戦場のドレスコード◆bmPu6a1eDk
『1人目』は、思っていたより早く見つかった。
スタート地点から山沿いに南下したところの、小さな森。
三方を山に囲まれているせいで、未だ低空を漂う太陽はこの場に光を届けない。
少し肌寒い空気の中、密生した木々の間を縫うようにして歩いている後姿。明るい茶色の髪の、黒いランドセルだからたぶん少年。
彼の姿を認めたヴィータは、小さく溜め息をつく。『最初に会ったのがはやてだった』という幸運な未来図は、あっけなく潰えてしまった。
少年の後をつけながら、少しずつ距離を狭めていく。足音を最小限に、木々や繁みに身を隠して。
―相手は何も持っていない。ハズレを引いちまったか、携帯できないようなものなのか、もしくは武器はあるのに持ち歩かないマヌケかフヌケ。
それなら好都合だ。その場合、勇気ある者の盾はランドセルにしまったままでいい。剣と盾は同時に扱うには重過ぎるし、自分の戦闘スタイルにも合わない。
―それとも、武器なんか必要無いほど、自分の力に自信を持っているか。
それは無い。ときおり後ろを振り返ったりしてあたりを警戒していながら、ヴィータの尾行に気づいていないのがその証拠だ。
フランヴェルジュをかまえる。
少年までの距離はあと数メートル。ここから飛び出して、相手に反撃の機会を与えず一気に……
―本当にやるのか?
脳みそのどこかで誰かが囁いた。聞かなかったことにする。
3人。3人殺せば、『ご褒美』にはやてのいる場所を聞くことができる。
闇雲に探し回るよりも、はるかに効率的で確実な手段だ。
はやてに会って、何が何でも守る。
そう決めたのだ。
三方を山に囲まれているせいで、未だ低空を漂う太陽はこの場に光を届けない。
少し肌寒い空気の中、密生した木々の間を縫うようにして歩いている後姿。明るい茶色の髪の、黒いランドセルだからたぶん少年。
彼の姿を認めたヴィータは、小さく溜め息をつく。『最初に会ったのがはやてだった』という幸運な未来図は、あっけなく潰えてしまった。
少年の後をつけながら、少しずつ距離を狭めていく。足音を最小限に、木々や繁みに身を隠して。
―相手は何も持っていない。ハズレを引いちまったか、携帯できないようなものなのか、もしくは武器はあるのに持ち歩かないマヌケかフヌケ。
それなら好都合だ。その場合、勇気ある者の盾はランドセルにしまったままでいい。剣と盾は同時に扱うには重過ぎるし、自分の戦闘スタイルにも合わない。
―それとも、武器なんか必要無いほど、自分の力に自信を持っているか。
それは無い。ときおり後ろを振り返ったりしてあたりを警戒していながら、ヴィータの尾行に気づいていないのがその証拠だ。
フランヴェルジュをかまえる。
少年までの距離はあと数メートル。ここから飛び出して、相手に反撃の機会を与えず一気に……
―本当にやるのか?
