座敷童子の親心 ◆PuVQoZWfJc
彼女は思い出す。先程別れた少女の瞳を
夜の暗闇よりもなお昏い双眸、空洞のようなその目は自分が知っている非日常の住人たちの
誰とも違っていた。カナンのように「日常」を生きる目でもなければアルファルドのように行き場のない
気怠さを湛えた眼差しでもない。まるで別の誰かが彼女を通してものを見ているような、そんな目だった。
夜の暗闇よりもなお昏い双眸、空洞のようなその目は自分が知っている非日常の住人たちの
誰とも違っていた。カナンのように「日常」を生きる目でもなければアルファルドのように行き場のない
気怠さを湛えた眼差しでもない。まるで別の誰かが彼女を通してものを見ているような、そんな目だった。
少女はどう考えてもカナンたちの世界に属する人間だ。しかしカナン達とは決定的に違っていた。
だからこそ、彼女、大沢マリアは少女、アインを恐れた。
だからこそ、彼女、大沢マリアは少女、アインを恐れた。
騙されていたとか裏切られたという気持ちよりも意思そのものを持っていないかのようなあの時の無表情に
生き物としての拒否感の方が遥かに強かった、あの時アインは待っていろと言った、すぐ追いつくと。
生き物としての拒否感の方が遥かに強かった、あの時アインは待っていろと言った、すぐ追いつくと。
その言葉を信じてマリアは待っていた。アインがこちらを見つけ易いようにと消防署の真ん前で。
そして一向に来ない事に託つけて一応付け焼刃ではあったが「もしもの時の」備えもしておいた。
そして一向に来ない事に託つけて一応付け焼刃ではあったが「もしもの時の」備えもしておいた。
その時急に腹が鳴る。思えばここに連れて来られる前はどうしていただろうか。確か例によって自分の先輩
ジャーナリストにして命の恩人の御法川に付き合って取材旅行へと行くことが決まってその準備中だった気がする。
ジャーナリストにして命の恩人の御法川に付き合って取材旅行へと行くことが決まってその準備中だった気がする。
(もしあの時ミノさんに言われたとおり安静にしてたら、ここに呼ばれなかったかなあ)
そう考えて頭を振る。それではカナンだけここに呼ばれてしまう。それはダメだ、絶対に。
世界は目を開けて見ようと思えば、鮮やかで時に残酷なほど大きな現実の姿と共に見ることが出来る。
そう考えて頭を振る。それではカナンだけここに呼ばれてしまう。それはダメだ、絶対に。
世界は目を開けて見ようと思えば、鮮やかで時に残酷なほど大きな現実の姿と共に見ることが出来る。
それを教えてくれたのはカナンだ、自分だけ知らぬふりはできない。そしてもう一度気持ちを落ち着けて
アインの顔を思い出す。笑顔も不安そうな顔も確かに嘘は感じなかった。ならどうしてあの顔に恐怖したのか。
飾りだったとか、嘘を取り払ったとか、表情が抜け落ちたなんていうモノじゃない。驚くほど自然にあの顔を
していたのだ、顔つきが戻ったというには変化が早過ぎる。
アインの顔を思い出す。笑顔も不安そうな顔も確かに嘘は感じなかった。ならどうしてあの顔に恐怖したのか。
飾りだったとか、嘘を取り払ったとか、表情が抜け落ちたなんていうモノじゃない。驚くほど自然にあの顔を
していたのだ、顔つきが戻ったというには変化が早過ぎる。
どちらかと言えば悪夢に憔悴したような、いや違う、過酷な状態にある人がいい夢から醒めた時みたいな顔だ。
何故分かるのか、どこかで何度か見た表情だから。一体どこで、ここ数カ月ではない。もっと以前に、
もっと強く嫌悪していた気がする。どこか、どこかで。
何故分かるのか、どこかで何度か見た表情だから。一体どこで、ここ数カ月ではない。もっと以前に、
もっと強く嫌悪していた気がする。どこか、どこかで。
(あ、あの二人だ)
該当者は最も身近だった人物、自分の双子の妹、大沢ひとみと大沢賢治だった。
よりにもよって当てはまった人物が身内であることにマリアは得も言われぬ後ろめたさを覚える。
該当者は最も身近だった人物、自分の双子の妹、大沢ひとみと大沢賢治だった。
よりにもよって当てはまった人物が身内であることにマリアは得も言われぬ後ろめたさを覚える。
母がなくなって初めの頃は父がそうだった。上機嫌で起きて来て家の中を探し、一人減った家庭を再認識
