ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

競ってられない三者鼎立?

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
管理者のみ編集可

競ってられない三者鼎立? ◆LxH6hCs9JU



 目的地に向かってひたすらに走っていると、いろんなことを考えてしまう。
 まだ朝日も昇っていなかった頃に出発した、温泉施設のその後のこと。
 千鳥かなめ上条当麻の二人を見送り、温泉に残った北村祐作のこと。
 放送で狐面の男が語っていたことや、放送で名前を呼ばれた人のこと。
 たくさん、走りながらの考察では消化しきれないほどにたくさん、考えてしまう。

 この疾走の果てにどんな展開が待っているのか、なんてことも――。

「…………はっ!」

 大きく声を上げて、千鳥かなめは駆ける足を止めた。
 両膝に手を付き、ぜーはーぜーはー言いながら息を整える。
 ここまで全力疾走だった。周囲はとっくに明るくなり、高くなってきた気温は肌に汗を滲ませる。
 温泉に浸かりたい気分だった。都合よく、向かっている場所も温泉である。とはいえ、無事辿り着いても湯にありつけるとは思えない。

「で、どこよここ。あー、この道をまっすぐだったっけ? 土地勘もないのに、すぐに辿り着けるわけがないでしょうが」

 話し相手を欠いたかなめは、一人愚痴を零す。
 周囲の風景は、依然として住宅地だった。建っているのは民家ばかりで、ビルや商店はあまり見当たらない。
 手元の方位磁石を頼るに、温泉施設の場所は教会から東に一直線だったはずだ。
 多少道筋はずれれど方向は間違っていないだろう、とかなめはあたりをつけ、また走り出した。

 目指す場所は温泉施設。
 北村祐作が残った、シャナ櫛枝実乃梨木下秀吉が向かっていった、北村祐作が死んだ――温泉施設である。
 そこでは間違いなく、“なにか”が起きたのだろう。かなめはその“なにか”を突き止めるべく、温泉への道をひた走っていた。
 ただ、突き止めるまでもなく、その“なにか”には大体の見当がついている……ということについては、認めざるを得ない。

(人を疑いたくなんて、ないけどさ)

 タイミングが絶妙すぎたのだ。
 北村の名前が呼ばれ、シャナと実乃梨と秀吉の名前が呼ばれなかったあの放送。
 上条当麻は微塵も疑ってなどいなかったのだろうが、千鳥かなめにはこのとおり、疑心が芽生えてしまっている。

 ――あの三人と、北村の間で、なにかがあったのではないか。

 そんな風に考えてしまうのは、ミステリー小説やサスペンスドラマなどに影響されてしまう一般人の性だろうか。
 かなめは内心、嫌だなぁ、とは思いつつも、疾走のついでとばかりに想像してしまうのである。

 ここでの“死”は、すべからく“殺人”と解釈してしまってよい。
 それを前提に踏まえ、温泉施設にいたはずの四人の内、どうして北村だけが死ぬ結果となってしまったのか。
 推理の必要なんてないくらいに決定的だった。少なくとも、素人判断を下すには十分なほど、これは明らかだった。

 つまり――シャナと実乃梨と秀吉の三人が結託して、北村を殺害した!

「……って、アホか」

 かなめは呆れるように呟き捨てる。
 ない。ありえない。ここはミステリをやる場面ではないのだ。状況はサスペンスにもなりえない。
 大体、北村と実乃梨は友達同士の間柄だ。それは互いが認めているわけで、かなめ自身がその説明を聞いている。
 シャナや秀吉とも実際に話してみたが、彼女たちはとても人を殺すような人間には見えない。
 自身の推理力と人を見る目、どちらを信じるかと言えば、明らかに後者だった。

 きっと、温泉にはかなめと上条が去ってから、すれ違いで誰かがやって来たのだろう。
 北村はその何者かに、殺された。
 シャナたち三人はその誰かと遭遇したのか、それともすれ違ったのか。
 問題はそこ。
 今この間にも、北村を殺害した何者かが――シャナたちを襲っている可能性だってある。

 なんにしても、放ってはおけない事態が温泉で起こっている。それだけは確かだった。
 具体的になにが起こっていて、どんな危険が待っているかはわからないが、そんな不安は足を止める理由にはならない。
 アマチュアはアマチュアなりに奮起するべき場面なのだと、かなめは今の状況をそんな風に捉えていた。