脳みそのどこかで誰かが囁いた。聞かなかったことにする。
3人。3人殺せば、『ご褒美』にはやてのいる場所を聞くことができる。
闇雲に探し回るよりも、はるかに効率的で確実な手段だ。
はやてに会って、何が何でも守る。
そう決めたのだ。
少年はまだヴィータに気づかない。
まだ後姿しか見ていないが、なんというかすごく場違いなやつだと思う。
真っ白なカッターシャツに紺のスラックス。しかも革靴。どこのお坊っちゃんだ。
普通このくらいの子供なら『服に着られる』状態になるものだが、少年の場合驚くほど様になっている。
様になっているのが、この場では場違い感をさらに増長させているのだが。
―場違いならあたしも負けてねーけどな。
こちらの装いは、お気に入りの普段着。
コミカルなドクロのシルエットが大きくプリントされたTシャツとミニスカート、しましまのオーバーニーソックス。
強制的に連れてこられたとはいえ、いずれも戦いの場に臨む服ではあるまい。
戦いの衣装であるバリアジャケットはここには無い。
一振りの剣で、一発の銃弾でこの服はいとも簡単に破れ、血の赤に染まるだろう。
それでも、怖くはない。
あたしには剣と盾と指輪が、みんながついている。
まだ後姿しか見ていないが、なんというかすごく場違いなやつだと思う。
真っ白なカッターシャツに紺のスラックス。しかも革靴。どこのお坊っちゃんだ。
普通このくらいの子供なら『服に着られる』状態になるものだが、少年の場合驚くほど様になっている。
様になっているのが、この場では場違い感をさらに増長させているのだが。
―場違いならあたしも負けてねーけどな。
こちらの装いは、お気に入りの普段着。
コミカルなドクロのシルエットが大きくプリントされたTシャツとミニスカート、しましまのオーバーニーソックス。
強制的に連れてこられたとはいえ、いずれも戦いの場に臨む服ではあるまい。
戦いの衣装であるバリアジャケットはここには無い。
一振りの剣で、一発の銃弾でこの服はいとも簡単に破れ、血の赤に染まるだろう。
それでも、怖くはない。
あたしには剣と盾と指輪が、みんながついている。
湿った土を勢いよく蹴って、ヴィータは繁みの影から飛び出した。
背後から聞こえた足音に少年が振り返る。一瞬の呆けた表情の後、驚愕の顔に変わる。
その顔を支える細い首目掛けて、フランヴェルジュを横に薙ぐ。
しゃがんでかわされた。
「―ちっ!」
初撃の成果は髪の毛数本。炎の魔剣に焼かれて、焦げた嫌な臭いが鼻をつく。
間を置かずに上段からの叩きつけるような二撃目。これも横に飛んでかわされる。
三撃目。四撃目。斬撃に次ぐ斬撃。
薄暗い森の中、紅い炎が幾度となく閃く。
―こいつ、格闘技経験者か。
フランヴェルジュは重量がある。魔力で補助はしているが、慣れない芸当のためうまくいかない。腕が疲れを訴える前に勝負を決めるべきだ。
だが、ヴィータの剣は少年にことごとくかわされていた。あちこちに切り傷は負わせられているものの、決定打を与えられない。
鋭い反応に、合理的な体捌き。荒削りだが、なにか武道を修めているのだろう。
剣のリーチを既に見切っていることを考えると、武器の扱いにも慣れているのかもしれない。
ランドセルを背負ったまま、服もおよそ運動向きではないのに、たいしたものだ。
―でも、『戦闘』はしたことが無いみてーだな。
剣を振るいながら、ヴィータは内心でほくそ笑む。
個々の攻撃はほぼ完璧に避けているが、全体の流れが見えていない。
目の前の敵に対応することだけに意識を向けており、周囲の状況を把握していない。
現に、視点を引いてみるがいい、自在に剣をかわしているように見えた少年が、実はヴィータによってじりじりと木々の密集している方へ―
逃げ場の無い方へと誘導されているのがわかるはずだ。
少年が剣を避けて後ろに跳び、背中を木にぶつけた。激しい運動による酷使に耐えかねたのか、片方の肩ベルトが外れてランドセルが地面に落ちる。
少年の、何かに気づいた焦りの顔。だが、もう遅い。
周りは鬱蒼とした木、木、木。抜けられないわけではないが、その前にフランヴェルジュが少年の背を斬り燃やすだろう。
ヴィータと少年が、向かい合う。
「……なんでだ」
意思の強そうな眉と瞳。ほんの少しだけ、なのはに似ていると思う。
「お前はあんな奴の言うことを聞くのか!?あいつの思い通りに殺し合いをして、
最後の一人は生き残れるとか、願いを叶えられるとか、信じているのか!?
なんでこんな馬鹿げたゲームに乗るんだよ!!」
なんで。
―本当にやるのか?
