幸せな嘘、嘘の幸せ ◆Xdenpo/R4U
この眼鏡には透視能力がある。
それが形あるものならありふれた家屋の外壁は言うに及ばず、
この殺し合いのルールを保持する異能の塊、首輪の中身でさえも曝け出す。
――それどころか、今なら人の心までも見透かせそうだ。
ヴィクトリアは目的地たる家屋の二階を眼鏡越しに見上げ、口の端を僅かに吊り上げながら歩を進める。
レンズの中に映るイエローの姿は、リルルという少女が機能を停止したときの狼狽した様子とは打って変わり、
気丈なものだった。薄情、無関心、無感情なのではなく、気丈。
背中を震わせ、目元を手で拭いながら遺体を横たえている様にはその言葉が相応しかった。
その背中を目指し、眼鏡をしまいながらヴィクトリアは一歩ずつ進んでいく。
既に追加支給品は最初に支給されたランドセルの中に一まとめにしてある。
空になったご褒美ランドセルはクローゼットの中に捨て置いた。
余程洞察力や勘が鋭い相手でもないかぎり、何を聞かれても騙しきる自信はある。
だが、怪しまれる要素は極力排除しておくべき。そんな考えからの行動だった。
それが形あるものならありふれた家屋の外壁は言うに及ばず、
この殺し合いのルールを保持する異能の塊、首輪の中身でさえも曝け出す。
――それどころか、今なら人の心までも見透かせそうだ。
ヴィクトリアは目的地たる家屋の二階を眼鏡越しに見上げ、口の端を僅かに吊り上げながら歩を進める。
レンズの中に映るイエローの姿は、リルルという少女が機能を停止したときの狼狽した様子とは打って変わり、
気丈なものだった。薄情、無関心、無感情なのではなく、気丈。
背中を震わせ、目元を手で拭いながら遺体を横たえている様にはその言葉が相応しかった。
その背中を目指し、眼鏡をしまいながらヴィクトリアは一歩ずつ進んでいく。
既に追加支給品は最初に支給されたランドセルの中に一まとめにしてある。
空になったご褒美ランドセルはクローゼットの中に捨て置いた。
余程洞察力や勘が鋭い相手でもないかぎり、何を聞かれても騙しきる自信はある。
だが、怪しまれる要素は極力排除しておくべき。そんな考えからの行動だった。
「こんばんは、イエロー」
リルルに黙祷を捧げていたイエローは、背後からの突然の呼びかけにビクリと振り返った。
帽子から見え隠れする金髪が、窓から差し込む月光を反射させて細かに光る。
帽子から見え隠れする金髪が、窓から差し込む月光を反射させて細かに光る。
「う~~、たー! たー!」
「うわ、ひまわり急にどうしたの!?」
「うわ、ひまわり急にどうしたの!?」
と、それまで静かだったひまわりがヴィクトリアを見て急に騒ぎ出した。
思わず顔が引きつりそうになるのを堪えるヴィクトリア。
必死でひまわりをあやしながら、イエローがヴィクトリアに声をかける。
思わず顔が引きつりそうになるのを堪えるヴィクトリア。
必死でひまわりをあやしながら、イエローがヴィクトリアに声をかける。
顔も名前も偽り、ヴィクトリアは用意しておいた事務的な言葉を澱みなく告げる。
こちらの支給品は秘匿しておきたいところだが、誰かからイエローの名前を聞いたなどと言っても胡散臭いだけだ。
ましてや全容のつかめないイエローの能力が目当てなのだから、
素直に参加者詳細名簿を持っていると知らせたほうがイエローを納得させやすいだろう。
計画への自信が自然と力強い微笑みに変わり、ヴィクトリアは悠々とイエローの返答を待つ。が、
こちらの支給品は秘匿しておきたいところだが、誰かからイエローの名前を聞いたなどと言っても胡散臭いだけだ。
ましてや全容のつかめないイエローの能力が目当てなのだから、
素直に参加者詳細名簿を持っていると知らせたほうがイエローを納得させやすいだろう。
計画への自信が自然と力強い微笑みに変わり、ヴィクトリアは悠々とイエローの返答を待つ。が、
「太刀川、ミミ……? 本当に!? 良かった、ずっとキミのことを捜していたんだよ!」
(!? コイツ――!?)
瞬間、ヴィクトリアはイエローの喉を突き破る、
その衝動を抑えるのに理性の過半数を動員していた。
辛うじて踏みとどまった半数以下が状況の分析に務め始める。
(まさか知っているの? この顔の素性を? 太刀川ミミのことを!?)
俄かに太刀川ミミ本人への怒りが募る。何が知り合いは3人だけ、だ。
死ぬことでやっと価値を生み出したというのに、それすら半端なものに成り下がらせたいというのか。
瞬間、ヴィクトリアはイエローの喉を突き破る、
その衝動を抑えるのに理性の過半数を動員していた。
辛うじて踏みとどまった半数以下が状況の分析に務め始める。
(まさか知っているの? この顔の素性を? 太刀川ミミのことを!?)