「ソースケなら、独断先行は危険だー、とかなんとか言うんだろうけどね」

 先の放送で、北村祐作の他に、メリッサ・マオという名前が呼ばれていたことを思い出す。
 宗介の同僚であり、気さくで陽気な格好いいお姉さん……いや、姐さんという印象だったあの人。
 名簿には記載されていなったので、まさかいるとは思わなかった。
 彼女の死を受け取って、宗介やクルツ、テッサはなにを思うだろう。
 未だ噂も聞かぬ知り合いたちのことを思い、かなめは少しばかり不安になった。

 不安の種はまだ、これだけではない。
 今向かっている温泉施設、そこにいるかもしれない北村を殺害した張本人。
 そんな危険人物と、今は一人きりの千鳥かなめが、一対一で相対することになったらどうすればいいのか――。

「一人でやるっきゃ、ないでしょ」

 常日頃から鬱陶しいくらいにつきまとっていたサージェントは、傍にはいない。
 唯一の同行者であった上条当麻も、その不幸体質のせいで離れ離れになってしまった。
 合流を先に済ませたいという気持ちも幾らかはあったが、あいにくと千鳥かなめは臆病風に吹かれるような少女ではない。
 やると決めたらやる。行くといったら行く。上条当麻とは温泉で合流。今さらこれを変更することはできなかった。

(自分の身くらい、自分で守ってやるわよ!)

 幸いなことに、装備は整っているのだ。
 素人にも扱える暴徒鎮圧用高電圧スタンガン、そして稲刈りに使うにしては鋭すぎる鎌。
 どちらも殺し合いをするには不向きな武器だが、自衛の道具として用いるならそれなりに有用だろう。
 それにいざというときは、今の今まで話題にも出さなかった“秘密兵器”を使えば――と。

(……いや、できれば使いたくなんてないんだけどね)

 かなめは足を止めて、デイパックの中に仕舞っていたそれを取り出す。
 宗介が握っていたものよりもかなり小型なそれは、かなめの支給品の最後の一つ。
 ワルサーTPHという名前の小型自動拳銃。もちろん、小さいとはいえ撃てば人が死ぬ代物である。

 これから先、ひょっとしたらこれを使わざるを得ない状況に追い込まれるのかもしれない。
 撃ちたくなんてないし、握ることすら躊躇われるし、本当を言えば所持すらしたくないのだが、決断する。
 かなめはワルサーTPHを制服の胸ポケットに収め、疾走を再開した。

 授業で使う15センチ定規よりも小さい凶器。
 見つかったら生活指導どころでは済まない危険物。
 引き金に触れることは、ないと信じたい。

「まあ、大丈夫……よね?」

 焦りと不安を押し殺して、千鳥かなめは温泉を目指す。



【E-3・温泉付近/一日目・午前】

【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:とらドラの制服@とらドラ!、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、小四郎の鎌@甲賀忍法帖、ワルサーTPH(7/6+1)@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
[思考・状況]
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
1:温泉に向かって情報を集める。
2:何かあったら南、海岸線近くで上条を待つ。
3:知り合いを探したい。
[備考]
※2巻~3巻から参戦。


【ワルサーTPH@現実】
全長:135㎜ 重量:325g 口径:.22LR 装弾数:6+1
軽さと小ささが最大の特徴と言える、ワルサー社が開発したポケットピストル。
あまりにも小さすぎるため、発砲時に高速で後退するスライドとハンマーが、
グリップからはみ出した人差し指と親指の間の肉を思い切り挟むことがある。
使用者の手が大きかったり、握る位置を高くしたりすると頻繁に起こり得る。
それゆえ、愛好家の中では「ワルサーバイト」というあだ名で知られる。


 ◇ ◇ ◇


 隠密行動は忍者の領分であり、破壊工作はテロリストの領分である。
 だから、というわけでもないが、ガウルンはほどなくして千鳥かなめの姿を見失った。
 追走劇の舞台となる住宅地はそれほど入り組んでいるわけでもないが、かなめの健脚はガウルンの予想の上をいったのだ。

(……ま、だからって追いつけないわけでもねぇけどな。むしろ追い越しちまうぜ、この分じゃな)

 それはかなめのほうがガウルンよりも足が速い、という単純なことではなく、
 答えはもっと単純で、ガウルンが単に自分の意思で尾行をやめたからにすぎない。
 理由は面倒くさくなったから。
 気配を殺し、足音を消し、気づかれないようにこそこそと……そんな真似は、それこそ“ニンジャ”にやらせておけばいい。