車椅子を押して散歩に行った秋の朝。一緒に暮らせてうれしいと、頬を撫でてくれた柔らかな手。
「あたしの、我侭だ。それだけだよ」
―なに無駄口きいてんだ。さっさと殺せ。ほら、お前がぐずったせいで、あいつが地面に落ちた、ふたの開いたランドセルの中身を取ろうと―
斬りかかる。同時に、少年がランドセルから何かを取り出した。
正方形の、中央にレンズの入った古めかしい機械。まるでカメラだ。射出系のデバイスか。
レンズがヴィータの姿をとらえ、剣が振り下ろされるより早く、少年がスイッチを押した。
咄嗟に、両腕で頭を守る。
その顔を支える細い首目掛けて、フランヴェルジュを横に薙ぐ。
しゃがんでかわされた。
「―ちっ!」
初撃の成果は髪の毛数本。炎の魔剣に焼かれて、焦げた嫌な臭いが鼻をつく。
間を置かずに上段からの叩きつけるような二撃目。これも横に飛んでかわされる。
三撃目。四撃目。斬撃に次ぐ斬撃。
薄暗い森の中、紅い炎が幾度となく閃く。
―こいつ、格闘技経験者か。
フランヴェルジュは重量がある。魔力で補助はしているが、慣れない芸当のためうまくいかない。腕が疲れを訴える前に勝負を決めるべきだ。
だが、ヴィータの剣は少年にことごとくかわされていた。あちこちに切り傷は負わせられているものの、決定打を与えられない。
鋭い反応に、合理的な体捌き。荒削りだが、なにか武道を修めているのだろう。
剣のリーチを既に見切っていることを考えると、武器の扱いにも慣れているのかもしれない。
ランドセルを背負ったまま、服もおよそ運動向きではないのに、たいしたものだ。
―でも、『戦闘』はしたことが無いみてーだな。
剣を振るいながら、ヴィータは内心でほくそ笑む。
個々の攻撃はほぼ完璧に避けているが、全体の流れが見えていない。
目の前の敵に対応することだけに意識を向けており、周囲の状況を把握していない。
現に、視点を引いてみるがいい、自在に剣をかわしているように見えた少年が、実はヴィータによってじりじりと木々の密集している方へ―
逃げ場の無い方へと誘導されているのがわかるはずだ。
少年が剣を避けて後ろに跳び、背中を木にぶつけた。激しい運動による酷使に耐えかねたのか、片方の肩ベルトが外れてランドセルが地面に落ちる。
少年の、何かに気づいた焦りの顔。だが、もう遅い。
周りは鬱蒼とした木、木、木。抜けられないわけではないが、その前にフランヴェルジュが少年の背を斬り燃やすだろう。
ヴィータと少年が、向かい合う。
「……なんでだ」
意思の強そうな眉と瞳。ほんの少しだけ、なのはに似ていると思う。
「お前はあんな奴の言うことを聞くのか!?あいつの思い通りに殺し合いをして、
最後の一人は生き残れるとか、願いを叶えられるとか、信じているのか!?
なんでこんな馬鹿げたゲームに乗るんだよ!!」
なんで。
―本当にやるのか?