俄かに太刀川ミミ本人への怒りが募る。何が知り合いは3人だけ、だ。
死ぬことでやっと価値を生み出したというのに、それすら半端なものに成り下がらせたいというのか。
「丈さんから……最期の言葉を預かっています」
続くイエローの静かな懺悔に似た告白を受け、途端にヴィクトリアは得心する。
知人含めて皆死人ならば、こちらの素性は割れないだろうという考えは安易に過ぎたようだ。
自らの落ち度は認めざるをえない。だが、それで胸中に湧く憤りが鎮まるわけでもなかった。
現に、今も憤怒に震える腕を隠すのが精一杯だ。イエローが無能無価値なら既に3回は殺せて腹に収めている。
どう反応するのがベストか判断し難いが、いつまでも無言を通すのは幾らなんでも不自然だろう。
半ば観念したヴィクトリアは綱を渡るような心持ちで言葉を選び始める。
知人含めて皆死人ならば、こちらの素性は割れないだろうという考えは安易に過ぎたようだ。
自らの落ち度は認めざるをえない。だが、それで胸中に湧く憤りが鎮まるわけでもなかった。
現に、今も憤怒に震える腕を隠すのが精一杯だ。イエローが無能無価値なら既に3回は殺せて腹に収めている。
どう反応するのがベストか判断し難いが、いつまでも無言を通すのは幾らなんでも不自然だろう。
半ば観念したヴィクトリアは綱を渡るような心持ちで言葉を選び始める。
「……丈に会ったの?」
「うん。……丈さんはとっても勇敢だった。自分の身が危険になるのが分かっていたのに、
こんな殺し合いは間違っているって……。ずっと叫んで、みんなに訴えかけていたんだ」
「うん。……丈さんはとっても勇敢だった。自分の身が危険になるのが分かっていたのに、
こんな殺し合いは間違っているって……。ずっと叫んで、みんなに訴えかけていたんだ」
自殺志願者と変わらない間抜けの生き様なんてどうでもいい。
大事なのは、
大事なのは、
「丈から私のことはどう聞いているの?」
「え……。あまり話せなかったけど、一緒に冒険した友達だって」
「それだけ?」
「? うん、そうだよ」
「え……。あまり話せなかったけど、一緒に冒険した友達だって」
「それだけ?」
「? うん、そうだよ」
少々執拗な追求に、困惑した表情を浮かべるイエロー。
どうやら本当に太刀川ミミの情報は大して持っていないらしい。不幸中の幸いと言ったところか。
ヴィクトリアは自身の変装に穴があることは自覚している。
整形マシーンで変えられるのは首から上だけであり、体格まで操作することは不可能だ。
中学生ならまだしも、ヴィクトリアの体格で小学4年生と言い張るのはさすがに無理がある。
しかし見たところ、イエローがその点について疑念を抱いている様子は無い。
こちらが藪を突いたりしなければ、先輩後輩という丈とミミの関係にも気付かれないかもしれない。
どうやら本当に太刀川ミミの情報は大して持っていないらしい。不幸中の幸いと言ったところか。
ヴィクトリアは自身の変装に穴があることは自覚している。
整形マシーンで変えられるのは首から上だけであり、体格まで操作することは不可能だ。
中学生ならまだしも、ヴィクトリアの体格で小学4年生と言い張るのはさすがに無理がある。
しかし見たところ、イエローがその点について疑念を抱いている様子は無い。
こちらが藪を突いたりしなければ、先輩後輩という丈とミミの関係にも気付かれないかもしれない。
「……丈さんはいろんな人に襲われて、毒ガスを吸ってしまったんだ。
僕は丈さんを助けたかったけど……助ける方法が、何も浮かばなくて……。
それでも、丈さんは最期までみんなのためだって言って……自分の首輪を差し出してくれたんだ。
介錯は一緒にいたベルカナっていう女の人がやってくれた。ボクは……やっぱり最期まで見ていることしかできなかった。
その首輪は、ボクが預かっている。ボクのことは軽蔑していい。
だけど、丈さんは最期まで本当に立派だったよ。あんなに強い人をボクは見たことなかった。
そのことだけは、キミにどうしても伝えたかった……」
「そう……」
僕は丈さんを助けたかったけど……助ける方法が、何も浮かばなくて……。
それでも、丈さんは最期までみんなのためだって言って……自分の首輪を差し出してくれたんだ。
介錯は一緒にいたベルカナっていう女の人がやってくれた。ボクは……やっぱり最期まで見ていることしかできなかった。
その首輪は、ボクが預かっている。ボクのことは軽蔑していい。
だけど、丈さんは最期まで本当に立派だったよ。あんなに強い人をボクは見たことなかった。
そのことだけは、キミにどうしても伝えたかった……」
「そう……」
心を擦り切らせながら放たれたイエローの告白は、聞き手の素気ない返事でただの独白と成り果てた。
当の聞き手たるヴィクトリアの関心は、ただ一点。新たな首輪がもたらされたという事実のみに向けられている。
当の聞き手たるヴィクトリアの関心は、ただ一点。新たな首輪がもたらされたという事実のみに向けられている。
「丈さんは……ミミさんに、最期にこう言っていました」
そこでイエローは今まで以上に言いよどむ。理由は極単純なことだ。
丈がミミへとあてた伝言。今までは無意識のうちに考えないようにしていたこと。
その痛みを直視しなければいけない。イエローは自分の傷を抉るように声を絞る。
丈がミミへとあてた伝言。今までは無意識のうちに考えないようにしていたこと。
その痛みを直視しなければいけない。イエローは自分の傷を抉るように声を絞る。
「僕はまた……一人で先走って空回りしちゃったよ。
でも、キミなら……きっと大丈夫……。だって……」
でも、キミなら……きっと大丈夫……。だって……」
どうしても声が震える。悲しくないのに怖くて涙が滲んでくる。
怖い。ここに来て死ぬような目にはたくさんあったのにそのどれよりも眼前の少女が怖い。
この感覚に似たものを知っている。ダイレクである少女を引き裂いた直後の、天地逆さになるような、あの感覚。
逃げたい。丈さんの願いと現実の摩擦に耐えられなくて視界が揺れる。
でも、伝えなきゃいけないんだ。
怖い。ここに来て死ぬような目にはたくさんあったのにそのどれよりも眼前の少女が怖い。
この感覚に似たものを知っている。ダイレクである少女を引き裂いた直後の、天地逆さになるような、あの感覚。
逃げたい。丈さんの願いと現実の摩擦に耐えられなくて視界が揺れる。
でも、伝えなきゃいけないんだ。
「だって……、ここには太一さんが、光子郎さんが……仲間が、いるんだから……。
力を合わせれば、きっと大丈夫だよ……っ! ……丈さんは、そう言っていたんだ……!
ごめん、ミミさん……ボクは、嘘を吐けないからっ!
丈さんの言葉を伝える相手が、もうキミしかいないから……!
こんなに! 残酷なことを言わなくちゃいけないっ!!」
力を合わせれば、きっと大丈夫だよ……っ! ……丈さんは、そう言っていたんだ……!
ごめん、ミミさん……ボクは、嘘を吐けないからっ!
丈さんの言葉を伝える相手が、もうキミしかいないから……!
こんなに! 残酷なことを言わなくちゃいけないっ!!」
心の底に穴があく。
そうまでして想いを掻き集め、イエローは言葉を撃ちだした。
なのに、
そうまでして想いを掻き集め、イエローは言葉を撃ちだした。
なのに、
「確かに丈の遺言は受け取ったわ。で、そろそろ私の用件に移ってもいいかしら?」
その声色から、感情を読み取ることはできなかった。
「まってよ……それだけ、なの?」
「それだけって?」
「何でそんなに平気な顔しているんだよ!?
キミはもっと泣いたり怒ったりしていいのに!
ボクは丈さんを助けられなかったばかりか遺体だって辱めたんだ!
悲しくないの!? 悔しくないの!? 憎くないの!?」
「それだけって?」
「何でそんなに平気な顔しているんだよ!?
キミはもっと泣いたり怒ったりしていいのに!
ボクは丈さんを助けられなかったばかりか遺体だって辱めたんだ!
