち残る以外は選択肢はない。
この聖杯戦争は、この世に未練を残した死者達による《やり直し》もとい《敗者復活戦》。ゆりはそう、思っている。

(例外、ねぇ。あたしみたいに《やり直し》に興味が無い人とかかしらね?
 まあ、聖杯壊して神様ぶっ殺す、神様に頭を垂れるなんて気持ち悪っなーんて、言っても変な目で見られそうだし)

その《やり直し》を否定した自分は常に気を張っていなければならない。
周りは全員敵ばかりで、自分のサーヴァント以外、本音を吐き捨てることなんて論外だ。

(ケイジの手前、聖杯ぶっ壊すーってはっきりと言えなかったのがもやもやするわ。
 そりゃあ、言ったら最悪戦闘になるし? めんどくさいことになるから正解なんだけど?
 これで戦線の誰かがいてくれたら話を通すのも速くて助かるのに)

けれど。もしも、自分の腹の内を出せる誰かがいてくれたら。
死んだ世界戦線。
アホでバカで思慮がまるで足りない脳天気っぷりが特徴的な奴等だが、背中を預けるには十分だし、自分の精神安定上、いてくれたらすごく助かるのに。
何の気なしに手に取った携帯には戦線メンバーのアドレスと番号が登録されている。
けれど、その中には本物はきっといない。
無論、中身は本物とは遜色なしの奴等だが、神様へと一緒にファックサインをした彼らではないのだ。

(感傷ね。全く……あたしは、いつからこんなにも女々しくなったのかしら)

送られてくるメールも全部、心配ばかり。
不快ではないが、やはり何処か物足りない。
着信履歴と共に大雑把に中身を確認してゴミ箱行きだ。
幾ら画面を眺めても、本物みたいに拳銃ナイフ片手にやってくる訳でもない。
そんなことはわかっている、わかっているけれど。

(――――えっ?)

どうせ、無理だと諦めが満ちた時。
ただ一通。彼女の心を掻き乱す文面があった。
それはある意味、一番変わっていたはずの人間からのメールであり。

「あは、はははっ、あははははっ!!!」

タイトルは、卒業し損ないの落第生。
普通ならブチ切れて、ドロップキックものだが、そのメールタイトルが今はすごく心地よい。
口からは勝手に笑い声が漏れ出して、霊体化していた斎藤も実体に戻って怪訝な顔を向けてくる。
文面はわずか数文字。けれど、その文面だけでも十分だった。

――卒業式をやらないか?

もうこらえきれなかった。抱腹絶倒でたまらない。
今この瞬間を以って、ゆりはこの偽りの街に来て、初めて心の底から笑い転げることができた。
ああ、やはり。やはりだ。
こんなクソッタレな戦いに、自分一人だけが巻き込まれているはずがないと思っていた。

「……相変わらずみたいだな、ゆり」

そら、お誂え向きに向こうからやってくる。
苦笑混じりの優等生様――音無結弦は軽く手を上げてゆりへと言葉を投げかける。

「あら、ボロボロみたいだけど……厄介事に巻き込まれちゃった訳?
 なっさけないわね。ほんと、あんた達はあたしがいないとダメダメなんだから」

本来は再会なんてするつもりはなかったのに。
来世と言っても、記憶が保持されるはずもないし、あの別れでお終いだった自分達。
それが、こうしてもう一度巡りあうなんて最高で、最悪だ。

「そういうお前こそ、顔色が随分と悪いぞ? 手酷くやられたのはそっちなんじゃないか」

けれど、これもまた――一つの運命なのだろう。
くだらない、されど、喜ぶべきモノはまだ残っていたのだ、と。




彼らは知らない。否、知覚できない。
再会を喜ぶ彼らのちょっと離れた場所。彼らを見通せる小高い道の上。
銀髪の少女が一人、悲しそうに佇んでいたことを、知らない。
そこにあるのは夢と現実であり、精緻と研鑽だ。少女は、石像のように佇み、夕暮れを浴びている。
去っていったケイジも。通り掛かる人も。誰一人として彼女のことを認識しない。
まるで、透明人間であるかのように、世界の総てから少女は見放されていた。
顔に浮かぶ表情は悲嘆。
どうしようもない運命に希望を《奪われた》かのようだ。
夕暮れの赤い空とは正反対に青白い肌は、生気を感じ取れない。
右手を伸ばす。ゆっくりと、ゆっくりと。二人へと。
けれど、その右手は《絶対に》届かない。

ゆずる。

そっと口ずさむひらがな三つ。
こうして何度も呟くことで、必死に自分を繋ぎ止める。
自分に心臓をくれた生命の恩人。
死後の世界で巡り逢い、一度は対立した人。
少女が心から好きになった人。
そして。そして。
自分との再会の為に、止まることを捨ててしまった人。
彼のことを考えるだけで胸が熱くなり――――悲しくなる。

わたしのために、かれはあきらめてしまった。

明日を、夢を、世界を、正しさを。
既に終わってしまった自分達が現実を覆す道理なんてないのに。
胸に手を当てる。かつては鼓動を響かせた心臓は今はない。
当然だ、心臓を《奪われた者》に奏でられる音なんてないのだから。

どうせみんないなくなる。

本来ならば、存在することすら許されない少女は、彼らに言葉を告げず立ち去った。
此処ではない何処かへ。夢が夢のままで在ることを許さない何処かへ。
現実へと、《本来の世界》へと。
元より、昨日への道も明日への道もこの偽りの都市には存在しない。
総ては最終局面になるまで、舞台は変わらず廻り続けるだろう。
幾多の絶望と屍が重なる時、世界は初めて真実を見せる。