「目的の場所ってのもどうせわかってるんだからな。なら一足先に到着して、後からやって来るかなめちゃんを歓迎してやるのが、男の優しさだよなぁ?」

 髭面を下卑た笑いで染めて、ガウルンはゆったりとしたペースで東への道を進む。
 かなめは前か、それとも既に後ろか、定かではないがまったく気にしない。
 要はこの足で温泉に辿り着き、かなめと対面できればそれでいいわけだ。

 そこから先は、ちょっとしたイベントが始まる。
 かなめの同行者である少年の顔を盗んだ如月左衛門が、少年に扮してかなめと接触。
 左衛門はあの常世離れした性格だ。面と向かって話せば、かなめもすぐに異変に気づくことだろう。

 ねぇ、あんた喋り方変じゃない? ぬ? いや、そのようなことはあるまいよ――と。

 ガウルンはそんな茶番劇を観賞し、程よいタイミングで『ドッキリ』と書かれたプラカードでも持って現れてやればいい。
 お楽しみはそれから。かなめの驚く顔が、目に浮かぶようだった。

(いや……待てよ)

 ふと、ガウルンが立ち止まる。
 にたにたとした微笑は、きりりとした真面目なものに一変した。

(ニンジャが言ってたな……かなめちゃんの“仲間”が死んだって。そりゃつまり、殺されたってことだ。
 殺した野郎が今どこでなにしてるかは知らないが、万が一にでも、そいつにかなめちゃんを横取りされたら台無しだぜ)

 千鳥かなめが目指す先、温泉施設では、まず間違いなく湯気よりも血の香りが濃厚になっていることだろう。
 この状況下、獲物を狩る意思のある者が一箇所に留まるとは考えにくいが、だからといって楽観はできない。
 ここに至るまで、六時間と少し――我慢に我慢を重ね、やっとご馳走にありつけそうなのだ。
 それを第三者に横取りされるなど、冗談ではない。ガウルンはギリッ、と奥歯を強く噛み、そして見た。

 路上に放置された、肉と骨と血のゴミ捨て場――背筋を弛緩させるほど魅力的な、惨殺死体を。

「――ああ、すげぇなこりゃ」

 発見者のガウルンは、極めて冷静な、それを目にしての言葉であるなら異常すぎるほどに冷静な声で、感想を述べた。
 それはとても遺体とは表現できない、いや死体と言ってしまうのも躊躇われる、肉と骨と血の残骸だった。
 数時間前、ひょっとしたら数十分前、いやいや数分前という可能性だって十分にありえる、とにかく元・人間。
 肉という肉がバラバラに分断されてしまっていて、容姿や年齢、性別すら判別できない有り様である。

「おいおい、まさかこいつか? かなめちゃんのお友達を殺したとかいう、殺人鬼は」

 こいつ、とは目の前のバラバラ死体のことではなく、バラバラ死体を作り上げた張本人のことだった。
 これをやった犯人が、かなめの向かう温泉にいる――いないにしても、まだ近場にいる可能性が非常に高い。
 ガウルンの身に、珍しく危機感が訪れた。自分の身を案じる種のものではなく、獲物を横取りされるかもしれないという危機感だが。

「AS(アーム・スレイブ)の銃撃を受けたってこうはならねぇ。この綺麗すぎる断面はなんだ……?
 まさか、ジャパニーズ・ソードなんていうんじゃねぇだろうな。ったく、気にいらねぇ玩具を持ってやがる」

 何分割にされたのか数える気も起きない肉片は、どれもこれもが綺麗な断面をしていた。
 のこぎりでごりごりと断ち切ったような跡ではない。名刀でスパッとやってしまったような切り口。
 それにしたって、こうも数を拵えるわけがわからないが、大方、殺した野郎の趣味だろうとガウルンは解釈した。

(さ、て……いよいよもって、こりゃライバル出現ってやつか? ちんたらしてたら泣きを見ることになりそうだぜ、と)

 急がなければ。そう思い直した矢先、バラバラ死体の傍に血まみれのデイパックが置かれているのを見つけた。
 なにかの罠かとも懸念したが、ガウルンは、はん、と鼻で笑い、これを堂々回収していく。
 デイパックの中には、銃が一丁と予備弾倉が四つほど入っていた。
 他には、誰もが持つ基本支給品が数点。武器になりそうなものはなかったので、銃だけいただいてデイパックごと破棄する。
 使い慣れた武器はやはり心強い。戦争中ともなれば、銃と銃弾はいくら数があろうと困ることはない。

(ラッキーはラッキー。だが、これが手付かずで放置されてたってことは、だ。
 これをやった野郎は銃なんかにゃ興味がない。つまりそういうタイプの達人って線が強い。
 いいねぇ~、ぞくぞくしてきやがる。かなめちゃんと遊ぶ前に、前菜としていただいとくか……?)

