ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
街角にて ― Alternative ―
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街角にて ― Alternative ― ◆02i16H59NY
【1】
少女は飛び出した。
着乱れた制服にも、濡れたままの白い髪にも構わず、少女は駆け足で通りに出る。
まっすぐ近づいてくるエンジンの音。
遠く、むき出しの運転席でバギーのハンドルを握る男と、目が合った。
彼我の置かれた状況を瞬時に検討。
少女は即座にデイパックに腕を突っ込む。
取り出したのは、棍棒のような形をした柄付きの手榴弾。
着火用の紐を手首に巻く間も惜しみ、歯で紐を銜え、引っ張りながら投擲。
その姿を見たバギーの男は、減速するどころか、むしろ加速する。
炸裂音。
山なりに弧を描いて飛んだポテトマッシャー、その下を素早く潜り抜けた格好のバギーは完全に無傷。
それどころか、そのまま少女を轢き殺さんばかりの勢いで迫りくる。
圧倒的な質量を、横っ飛びで回避。
硬いアスファルトの上、少女は前転するように転がって避ける。
激しいブレーキ音と共に、バギーはドリフト気味にターンして停止。
助手席に置かれた鳥篭の中で、色鮮やかな奇怪な生物がなにやら騒いでいるのが見える。
少女は素早く起き上がると、拳銃を抜いて発砲。
ベレッタM92から飛び出した9mm弾は、しかし運転席の回りに張り巡らされたパイプ状のフレームに命中。
甲高い音が響く。
男は、無傷。
少女に次弾を放つ余裕も与えず、男が運転席から跳躍する。
屋根もフロントガラスもない吹きっ晒しのバギー、一足跳びの接近を拒むものは何も無い。
それでも少女は、空中の敵に向けて再度の発砲。
同時に、男が腰の刀を抜刀。
銃声に重なるように、耳障りな金属音。
弾丸の行方を確認する間も与えず、男が着地、瞬時に一閃。
少女の手から、拳銃が弾きとばされて――。
その眼前に、白刃が突きつけられた。
鋭い眼光が少女を射抜き、これ以上の抵抗が無意味であることを言外に告げる。
予備の武器を抜く間もなく、逃げ出す間もなく、即座に少女を斬り殺せる状態だった。
まっすぐ近づいてくるエンジンの音。
遠く、むき出しの運転席でバギーのハンドルを握る男と、目が合った。
彼我の置かれた状況を瞬時に検討。
少女は即座にデイパックに腕を突っ込む。
取り出したのは、棍棒のような形をした柄付きの手榴弾。
着火用の紐を手首に巻く間も惜しみ、歯で紐を銜え、引っ張りながら投擲。
その姿を見たバギーの男は、減速するどころか、むしろ加速する。
炸裂音。
山なりに弧を描いて飛んだポテトマッシャー、その下を素早く潜り抜けた格好のバギーは完全に無傷。
それどころか、そのまま少女を轢き殺さんばかりの勢いで迫りくる。
圧倒的な質量を、横っ飛びで回避。
硬いアスファルトの上、少女は前転するように転がって避ける。
激しいブレーキ音と共に、バギーはドリフト気味にターンして停止。
助手席に置かれた鳥篭の中で、色鮮やかな奇怪な生物がなにやら騒いでいるのが見える。
少女は素早く起き上がると、拳銃を抜いて発砲。
ベレッタM92から飛び出した9mm弾は、しかし運転席の回りに張り巡らされたパイプ状のフレームに命中。
甲高い音が響く。
男は、無傷。
少女に次弾を放つ余裕も与えず、男が運転席から跳躍する。
屋根もフロントガラスもない吹きっ晒しのバギー、一足跳びの接近を拒むものは何も無い。
それでも少女は、空中の敵に向けて再度の発砲。
同時に、男が腰の刀を抜刀。
銃声に重なるように、耳障りな金属音。
弾丸の行方を確認する間も与えず、男が着地、瞬時に一閃。
少女の手から、拳銃が弾きとばされて――。
その眼前に、白刃が突きつけられた。
鋭い眼光が少女を射抜き、これ以上の抵抗が無意味であることを言外に告げる。
予備の武器を抜く間もなく、逃げ出す間もなく、即座に少女を斬り殺せる状態だった。
少女は、敗北した。
【2】
少女は考える。
自分の行動にミスはなかった。
手持ちの戦力で最善の手を打ったはずだ。