車椅子を押して散歩に行った秋の朝。一緒に暮らせてうれしいと、頬を撫でてくれた柔らかな手。
「あたしの、我侭だ。それだけだよ」
―なに無駄口きいてんだ。さっさと殺せ。ほら、お前がぐずったせいで、あいつが地面に落ちた、ふたの開いたランドセルの中身を取ろうと―
斬りかかる。同時に、少年がランドセルから何かを取り出した。
正方形の、中央にレンズの入った古めかしい機械。まるでカメラだ。射出系のデバイスか。
レンズがヴィータの姿をとらえ、剣が振り下ろされるより早く、少年がスイッチを押した。
咄嗟に、両腕で頭を守る。
閃光。
ぱちり。という、なんとなく懐かしい軽い音。
「……?」
何も起きないことに訝しむ。物理的にも魔法的にもなんの衝撃も無い。
とするとあれはひょっとして見た目通りただのカメラ―
つまり、ブラフ。
一瞬の空隙をつき、少年が脱兎のごとき速さでヴィータの横を駆け抜けた。
「っ、逃がす、かぁ!!!」
魔力補助を全開にし、神速で剣を持ちなおす。まだ間に合う。
この期に及んでランドセルを手放そうとしないとは、いい度胸だ。背中の防御にするつもりでもあるんだろうが、関係ない。
この切っ先は、間違いなく少年の首を刎ねるだろう。
明るい茶色の髪の向こうに見え隠れする、白いうなじ。
炎の剣を構え、大きく踏み込み―
何も起きないことに訝しむ。物理的にも魔法的にもなんの衝撃も無い。
とするとあれはひょっとして見た目通りただのカメラ―
つまり、ブラフ。
一瞬の空隙をつき、少年が脱兎のごとき速さでヴィータの横を駆け抜けた。
「っ、逃がす、かぁ!!!」
魔力補助を全開にし、神速で剣を持ちなおす。まだ間に合う。
この期に及んでランドセルを手放そうとしないとは、いい度胸だ。背中の防御にするつもりでもあるんだろうが、関係ない。
この切っ先は、間違いなく少年の首を刎ねるだろう。
明るい茶色の髪の向こうに見え隠れする、白いうなじ。
炎の剣を構え、大きく踏み込み―
そこにあるはずのない『裾』を踏んづけて、つんのめって転倒した。
「~~~っ!!?」
顔面を痛打した。痛みで声も出ない。一瞬意識が飛んでいたかもしれない。
慌てて体を反転させたが、見えたのは、すでに小さくなった少年の背中。
フランヴェルジュを振り回したおかげで、肉体も精神も疲労している。もはや追いつくことは不可能だろう。
取り逃した。
「くそ、一体何が起こったんだよ!って……なんだよこれ!?」
混乱が抜けきらないヴィータを、さらなる混乱が襲う。
第二の混乱の火元は、他ならぬ自分自身―正確には、自身の着ている服。
そこには、ドクロのプリントTシャツが無かった。しましまオーバーニーソックスも無かった。ミニスカートも無かった。
剥き出しの肩に、大きく開いた背中。
首輪を邪魔そうに囲む、シルバーのネックレス。
ぴったりとフィットする、上品なクリーム色のワンピース。
直立していても引きずってしまいそうなほど長い裾。
極めつけはハイヒール。
妙齢の貴婦人ならともかく、見た目小学生の少女が着るにはあまりにも不釣合いなその衣装。
顔面を痛打した。痛みで声も出ない。一瞬意識が飛んでいたかもしれない。
慌てて体を反転させたが、見えたのは、すでに小さくなった少年の背中。
フランヴェルジュを振り回したおかげで、肉体も精神も疲労している。もはや追いつくことは不可能だろう。
取り逃した。
「くそ、一体何が起こったんだよ!って……なんだよこれ!?」
混乱が抜けきらないヴィータを、さらなる混乱が襲う。
第二の混乱の火元は、他ならぬ自分自身―正確には、自身の着ている服。
そこには、ドクロのプリントTシャツが無かった。しましまオーバーニーソックスも無かった。ミニスカートも無かった。
剥き出しの肩に、大きく開いた背中。
首輪を邪魔そうに囲む、シルバーのネックレス。
ぴったりとフィットする、上品なクリーム色のワンピース。
直立していても引きずってしまいそうなほど長い裾。
極めつけはハイヒール。
妙齢の貴婦人ならともかく、見た目小学生の少女が着るにはあまりにも不釣合いなその衣装。
ヴィータは、パーティードレスを着ていた。
「あのカメラの仕業か……」
数分後、冷静になったヴィータはすぐに原因に思い至った。
今思えば、あのカメラの光を浴びたときに肩がひやりとした気がする。
自嘲の笑いがもれる。あの少年に偉そうなことは言えない。周囲どころか、自分の状況すら把握できていないのはどこのどいつだ。
「まあ、これの原因はわかったからいいとして、これからどうすっかな」
この服では戦闘はおろか、未舗装の道を歩くことすらままならない。どこかで動きやすい服を調達する必要がある。
「とりあえず森を出て…どっか建物のある所にいくか」
戦闘で消耗した体力は歩いているうちに回復するだろう。
しかし、魔力を回復させるにはどこかで休息を取る必要がある。
この服で障害物がいっぱいの森の中を歩いていては気の休まる暇が無い。十分な魔力の回復は望めないだろう。
ちょうどいい。物は試しだ。
魔力を回復させられるという、祈りの指輪。
大して期待はしていないがあれを使ってみようと、指輪を嵌めてある右手の人差し指を見て―
「あれ?」
無い。
落としたかな、と辺りを見回すも、それらしいものは転がっていない。
ふと頭に浮かんだのは閃光と、ぱちり、という安っぽい音。
「……消えちゃった、のか」
撮った相手の衣服を変えるカメラ。指輪も、その一部とみなされて消えた。
どういう理屈かはわからないが、そういうことなのだろう。
なくなってしまった。
剣と盾と指輪。
シグナムとザフィーラとシャマル。
生まれたその時からずっと、時を越えても世界を越えても共に戦ってきた仲間たち。
あの指輪はただの支給品だ。自分とは何の縁もない、単なる便利な道具。
それ以上でもそれ以下でもない。理性はそう慰める。
それでも、指輪の無い右手が自分の行いの代償のようで、
仲間が自分の元から離れてしまったようで、胸の中がじくじくと痛んだ。
「勝手にどっか行くなよ、シャマルのバカヤロー……」
帰りたい、と思った。
長い戦いの果てにあった安息の地、みんなで笑いあえるあの家に。
数分後、冷静になったヴィータはすぐに原因に思い至った。
今思えば、あのカメラの光を浴びたときに肩がひやりとした気がする。
自嘲の笑いがもれる。あの少年に偉そうなことは言えない。周囲どころか、自分の状況すら把握できていないのはどこのどいつだ。
「まあ、これの原因はわかったからいいとして、これからどうすっかな」
この服では戦闘はおろか、未舗装の道を歩くことすらままならない。どこかで動きやすい服を調達する必要がある。
「とりあえず森を出て…どっか建物のある所にいくか」
戦闘で消耗した体力は歩いているうちに回復するだろう。
しかし、魔力を回復させるにはどこかで休息を取る必要がある。
この服で障害物がいっぱいの森の中を歩いていては気の休まる暇が無い。十分な魔力の回復は望めないだろう。
ちょうどいい。物は試しだ。
魔力を回復させられるという、祈りの指輪。
大して期待はしていないがあれを使ってみようと、指輪を嵌めてある右手の人差し指を見て―
「あれ?」
無い。
落としたかな、と辺りを見回すも、それらしいものは転がっていない。
ふと頭に浮かんだのは閃光と、ぱちり、という安っぽい音。
「……消えちゃった、のか」
撮った相手の衣服を変えるカメラ。指輪も、その一部とみなされて消えた。
どういう理屈かはわからないが、そういうことなのだろう。
なくなってしまった。
剣と盾と指輪。
シグナムとザフィーラとシャマル。
生まれたその時からずっと、時を越えても世界を越えても共に戦ってきた仲間たち。
あの指輪はただの支給品だ。自分とは何の縁もない、単なる便利な道具。
それ以上でもそれ以下でもない。理性はそう慰める。
それでも、指輪の無い右手が自分の行いの代償のようで、
仲間が自分の元から離れてしまったようで、胸の中がじくじくと痛んだ。