 真面目だった表情が崩れ、ガウルンの口元が思い切り笑む。
 目指す先には、かなめというメインディッシュの他にも、魅力的なオードブルが待っている可能性がある。
 また、それらを食らった後にはかなめ以上のメインディッシュが――カシムという名の大好物が控えてもいるのだ。
 ニンジャやその他の連中はデザートにでも回せばいい。ガウルンの標的は全、その内の好物は少。

 そろそろ、腹が空いてきた。
 朝食は取っていない。この空腹は、ちんけな食事などでは満たしたくない。
 どうせなら美味しく、贅沢に、飢えすらも調味料の代わりとして、最大限味わいつくしたい。

「ククク……拗ねんなよぉ、カシム。おまえの大事な大事なかなめちゃん、まずはそっちからいただいてやっからよぉ!」

 ガウルンが駆け出すと同時、足下の血の海が、盛大に飛沫を上げた。



【E-3・温泉付近/一日目・午前】

【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(小)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)、SIG SAUER MOSQUITO(9/10)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首、SIG SAUER MOSQUITO予備弾倉×5
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:温泉でかなめを補足しつつ、ニンジャが来るのを待つ。温泉にまだ殺人者がいるようならばそいつの相手も楽しむ。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
3:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
4:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心での行動はなるべく避けるようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。


 ◇ ◇ ◇


 ――駆ける!

 人が歩けぬ天井と天壌の間際、屋根の上を忍者の健脚が蹴り、跳び、過ぎる!
 空を舞うその姿は韋駄天のごとく、目的の場へと方向感覚だけを頼りに走り抜ける!

「なんとも櫓の多い里よの。おかげでこのような目立つところを走らねばならぬが……なに、早々に過ぎ去れば問題あるまい」

 赤を基調とした学生服に、風に翻るミニスカート。
 溌剌とした表情から出てくるのは、女の声色。
 身長、体系、髪型、それらの差異は極めて小さい。

 櫛枝実乃梨の姿をしたその者――甲賀卍谷衆が一人、名を如月左衛門。
 何者にも化け、何者をも欺く、変顔の忍者である。

 現代の地図の見方や、方位磁石の使い方など知らぬ彼女にして彼は、風向きと日の位置で方角を見極め、東を目指す。
 その先には、がうるんと、『かなめちゃん』なる女人が待ち構えているはずだ。
 あるいは追い越してしまうこととてあろうが、左衛門にとってはむしろそのほうが好都合。

 狙うは、かなめちゃんではない。
 狙うは、甲賀弦之介の首を奪った狼藉者、がうるんへの復讐――

 これはこの地にただ一人残された甲賀者、如月左衛門にとって正に千載一遇の機会!
 がうるんとの戦いの際にはおくれを取ったが、今回ばかりはしくじるわけにはいかない。しくじるわけにはいかないのだ!

「待っておれよ、がうるん。――」

 故に左衛門は、立ち並ぶ民家の屋根を伝いながら、東への道ならぬ道を駆ける。
 この身のこなしこそ、彼が甲賀十人衆に選ばれたもう一つのゆえん。顔を変えるだけが能の男ではないのだ。

「……しかし」

 ぴたりと、左衛門の足が唐突に止まった。
 何者の目にもつかぬよう配慮した位置(もちろん屋根の上ではあるが)で、悠然と佇む。
 吹き荒ぶ朝風が、なんとも心地よく……そして肌寒い。
 特に腿のあたりが。この感覚を言葉に表すならば、すーすー、といった感じだろうか。

「あの櫛枝実乃梨なる女子、よくもまあこのような召し物で外を歩き回れる。
 これならおれの妹のお胡夷のほうが、もう少し恥じらいというものを持っておったぞ……」

 左衛門は徐に、自身が穿くスカートの端をたくし上げてみる。
 ぺらりとひとめくりすれば、そこには女の痴態が……否、下にはもう一枚召し物があったが、それが丸見えだった。
 こんな格好で走れば、当然のごとく風が召し物を揺らし、痴態が覗かれてしまう。
 がうるんもなかなかにおかしな格好をしていたが、櫛枝実乃梨のこれはさらに上をいく。
 まっこと正気とは思えぬ赤の装束に、左衛門の気は狂いだしそうになった。