動く標的に狙撃を決めるだけの技量はなかったし、座席が露出したバギー相手に手榴弾、というのは正しい判断だったはず。
驚いてブレーキを踏むどころか、瞬時に加速して手榴弾の殺傷圏外に駆け抜ける、という相手の対処が見事過ぎただけだ。
その後の2発の発砲にしたって、狙いは悪くなかった。
どちらも、普通に考えれば男の身体を捕らえていたであろう軌跡――。
だが1発目は細いバギーのフレームに当たってはずれ。
2発目は、なんと、空中で抜刀した男の刀に当たって逸れていた。
少女の常識に照らし合わせれば、どちらも人間が狙ってやれるようなことではない。
だが、それが豪運によるものであれ、非常識の域にも達した技量によるものであれ、結果は結果だ。
とにもかくにも、男は少女の攻撃を全て凌ぎ、刀の切っ先で拳銃を叩き落とし、今こうして、少女の鼻先に刃を突きつけている。
手持ちの戦力で最善の手を打ったはずだ。
動く標的に狙撃を決めるだけの技量はなかったし、座席が露出したバギー相手に手榴弾、というのは正しい判断だったはず。
驚いてブレーキを踏むどころか、瞬時に加速して手榴弾の殺傷圏外に駆け抜ける、という相手の対処が見事過ぎただけだ。
その後の2発の発砲にしたって、狙いは悪くなかった。
どちらも、普通に考えれば男の身体を捕らえていたであろう軌跡――。
だが1発目は細いバギーのフレームに当たってはずれ。
2発目は、なんと、空中で抜刀した男の刀に当たって逸れていた。
少女の常識に照らし合わせれば、どちらも人間が狙ってやれるようなことではない。
だが、それが豪運によるものであれ、非常識の域にも達した技量によるものであれ、結果は結果だ。
とにもかくにも、男は少女の攻撃を全て凌ぎ、刀の切っ先で拳銃を叩き落とし、今こうして、少女の鼻先に刃を突きつけている。
体調は決して悪くはなかった。
途中で目が見えなくなるようなこともなかった。鼻血が出るようなこともなかった。
空腹さえも満たし終え、疲労すらも僅かなりとも休憩を取った後だった。
気持ちこそ千々に乱れていたが、しかし少女は割り切りはいい方だ。
風呂場から出たら、エンジンの音が聞こえた。
急いで服を着て通りに飛び出したら、車に乗った誰かがいた。
浅羽ではなかった。
なら殺す。
その思考の流れに一片の迷いもなく、だから、この敗北を精神的動揺のせいにすることもできない。
この男――雨でもないのにレインコートを羽織っている、このバギーに乗った剣士が、少女よりも遥かに強かった。
ただそれだけだった。
厳然たる事実として、受け止めるしかなかった。
途中で目が見えなくなるようなこともなかった。鼻血が出るようなこともなかった。
空腹さえも満たし終え、疲労すらも僅かなりとも休憩を取った後だった。
気持ちこそ千々に乱れていたが、しかし少女は割り切りはいい方だ。
風呂場から出たら、エンジンの音が聞こえた。
急いで服を着て通りに飛び出したら、車に乗った誰かがいた。
浅羽ではなかった。
なら殺す。
その思考の流れに一片の迷いもなく、だから、この敗北を精神的動揺のせいにすることもできない。
この男――雨でもないのにレインコートを羽織っている、このバギーに乗った剣士が、少女よりも遥かに強かった。
ただそれだけだった。
厳然たる事実として、受け止めるしかなかった。
とはいえ。
少女は既に、自分より地力が高いと思われる人物を1人、葬っている。
相手の隙と油断を突いて、致命傷を与えることに成功している。
拳銃を弾かれ、痺れる手――幸い、怪我らしい怪我はしていないようだ――を押さえたまま、少女は男の出方を待つ。
ここで即座に殺されないようならば、いずれ隙を突くチャンスは十分にあるはず。
はたして男は、油断なく刀を構えたまま、少しだけ切っ先を下ろし、口を開いた。
少女は既に、自分より地力が高いと思われる人物を1人、葬っている。
相手の隙と油断を突いて、致命傷を与えることに成功している。
拳銃を弾かれ、痺れる手――幸い、怪我らしい怪我はしていないようだ――を押さえたまま、少女は男の出方を待つ。
ここで即座に殺されないようならば、いずれ隙を突くチャンスは十分にあるはず。
はたして男は、油断なく刀を構えたまま、少しだけ切っ先を下ろし、口を開いた。
少し、聞きたいことがある。
【3】
男は問うた。
君の名前は?