した時、確かに似た顔をしていた。子供心にマリアは見ていられなかった。そして自分が跳ねっ返り出した頃
妹のひとみもまたあんな表情をしたことがあった。どこか嬉しそうな顔をして帰ってきたかと思えば、自分の
顔を見た途端に表情が消えていった。
した時、確かに似た顔をしていた。子供心にマリアは見ていられなかった。そして自分が跳ねっ返り出した頃
妹のひとみもまたあんな表情をしたことがあった。どこか嬉しそうな顔をして帰ってきたかと思えば、自分の
顔を見た途端に表情が消えていった。
結局理由は分からず仕舞い、いや、本当の所は「自分の顔を見たから」なのだろう。だがどうしてそうなるのかは
今一つ分かっていないし分からなくてもイイと思っていたし直すつもりもなかった。だが和解したことで有耶無耶の内に
置き去りにしてきた過去が今身を乗り出して来ていた。
今一つ分かっていないし分からなくてもイイと思っていたし直すつもりもなかった。だが和解したことで有耶無耶の内に
置き去りにしてきた過去が今身を乗り出して来ていた。
(もう一度アインちゃんに会わなきゃ、会って今度はちゃんとアインちゃんを見ないとそれから)
そこまで考えていると道の向こうから待ち人の姿が見えて思い切り手を振る。
「おーーい、アインちゃーーん!こっちこっちー!」」
そこまで考えていると道の向こうから待ち人の姿が見えて思い切り手を振る。
「おーーい、アインちゃーーん!こっちこっちー!」」
そこには先程別れたアインがいた、自分に銃口を突きつけていた時程ではないが昏い目でマリアを見ている。
マリアの無用心な行動には不安を覚えずにはいられず。アインは彼女の出方を伺っていた。
律儀に自分を待っていた、年下みたいな年上の女性、鉄火場の経験がある以上もう自分を普通の少女とは
思っていないはずだった。
マリアの無用心な行動には不安を覚えずにはいられず。アインは彼女の出方を伺っていた。
律儀に自分を待っていた、年下みたいな年上の女性、鉄火場の経験がある以上もう自分を普通の少女とは
思っていないはずだった。
待っている可能性は低いと思いながらもし自分を待っていたら何と言おうか。
利用できるならば利用しようと思っていたが駄目なら処理しなければならない、頭の中で例文を用意しながら
馬鹿みたいに待ち続けていた彼女に声をかけた。
利用できるならば利用しようと思っていたが駄目なら処理しなければならない、頭の中で例文を用意しながら
馬鹿みたいに待ち続けていた彼女に声をかけた。
「あ、アインちゃん......」「……ごめんなさい。待たせてしまったわね」
初めて会った時と同じように言うアインに既視感と不気味さを覚えたマリアは恐怖をそれとは別に湧いてきた
持ち前の闘志で相殺する。かろうじて震えずには済んだ。
初めて会った時と同じように言うアインに既視感と不気味さを覚えたマリアは恐怖をそれとは別に湧いてきた
持ち前の闘志で相殺する。かろうじて震えずには済んだ。
「えっとお、その、あ、さっ、さっきの娘は?」「大丈夫、死んでないわ、追い払っただけ」
嘘ではない、それどころか今その少女はアインの主人に「鹵獲」されて自分たちの戦力となる予定だ。
幸運と言えるがそこまでは教えない。
嘘ではない、それどころか今その少女はアインの主人に「鹵獲」されて自分たちの戦力となる予定だ。
幸運と言えるがそこまでは教えない。
(怯えてちゃダメだ、もっとちゃんと向き合わないと)
「どうして待ってたの?私が普通じゃないのはわかったよね、守って貰えるって思った?」
アインは返答次第でどうするか決めるつもりでいた。逆にマリアはアインの問いかけに気持ちが据わってくる。
「どうして待ってたの?私が普通じゃないのはわかったよね、守って貰えるって思った?」
アインは返答次第でどうするか決めるつもりでいた。逆にマリアはアインの問いかけに気持ちが据わってくる。
すう、と息を吸って深呼吸をする。目を開けてアインを見ればさっきまでの恐れはずっと減っていた。
(守ってもらってちゃ駄目なんだ)
「あのね、お礼を言いたかったんだ、アインちゃんに」
(守ってもらってちゃ駄目なんだ)
「あのね、お礼を言いたかったんだ、アインちゃんに」
意図が分らずにマリアを見る。もし敵対的な態度を取るなら脅しつけるか殺すことも考えていた。