悲しくないの!? 悔しくないの!? 憎くないの!?」
ひまわりが呆然とイエローを見上げる。
肩で息をしつつ、イエローは溜め込んできた体内の澱を吐き散らした。
触れるだけで火がつきそうな形相。対するヴィクトリアの返答は凍てつくように鋭利なものだった。
肩で息をしつつ、イエローは溜め込んできた体内の澱を吐き散らした。
触れるだけで火がつきそうな形相。対するヴィクトリアの返答は凍てつくように鋭利なものだった。
「丈とそこのロボットを含めて何人見殺しにしてきたの?」
「!?」
「やっぱり図星か。下らないわ。
勝手に背負い込んできた罪が重くなりすぎたから、
心のどこかで罰を受けて清算しようとでも思っていたんでしょう。
生憎私はそこまで優しくないの、あなたの捌け口になるなんて御免だわ」
「……ボクは、そんな」
「つもりはない? だったらあなたに私のことをとやかく言われる筋合いはないわ。
大体、丈と数時間もいなかったあなたに何が分かるっていうの?
涙を流して喚き散らすことだけが哀悼表現だと思っているなら認識を改めるべきね」
「!?」
「やっぱり図星か。下らないわ。
勝手に背負い込んできた罪が重くなりすぎたから、
心のどこかで罰を受けて清算しようとでも思っていたんでしょう。
生憎私はそこまで優しくないの、あなたの捌け口になるなんて御免だわ」
「……ボクは、そんな」
「つもりはない? だったらあなたに私のことをとやかく言われる筋合いはないわ。
大体、丈と数時間もいなかったあなたに何が分かるっていうの?
涙を流して喚き散らすことだけが哀悼表現だと思っているなら認識を改めるべきね」
徹底的に突き放すように言うや、畳み掛けるようにヴィクトリアはイエローの胸倉を掴み上げる。
発言内容と現実の行動のギャップに、苦しさも忘れて目を丸くするイエロー。
その視線が、おもむろに指されたヴィクトリアの指先によって緩やかに誘導される。
ヴィクトリアの首元。
直後、あって然るべきものの存在を認められなかったイエローは、今度は違った意味合いで目を見開いていた。
彼女が慌てて何かを口にするより先に、どこか満足気にヴィクトリアが念を押す。
発言内容と現実の行動のギャップに、苦しさも忘れて目を丸くするイエロー。
その視線が、おもむろに指されたヴィクトリアの指先によって緩やかに誘導される。
ヴィクトリアの首元。
直後、あって然るべきものの存在を認められなかったイエローは、今度は違った意味合いで目を見開いていた。
彼女が慌てて何かを口にするより先に、どこか満足気にヴィクトリアが念を押す。
「もう一度言うわ。私はあなたに頼みごとがあるからここに来たの。
死者に足を引かれている暇があったら一人でも多くの生者を救ってみせなさい。丈だってそう願っているわ」
死者に足を引かれている暇があったら一人でも多くの生者を救ってみせなさい。丈だってそう願っているわ」
* * *
聞こえのいい正論でイエローを懐柔したヴィクトリアが最初に行ったのは情報交換でも実験でもなく。
「ミミさん、リルルのICチップの取り外し方分かる?」
イエローからの依頼の遂行だった。何でも、機能停止前にリルルから頼まれたことらしい。
聞いた当初はまた面倒なことを言い出したものだと頭を抱えたくなったが、
最終的に知的好奇心のほうが勝り、イエローの願いを聞き届けることにした。
何せ思考能力を持つ完全自立行動型のロボットの残骸である。
思考、制御、演算を統括する高度なICには様々な意味で大いに興味があった。
他にも分解すれば何か役立つものもあるのではと考え、いろいろと内部を調べてみたが……残念ながら収穫はなかった。
胴体内部では冷却水が漏れ出し制御系の電子回路は全滅。
各種フレームがひしゃげ、オイルが溢れ出した駆動系のほうもほぼ同様。
軽微な損傷を含めれば無事と呼べる箇所は殆どなかった。
いったいどうすればこのような破壊跡が残るというのか。さしものヴィクトリアも未知の脅威に眉を顰めた。
人間で例えるなら体中の臓器を無数の蛇が蹂躙し食い荒らしたと言った惨状だ。
そんな中、頭部に安置されていた件のICチップが無事だったのは奇跡に近い。
正確には専門機器が何もない現状、無事かどうかを判断する術はないのだが、
少なくとも水没やショートによる焦げ後、断線などは見受けられない。
ヴィクトリアがICチップを取り出すと、イエローは両手で小鳥でも包むかのように受け取り、再び黙祷を捧げた。
聞いた当初はまた面倒なことを言い出したものだと頭を抱えたくなったが、
最終的に知的好奇心のほうが勝り、イエローの願いを聞き届けることにした。
何せ思考能力を持つ完全自立行動型のロボットの残骸である。
思考、制御、演算を統括する高度なICには様々な意味で大いに興味があった。
他にも分解すれば何か役立つものもあるのではと考え、いろいろと内部を調べてみたが……残念ながら収穫はなかった。
胴体内部では冷却水が漏れ出し制御系の電子回路は全滅。
各種フレームがひしゃげ、オイルが溢れ出した駆動系のほうもほぼ同様。
軽微な損傷を含めれば無事と呼べる箇所は殆どなかった。
いったいどうすればこのような破壊跡が残るというのか。さしものヴィクトリアも未知の脅威に眉を顰めた。
人間で例えるなら体中の臓器を無数の蛇が蹂躙し食い荒らしたと言った惨状だ。
そんな中、頭部に安置されていた件のICチップが無事だったのは奇跡に近い。
正確には専門機器が何もない現状、無事かどうかを判断する術はないのだが、
少なくとも水没やショートによる焦げ後、断線などは見受けられない。
ヴィクトリアがICチップを取り出すと、イエローは両手で小鳥でも包むかのように受け取り、再び黙祷を捧げた。
次に、互いの情報交換が始まった。内容はこれまでの経緯の説明、そして支給品の公開。
後者のほうは、イエローの所持品を把握しておきたいという思惑から、早々にヴィクトリアが提案したことである。
無論、内容を全て公開したイエローとは違い、ヴィクトリアは整形マシーンなど都合の悪い物は隠し通した。
ところが、ここでヴィクトリアが予想していなかった問題が発生する。
イエローがベルフラウに預けたはずの魔剣ダイレク。
金糸雀が持っていたはずのスケルトンめがねとコチョコチョ手袋。
これら、イエローにとってここに在って欲しくないものをヴィクトリアが所持していたからだ。
ここでヴィクトリアの今の顔、城戸丈の仲間である太刀川ミミの顔が良い方向に働いた。