少女は少し間を置いて、素直に答えた。
いりや、かな。
イリヤ。
別人か。
微かな落胆を滲ませて、男は言った。
白い髪に、乏しい表情に、手榴弾。
もしかしたら、あいつの言っていたあの子かとも思ったんだが。
私があの子のことを知らなかったように、あの子が私を知らない可能性も、ないわけじゃなかった。
男はなにやら1人でブツブツと言っていたが、少女には首を傾げることしかできない。
ああ、済まないね。
名乗るのが遅れたな、私はシズ、旅人だ。
少女の沈黙をどう受け取ったのか、男は自らの名前と立場を告げた。
少女は、無感動な表情のまま、ほんの僅かだけ頷いた。
君の名前は?
少女は少し間を置いて、素直に答えた。
いりや、かな。
イリヤ。
別人か。
微かな落胆を滲ませて、男は言った。
白い髪に、乏しい表情に、手榴弾。
もしかしたら、あいつの言っていたあの子かとも思ったんだが。
私があの子のことを知らなかったように、あの子が私を知らない可能性も、ないわけじゃなかった。
男はなにやら1人でブツブツと言っていたが、少女には首を傾げることしかできない。
ああ、済まないね。
名乗るのが遅れたな、私はシズ、旅人だ。
少女の沈黙をどう受け取ったのか、男は自らの名前と立場を告げた。
少女は、無感動な表情のまま、ほんの僅かだけ頷いた。
それで、イリヤ。
男は少しだけ険しさを取り戻し、改めて問いかけた。
君は、なぜ俺を襲った?
少女は少しだけ考えて、素直に答えた。
すきなひとがいるから。
少女にはここで嘘をつくべき理由も思い当たらなかったから、照れもためらいもせず、淡々と言い切った。
なるほど。
男は呟いた。
この状況では、そういう人も出てくるか。
私が買った、いや、将来買うことになるという少女も、家族のためにあんなことをしたのだと言っていたし。
これくらいの子でも、そんなことを考えてもおかしくないね。
ともあれ、あの2人やその仲間から話を聞いて、私を私と知った上で狙った、ということではないようだ。
なら、話は通じるかな。
男は、何かに満足したように頷くと、刀を納めた。
男は少しだけ険しさを取り戻し、改めて問いかけた。
君は、なぜ俺を襲った?
少女は少しだけ考えて、素直に答えた。
すきなひとがいるから。
少女にはここで嘘をつくべき理由も思い当たらなかったから、照れもためらいもせず、淡々と言い切った。
なるほど。
男は呟いた。
この状況では、そういう人も出てくるか。
私が買った、いや、将来買うことになるという少女も、家族のためにあんなことをしたのだと言っていたし。
これくらいの子でも、そんなことを考えてもおかしくないね。
ともあれ、あの2人やその仲間から話を聞いて、私を私と知った上で狙った、ということではないようだ。
なら、話は通じるかな。
男は、何かに満足したように頷くと、刀を納めた。
とはいえ、イリヤ。
刀は納めたものの相変わらず隙の見えぬ、一呼吸で抜刀して少女を斬り殺せそうな自然体のまま、男は問いかけた。
君は、できると思っているのかい。
少女は小首を傾げた。
どういうこと?
そのままの意味さ。
男は言う。
イリヤも分かったかもしれないが、私はおそらく、君よりも強い。
貴重であろう手榴弾も浪費してしまったし、そのパースエイダーの弾も無限じゃないだろう。
その、君の好きな人以外を全て殺す、という君の考え、これでも実行できると思っているのかい?
