極地震災 Polar Disaster |
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概要 |
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| 正式名称: 東部及び首都圏直撃害獣災害 |
| 年月日: 203年11月5日 - 203年11月23日 |
| 被害(村評議会): アバルベ区北部、クモークツ中枢区全域、ナテス区南東部 |
| 被害(アークランド軍事統制国): ライシムア経済特区西部 |
| 結果: 村評議会の首都機能麻痺、対策組織「G.S.GCO」設立、北漠評議会による完全な極地統括開始 |
| 交戦勢力 |
| 直接被害国 |
襲来害獣 |
| 村評議会 |
未確認熱源体アバルベ個体 |
| アークランド軍事統制国 |
203年11月。静まり返ったアバルベ区「エジェレディク海岸」。
漁師たちは、打ち上げられたその異様な物体を見て息を呑む。
全長およそ70m、胴体は金属光沢を放ち、光の加減で銀色に輝く。
無数の筋肉繊維のような構造が絡まり合い、まるで生命の痕跡を持つ機械のようでもある。
打ち寄せる波に揺れるたびに、光沢の表面が反射し、まばゆい光の帯を作り出す。
評議会政府は、混乱の収束や事態を冷静に見せかけるために「未知の海洋生物の腐乱死体」と、それの情報を濁して発表した。
しかし、夜が更けるにつれ状況は変化する。
死体の内部から不自然な熱が発生し、氷点下の海水の中で水蒸気が立ち上り、周囲の空気が異様に温かくなる。
漁港付近の温度計は見る間に上昇する。もう冬も近いというのに、翌朝には40度を超えていた。
海面は泡立ち、漁船の木製甲板に焦げたような匂いが漂う。
何事かと警備隊が現場に急行した瞬間、死骸は全身を震わせるように膨張した。
轟音とともに外骨格が光を反射し、氷と海水を瞬時に蒸発させる。
死体は完全に「生き返った」ように、ゆっくりと立ち上がった...
死骸は自己修復能力を示した。
腐敗したはずの部分から銀色の外骨格が新たに形成され、筋肉組織は光沢のある線維状に張り巡らされていく。
まさに息を吹き返したと言えるその巨大な死骸は、遅々と立ち上がった。
死骸は海岸線を離れ、アバルベ区から首都「クモークツ中枢区」へ向けて進行を開始。
速度は時速3km程度と一見緩慢に見えるが、その体積と放射熱を考えれば、街や港湾に与える被害は甚大である。
警備隊は「未確認熱源体アバルベ個体」として上層部に報告。
評議会政府は緊急会議を招集した。
海軍部は即時攻撃を要求するが、政府本庁からは「海軍の情報に完全な信頼を置けない」と却下され、議論は平行線をたどる。
結局、足の遅さを理由に「国際的観察期間」と称して静観を決定する。
その間にも、評議会陸軍観測部隊や株式会社「氷河」からの調査団により構成された観測班が、熱源の解析を試みる。
観測班から送られてきたデータには、科学者たちも震撼した。
‘‘活動再開から六時間で、体温は推定で約1200度を超過。接触する地面や海水を瞬時に蒸発させ、移動経路を跡形もなく焼き尽くしている...’’
初動は完全に出遅れた。
アバルベ個体は予想以上の速度で進行し、活動開始から約十時間後、何と首都前哨要塞「サデーイ」の防衛圏内にまで達したのだ。
夜明け前の薄明かりの中、遠くで光る巨体の輪郭は、まるで鋼鉄の山が揺らめくようであった。
サデーイ要塞は未曾有の事態に対応できず、通信・防衛設備は瞬時に沈黙。
報告の途絶により、クモークツ中枢区では首都機能が次々に麻痺していく。
道路や地下鉄は高熱により変形し、建物は軋む音を立てて崩壊。
明け方になる襲撃は市民の避難もままならず、灼熱の街を逃げ惑うしかなかった。
政府はあるだけの陸海空戦力を総動員し、アバルベ個体の調査協力中の氷河、支援国として近辺に駐留していたネストニアとハニカムからなる「極地四政府連合軍」を急遽結成、アバルベ個体の迎撃作戦を決行した。
初手、攻撃を始めたのは、飛行偵察中の評議会遠洋艦隊重巡洋艦「ホヴィック・評議会改装型」。
側面の170mm砲から何十発といえる誘導メイスが射出され、打撃を与える。
そこに、デブリーティ級二隻と旗艦型塹壕戦艦「ド・ヴァシィ・スペンクラ」による洋上からの誘導ファイアチャージ攻撃も続き、さらにアバルベ個体を追い詰めていく。
第二次攻撃としてネストニア海軍空母機動部隊による爆撃が加えられ、さらに氷河の24式機動陸上戦闘機による155mm榴弾砲が火を噴く。
それ畳みかけるようにハニカム地上軍の戦車部隊が砲撃支援を開始した。
また、評議会海軍の即応潜航艦「ワガタ」及び「ステラチャ」も、アバルベ個体へ飛び掛かる。
砲の斉射、航空攻撃、ワガタの肉弾戦、ステラチャや24式機動陸上戦闘機の冷却ミサイル攻撃が重なり、アバルベ個体に直撃した...
戦場と化したクモークツ中枢区。連合軍が一斉に攻撃を仕掛ける。
多種多様な兵器を使用した総攻撃に、アバルベ個体は撃退できた...と思われた。
しかし、あろうことか全ての攻撃が無効化される。
想定外なことにアバルベ個体の外皮は、衝撃と損傷に応じて瞬時に結晶化・再構築され、どの攻撃も意味をなさなかった。
さらに代謝熱は膨大で、周囲の気温は急上昇。
投入された兵力は、ほとんどが熱にやられ壊滅、その上首都全域の転送用エンドポータルが蒸発し、通信網は完全に遮断される。
逃げ場を失った市民らは、熱と煙に包まれた首都の中心で、沈黙したまま地面に伏すしかなかった。
評議会政府は、首都機能の完全喪失を宣言。
軍や行政の司令系統は断絶し、指揮系統の混乱がさらに被害を拡大させる。
即時移動やオーバーワールドへの転送も、ポータルの蒸発により実質不可能となった。
都市内の空気は、焦げた鉄と焼けたコンクリートの匂いに支配される。
地表ではアスファルトが膨張し、車両や建物が軋みながら崩れる。
灼熱の蒸気により、兵士たちの防護服は融解し始め、機材も次々に破損する。
観測班の報告によると、アバルベ個体の代謝熱だけで都市中心部を溶かす熱量は、一般的な核兵器に匹敵する規模だという。
さらに、外皮の再生速度は攻撃を受けるごとに加速しており、これまでの兵器では追随不可能と判明。
政府と軍の司令部では、静かなる絶望が広がる。
首都防衛は失敗、避難民は都市内に取り残され、制御不能な熱源体は中心街を侵食し続ける。
現場はもはや戦場ではなく、「灼熱の迷宮」と化していた。
政府と評議会が意味するのはもはや、「不十分に終わった極地国家化」ということのみである。
クモークツ陥落から五時間後。
かつて栄えた中枢区も、もはや地図上に存在しない。
気象観測衛星が捉えた映像には、都市の中心から半径15kmに及ぶ熱源が記録されていた。
赤外線の映像は白く飽和し、地表温度はおよそ1800度。
建造物、道路、橋梁...すべてが形を失い、鉄骨の影だけが地表に焼きついている。
奇跡的にも政府要人らはポータル蒸発前に、クモークツ中枢区より北部に位置する「ノスリオ区」への非難が完了済みだった。
同区からはシサーイ指導会長が緊急声明を発表し、非常事態の発令や臨時首都をノスリオ区へと定めることを宣言。
それに加え、少なからずアバルベ個体の被害を受けた氷河、ネストニア、ハニカム、アークランド、
国外支援国としての協力の意向を示したモスクワ、オーストリア、
そして最も甚大な損害を被った村評議会。
これら六政府による対アバルベ個体対策機構「G.S.GCO(Giant creatures Six-nation government countermeasure organization)」が設立され、本格的対処に向けての前向きな動きが、新たに始まった。
だが、依然として進行し続けるアバルベ個体を前に、深い混乱は収まらなかった。
モスクワ派遣官を中心とした一部の構成メンバーは、最も効果的と推測され、即時実行できる「熱源体を中心とした局所核攻撃の実施」を主張。
他の派閥は「それは二次災害を招き、極地そのものの壊滅につながる」と反論し、議論は紛糾した。
誰も彼も最終決定を下せないまま、時間だけが過ぎていく。
‘‘諸外国の政府要人さえも巻き込んだ意思決定が、こんなにも遅いとはな...’’
冷却装備に身を包んだ陸軍司令部の将校が、熱波で歪むモニターを見つめながら吐き捨てる。
映像には、アバルベ個体が中央大通りを進行し、
半溶融したビル群の中を、まるで目的地を知っているかのように直進していた。
体表からは常時蒸気と火花が吹き上がり、歩行のたびに地表が赤く光る。
抵抗する装備も意味をなさず、まるで地面そのものが生物の体内に取り込まれていくかのようだった。
各国首脳は、残存する軍と民間研究機関に「アバルベ個体の熱源中枢構造の解析」を指示。
しかし、衛星通信すら乱れており、送られてくるデータは断片的だった。
臨時首都ノスリオ区。
防衛庁地下施設にて、緊急合同会議が開かれる。
しかし、議題の中心は「対策」ではなく、「責任の所在」だった。
‘‘なぜ初動で攻撃命令を出さなかった?’’
‘‘観察期間の判断は本庁決定だ!’’
‘‘違う、海軍が情報を誇張したせいだ!’’
‘‘そんな理屈が通るか!’’
罵声と書類が飛び交い、舞い、会議は収拾不能。
阿鼻叫喚の外では避難民が列をなし、行政区の通信網は過負荷で停止している。
一方、支援国からは「大量破壊兵器による殲滅」を幾度も再提案され、国際圧力が強まる。
だが、国内では別の意見が台頭する。
北漠評議会...
かねて評議会政府より極地統括を委任されていた有力評議会が、政府を批判する声明を発表した。
‘‘政府の怠慢が、極地全域を焼き払った。’’
‘‘我々はこれ以上、政治の判断に従うつもりはない。’’
それは事実上の権限奪取宣言だった。
数日後、北漠は残存する装備と人員を接収し、「暫定防護本営公儀府」を設立。
軍の一部と科学者集団がこれに合流し、ここに事実上の軍政が成立した。
評議会政府はこれを「クーデター」と非難したが、すでに国民の支持は失われていた。
人々は、無能な政治よりも、行動する軍を望んでいる。
その間も、アバルベ個体は活動を続けていた。
首都を焼き尽くしたのち、一度海中に沈下。
熱源観測では活動停止と判断されたが、三日後。
あろうことか、ノスリオ区南方の湾岸で再び確認されたのである。
オーストリアより派遣された「オーストリア有志連絡調整班」が捉えた映像には、海面が沸騰し、海水が白煙を上げる様子が映っていた。
気温上昇により沿岸一帯の港湾構造物が崩壊、蒸気爆発が相次ぐ。
ノスリオ区に逃れた政府要人たちは、再び退避を余儀なくされた。
要人らはオーバーワールドへの亡命を決行。
だがオーバーワールドへの転送完了から三時間後、極地全域のエンドポータルが高熱により蒸発し、転送システムが完全停止。
極地領と評議会政府の交流は完全に断絶された...