ヴィクトリアの返答、
後者のほうは、イエローの所持品を把握しておきたいという思惑から、早々にヴィクトリアが提案したことである。
無論、内容を全て公開したイエローとは違い、ヴィクトリアは整形マシーンなど都合の悪い物は隠し通した。
ところが、ここでヴィクトリアが予想していなかった問題が発生する。
イエローがベルフラウに預けたはずの魔剣ダイレク。
金糸雀が持っていたはずのスケルトンめがねとコチョコチョ手袋。
これら、イエローにとってここに在って欲しくないものをヴィクトリアが所持していたからだ。
ここでヴィクトリアの今の顔、城戸丈の仲間である太刀川ミミの顔が良い方向に働いた。
ヴィクトリアの返答、
「私は金糸雀がご褒美を得るためにククリを殺した現場を見たの。
ククリが三人目だったんでしょうね、実際にQBが金糸雀の前に現れたんだから。
その後、金糸雀も誰かに殺されたの。それでその場になぜか放置されていた支給品を私が回収したのよ」
ククリが三人目だったんでしょうね、実際にQBが金糸雀の前に現れたんだから。
その後、金糸雀も誰かに殺されたの。それでその場になぜか放置されていた支給品を私が回収したのよ」
というあやふやな証言を、イエローが呆気なく信じたのである。
イエロー自身、金糸雀にはどこか思うところがあったのだろう。
ヴィクトリアにしてみればこれも好都合なことでしかない。
イエロー自身、金糸雀にはどこか思うところがあったのだろう。
ヴィクトリアにしてみればこれも好都合なことでしかない。
「これで支給品は全部ね。……首尾よくデバイスがある、なんて甘い話はなかったか」
「デバイスって何?」
「喋る魔法の杖よ。私が見つけた首輪解除法には必須のものなの」
「デバイスって何?」
「喋る魔法の杖よ。私が見つけた首輪解除法には必須のものなの」
微かに気落ちした様子を見せるヴィクトリアは、床に散乱した支給品群の中から弾頭のようなものを摘み上げる。
「カートリッジがあったのはありがたいけどこれだけじゃね……。
イエロー、これはあなたに最初に支給されたものなの?」
「いや、違うよ。ベルフラウから預かったものの中に入っていたんだ。
ベルフラウがどうしてそれを持っていたのかも分からない」
「手がかりなし、ってことね……」
イエロー、これはあなたに最初に支給されたものなの?」
「いや、違うよ。ベルフラウから預かったものの中に入っていたんだ。
ベルフラウがどうしてそれを持っていたのかも分からない」
「手がかりなし、ってことね……」
賽の目が当たり続けたせいか、過剰な期待をよせてしまっていたらしい。
ヴィクトリアは溜息を一つ吐きながら、現状の再考に耽る。
リストにあったデバイスは5基。そのうち処理装置、人工知能を詰まず、首輪解除に使えないだろうS2Uは除外。
レイジングハートとグラーフアイゼンはレミリアが所有し、奪取は困難。
狙うならバルディッシュかリインフォースⅡだが、どちらも行方はつかめていない。
デバイスの特徴を聞いたイエローが中央の森でリインフォースⅡらしきものを見たことを思い出したが、
それは既に半日近くも前のこと。捜索の足がかりとしては頼りなさ過ぎる。
ヴィクトリアは溜息を一つ吐きながら、現状の再考に耽る。
リストにあったデバイスは5基。そのうち処理装置、人工知能を詰まず、首輪解除に使えないだろうS2Uは除外。
レイジングハートとグラーフアイゼンはレミリアが所有し、奪取は困難。
狙うならバルディッシュかリインフォースⅡだが、どちらも行方はつかめていない。
デバイスの特徴を聞いたイエローが中央の森でリインフォースⅡらしきものを見たことを思い出したが、
それは既に半日近くも前のこと。捜索の足がかりとしては頼りなさ過ぎる。
「ボクがそのリインフォースⅡを見たとき、持ち主はこの子だったよ」
室内に静寂が満ちる。
情報交換が始まってから、あれだけ騒がしかったひまわりは、いつの間にか質素なベッドの上で小さな寝息を立て始めていた。
ヴィクトリアはもたらされた情報の検討整理のため黙考に身を置く時間と回数が増えている。
そして、イエローはというと、
情報交換が始まってから、あれだけ騒がしかったひまわりは、いつの間にか質素なベッドの上で小さな寝息を立て始めていた。
ヴィクトリアはもたらされた情報の検討整理のため黙考に身を置く時間と回数が増えている。
そして、イエローはというと、
「ネス、リディア……」
詳細名簿を丁寧に、目に焼き付けるように凝視していた。
ちらりとその様子を横目で窺うヴィクトリア。名簿全体が焼け落ちるなどしてボロボロであるため、
太刀川ミミの項がほぼ喪失していることには気付かれていないようだ。
いや、気に留める余裕がないと言ったところか。
イエローは自分の持っている情報の確認照合に一心不乱に取り組んでいる。
ちらりとその様子を横目で窺うヴィクトリア。名簿全体が焼け落ちるなどしてボロボロであるため、
太刀川ミミの項がほぼ喪失していることには気付かれていないようだ。
いや、気に留める余裕がないと言ったところか。
イエローは自分の持っている情報の確認照合に一心不乱に取り組んでいる。
「そんな、トリエラって……!?」
と、ヴィクトリアは突然鼓膜に飛び込んできた聞き覚えのある名前に意識を向ける。
視界におさめたイエローの表情は、声色から想像したものと寸分違わぬうろたえたものだった。
視界におさめたイエローの表情は、声色から想像したものと寸分違わぬうろたえたものだった。
「トリエラって人がどうかしたの?」
「電話でククリからいい人だって聞いていたんだ。
でも、今この名簿で顔を見たら……ネスを殺した人と同じ人だった。
金糸雀は悪い人だって言っていたけど、多分それは金糸雀の嘘で……」
「電話でククリからいい人だって聞いていたんだ。
でも、今この名簿で顔を見たら……ネスを殺した人と同じ人だった。
金糸雀は悪い人だって言っていたけど、多分それは金糸雀の嘘で……」
ここでもトリエラの情報の錯綜があったのか。
混乱に瞳を揺らすイエローを見やりながら、ヴィクトリアは呆れ混じりに思う。
電話を通じて言葉を交わしたヴィクトリアの見立てでは、トリエラの本質は恐らく善人。
そのことを告げれば、今のイエローの混迷した思考に出口を示すことはできる。
だが、この姿のままトリエラと再会する機会が訪れた場合、こちらがトリエラを認知していると話がややこしくなる。