さよなら、ゆずる。

それまでは、ただ見てるだけ。少女ははまだ、それ以外の行動を許されない。
いつか、本当の意味で死ねる時まで、彼女の運命は奪われたままだ。
ありがとう、とはもう言えない。
彼の魂が込められた心臓を無くした自分には、その言葉は重すぎた。
一度は希望を抱き、満足したはずの彼女。
何故、このようなことになったのか。真実はまだ、語るには早すぎる。
ただ一つ言えるのは、彼女が《奪われた者》であるという事実だけ。
それは、人のかたちを持ちながら、人ではない者。
それは、人ではなく、人であったかも知れない者。
それは、この偽りの都市では生贄でもなく、舞台装置でもない者。
それは、来たるべく《その時》までは傍観者で在り続ける者。

「ゆずる」

喝采なき戦場の裏側。まだ暴かれぬ真実が眠る場所。
その袂で、少女はピアノを弾き続ける。






「――――■■けて」







その姿は、まるで《天使》のようで。



【主催陣営《記録追加》】
【天使《奪われた者》@Angel Beats!】
【C-7/河川敷/1日目 夜】

【音無結弦@Angel Beats!】
[状態]疲労(中)、精神疲労(大)、魔力消費(小)、右手に貫傷。
[令呪]残り二画
[装備]学生服(ところどころに傷)
[道具]鞄(勉強道具一式及び生徒会用資料)、メモ帳(本田未央及び仲村ゆりについて記載)
[金銭状況]一人暮らしができる程度。自由な金はあまりない。
[思考・状況]
基本行動方針:あやめと二人で聖杯を手に入れる。
1.ゆりと行動。
2.学校にはもう近づけない、か。
3.あやめと親交を深めたい。しかしもうそんな悠長なことを言っていられる余裕は……
4.学生服のサーヴァントに恐怖。
[備考]
高校では生徒会長の役職に就いています。
B-4にあるアパートに一人暮らし。
コンビニ店員等複数人にあやめを『紹介』しました。これで当座は凌げますが、具体的にどの程度保つかは後続の書き手に任せます。
ネギ・スプリングフィールド、本田未央、前川みくを聖杯戦争関係者だと確信しました。サーヴァントの情報も聞いています。

【アサシン(あやめ)@missing】
[状態]負傷(小)、精神疲労(大)
[装備]臙脂色の服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:ますたー(音無)に従う。
1.ますたーに全てを捧げる。
2.あのサーヴァント(球磨川禊)は……
[備考]
音無に絵本を買ってもらいました。今は家に置いています。

【仲村ゆり@Angel Beats!】
[状態]不調
[令呪]残り三画
[装備]私服姿、リボン付カチューシャ
[道具]お出掛けバック
[金銭状況]普通の学生よりは多い
[思考・状況]
基本行動方針:ふざけた神様をぶっ殺す、聖杯もぶっ壊す。
1.とりあえず、音無と行動。
2.赤毛の男(サーシェス)を警戒する。 死神(キルバーン)、金髪(ボッシュ)、化物(ブレードトゥース)は必ず殺す。
[備考]
学園を大絶賛サポタージュ中。
家出もしています。寝床に関しては後続の書き手にお任せします。
赤毛の男(サーシェス)の名前は知りません。
ケイジと共闘戦線を結びました。

【セイバー(斎藤一)@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[状態]全身ダメージ(大)、憤怒
[装備]日本刀
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに付き合ってやる。
1.赤毛の男(サーシェス)に警戒。 死神(キルバーン)、金髪(ボッシュ)、化物(ブレードトゥース)は必ず殺す。
[備考]
赤毛の男(サーシェス)の名前は知りません。

【C-7/1日目・夜】

キリヤ・ケイジ@All you need is kill】
[状態]少々の徹夜疲れ、若干腕に痛み
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]
[金銭状況]同年代よりは多めに持っている。
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に生き残る。
1.さてと、どうするか。
2.アサシン(T-1000)と他のマスターを探す。
3.サーヴァントの鞍替えを検討中。ただし、無茶はしない。というより出来ない。
4.非常時には戦闘ジャケットを拝借する。
[備考]
1.ケイジのループは157回目を終了した時点なので、元の世界でのリタ・ヴラタスキがループ体験者である事を知りません。
2.研究施設を調べ尽したため、セキュリティーを無効化&潜り抜けて戦闘ジャケットを持ち去る事ができる算段は立っています。
3.ケイジの戦闘ジャケットは一日目の夕方位まで使用できない見込みです。早まる場合もあれば遅くなる場合もあります。

【C-7/河川敷/1日目 夜】

【天使@Angel Beats!】
[状態]《奪われた者》
[装備]■■
[道具] ■■
[金銭状況]■■
[思考・状況]
基本行動方針:■■
1.■■
[備考]
※誰からも、世界からでさえも。彼女を認識することはできない。その権利すらも、彼女は《奪われた》。



BACK NEXT
041:Send E-mail 投下順
040:果ての夢 時系列順

BACK 登場キャラ NEXT
039:感染拡大 音無結弦 050:それは終わりの円舞曲
アサシン(あやめ)
033:空へと至る夢 仲村ゆり
セイバー(斎藤一)
キリヤ・ケイジ 061:Re:try
天使 052:そしてあなたの果てるまで(後編)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー