21世紀深夜アニメバトルロワイアル@ウィキ

絶望と、希望と

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絶望と、希望と ◆x/rO98BbgY



遠見真矢は、安全の為の柵すら付いていない、中世風の塔の屋上で狙撃銃に備え付けられたスコープを覗きこんでいた。
先ほどまでここに居た武藤カズキは、既に遠景に見える森の中へと姿を消し、今ここにいるのは彼女一人だ。
冷たい石畳の上に腹這いになり、高倍率の狙撃用スコープの他にナイトスコープまで備えたワルサーWA2000のストックを抱く。
狙撃銃には珍しいブルパップ方式のこの銃は、銃身こそコンパクトに設計されているが、フル装備のその重量は十キロにもなるだろう。
その重たい銃を床に設置し、二脚架と銃底の高低差を上手く調節して、真矢は狙撃の姿勢を保っている。

ファフナー搭乗員だけが装着できるシナジェティック・スーツの姿勢補助によって、真矢の肉体は長時間の射撃姿勢にも耐えられる。
AMTS(オート・メディカル・トリートメント・システム)」が組み込まれているこのスーツは、電気治療によって筋肉の委縮なども
防いでくれる優れモノだ。
とはいえ、真矢の身体は人間の物。
決してファフナーのような、機械の身体になったわけではない。
人間の肉体ならではの、不都合な面からは決して自由にはなれないのだ。

そう、具体的に言うと真矢は今、激しい尿意に襲われていた。

何せ、夜間の冷たい風が吹きすさぶ、高い塔の屋上である。
加えて真矢が身に纏ったシナジェティック・スーツは、ファフナーとのコネクトのため、上腕部や、脇腹から太腿にかけての
素肌が剥き出しとなっている、露出度の高いデザインだ。
そんな格好で、冷たい床の上に寝そべっているのだから、お腹が冷えない筈がなかった。

だが、どうしろと言うのだろう。
この塔の内部に、用が足せる個室のトイレなどあるはずもない。
さりとて、この高い塔から降りて、市街地へと降り立つのは恐怖心がある。
真矢のアドバンテージは、あくまでもこの絶好の狙撃地点と、狙撃に特化した装備に寄る物だ。
地上に降りて、遭遇戦などという事になったら、こんなに重たい銃は使える物ではない。

「ううー」

時間の経過とともに、段々深刻になってくる感覚に、思わず情けない声が出る。
最終手段はある。
このシナジェティック・スーツは戦闘用のスーツだ。
真矢にはまだ経験はないが、当然長時間に及ぶ戦闘中に発生するであろう、あれやこれの生理的欲求にも対応しているはずだった。
つまり、このまま――――しても。
問題はない筈なのである。
あくまでも、機能的には。という話ではあるが。

この先、生きのこる上での戦術的判断。
敵味方を効率よく索敵する為には、一瞬たりともこの場を放棄するべきではない。

だが、真矢は乙女である。
ベテランの狙撃兵の如き判断を下すには、とてつもない抵抗があった。
真矢は、内腿を擦り付けるようにしながら、どうするべきかを考える。

しかし、そんな誰にも言えない葛藤を、真矢が繰り広げている間にも状況は動いた。
スコープの中の緑色の世界に、人影が映ったのだ。

葛藤を呑みこみ、ニーベルングの手袋を嵌める。
一瞬にして真矢の精神が切り替わり、肉体の変調を忘れた。
レティクルの中心に真矢が見た人物は、中性的な印象の若い女性である。

(翔子でも、一騎くんでも、カズキくんでもない。……だったら、――排除開始――)

彼我の距離は、およそ千五百メートルほど。
人生二度目の狙撃であったが、初体験であった先ほどの飛翔体への狙撃に比べれば、さほど難しい条件ではなかった。

狙撃とは、ただスコープの十字線に合わせてトリガーを引けばいいという物ではない。
それだけで当たる可能性があるのは、標的が照準器の調整地点――ゼロイン距離に静止している場合だけである。
千五百メートルという距離は、この照準器に設定されたゼロイン距離よりもはるかに長く、照準通りに撃ってしまえばその弾丸は地面を穿つだけに終わるだろう。
加えて、標的が動いているのであれば、弾丸到着までの時間分の動きを先読みしなければならない。
更には、重力による影響。風速による影響。地形の影響。空気の湿度。銃や弾丸の特性。地球の自転によるコリオリの力。
スーパーコンピューターですら処理仕切れないほど、考慮すべき要因は山積みだ。

だが。


       ――その全ての要因を、遠見真矢の天才性は凌駕し尽くし


                       ――今、まさに必殺の魔弾が放たれようとしていた。







発電所を出たカナンは、研究所へと急ぐ。
先ほどまでは、周囲を薄ぼんやりと照らしていた市街地のネオンが一斉に消え、僅かに残った街灯の明かりのみがカナンの行く先を照らしている。
発電所に残してきた、マスクの男が送電を止めたのだろう。

それを見て、カナンは果たしてこれで、本当に良かったのだろうかと疑念を抱く。
誰にでも止められる発電施設の送電を止めた所で、本当に主催者たちの会場の運営に支障が出るかどうかはわからない。
だが、この暗闇は確実に、参加者たちに何らかの影響を生み出してしまうだろう。

自分のように、非文明圏の闇にも慣れたエージェントであれば、この闇の影響も最小限に抑えられるが、日本で生まれ育った
マリアはこの見知らぬ闇を、果たしてどう感じるのか。
不安に思ったり、恐怖に怯えていなければいいと、願うばかりだった。

別に、マスクの男に騙されたと思っている訳ではない。
あの時は、カナンもその計画に賛同したのだから。

ただ、あの上海の国際会議場でのテロ事件の際、爆撃を防ぐための作業に力を使いすぎたからだろうか。
今のカナンは、人の感情を色として見る事が出来る、共感覚の能力を失っていた。
原因はわからないし、今後能力が戻るかどうかもわからない。
だから、まるで目隠しをして歩いているかのように、自分の判断に自信が持てなくなっているのである。

「らしくない――かな?」

何をしても主催者の掌の上にいるかのような、心をざらつかせる不快感。
そのせいで、不安や焦燥、苛立ちが湧きあがってくるのを止められない。

“鉄の闘争代行人”との異名を取るカナンは、普段は任務に感情など持ち込まない。
だが今、こんなにも彼女が弱気になっているのは。
かつてシャムという光を失った時のように――マリアを失うのが、怖いからだ。

唯一無二の安堵を齎してくれるマリアの存在は、カナンにとっては再び得た光だった。
そのマリアが、あの「蛇」に狙われている事を知って以来、ずっとカナンは不安と戦っていた。
そこに来て、この殺し合いである。
しかも、参加者の中には、あのアルファルドが。
シャムを殺したアルファルドが居るという事も相まって、カナンの不安は最高潮に達している。

「あいつに、マリアを殺させたりなんてするものか……」

そんな物思いに耽りながら歩くカナンは、既に千五百メートルの彼方から、自分が照準に捉えられている事を察知出来ない。
共感覚の力を持っている頃であれば、その遠方から向けられた強い殺意は、蒼い光となって視認出来たであろう。
だが、風を切り裂き、飛来する.300ウィンチェスターマグナム弾。
その魔獣の唸り声の如き音を、他の感覚と連動させて迎え撃つ術を、カナンはついぞ思い出す事はなかった。


故に、その一秒の後には血の百合を咲かせた魔女のように、第二の魔弾の餌食となるのは必定の運命。

だが、その運命を――その場に飛び込んだ巨大な戦斧が、粉砕するかのように叩き切る。

「――ッ!?」

強力なエネルギー同士がぶつかり合い、硬質の音が響くのを聞いて、カナンはようやく自分が狙撃されている事を知る。
一体どこから現れたのか。
それを防いでくれたのは、いつの間にかカナンの傍に立っていた二メートルを優に超える巨体の大男だった。
手に持つのは、これまた巨大な斧であったが、この大男の手にかかっては普通のサイズにも見える。

「あなたは……」
「走れ! 狙われているぞ!」

大男――ヴィクターは、短く告げると再びその戦斧を振るう。
大地を削り取るかのような、豪快な旋風と共に二発目の弾丸が切り落とされる。
それを合図にしたかのように、カナンは短距離走のスプリンターのように走りだした。
後ろからは、ヴィクターが追走してくる。