ゆえに、
混乱に瞳を揺らすイエローを見やりながら、ヴィクトリアは呆れ混じりに思う。
電話を通じて言葉を交わしたヴィクトリアの見立てでは、トリエラの本質は恐らく善人。
そのことを告げれば、今のイエローの混迷した思考に出口を示すことはできる。
だが、この姿のままトリエラと再会する機会が訪れた場合、こちらがトリエラを認知していると話がややこしくなる。
ゆえに、
「イエロー、今そんなことで悩んでも詮無いことだわ。
再会したときにでも考えなさい」
再会したときにでも考えなさい」
ヴィクトリアは白を切ることにした。
「……さて、そろそろ落ち着いたかしら? 本題に入りたいのだけれど」
「ねえ、ミミさん。すごい今さらだけど……これでよかったの?」
「どういう意味かしら?」
「せっかくミミさんの首輪は外れてジェダから見聞きされることがなくなったのかもしれないのに、
ボクとこうして会って話しているんじゃ意味がなくなっちゃうんじゃ」
「ねえ、ミミさん。すごい今さらだけど……これでよかったの?」
「どういう意味かしら?」
「せっかくミミさんの首輪は外れてジェダから見聞きされることがなくなったのかもしれないのに、
ボクとこうして会って話しているんじゃ意味がなくなっちゃうんじゃ」
イエローの意見を受け、ヴィクトリアは強気に微笑む。
「そうね。確かにしばらく誰にも接触せずに動くのも悪くないとは思ったし、
首輪を外した当初はそのつもりだったわ。あなたを見つけるまではね。
私の首輪解除はまだ不完全なもので、あなたみたいにそれを補助でき得る力を求めていたの。
それでジェダに対する隠密行動と、すぐ近くにいたあなたを秤にかけて後者を選んだ。
言い方は悪いけど、私が一人で動いているあいだにあなたに死なれてはまずかったから。
それに私の首輪が外れたと分かれば、ジェダ側から何らかの動きがあるかもしれない。
こういった事情を加味して私はあなたに接触したの。
それよりも心配するべきなのはイエロー、あなた自身よ」
「ボク自身?」
首輪を外した当初はそのつもりだったわ。あなたを見つけるまではね。
私の首輪解除はまだ不完全なもので、あなたみたいにそれを補助でき得る力を求めていたの。
それでジェダに対する隠密行動と、すぐ近くにいたあなたを秤にかけて後者を選んだ。
言い方は悪いけど、私が一人で動いているあいだにあなたに死なれてはまずかったから。
それに私の首輪が外れたと分かれば、ジェダ側から何らかの動きがあるかもしれない。
こういった事情を加味して私はあなたに接触したの。
それよりも心配するべきなのはイエロー、あなた自身よ」
「ボク自身?」
暗に覚悟を促す時間が設けられた後。
ヴィクトリアは厳かな儀式でも始めるかのような重い口調をイエローに向けた。
ヴィクトリアは厳かな儀式でも始めるかのような重い口調をイエローに向けた。
「ええ、そうよ。この会話、首輪解除に関わる会話がジェダ側に伝われば刺客が向けられるかもしれないし……、
もっとシンプルにあなたの首輪が爆破されるかもしれないわ」
「!」
もっとシンプルにあなたの首輪が爆破されるかもしれないわ」
「!」
過酷な事実を突きつけられたイエローが息を呑む。
「何せここに解除した実例がいるんだから。ジェダも実ることのない首輪考察には寛容だったかもしれない。
けれど今はもう事情が違う。首輪を外した私とその周辺をいつまでも野放しにするとは限らないわ。
だからイエロー、あなたには選択の余地を残してあげる」
「選、択……」
「道は二つ。ここで聞いたことを忘れて今すぐ私と別れて二度と関わらないか。
全部聞いて一緒に暗夜の先を目指すか。二つに一つよ」
けれど今はもう事情が違う。首輪を外した私とその周辺をいつまでも野放しにするとは限らないわ。
だからイエロー、あなたには選択の余地を残してあげる」
「選、択……」
「道は二つ。ここで聞いたことを忘れて今すぐ私と別れて二度と関わらないか。
全部聞いて一緒に暗夜の先を目指すか。二つに一つよ」
感情を排し、ただただ選択肢をぶつけるヴィクトリア。
“Noと口にした瞬間ミンチだけど”とはおくびにも出していない。
“Noと口にした瞬間ミンチだけど”とはおくびにも出していない。
「話を聞くよ。ボクに、みんなを助けられる可能性があるなら」
望みどおりの回答を引き出し、ヴィクトリアはここで初めて柔和な笑みを浮かべた。
向けられた眼差しは力感すら見受けられる。いい傾向だ。
口八丁でらしくない説教までした甲斐もあったというものだ。
出会った直後よりも『道具』としての格が上がっている。
これなら首輪解析にも最高のパフォーマンスを発揮してくれるだろう。
向けられた眼差しは力感すら見受けられる。いい傾向だ。
口八丁でらしくない説教までした甲斐もあったというものだ。
出会った直後よりも『道具』としての格が上がっている。
これなら首輪解析にも最高のパフォーマンスを発揮してくれるだろう。
「ふふ、あなたならそう言ってくれると思っていたわ」
言って、右手を差し出す。
その意図を察したイエローも笑みを返し、固い握手がなされる。
その意図を察したイエローも笑みを返し、固い握手がなされる。
「これで私たちは仲間ね。喜ぶといいわ。あなたは丈の遺言を嘘にしなかったのだから」
「え……」
「だってそうでしょう? あなたは私を一人にしなかった。
仲間がいれば私は大丈夫だって丈が言っていたんでしょう。
だからきっと――――このゲームだって打ち破れる」
「え……」
「だってそうでしょう? あなたは私を一人にしなかった。
仲間がいれば私は大丈夫だって丈が言っていたんでしょう。
だからきっと――――このゲームだって打ち破れる」
その断言はイエローの身体を優しく包み込み、心には鋭い一石を投じた。
理解は波紋のように広がっていき、一筋の涙となって溢れ出した。
(仕上げはこんなところか。精々この友情が長続きするように働いて欲しいものね)
心中で淡々と吐露するヴィクトリア。
ふと我に返ってみると、友情なんて言葉を思い浮かべた自分が可笑しくなってきた。
利用目的とはいえ、母以外の他人を頼るなど何十年ぶりになるのだろうか。
きっと人間だったときは臆面もなく使えた言葉だったはずなのに。
今は古びたブラウン管の向こうにあって。手を伸ばしても、掴めない。
理解は波紋のように広がっていき、一筋の涙となって溢れ出した。