刀は納めたものの相変わらず隙の見えぬ、一呼吸で抜刀して少女を斬り殺せそうな自然体のまま、男は問いかけた。
君は、できると思っているのかい。
少女は小首を傾げた。
どういうこと?
そのままの意味さ。
男は言う。
イリヤも分かったかもしれないが、私はおそらく、君よりも強い。
貴重であろう手榴弾も浪費してしまったし、そのパースエイダーの弾も無限じゃないだろう。
その、君の好きな人以外を全て殺す、という君の考え、これでも実行できると思っているのかい?
少女は黙る。
少し長い沈黙。
いや――責めているわけではないよ。
男は間を置いて、言葉を付け加える。
私も自分が生き残るため、自分が最後の1人になるため、既に人を殺している。
だから、人殺しはよくない、暴力はよくない、などと平和な国にいる時のような道徳を説くつもりはないんだが。
おんなじ。
少女は呟いた。
わたしも、ひとりころした。
だから、おんなじ。
そうか。
男は別に驚きも怒りもせず、淡々と答える。
そう、普通に考えれば、それが一番簡単な方法であるはずだ。
けれどもつい先ほど、どうやらそれすらも難しいようだ、と聞いてしまってね。
少し長い沈黙。
いや――責めているわけではないよ。
男は間を置いて、言葉を付け加える。
私も自分が生き残るため、自分が最後の1人になるため、既に人を殺している。
だから、人殺しはよくない、暴力はよくない、などと平和な国にいる時のような道徳を説くつもりはないんだが。
おんなじ。
少女は呟いた。
わたしも、ひとりころした。
だから、おんなじ。
そうか。
男は別に驚きも怒りもせず、淡々と答える。
そう、普通に考えれば、それが一番簡単な方法であるはずだ。
けれどもつい先ほど、どうやらそれすらも難しいようだ、と聞いてしまってね。
男は語った。
少女と出会う直前、2人の少年から自分のバギーを取り返した時の顛末を語った。
巨大な鉄棒を軽々と扱い、舗装された地面に大穴を開けて見せた少年。
その少年をして勝ち目がないほど強い、といわしめる、超常的な力を持つ参加者の存在。
そして、殺し合い以外の解決方法を求める者たちが、大集団を形成しているという事実。
少女と出会う直前、2人の少年から自分のバギーを取り返した時の顛末を語った。
巨大な鉄棒を軽々と扱い、舗装された地面に大穴を開けて見せた少年。
その少年をして勝ち目がないほど強い、といわしめる、超常的な力を持つ参加者の存在。
そして、殺し合い以外の解決方法を求める者たちが、大集団を形成しているという事実。
少女は話の途中で出てきたとある人名に一瞬だけ眉を動かしたが、黙って男の説明を聞いていた。
男が語り終わるまで待って、語り終えてから二呼吸ほど間を置いて、そして尋ねた。
それで、どうするの?
わからない。
男は正直に答えた。
私は、生きて元の所に帰れればそれでいいんだ。
最後の1人、という方法に拘る気はないよ。
でも、彼らもまだ、それ以外の方法、というのを見出せているわけではないようだ。
だから、正直言って――迷っている。
おんなじ。
少女は呟いた。
わたしも、あさばがいきてかえれるなら、それでいい。
あさばがおこらないほうほうがあるなら、そっちのほうがいい。
でも、あいまいなけいかくにはのれない。
そうか。
そうだな、私もそうだね。
危険の少ない方法があれば嬉しいけど、曖昧な計画に身を委ねる気には、なれないかな。
男は微かな微笑を浮かべて頷いた。
男が語り終わるまで待って、語り終えてから二呼吸ほど間を置いて、そして尋ねた。
それで、どうするの?