逆にもしまだ暢気に構えていたり自分に守ってもらいたい等ど言ったら利用するまでの手間が省ける
というものだった。
逆にもしまだ暢気に構えていたり自分に守ってもらいたい等ど言ったら利用するまでの手間が省ける
というものだった。
なのにお礼とは、もしかしたらここに来るまでの間にマリアは誰かと合流して待ち伏せていたのではないか、
そんな風に思った矢先に彼女が動いた。手を前に組み頭を下げると長めの金髪がだらんと下がる。
そんな風に思った矢先に彼女が動いた。手を前に組み頭を下げると長めの金髪がだらんと下がる。
「ありがとう、アインちゃん」
その言葉と行動に冷徹なはずのアインの思考が確かに、少しだけ止まった。そんな言葉は
「アイン」の時には聞いたことがない。あっても相手を騙している時、相手が自分に騙されている時に言う言葉だ、
「アイン」の時には聞いたことがない。あっても相手を騙している時、相手が自分に騙されている時に言う言葉だ、
本当に自分に守って貰えたと思ったのだろうか、あの時捕えた少女の意図は今となっては確かめようもないので
結果から見れば違わないのかも知れない。
結果から見れば違わないのかも知れない。
表情の変わらないアインにマリアは困ったような笑いを見せる、聞こえているのか不安だった。
「どっちにしたって、あの時逃がしてくれたのは一緒じゃない?」
その言葉からやはりマリアは自分が狙われていたことを分かっていたようでそれが尚更不可解だった。
「どっちにしたって、あの時逃がしてくれたのは一緒じゃない?」
その言葉からやはりマリアは自分が狙われていたことを分かっていたようでそれが尚更不可解だった。
「.........それだけ?」
もしや現実が見えていないのだろうか、自分が殺されないとでも思っているのだろうか、そうではない。
にも関わらずこの反応が理解できない。しかし理解できずとも任務の遂行ができさえすればいい。
もしや現実が見えていないのだろうか、自分が殺されないとでも思っているのだろうか、そうではない。
にも関わらずこの反応が理解できない。しかし理解できずとも任務の遂行ができさえすればいい。
頭の中に入れておいた急拵えの説得を言おうとするがマリアが一歩近づいて来た事で機会を失う。
見ればデイパックに手を入れている。アインは警戒しながら彼女の支給品を思い出す。最初に確認したときに
武器の類はなかった。彼女がもし一人のままなら武器は出ないはずだ。
見ればデイパックに手を入れている。アインは警戒しながら彼女の支給品を思い出す。最初に確認したときに
武器の類はなかった。彼女がもし一人のままなら武器は出ないはずだ。
「ねえ、アインちゃん、あやとりって知ってる?こうやるんだけど」
取り出したのは以前に外れと思った長く柔らかい紐だった。
それを両手の指へかけて折り返し指を抜き、掬い繰り返していく。
「じゃーん!二段梯子」
取り出したのは以前に外れと思った長く柔らかい紐だった。
それを両手の指へかけて折り返し指を抜き、掬い繰り返していく。
「じゃーん!二段梯子」
自慢げにそれを見せてきたマリアをアインはただただ無感動に見ていたが、やってみるように渡されて同じように
そっくりそのまま真似て見せるとマリアはすごいすごいと手放しで褒めてくる。返すとまた別の型を
作ってはアインに渡してくる。相手を線と空間で捉えているため目を離しても不審な動きをしていないことは分かる。
そっくりそのまま真似て見せるとマリアはすごいすごいと手放しで褒めてくる。返すとまた別の型を
作ってはアインに渡してくる。相手を線と空間で捉えているため目を離しても不審な動きをしていないことは分かる。
「私は、あなたに一緒に来て欲しいの、この島を脱出するために。さっきの娘もそうだったけど
銃が効かない人がいるのよ。一人だけじゃないと思うから、逃げたほうがいいと思って、人手がいるなって
思ったから、やっぱりあなたを......」
銃が効かない人がいるのよ。一人だけじゃないと思うから、逃げたほうがいいと思って、人手がいるなって
思ったから、やっぱりあなたを......」
あやとりを続けながらでっちあげた自分の計画を話しマリアを勧誘する。手の先から相槌の声が聞こえてくるが
具体的な返事はない。夜明けの白光に染められながる中で最後の真似を終えて
