(投稿者:フェイ)
True Topic Times。
掲げられた看板のついたビルの事務所、リフィル・メティスは誰かを探すように周囲を見渡した後、その姿が見えないことに首を傾げる。
「編集長。彼は?」
「あ?」
眼を通していた資料から顔を上げた男性は、『彼』のデスクをみてその姿がないことを確認する。
しばらく考え込む様子の編集長を見てリフィルは軽くため息をつくと、周りに誰か知っているものがいないかを聞くように見渡す。
「亡命野郎ならなんか情報が入ったとかで見に行ったぜ。そーとーヤバイ特ダネらしいけどな……っ痛ぇ!」
「そういうこと言わない」
陰口を叩いた一人の頭に拳骨を降らす。
「だって事実だろうよ。軍を追い出されて帝国から逃げてきたんだろ?」
「それはそうだけど…」
「諦めろよリフィル。そもそもアイツ、昔の女だかなんだか知らねぇけど後生大事に女物の日記帳持ち歩いてよ。そんな奴より俺と…」
二発目の拳骨が振り下ろされた。
的確に同じ場所を打ち抜いた拳骨に悶絶した相手を放置して、リフィルは自分のデスクへと座る。
「……無茶をしていなければいいけど。カイル」
木漏れ日に照らされながらも、薄暗い森の中を慎重に歩く。
足元を一歩一歩確認し進んでいく途中、前方へと森が開けている様子が見えた。
「……! こいつは、割と掘り出し物だったかもな…」
バッグからカメラを取り出し、望遠レンズを装着。
今まで以上に慎重に、一歩一歩森の出口へと近づいていき、首にかけた双眼鏡を覗き込む。
木々の合間から見えたのは、森の中にあるには不自然な滑走路。
滑走路へと続く屋の扉が開くのを見て、カイル・シュテンバッフェはカメラを構えた。
「………」
特徴的な衣装を着た女――首周りには毛皮でつくられたファーを着けた特徴的な服だ。
その背中から翼が生えた。
「!!」
走り出すその姿へとピントを合わせて連続でシャッターを切る。
撮られ続ける中、その女は走りながら大きく翼を広げ、地を蹴った。
重力のしがらみから解き放たれた女はそのまま空中へと浮き上がり、羽ばたいていく。
そこまで一連の動作をしっかりとフィルムに収めるとカメラを下げて額に浮いた汗を拭う。
「…黒旗の連中も緩くなったもんだな。
特定メードじゃないか」
使い切ったフィルムを弾き仕舞いこみ、改めて新しいフィルムを入れ直す。
「Mons'の基地、かな。森の奥深くになんてまるで悪役の秘密基地だ…。…これは、普通に出すよりアルトメリアの軍に垂れ込んだほうがよさそうだけど…」
カメラの準備を終えると、体勢を整え立ち上がる。
ともあれ、この写真を持ち帰って現像できなければなんにもならない。
そう自分に言い聞かせ、カイルは立ち上がった。
―――だった。
ヒルデガルドは戦場において戦死。
カイルは教育担当官による教育失敗とし、その責を問われる形で軍を、国を追われた。
何が悪かったのか、どれが悪かったのか、誰が悪かったのか。
わからないが、事実としてカイルはヒルデガルドを失ったのだった。
祖国を追われたカイルは海を渡り、アルトメリア大陸へと亡命を果たした。
仕事も当てもなく、しかしやりたいことは決まっていた。
もう、軍で戦うことはいやだった。
真実を求めること。
歪められた報道ではなく、真実を伝える報道を。
アルトメリアならそれができる―――そう信じ、彼は銃に代わりペンを取った。
「…」
今まで以上に慎重に前へ。
こんな所に立てた以上、隠す理由が何かしらあるはず。
それを発見した自分は―――。
「…ぞっとしないな」
自分の想像に鳥肌を立て軽く身震いをして苦笑い。
何気なく――念のため、逃げ道もみておこうと――退路を確認しようとして振り返った。
「え?」
「あ……」
大鎌を振りかぶっている女の子と目が合った。
可愛らしい帽子とリボンをつけた栗色の髪の女の子――どこか気弱そうに見えるが、手に持ってるのは明らかに禍々しい大鎌。
引きつった顔で笑顔を見せてみると、女の子も弱弱しく笑ってくれた。
「はは…」
「え、えへへ……。……ご、ごめんなさい…っ」
咄嗟に下げたカイルの頭の上を、髪の毛二、三本巻き込んだ大鎌が通過していった。
「っと、わ、わ…!!」
バランスを崩しながらも、なんとか持ち前の平衡感覚を駆使して反転、女の子に背を向けて山道を走り始める。
「あっ、……ま、待ってください……!」
「無茶いうな!」
あれだけの大鎌を振り回すところから見ても、あの女の子はメード―――しかも、命を狙われたところからおそらく黒旗だ。
皇室親衛隊としてメードに深く関わってきたカイルにはよくわかる。
――人間は、メードには勝てない…!