ポータル機能停止の報を受けた科学者らは、こう語る。
‘‘アバルベ個体は、我々が思っているよりも「知的」だ。’’
‘‘攻撃に反応して適応し、熱を利用して環境そのものを再構築している。’’
‘‘もはや生物ではない、「自己進化する惑星機構」だ。’’
止まらないアバルベ個体の進行に対し、核攻撃を主張するモスクワや、極地領上の経済特区の保護に注力するアークランドが、「攻撃猶予期間」を設定する。
これは、アバルベ個体への水爆攻撃実行までのタイムリミット。他のG.S.GCO加盟国も、これを承認した。
この決定に暫定防護本営公儀府やG.S.GCO科学班は、不満を漏らす。
‘‘各国政府らは核攻撃による極地領への被害を軽視し過ぎている...’’
‘‘支援してくれるのはありがたいが、こればかりは信用が及ばないな...’’
「核攻撃実行を阻止し、なおかつアバルベ個体を打倒する」、そのような理念で暫定防護本営公儀府とG.S.GCO科学班は、残された資源を総動員し、「白環作戦」と称した作戦を決行する。
目的は単純。
...持てる装備で円陣を作って「代謝熱中枢」を冷却し、再生反応を停止させること。
クモークツ中枢区での戦闘で、氷河の部隊などが使用した冷却ミサイルの直撃後、アバルベ個体の動きが少し鈍くなったことから、冷却が最も効果的な手段だと判断されたためだ。
アバルベ個体の進行を妨害する、山岳地帯の連なったサンツリオ区で実行し、決着をつける。
評議会、氷河、ネストニア、ハニカムによる実行部隊「環状兵団」が結成され、各国の装備、未完成・非合法兵器群なども出し惜しみせず投入する。
深夜にかけて迎撃準備は着々と進み、ノスリオ湾の夜明け、白煙と波の轟音を背景にアバルベ個体の作戦開始地点への到達を待つ。
時刻は午前5時36分。オーストリア有志連絡調整班の開始地点到達の報を受け、作戦が発令された...
白環作戦 Operation White Rim |
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概要 |
| imageプラグインエラー : ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (NO_IMAGE.png) |
| 正式名称: 東部及び首都圏直撃害獣災害 |
| 年月日: 203年11月23日 |
| 被害(村評議会): 軍政サンツリオ区南東部 |
| 結果: ○○の勝利 |
| 交戦勢力 |
| G.S.GCO加盟国 |
襲来害獣 |
| 村評議会 |
未確認熱源体アバルベ個体 |
| 株式会社「氷河」 |
| ネストニア共和国連邦 |
| ハニカム社会主義共和国連邦 |
| アークランド軍事統制国 |
| G.S.GCO国外支援国 |
| モスクワ軍政国 |
| 大オーストリア帝国 |
先手を切ったのはネストニア。
事前にG.S.GCO内で一部分析済みだった、アバルベ個体の再生が薄い点を目掛けて、対地攻撃衛星「ウルサ・マヨル」による攻撃が開始された。
再生が薄いとはいえ、アバルベ個体にはこんなもの、意味を成さない。
この攻撃の本当の狙いは、次の攻撃のための隙をアバルベ個体に生み出させること。こちらからの攻撃が通らないのであれば、目標に対して絶え間ない衝撃を与えることで動きを完封してしまおうという魂胆だ。
ウルサ・マヨルによる第一波攻撃が終了したのち、すかさず氷河と評議会の部隊が向かう。
氷河からは駆逐艦「Iskristaller」、「氷晶」、軽巡洋艦「海氷」が、評議会からは「76.2mm砲搭載型Kt401-VC」、「55mm砲搭載型K550」、防空フリゲート「メシャーム」が投入され、再生に手こずっているアバルベ個体へ機雷・ミサイル・砲撃による統一性のある打撃が加えられる。
さらに「クモークツでの仕返しを」と言わんばかりに、氷晶所属、24式機動陸上戦闘機部隊による155mm砲の一斉射撃も下された。