わからない。
男は正直に答えた。
私は、生きて元の所に帰れればそれでいいんだ。
最後の1人、という方法に拘る気はないよ。
でも、彼らもまだ、それ以外の方法、というのを見出せているわけではないようだ。
だから、正直言って――迷っている。
おんなじ。
少女は呟いた。
わたしも、あさばがいきてかえれるなら、それでいい。
あさばがおこらないほうほうがあるなら、そっちのほうがいい。
でも、あいまいなけいかくにはのれない。
そうか。
そうだな、私もそうだね。
危険の少ない方法があれば嬉しいけど、曖昧な計画に身を委ねる気には、なれないかな。
男は微かな微笑を浮かべて頷いた。
【4】
それで、どうするの。
少女は尋ねた。
言葉だけならさっきと同じ質問だったが、さっきとは違う意味だった。
男は相変わらずの自然体で、でも相変わらず隙はなかった。
少女の見たところ、遠くに転がっている拳銃に飛びつく間も、他の武器を取り出して構える間も無いようだった。
そんな動きを見せたら、たぶんやっぱり、容赦なく斬られるように思われた。
そうだね。
男は少女の視線の動きを把握した上で、少しだけ思案した。
そして言った。
一緒に来るかい?
いつでも抜刀できる自然体のまま、いつでも少女を殺せそうな体勢のまま、男はそんなことを言った。
言ってしまってから、男自身、自分の言葉に驚いているような様子だった。
男は少しだけ考え込んで、そして、訝しげに見上げる少女に向かって言った。
少女は尋ねた。
言葉だけならさっきと同じ質問だったが、さっきとは違う意味だった。
男は相変わらずの自然体で、でも相変わらず隙はなかった。
少女の見たところ、遠くに転がっている拳銃に飛びつく間も、他の武器を取り出して構える間も無いようだった。
そんな動きを見せたら、たぶんやっぱり、容赦なく斬られるように思われた。
そうだね。
男は少女の視線の動きを把握した上で、少しだけ思案した。
そして言った。
一緒に来るかい?
いつでも抜刀できる自然体のまま、いつでも少女を殺せそうな体勢のまま、男はそんなことを言った。
言ってしまってから、男自身、自分の言葉に驚いているような様子だった。
男は少しだけ考え込んで、そして、訝しげに見上げる少女に向かって言った。
君がいれば、私も少しだけラクができる。
バギーを運転している時に刀を振るのは、大変だからね。
パースエイダーを持っていて、容赦なく撃つことのできる人が隣に乗っていれば、少しだけラクができる。
男の言葉に、少女は無言のままだった。
男は続ける。
もちろん、最後の1人、以外の方法が見つからないようなら、どこかでまた、改めて殺しあう必要は出てくるだろう。
それでも、途中まではお互いにラクができるはずだよ。
降りかかる火の粉は容赦なく払うつもりだし、ただそれだけのことでも、1人よりは2人の方がやりやすい。
つまり――
言葉を探す男に向けて、少女は端的に言った。
たがいに、りようするんだ。
男は微笑んだ。
そうだね。
互いを利用、そう思ってくれてもいいよ。
バギーを運転している時に刀を振るのは、大変だからね。
パースエイダーを持っていて、容赦なく撃つことのできる人が隣に乗っていれば、少しだけラクができる。
男の言葉に、少女は無言のままだった。
男は続ける。
もちろん、最後の1人、以外の方法が見つからないようなら、どこかでまた、改めて殺しあう必要は出てくるだろう。
それでも、途中まではお互いにラクができるはずだよ。
降りかかる火の粉は容赦なく払うつもりだし、ただそれだけのことでも、1人よりは2人の方がやりやすい。
つまり――
言葉を探す男に向けて、少女は端的に言った。
たがいに、りようするんだ。
男は微笑んだ。
そうだね。
互いを利用、そう思ってくれてもいいよ。
【5】
ベレッタを拾って戻ってきた少女は、そしてバギーの助手席に登ろうとして、少しだけ困惑の色を見せた。
先客がいた。
コ、ココ、コンニチ、ワ!
鳥篭の中で、黄色と緑のブサイクな生き物が、声を上げた。
少女は少し驚いた風に、両目を見開いてその生物を見つめていた。
インコちゃん、という名前だそうだ。
参加者でなく支給品だそうだから、殺す必要はないよ。
運転席に乗り込んだレインコートの男が、軽く紹介をしてやった。
しかし、どうしたものかな。
インコちゃんには、後ろの荷台に移ってもらおうか。
それとも、その辺に篭ごと吊るしておこうか。
男が鳥篭の処遇について悩んでいると、少女はそれを両手で抱えるようにして、助手席にぽすん、と腰を下ろした。
そうだね。
それでもいいか。
男は呟いたが、少女は聞いていないようだった。
少女はただ、鳥篭の中のインコをじっ、と見つめていた。
先客がいた。
コ、ココ、コンニチ、ワ!