返事を迫ると同時に紐を返そうと差し出す。見ればマリアが悲しげな顔をして自分を見ている。
具体的な返事はない。夜明けの白光に染められながる中で最後の真似を終えて
返事を迫ると同時に紐を返そうと差し出す。見ればマリアが悲しげな顔をして自分を見ている。
363 名前:座敷童子の親心 ◆PuVQoZWfJc [sage] 投稿日:2010/11/14(日) 16:00:37 ID:VzFTMw4Z
正確には自分の目を見ている。マリアは小さく首を振ると最初にやった奴をもう一度できるかと聞いてくる。
今のやりとりに何か重要なメッセージが含まれていたのかと急いで紐を組みなおそうとする。
しかしできなかった。一向に、手はもたついて、惜しい所まで行くもしくじりやり直す作業が続く。
正確には自分の目を見ている。マリアは小さく首を振ると最初にやった奴をもう一度できるかと聞いてくる。
今のやりとりに何か重要なメッセージが含まれていたのかと急いで紐を組みなおそうとする。
しかしできなかった。一向に、手はもたついて、惜しい所まで行くもしくじりやり直す作業が続く。
(さっきはできたのに、確かに真似できたのに)
覚えるでなくただ機械的に模倣しただけの不要な記憶が思い出されることはなく段々と焦れていく。
「ごめんね、アインちゃん」と声を投げかけられて顔を上げると、再度目と目が合う。
覚えるでなくただ機械的に模倣しただけの不要な記憶が思い出されることはなく段々と焦れていく。
「ごめんね、アインちゃん」と声を投げかけられて顔を上げると、再度目と目が合う。
それだけのなのに自分を見つめる目に「アイン」は危機を感じる、しかし体は動かない。
マリアはあやとりの最中ずっとアインを見ていた。カナンとは異なり、その目がガラス玉のように写しこそすれ
見ていないことは、流石に分かった。
マリアはあやとりの最中ずっとアインを見ていた。カナンとは異なり、その目がガラス玉のように写しこそすれ
見ていないことは、流石に分かった。
そして今、あやとりに梃子摺って顔を上げた顔は無表情ながら叱られる事を恐れる子供のような目をしていた
のを見てはっきりと少女が少なくとも自分の意思というものと縁遠い人物であると理解し、また今のままでは
自分の友人に引き合わせることも危険だと判断した。
のを見てはっきりと少女が少なくとも自分の意思というものと縁遠い人物であると理解し、また今のままでは
自分の友人に引き合わせることも危険だと判断した。
「それはあげるから、次に会うときには思い出していて欲しいな」
そう告げられたアインの顔からさっと表情が消える、銃口を突きつけてきた時と同じ顔
「間違えないで、あなたは私と一緒に来るか、そうでなければ......分かるでしょ?」
そう告げられたアインの顔からさっと表情が消える、銃口を突きつけてきた時と同じ顔
「間違えないで、あなたは私と一緒に来るか、そうでなければ......分かるでしょ?」
「アイン」として切り替えた、何も無いはずの胸にはアインの知らない不快感が灯っていた。
いつもの少女なら対象の反応から処理すべきと行動するはずが、この時は自分の支配下に置く事が
最優先に昇っており警告していた。しかしマリアは目を逸らさずに静かに抵抗する。
いつもの少女なら対象の反応から処理すべきと行動するはずが、この時は自分の支配下に置く事が
最優先に昇っており警告していた。しかしマリアは目を逸らさずに静かに抵抗する。
「本当にごめんね、でも、私は今のアインちゃんと一緒にいくことはできない。アインちゃんが
私を見てくれてないから。もしもカナンに会っても悲しい事になるだけだと思うから、だから」
もう行くねと言ってマリアが背を向けたとき、後ろから手を捕まれ引き寄せられ、眼前にナイフが迫る。
私を見てくれてないから。もしもカナンに会っても悲しい事になるだけだと思うから、だから」
もう行くねと言ってマリアが背を向けたとき、後ろから手を捕まれ引き寄せられ、眼前にナイフが迫る。
体の向きを取られた右腕と水平にして前転をして手を外そうとしたとき背中に鈍い痛みが走りマリアの顔が歪む。
(ッ!)髪を越えて背中に達した刃が浅く肌を引っ掻いたのだが構わずに消防署内へ飛び込むと