「勝手にどっか行くなよ、シャマルのバカヤロー……」
帰りたい、と思った。
長い戦いの果てにあった安息の地、みんなで笑いあえるあの家に。
太陽がのろのろと天球を登りようやく闇が追い払われた森の中、
パーティードレスに身を包んだ少女が、陽に透かすように掲げた小さな手を見つめている。
パーティードレスに身を包んだ少女が、陽に透かすように掲げた小さな手を見つめている。
森を抜け、平原を縦断する舗装道路の上に立って、小狼はようやく走るのをやめた。
息が荒い。心臓はフル稼働で血液を全身に送り続けている。
「はっ、はぁ、はぁ……」
汗が一滴、路面に落ちる。
―甘かった。
中国有数の道士の一族、李家に名を連ねる者として、自分は修行を積んできた。
魔法の修練は言うにおよばず、徒手空拳から剣を使った中国の伝統武芸。
そして、それらを使いこなすための知識と精神の修練。
だが、あの剣の燃える切っ先を見た瞬間に全て頭から吹き飛んでしまった。
体の方はなんとか反応してくれたが、それすら軽く袋小路に追いこめられてしまった。
少女がわずかでも会話に乗ってくれたこと、ランドセルから『きせかえカメラ』がこぼれ出たこと、
ちょうどカメラのピントが合っていたこと、入れていたデザイン画が動きにくいドレスだったこと。
それらは全て偶然に過ぎない。
今の自分はいくつもの幸運の上で生きている。
自分の力だけでは、生きられなかった。
ぶんぶん、と頭を振る。思考が悪い方に向かっているのを揺り戻す。
きせかえカメラを使う、というのは咄嗟の対応としては良かった、と思う。
服は人の身を外部の刺激から守るものであり、同時に動きを制限するものでもある。
飛び道具や魔法を使うものには無意味だが、近接戦で向かってくる相手には大きな効果をもたらすだろう。
ピント合わせなど制限は多いが、「相手の虚をつく」という点では優れた道具といえるだろう。
「最初は、大道寺が大喜びしそうだ、ぐらいに思ってたんだけどな」
少し笑いがこぼれる。カメラを手にして、狂喜乱舞しながら桜に向かってフラッシュを焚きまくる友人の姿が容易に想像できた。
桜。
そう、桜もこの殺し合いに参加させられているのだ。
それが小狼にとって、最もこの状況への怒りを沸き立たせることだった。
自分にとって、何よりも大切な少女。
想いを伝え、想いを伝えられ、再会を約束したあの時からまだ一日も経っていない。
こんな所で、いやどんな所であっても、彼女を失うわけにはいかない。
「桜は、おれが守る」
ゲームが始まった時からの決意を、言葉にする。
死の淵に立ってもそれが揺るがずあることを確かめるために。
殺意に満ちた剣の切っ先が回想の中で紅く閃く。
あの、赤髪の少女はまだ誰かを殺そうとしているのだろうか。
あんなに、辛そうな顔をしながら。
息が荒い。心臓はフル稼働で血液を全身に送り続けている。
「はっ、はぁ、はぁ……」
汗が一滴、路面に落ちる。
―甘かった。
中国有数の道士の一族、李家に名を連ねる者として、自分は修行を積んできた。
魔法の修練は言うにおよばず、徒手空拳から剣を使った中国の伝統武芸。
そして、それらを使いこなすための知識と精神の修練。
だが、あの剣の燃える切っ先を見た瞬間に全て頭から吹き飛んでしまった。
体の方はなんとか反応してくれたが、それすら軽く袋小路に追いこめられてしまった。
少女がわずかでも会話に乗ってくれたこと、ランドセルから『きせかえカメラ』がこぼれ出たこと、
ちょうどカメラのピントが合っていたこと、入れていたデザイン画が動きにくいドレスだったこと。
それらは全て偶然に過ぎない。
今の自分はいくつもの幸運の上で生きている。
自分の力だけでは、生きられなかった。
ぶんぶん、と頭を振る。思考が悪い方に向かっているのを揺り戻す。
きせかえカメラを使う、というのは咄嗟の対応としては良かった、と思う。
服は人の身を外部の刺激から守るものであり、同時に動きを制限するものでもある。