鳥篭の中で、黄色と緑のブサイクな生き物が、声を上げた。
少女は少し驚いた風に、両目を見開いてその生物を見つめていた。
インコちゃん、という名前だそうだ。
参加者でなく支給品だそうだから、殺す必要はないよ。
運転席に乗り込んだレインコートの男が、軽く紹介をしてやった。
しかし、どうしたものかな。
インコちゃんには、後ろの荷台に移ってもらおうか。
それとも、その辺に篭ごと吊るしておこうか。
男が鳥篭の処遇について悩んでいると、少女はそれを両手で抱えるようにして、助手席にぽすん、と腰を下ろした。
そうだね。
それでもいいか。
男は呟いたが、少女は聞いていないようだった。
少女はただ、鳥篭の中のインコをじっ、と見つめていた。
男はバギーを発進させようとして、首を傾げた。
目的地がなかった。
さっきまでのように適当にバギーを走らせてみても良かったのだが、男は同行者に聞いてみることにした。
どこか行きたいところはあるかい?
少女は即答した。
びょういん。
さがしてみたいくすりがあるの。
病院、か。
男は困ったように呟いた。
あそこに戻ること自体は構わないけど、今あの2人と鉢合わせするのは少し具合が悪いかな。
男の言葉に、少女は少しだけ考えて、答えた。
いますぐじゃなくても、いい。
そうか。
男は頷いた。
長い沈黙が場を包み込んだ。
目的地がなかった。
さっきまでのように適当にバギーを走らせてみても良かったのだが、男は同行者に聞いてみることにした。
どこか行きたいところはあるかい?
少女は即答した。
びょういん。
さがしてみたいくすりがあるの。
病院、か。
男は困ったように呟いた。
あそこに戻ること自体は構わないけど、今あの2人と鉢合わせするのは少し具合が悪いかな。
男の言葉に、少女は少しだけ考えて、答えた。
いますぐじゃなくても、いい。
そうか。
男は頷いた。
長い沈黙が場を包み込んだ。
停められたバギーの上。
運転席でハンドルに身を預ける、レインコートとセーターの男。
助手席に収まる、白い髪の少女。
膝に抱え込まれた、喋る生き物を入れた鳥篭。
不思議な調和が、そこにあった。
運転席でハンドルに身を預ける、レインコートとセーターの男。
助手席に収まる、白い髪の少女。
膝に抱え込まれた、喋る生き物を入れた鳥篭。
不思議な調和が、そこにあった。
男はふと思いついて、時計を見て、こう言った。
そろそろ次の放送、というのがあるはずだね。
それを聞いてから改めて考えることにしようか。
少女は何も言わなかった。
インコも何も言わなかった。
男は助手席の方を見た。
少女は無心で鳥篭に指を突っ込んでいて、インコはその指を無心でしゃぶっていた。
ただでさえ奇妙なインコの顔が、さらに凄まじい形相になっていた。
大きな灰色の舌が、そこだけ別の生き物のように少女の指先に絡みつき蠢いていた。
インコは明らかにヘブン状態だったし、少女も少女で、まんざらでもないようだった。
男は呆れたように大きな溜息をつくと、黙って放送が流れだすのを待った。
そろそろ次の放送、というのがあるはずだね。
それを聞いてから改めて考えることにしようか。
少女は何も言わなかった。
インコも何も言わなかった。
男は助手席の方を見た。
少女は無心で鳥篭に指を突っ込んでいて、インコはその指を無心でしゃぶっていた。
ただでさえ奇妙なインコの顔が、さらに凄まじい形相になっていた。
大きな灰色の舌が、そこだけ別の生き物のように少女の指先に絡みつき蠢いていた。
インコは明らかにヘブン状態だったし、少女も少女で、まんざらでもないようだった。
男は呆れたように大きな溜息をつくと、黙って放送が流れだすのを待った。
【B-5/住宅街/一日目・昼(放送直前)】
【シズ@キノの旅】
[状態]:健康。シズのバギーの運転席。
[装備]:早蕨刃渡の太刀@戯言シリーズ、レインコート、パイナップル型手榴弾×1、シズのバギー@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式(食料・水少量消費)、医療品
携帯電話の番号を書いたメモ紙
トンプソン・コンテンダー(0/1)@現実、コンテンダーの交換パーツ、コンテンダーの弾(5.56mmx45弾)x10
[思考・状況]
基本:生還し、元の世界で使命を果たす。
1:イリヤ(伊里野加奈)と当面行動を共にする。インコちゃんを当面の旅の道連れにする。
2:未来の自分が負けたらしいキノという参加者を警戒。
3:……それで、これからどうしよう? イリヤは病院に行きたいようだが、坂井・水前寺組との遭遇は避けたい?