(仕上げはこんなところか。精々この友情が長続きするように働いて欲しいものね)
心中で淡々と吐露するヴィクトリア。
ふと我に返ってみると、友情なんて言葉を思い浮かべた自分が可笑しくなってきた。
利用目的とはいえ、母以外の他人を頼るなど何十年ぶりになるのだろうか。
きっと人間だったときは臆面もなく使えた言葉だったはずなのに。
今は古びたブラウン管の向こうにあって。手を伸ばしても、掴めない。
* * *
首輪解析を開始して10分。
イエローはヴィクトリアに指示されたとおり、城戸丈の首輪の表面をじっくり撫でさすっていた。
頬に薄っすらと浮かぶ汗が彼女の集中力の高さを窺わせる。
内側、外側、上面、下面……。
ぐるりと一周したイエローは、無言を決め込むヴィクトリアに堪らず助けを求めた。
イエローはヴィクトリアに指示されたとおり、城戸丈の首輪の表面をじっくり撫でさすっていた。
頬に薄っすらと浮かぶ汗が彼女の集中力の高さを窺わせる。
内側、外側、上面、下面……。
ぐるりと一周したイエローは、無言を決め込むヴィクトリアに堪らず助けを求めた。
「ミミさん……やっぱり何も分からないよ」
実はイエローはこれ以前にも丈の首輪を使って似たようなことを試している。
だが結局何も分からずじまいであり、それ以後積極的に首輪を弄ることもなかった。
(ボクはブルーさんみたいに機械に強いわけじゃないのに……)
そんな弱気な考えを、首を振って打ち消す。
と、ヴィクトリアが新しい指示を飛ばしてきた。
だが結局何も分からずじまいであり、それ以後積極的に首輪を弄ることもなかった。
(ボクはブルーさんみたいに機械に強いわけじゃないのに……)
そんな弱気な考えを、首を振って打ち消す。
と、ヴィクトリアが新しい指示を飛ばしてきた。
「次は自分の首輪。さっきと同じように触ってみて」
(自分の首輪?)
言われたとおり、イエローは自分の首輪に手を添え始める。相変わらずヴィクトリアは指示ばかりで何も言わない。
触り方にそう種類があるわけでもないが、これでは何を指針に触れればいいのかも分からなかった。
(ミミさんを信じるって決めたんだ。だったら、とにかく全力を――)
言われたとおり、イエローは自分の首輪に手を添え始める。相変わらずヴィクトリアは指示ばかりで何も言わない。
触り方にそう種類があるわけでもないが、これでは何を指針に触れればいいのかも分からなかった。
(ミミさんを信じるって決めたんだ。だったら、とにかく全力を――)
ドクン。
何かが指先に引っかかった。
この首輪は表面が完全に平坦になっているわけではなく、ネームプレート等の凹凸が存在している。
無論、丈の首輪にも同様のものが備え付けられていた。
だが、
(これ、何かが違う)
先ほど丈の首輪を丹念になぞっていたからこそ、漠然とした違和感が指先を伝う。
まるで指先の血流が磁石のように何かに引かれ、あるいは押されているような。
そして、何より驚くべきなのは。
この形容し難い感覚を――――
(ボクは、知っている! でも、まさか)
この首輪は表面が完全に平坦になっているわけではなく、ネームプレート等の凹凸が存在している。
無論、丈の首輪にも同様のものが備え付けられていた。
だが、
(これ、何かが違う)
先ほど丈の首輪を丹念になぞっていたからこそ、漠然とした違和感が指先を伝う。
まるで指先の血流が磁石のように何かに引かれ、あるいは押されているような。
そして、何より驚くべきなのは。
この形容し難い感覚を――――
(ボクは、知っている! でも、まさか)
「気付いたかしら? だとしたらあなたに接触した意味は大きかったわ。」
声に導かれるように、イエローは顔をはね上げた。
視線の先に自信がそのまま形となったような、堂々たる少女がたたずんでいる。
そのことが、この上ないほど頼もしい。
視線の先に自信がそのまま形となったような、堂々たる少女がたたずんでいる。
そのことが、この上ないほど頼もしい。
「そう、その首輪の中には微細な生物がいるの」
ヴィクトリアの解答で曖昧だったイエローの予想が確信へと至った。
それが歓喜の表情になりかけたところで、再びイエローの顔は曇る。
それが歓喜の表情になりかけたところで、再びイエローの顔は曇る。
「確かにこの感じはポケモンが近くにいるときと同じようなものだけど……、
ボクにはこんなことしか分からないよ」
「それだけでも充分よ。あなたは活動中の首輪とそうじゃない首輪を触れただけで判別できたのだから。
それはとても大きいことよ。尤も、サンプル数をもっと増やして検討しておきたいところだけど」
ボクにはこんなことしか分からないよ」
「それだけでも充分よ。あなたは活動中の首輪とそうじゃない首輪を触れただけで判別できたのだから。
それはとても大きいことよ。尤も、サンプル数をもっと増やして検討しておきたいところだけど」
ヴィクトリアは不敵に笑う。
そう、これこそが彼女が完全な首輪解除を目指すために求めていた能力だった。
短時間でヴィクトリアが編み出していた魔法は、『首輪爆破』と『死の誤情報』の二つ。
前者はともかく、後者が確実に成功したかどうかを判定する手段は持っていなかった。
レミリアに殺されかけたあと首輪を引きちぎれたのは、『左首筋から右胴までを袈裟斬りにされたから』、
つまり、このとき首輪に傷がついたのに爆発しなかったから機能の停止を判断できたのである。
再びデバイスを手にし、ある程度時間をかければ首輪の機能停止を判別する手段も見つかるかもしれないが、
確認法が多くなったところでデメリットがあるわけでもない。
イエローの存在はまさに大収穫だったと言える。
そう、これこそが彼女が完全な首輪解除を目指すために求めていた能力だった。
短時間でヴィクトリアが編み出していた魔法は、『首輪爆破』と『死の誤情報』の二つ。
前者はともかく、後者が確実に成功したかどうかを判定する手段は持っていなかった。
レミリアに殺されかけたあと首輪を引きちぎれたのは、『左首筋から右胴までを袈裟斬りにされたから』、
つまり、このとき首輪に傷がついたのに爆発しなかったから機能の停止を判断できたのである。
再びデバイスを手にし、ある程度時間をかければ首輪の機能停止を判別する手段も見つかるかもしれないが、
確認法が多くなったところでデメリットがあるわけでもない。
イエローの存在はまさに大収穫だったと言える。