飛び道具や魔法を使うものには無意味だが、近接戦で向かってくる相手には大きな効果をもたらすだろう。
ピント合わせなど制限は多いが、「相手の虚をつく」という点では優れた道具といえるだろう。
「最初は、大道寺が大喜びしそうだ、ぐらいに思ってたんだけどな」
少し笑いがこぼれる。カメラを手にして、狂喜乱舞しながら桜に向かってフラッシュを焚きまくる友人の姿が容易に想像できた。
桜。
そう、桜もこの殺し合いに参加させられているのだ。
それが小狼にとって、最もこの状況への怒りを沸き立たせることだった。
自分にとって、何よりも大切な少女。
想いを伝え、想いを伝えられ、再会を約束したあの時からまだ一日も経っていない。
こんな所で、いやどんな所であっても、彼女を失うわけにはいかない。
「桜は、おれが守る」
ゲームが始まった時からの決意を、言葉にする。
死の淵に立ってもそれが揺るがずあることを確かめるために。
殺意に満ちた剣の切っ先が回想の中で紅く閃く。
あの、赤髪の少女はまだ誰かを殺そうとしているのだろうか。
あんなに、辛そうな顔をしながら。
道路の先を見やる。遠くに小さく見えるのは、日本の神社だろうか。
「……格好がどうこう言っている場合じゃないな」
ランドセルから残りの支給品を取り出した。
一つは『シルフスコープ』。不可視のものが見える機械だという。
もう一つは『蝶ネクタイ型変声機』。声を変える機械。
今まで締めていたネクタイを外し、蝶ネクタイ型変声機を首にかける。
シルフスコープを頭にかぶる。少々重いが、慣れれば支障は無いだろう。
道路の脇にあった水溜りを覗き込む。
真っ白なカッターシャツに紺のスラックス。
赤くて大きな蝶ネクタイ。
顔の上半分を覆う、無骨で不気味なメカ。
どこからどうみても、頭のヤバイ人だった。
「……行くか」
そう呟いて、小狼は歩き出した。
生き残る確率を、守れる確率を少しでも上げる装い。
それこそが戦場での正装なのだと、自分に言い聞かせながら。
「……格好がどうこう言っている場合じゃないな」
ランドセルから残りの支給品を取り出した。
一つは『シルフスコープ』。不可視のものが見える機械だという。
もう一つは『蝶ネクタイ型変声機』。声を変える機械。
今まで締めていたネクタイを外し、蝶ネクタイ型変声機を首にかける。
シルフスコープを頭にかぶる。少々重いが、慣れれば支障は無いだろう。
道路の脇にあった水溜りを覗き込む。
真っ白なカッターシャツに紺のスラックス。
赤くて大きな蝶ネクタイ。
顔の上半分を覆う、無骨で不気味なメカ。
どこからどうみても、頭のヤバイ人だった。
「……行くか」
そう呟いて、小狼は歩き出した。
生き残る確率を、守れる確率を少しでも上げる装い。
それこそが戦場での正装なのだと、自分に言い聞かせながら。
こうして殺戮の島に、怪しさランキングのトップランカーが誕生した。
【C-6/山麓の森/一日目/朝】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:若干の疲労、魔力中消費、ホームシック
[装備]:フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア、
勇気ある者の盾@ソードワールド
[道具]:基本支給品
[思考]
第一行動方針:はやてを探す(手段は選ばない?)
第二行動方針:動きやすい服装に着替える
基本行動方針:はやてを見つけ出して守る
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:若干の疲労、魔力中消費、ホームシック
[装備]:フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア、
勇気ある者の盾@ソードワールド
[道具]:基本支給品
[思考]
第一行動方針:はやてを探す(手段は選ばない?)