アバルベ個体は代謝熱で応戦するも、余力は残っておらず沈黙。
力が復活しないうちにと、ネストニア海軍のバザルト級二隻、ザンベジ級五隻、ジェフィル級四隻と評議会海軍のジェスタ級二隻を加えた計13隻の大艦隊が出撃し、戦地にいた氷河の艦隊と合流、円陣を組み冷却準備を開始する。
しかし、アバルベ個体はまだ懲りない。
再生機能の一部を停止して代謝熱放出のみに注力し、集結した艦隊や航空部隊を麻痺させた。
ウルサ・マヨルによる二発目の攻撃も、まだ準備中で、発射には到底移せない。
作戦の第一プランは失敗に終わる。
作戦考案部も無能ではない。
第一プランの失敗は目に見えていた。
ここから本番に移す。
司令部から第二プランの実行が発令され、陸上部隊が動き出した。
その頃、アバルベ個体はノスリオ湾に上陸し、臨時首都への進行ルートを固めている。
周囲を溶かしながら歩み続けるアバルベ個体を、サンツリオの山岳地帯まで誘導するのは、評議会陸軍航空隊のAAF-07。
新型ミサイルの試験のため、三機程度が極地に駐留していたのだ。
評議会軍には珍しく、装備も人員も一流なのが陸軍航空隊。
ここでも卓越した技術力を発揮し、見事サンツリオ区までの誘導を成功させた。
山岳地帯に到達したアバルベ個体を迎え撃つのはハニカム地上軍である。
現在の政権にたどり着くまで紆余曲折ありながら、高度な技術を必要とするAMUすら柔軟に運用する、優秀な練度を誇る陸軍だ。
評議会陸軍航空隊のAAF-07に代わり、顔を出したのはハニカム地上軍のB-083「ツァーリコア」の12機編隊。
B-083編隊は特製の冷却弾を用いた、代謝熱の放出抑制攻撃を開始する。
最初は動きを止めなかったアバルベ個体も、冷却には耐えられず、鈍重な動きに変わっていく。
アバルベ個体は反撃として足を使った打撃攻撃を仕掛けたが、冷却により精力を奪い取られ、不発に終わった。
ハニカム地上軍の攻撃はまだ終わらない。
代謝機能をほぼ失ったことを好機と取り、ジョニー・シャルル大尉率いるRBX-79「ヤーグース」の部隊が追撃を加える。
ホット・ソードによる大胆かつ豪快な近接攻撃が、大尉の指揮の下、続けられる。
これほどの急激な温度変化には流石のアバルベ個体も耐えられないと見ての攻撃だ。
これらの絶え間ない攻撃を受け、アバルベ個体の動きはついに停止した...
ついに沈黙したアバルベ個体。
アバルベ個体の「代謝熱中枢」の麻痺を成功させるべく、高度9000mより高速冷却弾装備を装備した、評議会陸軍航空隊AAF-07とネストニア航空宇宙軍SA'K03.87「リサナウト」の編隊が突入した。
何発もの冷却弾が雨のように、アバルベ個体へ降り注ぐ。
冷却弾の直撃後、アバルベ個体の熱量が急激に低下...
攻撃は成功したかに見えた。
しかし観測30秒後、体表から金属結晶が膨張、まるで「殻を脱ぐ」かのように全身を包み始める。
‘‘...外皮の更新が確認されました!’’
‘‘奴は攻撃を「素材」として利用している!これは適応そのものだ!’’
有志連絡調整班は見た。
観測地点の映像にも、アバルベ個体が雷鳴のような咆哮とともに立ち上がる姿が映っている。
空気が振動し、電磁嵐が巻き起こる。
編隊機群の通信が次々と途絶。
評議会陸軍航空隊機の最後の通信が記録されている。
‘‘...雲層が光ってる...違う、あれは雲じゃない、上昇して...’’
通信途絶。
数分後、編隊機は一部を除いて全て墜落し、帰還しなかった。
手段がなくなった。
ネストニアや氷河の陸上部隊も到着したが、代謝熱の圏内に入っている。攻撃も効果を見せていない。
もう、撃退は見込めないだろう...
司令部が極地放棄も考えたその矢先、海の方から轟音が鳴り響く。
それと同時に、砲弾がアバルベ個体に向けて降り注いだ。
...通信回線に新たな声が。
‘‘こちらネストニア共和国連邦海軍...戦艦「カプスタットII」、現在座標へ突入する!’’