「里の女子の中には、色香を忍法として用いる者もおったが……まさか、櫛枝実乃梨もそういった類の?」

 それならそれで、かなりの使い手であったのかもしれぬ……と、途端に黙り込む左衛門。
 女人に化けるのは不可能ではないにしても一苦労、しかしその色香まで模倣するのは、さすがの左衛門といえど無理だった。
 とはいえ、今さら召し物を別のものに変えるわけにもいくまい。
 勘のいいがうるんのことである。どのようなほころびが災いへと変ずるか、わかったものではない。

「女子に化けるともなれば、徹底せねばなるまいよ。……『ううん、徹底しなくちゃね!』」

 櫛枝実乃梨は死んだ。だというのに……そこにはまさに、生き写しのような声が響き渡った!

「『うん、こんなところかな?』」

 おお、これを櫛枝実乃梨と呼ばずしてなんと呼ぶ……。
 今この場にいるのは、如月左衛門にあらず。
 一度は死に、転生を果たした、第二の櫛枝実乃梨なのだ!

「あの耳慣れぬ喋り方にはさすがのおれも四苦八苦したが、声のほうは完璧よの。
 なに、ようはがうるんにさえ悟られねばよいのだ。普段の喋り方を潜め、声さえ真似らればそれでよい」

 櫛枝実乃梨の陽気な顔が、にたり、と笑う。
 その内に秘めたるは、復讐を心に近いし魔性の忍者。
 本性いでるとき、がうるんの命はこの如月左衛門の手に落ちよう、と。

「がうるんを始末した後は、弦之介様に代わり朧や天膳を討つ。それこそが、甲賀者としてのつとめ」

 今は復讐こそが最優先、しかし、甲賀と伊賀の忍法合戦を忘れたわけではない。
 先の放送なる報せでは、伊賀者である筑摩小四郎の名前が呼ばれていた。
 朧や天膳の他にも伊賀者が紛れていたことには驚いたが、早速死んだというなら世話はない。
 破幻の瞳を持つ朧は厄介だが、薬師寺天膳こそは己が甲賀弦之介として討つべきだろう。

「なればこそ、まずは弦之介様の奪取よ。残り少なき余生、せいぜい満喫するがよいぞ、がうるん。――」

 そして、櫛枝実乃梨の顔をした如月左衛門もまた、温泉への道を進む。



【E-3・温泉付近/一日目・午前】

【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲。ガウルンに対して警戒、怒り、殺意。櫛枝実乃梨の容姿。
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック ×2、金属バット 、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持。武器ではない?)
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:温泉に向かい、 気付かれないようならガウルンを襲う。
2:気付かれたなら適当にごまかして、再び機を覗いながらガウルンの指示に従う。
3:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
4:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
※千鳥かなめ、櫛枝実乃梨の声は確実に真似ることが可能です。また上条当麻の声、及びに知り合いに違和感をもたれないはなし方ができるかどうかは不明。
※櫛枝実乃梨の話から上条当麻、千鳥かなめが殺し合いに乗った参加者だと信じています。


 ◇ ◇ ◇


 泉のごとく沸き上がる湯を、ただひたすらに目指す三人の者。

 三者三様、それぞれの思惑を持ってのデッドヒートは、横一線といった戦況。

 頭一つ抜け、いち早くゴールの温泉施設へと辿り着くのは、三人の内の誰になるのか。

 そして辿り着いた後、次なるゴールをきちんと二本の足で目指せる者はいるのか、いないのか。

 三者が辿り着く先は、憩いの地か――はたまた死地か、戦場か、鉄火場か、修羅場か、地獄か、狂戦士の領域か。



投下順に読む
前:しばるセンス・オブ・ロス 次:CROSS†POINT――(交錯点)
時系列順に読む
前:おそうじのじかん/ウサギとブルマと握られた拳 次:献身的な子羊は強者の知識を守る

前:リアルかくれんぼ 千鳥かなめ 次:モザイクカケラ
前:リアルかくれんぼ ガウルン 次:モザイクカケラ
前:リアルかくれんぼ 如月左衛門 次:モザイクカケラ



ウィキ募集バナー