「今日はこれまでにしてここで休みましょう。
私が見張っているからあなたはひまわりと一緒に休んだほうがいいわ」
「ごめん……ボクはベルフラウたちがどうなったか確かめに行かないと」
私が見張っているからあなたはひまわりと一緒に休んだほうがいいわ」
「ごめん……ボクはベルフラウたちがどうなったか確かめに行かないと」
こめかみあたりに軽微な頭痛が走る。
この強情さがなければもっと扱いやすいものを、とヴィクトリアは内心で重い息を落とす。
この強情さがなければもっと扱いやすいものを、とヴィクトリアは内心で重い息を落とす。
「……イエロー。現実を見たほうがいいわ。金糸雀は人殺しよ。それもご褒美を貰うくらいの。
ククリ、ベルフラウ、鈴木みかで3人。そう考えるのが自然だわ。
とくに、ダイレクを奪ったのだからベルフラウの生存は絶望的よ。
私だって本調子じゃないわ。あなたを守りながら城に行くのは無理よ。
いい? みんなのためにもあなたを失うわけにはいかないの。
だから、あなたを城に行かせるわけにはいかないわ」
「……うん」
ククリ、ベルフラウ、鈴木みかで3人。そう考えるのが自然だわ。
とくに、ダイレクを奪ったのだからベルフラウの生存は絶望的よ。
私だって本調子じゃないわ。あなたを守りながら城に行くのは無理よ。
いい? みんなのためにもあなたを失うわけにはいかないの。
だから、あなたを城に行かせるわけにはいかないわ」
「……うん」
明瞭な返答は得られなかったが、渋々納得してくれたようだ。
「分かった、休むよ。けどキミは大丈夫なの?」
「私の心配はいいの。あ、寝る前にこれを持っていきなさい」
「私の心配はいいの。あ、寝る前にこれを持っていきなさい」
イエローに手の形が模された奇怪な帽子が手渡される。
「これは?」
「エスパー帽子よ。念力、空間転移、透視……平たく言えば超能力者になれるものだそうよ。
いざというとき自分の身を守るなり逃げるなりできないと困るでしょう」
「……ホント、いろいろありがとう」
「礼なんていいわ。その代わりカートリッジとハサミを貰いたいんだけど」
「いいよ。両方ともボクには使い方の分からないものだから」
「エスパー帽子よ。念力、空間転移、透視……平たく言えば超能力者になれるものだそうよ。
いざというとき自分の身を守るなり逃げるなりできないと困るでしょう」
「……ホント、いろいろありがとう」
「礼なんていいわ。その代わりカートリッジとハサミを貰いたいんだけど」
「いいよ。両方ともボクには使い方の分からないものだから」
こうして支給品の交換が行われた後、イエローは壁に背を預け置いてあった毛布にくるまった。
「疲れたら無理しないでボクを起こして。
見張りを変わるから」
「ええ、分かったわ」
見張りを変わるから」
「ええ、分かったわ」
お休みと言い残し、イエローは目を閉じた。
* * *
窓からは相変わらず切り取られた真っ直ぐな月光が刺し込んでくる。
二人分の寝息しか響かない薄闇の中でヴィクトリアは再び黙考に耽り始めた。
身体が本調子じゃないのは本当だ、レミリアに手ひどくやられたあとだったのだから。
今は動きたくないというのも本心。だから今日はここで夜を明かすことに決めたのだが、理由はそれだけではない。
(この町には相当の参加者が集まっていた。なのに、今は不気味なくらい静かになった)
自分たちのように身を潜めているのか。あるいは全滅したのか。
(あれで全部が終わったようには思えない。
もう少しこの町に留まって状勢の把握につとめるべきだわ)
徐々に更けていく夜。紅の残滓も消えた空をヴィクトリアは睨み続ける。
二人分の寝息しか響かない薄闇の中でヴィクトリアは再び黙考に耽り始めた。
身体が本調子じゃないのは本当だ、レミリアに手ひどくやられたあとだったのだから。
今は動きたくないというのも本心。だから今日はここで夜を明かすことに決めたのだが、理由はそれだけではない。
(この町には相当の参加者が集まっていた。なのに、今は不気味なくらい静かになった)
自分たちのように身を潜めているのか。あるいは全滅したのか。
(あれで全部が終わったようには思えない。
もう少しこの町に留まって状勢の把握につとめるべきだわ)
徐々に更けていく夜。紅の残滓も消えた空をヴィクトリアは睨み続ける。
【H-1/市街地・住宅内二階/1日目/真夜中】
【ヴィクトリア=パワード@武装錬金】
[状態]:精神疲労(中)、肉体消耗(中)、首輪解除、太刀川ミミに瓜二つの顔
[装備]:i-Pod@東方Project、スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER
[道具]:天空の剣@ドラゴンクエスト?、基本支給品×2(食料のみは1人分)、
塩酸の瓶、コチョコチョ手袋(左手のみ)@ドラえもん、
魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー、ポケモン図鑑@ポケットモンスター、ペンシルロケット×5@mother2
アイテムリスト、詳細名簿(ア行の参加者のみ詳細情報あり。他は顔写真と名前のみ。リリスの情報なし)
マッド博士の整形マシーン、カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA's、
、思いきりハサミ@ドラえもん、その他不明支給品×0~2
[服装]:制服の妙なの羽織った姿
[思考]:このまま朝が来るかどうか……。
第一行動方針:周囲を監視しつつ休息。
第ニ行動方針:首輪や主催者の目的について考察する。そのために、禁止エリアが発動したら調査に赴きたい(候補はH-8かA-1)
第三行動方針:“信用できてなおかつ有能な”仲間を捜す。インデックス、エヴァにできれば接触してみたい。
基本行動方針:様子見をメインに、しかしチャンスの時には危険も冒す
参戦時期:母を看取った後(能力制限により再生能力及び運動能力は低下、左胸の章印を破壊されたら武器を問わずに死亡)
[備考]:太刀川ミミを丸ごと平らげた為、高速で再生中です。
首輪が外れた事により能力制限が外れている可能性も有ります。
[備考]:首輪に『首輪を外そうとしている』や『着用者が死んだ』誤情報を流す魔法を編み出しました。
ただし、デバイスなど媒体が無ければ使えません。攻撃に使うのも不意打ちで無ければ難しいと思われる?