‘‘同じく空母「アンジェレン」、当方も白環作戦に統合参加する。’’
‘‘同じく大型電磁投射砲洋上運用ユニット「ユグログレス」。’’
‘‘こちらハニカム海兵隊、戦艦「コッカーブ」。支援に準ずる。’’
‘‘遅れて申し訳ない。我ら氷海所属、戦艦「グラニッソ」及び「グラニーゾ」。’’
‘‘こちらも同じく氷海所属、戦艦「アイス」、「氷」。’’
何と氷河、ネストニア、ハニカムの艦隊が、危機に際し本国から駆け付けたのだ。
精密な動きを見せる誘導冷却弾が、何発...何十発...と、アバルベ個体に直撃。
その上、艦載機による冷却弾の爆撃が着々と進む。
‘‘適応を始めたアバルベ個体を...封じ込めている...’’
司令部は驚きを隠せない。
代謝熱も充満しているというのに、艦隊の攻撃は止まることを知らないのだ。
今までよりもはるかに効果のある攻撃。
アバルベ個体の表皮は、目視で確認できるほど凍結し始めた。
続く攻撃。
アバルベ個体の体は、約60パーセント凍結している。
‘‘発射準備完了しました!’’
‘‘対地攻撃開始します!’’
ウルサ・マヨルから伝令。二回目の対地攻撃が始まった。
攻撃は、アバルベ個体の凍結した左腕を貫通。
周囲の表皮もそぎ落とした。
‘‘これで終わる...’’
しかし、アバルベ個体はまだ動いた。
代謝熱が再び放出され、凍結した部分が溶け出す...
何と懲りない奴なのだろうか。
左腕の再生も時間の問題かもしれない。
皆が息をのむ状況。
そこへ...
‘‘こちらラーヴェッジ級小隊、白環作戦指令を受領。貴隊の作戦に同調する。’’
山を削りながら、圧倒的な速度でアバルベ個体に突進し始めたのは、ハニカム地上軍のラーヴェッジ級"多脚陸上戦艦"三隻。
対アバルベ個体用として急ピッチで開発された、超大型の戦略兵器である。
その巨体はアバルベ個体とも張り合えるほど。
それが三つ、時速40kmもの速度で迫ってくる。
やがて、ネームシップである「ラーヴェッジ」の衝角がアバルベ個体の腹部を直撃。
続く二隻目、三隻目も別方向からアバルベ個体を突き刺した。
アバルベ個体を圧迫していく。足はつぶれ、表皮が飛び散った。
だが、奴はまだもがく。
力を振り絞って、代謝熱放出の準備を始めた。
流石のラーヴェッジ級も、至近距離の代謝熱には耐えられない。
三隻は勢いを上げるも、再生の始まったアバルベ個体への効果は薄い。
‘‘三発目、発射いけます!’’
司令部に響いたその声は、ウルサ・マヨルから。
「復活しないうちに攻撃を」と、装填をかなり早めることに成功したのだ。
三回目の対地攻撃が、実行された。
轟音が白い世界を引き裂く。
ウルサ・マヨルの対地攻撃は、アバルベ個体の頭上に、外すことなくしっかりと命中した。
その一撃が、ようやくアバルベ個体の核を粉砕。
巨体が光を失い、静かに崩れ落ちる。
ついに終わった。
二週間も続き、極地を恐怖に落とし込んだこの震災は、ついに終わった。
しかし、状況は深刻である。
評議会の人口の20パーセントが死亡または行方不明、極地領に経済特区を置くアークランドも、相応の被害を受けた。
G.S.GCO諸国にも被害が及び、多数の死傷者を出している。
数々の都市は崩壊し、軍の装備もほとんどを使い果たした。
軍事的にも、国際的にも、守る壁がなくなり、全てが無に帰された極地領を、今後どう運営していくのか。
それこそが、この震災の本当の課題である。
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最終更新:2025年11月02日 17:47