第二行動方針:動きやすい服装に着替える
基本行動方針:はやてを見つけ出して守る
【D-5/山麓の森入り口/一日目/朝】
【小狼@カードキャプターさくら】
[状態]:若干の疲労、決意
[装備]:無し
[道具]:きせかえカメラ@ドラえもん、
シルフスコープ@ポケットモンスターSPECIAL、
蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン
基本支給品
[思考]
第一行動方針:桜を探し、守る
第二行動方針:仲間を集める
第三行動方針:きせかえカメラの充電
最終行動方針:桜とともに島を脱出する
参戦時期:最終回直後(エピローグ除く)
※きせかえカメラは現在使用不能。充電が必要です。
【小狼@カードキャプターさくら】
[状態]:若干の疲労、決意
[装備]:無し
[道具]:きせかえカメラ@ドラえもん、
シルフスコープ@ポケットモンスターSPECIAL、
蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン
基本支給品
[思考]
第一行動方針:桜を探し、守る
第二行動方針:仲間を集める
第三行動方針:きせかえカメラの充電
最終行動方針:桜とともに島を脱出する
参戦時期:最終回直後(エピローグ除く)
※きせかえカメラは現在使用不能。充電が必要です。
アイテム解説
【きせかえカメラ@ドラえもん】
撮った対象の服を着せ替えられるカメラ。
使用法は、デザイン画をカメラに入れ、ピントを対象に合わせてシャッターを切る。
対象が着ている服を原子レベルにまで分解・再構成してデザインの服に変える。
故障もしくは服装デザインの入っていない状態でカメラを使うと対象は裸になる。
サンプルとして、デザイン画数枚が付属。
撮った対象の服を着せ替えられるカメラ。
使用法は、デザイン画をカメラに入れ、ピントを対象に合わせてシャッターを切る。
対象が着ている服を原子レベルにまで分解・再構成してデザインの服に変える。
故障もしくは服装デザインの入っていない状態でカメラを使うと対象は裸になる。
サンプルとして、デザイン画数枚が付属。
当ロワでの効果範囲・制限は以下の通り。
- 対象の「身に着けている服飾品」にのみ有効。
手に持っている物、ポケットや懐などに入れている物、ランドセルやバッグには効果が無い。
身に着けている物でも、包帯や無骨な機械など「服飾品」としての機能を持っていない物には効果は無い。
身に着けている物でも、包帯や無骨な機械など「服飾品」としての機能を持っていない物には効果は無い。
- 上記の条件を満たしていれば、特殊効果のある支給品に対しても有効。
ただし、「絶対に壊れなくなる魔法」のような、破壊に対する特殊効果のある物には効果は無い。
- 服の素材はそれなりに融通がきく(通常の服からでも水着が作れる。布の服から鉄の鎧を作るようなことは不可能)
サイズもそれなりに融通がきく(パンツ一枚からでも、一人分の服を作ることが出来る)
- 制限として、一度使うごとに30分程度の充電、もしくはバッテリーの交換が必要。
- 着せ替えの効果は1時間で切れる。時間が来ると服は元に戻る。
【シルフスコープ@ポケットモンスターSPECIAL】
人の目に見えない物を見ることが出来るスコープ。
ブルー手製のメカで、高機能&多機能。
ESPの波長解析・暗視・録画などが出来る。
魔法やオーラ、呪いなどESP以外の不可視のエネルギーも多少は視認出来るようだ。
バッテリーがどの程度持つかは不明。
人の目に見えない物を見ることが出来るスコープ。
ブルー手製のメカで、高機能&多機能。
ESPの波長解析・暗視・録画などが出来る。
魔法やオーラ、呪いなどESP以外の不可視のエネルギーも多少は視認出来るようだ。
バッテリーがどの程度持つかは不明。
【蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン】
その名の通り、蝶ネクタイの形をした変声機。
裏側についているダイヤルを調節することで、他人の声を出すことが出来る。
あらかじめ参加者全員の声が登録されており、ダイアルの番号と名簿の番号が対応している。(このことは参加者には知らされていない)
ボリュームの調節をして拡声器として使うことも可能。ただし、普通の拡声器よりも音は小さい。
その名の通り、蝶ネクタイの形をした変声機。
裏側についているダイヤルを調節することで、他人の声を出すことが出来る。
あらかじめ参加者全員の声が登録されており、ダイアルの番号と名簿の番号が対応している。(このことは参加者には知らされていない)
ボリュームの調節をして拡声器として使うことも可能。ただし、普通の拡声器よりも音は小さい。
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