[備考]
参戦時期は、「少なくとも当人の認識の上では」キノの旅6巻『祝福のつもり』より前です。
腹部に傷跡が残っているかどうかは不明です。
[状態]:健康。シズのバギーの運転席。
[装備]:早蕨刃渡の太刀@戯言シリーズ、レインコート、パイナップル型手榴弾×1、シズのバギー@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式(食料・水少量消費)、医療品
携帯電話の番号を書いたメモ紙
トンプソン・コンテンダー(0/1)@現実、コンテンダーの交換パーツ、コンテンダーの弾(5.56mmx45弾)x10
[思考・状況]
基本:生還し、元の世界で使命を果たす。
1:イリヤ(伊里野加奈)と当面行動を共にする。インコちゃんを当面の旅の道連れにする。
2:未来の自分が負けたらしいキノという参加者を警戒。
3:……それで、これからどうしよう? イリヤは病院に行きたいようだが、坂井・水前寺組との遭遇は避けたい?
[備考]
参戦時期は、「少なくとも当人の認識の上では」キノの旅6巻『祝福のつもり』より前です。
腹部に傷跡が残っているかどうかは不明です。
【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:顔に殴打の痕。体に軽い擦り傷など。たまに視力障害。
シズのバギーの助手席、インコちゃんの鳥篭を抱えている
[装備]:ベレッタ M92(11/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱、
インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×2、10人名簿@オリジナル
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。ただし「浅羽を確実に生かして帰す方法」が他にあるなら検討?
1:シズと一時的に同盟? シズを利用? それとも、隙を見せたら即座に攻撃する?
2:出会った参加者を皆殺し? シズと共に方針を考える?
3:できれば病院に行って身体の不調に対処する薬を探したい。でも多少後回しでもいい? 水前寺とは遭遇を避ける?
4:(……インコちゃんのことはちょっとだけ気に入った)
[状態]:顔に殴打の痕。体に軽い擦り傷など。たまに視力障害。
シズのバギーの助手席、インコちゃんの鳥篭を抱えている
[装備]:ベレッタ M92(11/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱、
インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×2、10人名簿@オリジナル
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。ただし「浅羽を確実に生かして帰す方法」が他にあるなら検討?
1:シズと一時的に同盟? シズを利用? それとも、隙を見せたら即座に攻撃する?
2:出会った参加者を皆殺し? シズと共に方針を考える?
3:できれば病院に行って身体の不調に対処する薬を探したい。でも多少後回しでもいい? 水前寺とは遭遇を避ける?
4:(……インコちゃんのことはちょっとだけ気に入った)
[備考]
不定期に視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。
『殴られた』ショックのせいで記憶に多少の混乱があります。そのせいで浅羽直之を襲撃した事実に「気がついていません」
不定期に視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。
『殴られた』ショックのせいで記憶に多少の混乱があります。そのせいで浅羽直之を襲撃した事実に「気がついていません」
投下順に読む
前:Understanding――(離界シアター) | 次:“幻想殺し”と黙する姫【レイディ】 |
時系列順に読む
前:Understanding――(離界シアター) | 次:“幻想殺し”と黙する姫【レイディ】 |
前:CROSS†POINT――(交換点) | シズ | 次:エンキリサイテル 狩人vs.不知なるシズ |
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