更にヴィクトリアの場合、実際に致命傷を受けて殆ど死に体になっていた事が助けとなった可能性も有ります。
追加ランドセル(空)はH-1住宅街屋内のクローゼット内に放置
【ヴィクトリア=パワード@武装錬金】
[状態]:精神疲労(中)、肉体消耗(中)、首輪解除、太刀川ミミに瓜二つの顔
[装備]:i-Pod@東方Project、スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER
[道具]:天空の剣@ドラゴンクエスト?、基本支給品×2(食料のみは1人分)、
塩酸の瓶、コチョコチョ手袋(左手のみ)@ドラえもん、
魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー、ポケモン図鑑@ポケットモンスター、ペンシルロケット×5@mother2
アイテムリスト、詳細名簿(ア行の参加者のみ詳細情報あり。他は顔写真と名前のみ。リリスの情報なし)
マッド博士の整形マシーン、カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA's、
、思いきりハサミ@ドラえもん、その他不明支給品×0~2
[服装]:制服の妙なの羽織った姿
[思考]:このまま朝が来るかどうか……。
第一行動方針:周囲を監視しつつ休息。
第ニ行動方針:首輪や主催者の目的について考察する。そのために、禁止エリアが発動したら調査に赴きたい(候補はH-8かA-1)
第三行動方針:“信用できてなおかつ有能な”仲間を捜す。インデックス、エヴァにできれば接触してみたい。
基本行動方針:様子見をメインに、しかしチャンスの時には危険も冒す
参戦時期:母を看取った後(能力制限により再生能力及び運動能力は低下、左胸の章印を破壊されたら武器を問わずに死亡)
[備考]:太刀川ミミを丸ごと平らげた為、高速で再生中です。
首輪が外れた事により能力制限が外れている可能性も有ります。
[備考]:首輪に『首輪を外そうとしている』や『着用者が死んだ』誤情報を流す魔法を編み出しました。
ただし、デバイスなど媒体が無ければ使えません。攻撃に使うのも不意打ちで無ければ難しいと思われる?
更にヴィクトリアの場合、実際に致命傷を受けて殆ど死に体になっていた事が助けとなった可能性も有ります。
追加ランドセル(空)はH-1住宅街屋内のクローゼット内に放置
【イエロー・デ・トキワグローブ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:全身に擦り傷と打撲(行動にやや支障)、左瞼に大きく切り傷、疲労(中)、頭部に打撲(生命に危険なし) 、睡眠中
[服装]:ベルフラウの私服姿。
[装備]:レッドのグローブ、おみやげのコイン@mother2、エスパーぼうし@ドラえもん
[道具]:共通支給品×3(食料?1)、浄玻璃の鏡@東方project(残り1回)、クロウカード×3(『甘』『火』『地』)
スケッチブック、城戸丈の首輪、イエローの服(泥だらけ) 、リルルのICチップ、ベルフラウの帽子
[思考]:……
第一行動方針:ヴィクトリアについていく。
第ニ行動方針:ベルフラウがどうなったか知りたい。
第三行動方針:グリーンやブルーと合流し、このゲームを破る方法を考える。
第四行動方針:丈の友人と合流し伝言を伝え、協力を仰ぐ。
基本行動方針:絶対にゲームに乗らない。生きてマサラに帰る。
[備考]:
トリエラ(外見)を「積極的なマーダー」だと認識しました。
トリエラ(名前)を「ククリやリルルの仲間で、良い人)と認識しました。
詳細名簿で上記トリエラの情報が結びつきました。
ネスからレッドの仇が「白い女の子」だと聞かされました。
レッドの仇に対しどういう態度を取るべきか、まだ考えが定まっていません。
ベルフラウの言葉と今の状況から、雛苺一行を危険な存在だと見なしています。
首輪内の生物の活動状態を把握可能
[状態]:全身に擦り傷と打撲(行動にやや支障)、左瞼に大きく切り傷、疲労(中)、頭部に打撲(生命に危険なし) 、睡眠中
[服装]:ベルフラウの私服姿。
[装備]:レッドのグローブ、おみやげのコイン@mother2、エスパーぼうし@ドラえもん
[道具]:共通支給品×3(食料?1)、浄玻璃の鏡@東方project(残り1回)、クロウカード×3(『甘』『火』『地』)
スケッチブック、城戸丈の首輪、イエローの服(泥だらけ) 、リルルのICチップ、ベルフラウの帽子
[思考]:……
第一行動方針:ヴィクトリアについていく。
第ニ行動方針:ベルフラウがどうなったか知りたい。
第三行動方針:グリーンやブルーと合流し、このゲームを破る方法を考える。
第四行動方針:丈の友人と合流し伝言を伝え、協力を仰ぐ。
基本行動方針:絶対にゲームに乗らない。生きてマサラに帰る。
[備考]:
トリエラ(外見)を「積極的なマーダー」だと認識しました。
トリエラ(名前)を「ククリやリルルの仲間で、良い人)と認識しました。
詳細名簿で上記トリエラの情報が結びつきました。
ネスからレッドの仇が「白い女の子」だと聞かされました。
レッドの仇に対しどういう態度を取るべきか、まだ考えが定まっていません。
ベルフラウの言葉と今の状況から、雛苺一行を危険な存在だと見なしています。
首輪内の生物の活動状態を把握可能
【野原ひまわり@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康。しんのすけの死を信じていない、睡眠中
[装備]:ガードグラブ@SW
[道具]:ピンクの貝がら、基本支給品、生乾きの服
[服装]:海鳴温泉の浴衣(お子様用サイズ)
[思考]:……
第一行動方針:(ヴィクトリアが気に入らない)
第一行動方針:(おにいさん(グリーン)を探したい。)
第二行動方針:(おねえさん(ククリ)の探している人を見つけてあげたい)
基本行動方針:(おうちに帰る)
[状態]:健康。しんのすけの死を信じていない、睡眠中
[装備]:ガードグラブ@SW
[道具]:ピンクの貝がら、基本支給品、生乾きの服
[服装]:海鳴温泉の浴衣(お子様用サイズ)
[思考]:……
第一行動方針:(ヴィクトリアが気に入らない)
第一行動方針:(おにいさん(グリーン)を探したい。)
第二行動方針:(おねえさん(ククリ)の探している人を見つけてあげたい)
基本行動方針:(おうちに帰る)
≪242:許されざる者(前編) | 時系列順に読む | 244:ノーザンクロス≫ |
≪242:許されざる者(前編) | 投下順に読む | 244:ノーザンクロス≫ |
≪230:ロボットは電気鼠の夢を見るか? | ひまわりの登場SSを読む | 255:月の下で≫ |
≪230:ロボットは電気鼠の夢を見るか? | イエローの登場SSを読む | 255:月の下で≫ |
≪230:ロボットは電気鼠の夢を見るか? | ヴィクトリアの登場SSを読む | 255:月の下で≫ |