「ま、待ってくださいって……言って……!」
「!」
悪寒、咄嗟に右に飛び転がる。
今まで自分が立っていた位置が一直線に切り裂かれ、先にあった木が切り倒された。
「お、おおおおおっ……!!」
今度ばかりは姿勢を整えることもできず森の中、坂になった場所を転がり落ちていく。
遠くからさっきの女の子の声が聞こえたが。
とりあえず、逃げることにした。
「あっ……逃げられちゃった……」
坂を転がり落ちていく男性を見送りながら鎌を持ったメード――
ケイトはどこかほっとしたように呟く。
「…でもいいよね……逃げてくれれば……殺さなくてすむし………」
「良くないんだよ馬鹿たれ。本当に役立たずだね」
頭上からの声にケイトはびくり、と反応する。
見上げればそこには、険しい顔をしたもう一人の
空戦メードの姿。
「マ、
マーヴ、先輩……」
「逃げられちゃまずいから殺すんだ。わかってるのかねこの特定メードは」
ケイトの隣に降り立ったマーヴはクロスボウの銃尻でゴツン、とケイトの頭を叩く。
「あ痛っ……ご、ごめんなさい…でももうアレは移送しちゃうんだから今さら見つかっても……あうっ、ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ぶ、打たないでっ…」
「余計なこと考えてんじゃないよ。いくら蛻の殻にしたって押さえられちゃいけないモンだってあるんだからね」
「………わ、わかりました…」
「とっとと追いかけるよ。無駄にドンパチやっていらん連中にかぎつけられる前にね」
マーヴは背からその翼を広げ、枝に引っかからないように空へとあがる。
ケイトもまた背中の翼を羽ばたかせ、大きな翼を盾にして枝を折りながら、空へと舞い上がった。
同時刻、上空。
ザハーラからの長旅をようやく終えようとするCB-18。
その数少ない窓からアルトメリアの大地を見下ろす
アリューシャは、隣で仮眠を取ろうとする
ティムシーも気にせずはしゃいでいた。
「ふふっ、久しぶりねアルトメリアも。ザハーラは熱くて仕方ないもの」
「――――……。アリューシャ、静かに…」
「せんせもそう思うでしょ? ほら、あたしこんなとこまで日に焼けちゃった」
アイマスクをつけて眠ろうとするティムシーの膝に乗って覆いかぶさり、自分の肩紐をずらしてみせる。
ティムシーがアイマスクを外して見ると、目の前のアリューシャの小柄な身体、健康的な小麦色に焼けた肌に、一筋の白い線が走っている。
「―――――はしたない」
「だってずるいじゃない。せんせだけ日焼け止め塗ってるんだもの」
「―――――戦闘は準備から」
「教えてくれたっていいのに」
「―――――何事も経験」
「意地悪」
アリューシャは退屈そうにティムシーの膝の上から降りて、再び窓へと張り付く。
ようやく解放されたティムシーは改めてアイマスクを付け直し、眼を閉じる。
アリューシャも言ったが久しぶりのアルトメリア本土だ。
パティは元気だろうか、ラウンドスターズの皆はしっかりと戦線を維持してくれているだろうか。
そんなことを考えれば楽しみで、尻尾髪が右へ左へと揺れ動く。
「………。せんせ」
そういえばお土産を忘れていた――仕方ない、今度は忘れないようにしよう。
ザハーラに残ったメイにも今度は差し入れを持っていこう――何が良いだろう?
砂漠の砂を浴び続けたバイパー2の整備のために、クロッセルのEARTH本部にも行きたい――教官に会えれば尚良い。
そっちにもお土産は忘れてはならない。
アルトメリア産のチョコレート――いや、ザハーラでは即座に溶けてしまうから駄目か。
もっと――そうか、ハンバーガーやホットドッグか。
それらならば戦闘食としても有効に使え―――マテ、土産としてハンバーガーやホットドッグはどうなんだ。
そうなればやはりジェリービーンズとかの方がよいのだろうか。
しかしそれだと―――。
「せんせ!」
揺さぶられてようやく現実に戻る。
アイマスクを取って声の方向を見ると、アリューシャが窓に張り付いたまま外――下を眺めている。
その表情を見て、すぐさまティムシーは自らも窓の外を見る。
「あそこ。下の森の辺り」
言われたとおり視線をそちらへと向ける。
一見、何の変哲もない森―――その木々の合間に、光の翼が見えた。
「――!」
「あれ、イェーガーや
ローザシアじゃないでしょ?」
「―――」
短く頷くと、すぐさまブリッジへと通信を繋げて告げる。
「―――直下にてメードの戦闘を確認。空挺許可を」
『――了解、後で別便をよこすよ。送り迎え役として、アフターケアまでしないとな』
「―――感謝」
通信を切って振り向くと、既に降下装備をつけたアリューシャが待っていた。
自らも降下装備をつけると、ハッチの近くまでいき、ブリッジへと合図を送る。
「――――Get ready?」
「おっけ」
ハッチが開く。
「――――GO!」
最終更新:2010年06月16日 00:02