なぜ、助けてくれたのか。
カナンの鋼色の瞳には、ヴィクターの持つ感情の色は読みとれない。
だが、そんな能力などなくとも、わかる事があった。
この男が持つ、限りない絶望。
それでも、その絶望に負けぬだけの、一筋の光が。

「このまま研究所まで走るぞ」
「――了解だ」

ヴィクターは、走る速度をあげると、カナンと並ぶ。
カナンの危機を救ったのは、ヴィクターの身についた習性のようなものだった。
いくら錬金術への恨みに狂おうとも、かつて人類の為に戦った戦士の理念は生きている。
ヴィクターは、錬金術とは無関係な人間を無意味に殺傷したりはしない。

絶望へと引き摺り込まれそうになっている希望と。
希望の光を信じたいと願う絶望と。

二人はこうして出会った。
これから先、二人を待つのが如何なる運命なのか。
それを知る者は、まだ誰もいない。

【一日目 B-7 研究所前 黎明】

【カナン@CANAAN】
[状態]:健康 
[装備]:レミントンデリンジャー@現実 弾数残り12発
     C4爆弾x8@現実
     麻婆豆腐の食券@Angel Beats! 
[道具]:基本支給品×1
[思考]
基本:マリアと生きて帰るためにやれる事をやる。
1:研究所の調査及び結果次第では爆破
2:マリアを探す
3:他の殺し屋や傭兵など一応説得を試みる。(マリア以外の民間人には話す気は殆どない)

【ヴィクター@武装連金】
[状態]:疲労(小)
[装備]:核鉄@武装連金
[道具]:基本支給品×1、確認済み支給品1~3(核鉄はありません)
[思考]
基本:絶望した!
1:ヴィクトリアの保護、および彼女に危害をなす可能性のある存在の抹殺
2:武藤カズキへの興味
※ 26話、ホムンクルスになった後での参戦。既にヴィクター化していません。
※ 核鉄は本人の心臓として一体化しています
※ 食人衝動の大きさは次話以降にお任せします



真矢は、スコープを信じられない面持ちで覗きこんでいた。
突然、視界に割って入った巨人が、千五百メートルの彼方から放った魔弾を切り払ったのである。
そして、まるでスコープ越しに真矢と視線を合わせるかのように、鋭い眼光を巨人は放つ。

「――ッ!?」

ニーベルング・システムによって、精神を変容させていなければ、情けない声を漏らしていたかもしれない。
それほどに、迫力ある眼差しであった。
その威を見て、真矢はこの場を引き払う事を決意する。
今一度、狙撃を行い追撃の意図をちらつかせながらも、真矢は重量を無視する鞄を取り寄せ、銃器と手袋を仕舞いこむ。

当てにするのは、先行して神社へと向かったはずのカズキである。
今から追うようにして行けば、戻ってくる彼と合流出来るだろう。
そうしたら、再び彼を『隠れ蓑』として拠点を手に入れるまで守ってもらう。
それが即興で考えた、真矢のプランだった。

それよりも、気になったのは自身の体調である。
尿意はまだ残っているのだが、心なしか先ほどよりも膀胱への圧迫感が少なくなっているような気がする。
恐怖で『引っ込んだ』のであればいいのだが、もしかすると少し漏らしてしまったのかも知れない。
真矢は、そうでない事を祈りつつ、足早に塔の屋上を後にした。

【一日目 B-6 塔 黎明】

【遠見真矢@蒼穹のファフナー】
[状態]:健康 尿意
[装備]:シナジェティック・スーツ@蒼穹のファフナー
[道具]:基本支給品×1、ワルサー WA2000(4/6)@GUNSLINGER GIRL、予備弾倉×2、ニーベルング・システム@蒼穹のファフナー
[思考]
基本:優勝し、アルヴィスの仲間達を全員蘇生する
1:この場を放棄し、カズキを追って神社へと向かう
2:逃げる途中で、トイレに行きたい。
3:知らない人間に会ったら、無力な少女のふりをする。
4:一人しか蘇生できなそうなら、翔子か一騎のどちらかを生き残らせて死んだ方を蘇生させる。



037:我が良き友よ 投下順に読む 039:メイドインヘブン
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010:元気なぼくらの元気なおもちゃ ヴィクター 052:熊が火を発見する
017:Behind The Mask カナン
015:鮫は地を這い、竜は天を撃つ 遠見真矢 000:[[]]

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