予め用意しておいた「もしもの時の備え」を使うことにする。恐らくこうなるであろう事は予想していた事だ。
(ッ!)髪を越えて背中に達した刃が浅く肌を引っ掻いたのだが構わずに消防署内へ飛び込むと
予め用意しておいた「もしもの時の備え」を使うことにする。恐らくこうなるであろう事は予想していた事だ。
アインはアインでナイフを片手に持つとベレッタを取り出して構えながら後を追う。
装備の消耗を嫌い、また素人ならといささか雑にやりすぎた。あのままナイフを射出していれば容易に事を
運べたはずだが意外にもマリアが背後から襲撃を想定して、というより誘導していたことに気付き距離を
取らざるを得なかったのである。
装備の消耗を嫌い、また素人ならといささか雑にやりすぎた。あのままナイフを射出していれば容易に事を
運べたはずだが意外にもマリアが背後から襲撃を想定して、というより誘導していたことに気付き距離を
取らざるを得なかったのである。
急ぎ中へ入ろうとすると何かが放られて来る、咄嗟に動きを止め確認する、赤い円筒形の物体、消火器である。
日本で広く使用されている粉末消火器で安全栓を抜いてレバーを握る事で噴霧できるという代物である。
日本で広く使用されている粉末消火器で安全栓を抜いてレバーを握る事で噴霧できるという代物である。
消火器を一瞥して視線を屋内へと移せば既にマリアは2階へ昇ろうとしている。
救助用の防火衣らしきものを羽織りながら急ぐ背中へ発砲しようとするとマリアが足を止めてくるりと
振り返ってアインの頭上に指差し気をつけるように言ってくる。
救助用の防火衣らしきものを羽織りながら急ぐ背中へ発砲しようとするとマリアが足を止めてくるりと
振り返ってアインの頭上に指差し気をつけるように言ってくる。
罠かと思うがそのどこか幼い仕草に普段なら無視するところをつい見てしまう。そこには防火衣とロープで
天井部に括りつけられた栓の抜けた複数の消化器、そしてレバーの部分にもロープが結ばれており先端を目で
追うとマリアが得意げな顔をして握っている。それも二つ。
天井部に括りつけられた栓の抜けた複数の消化器、そしてレバーの部分にもロープが結ばれており先端を目で
追うとマリアが得意げな顔をして握っている。それも二つ。
勢い良く引かれるのを見てアインはマリアへと一気に突進するがそちらからも白い粉煙が吹きつけられて
近距離にも関わらず視界の殆どを白に埋め尽くされてしまった。どうやら先の方にも同じ仕掛けがしてあった様だ。
近距離にも関わらず視界の殆どを白に埋め尽くされてしまった。どうやら先の方にも同じ仕掛けがしてあった様だ。
(すごい、相手がカナンだったらって思ってやってみたけど本当に突っ込んできた!)
褐色の友人、鉄の闘争代行人をモデルに練った逃走用の即席プランだが中々どうして上手くいく。
それと言うのもそのプランの準備と実行を短時間に行えるだけの20過ぎの女性とは思えない馬鹿げた行動力の
賜物だった。
褐色の友人、鉄の闘争代行人をモデルに練った逃走用の即席プランだが中々どうして上手くいく。
それと言うのもそのプランの準備と実行を短時間に行えるだけの20過ぎの女性とは思えない馬鹿げた行動力の
賜物だった。
真っ白に染まりながらもアインは至近距離にいるはずのマリアへナイフを突き込むが硬質な手応えに仕留め
損なったこと知る。
「ああーーー!」
損なったこと知る。
「ああーーー!」
間近で悲鳴が上がるが元気過ぎる。ポケットに突っ込んでおいたデジカメに刺さったようでマリアは
そのことにショックを受けたのだった、防火衣を下にいるアインに放り自分は地面に倒れてカサカサと
奥の窓を目指す、その姿はさながら白いゴキブリである。
そのことにショックを受けたのだった、防火衣を下にいるアインに放り自分は地面に倒れてカサカサと
奥の窓を目指す、その姿はさながら白いゴキブリである。
雑に作った事務机の周りに椅子を散らかし積んだだけのバリケードへ潜り込みやったと思ったのもつかの間
短い複数の発砲音が聞こえたかと思うと脱出するための窓がひび割れ股間直下のスカートに穴が開く。
バリケードの隙間や他の金具を狙って跳弾を利用して攻撃してきていた。
短い複数の発砲音が聞こえたかと思うと脱出するための窓がひび割れ股間直下のスカートに穴が開く。
バリケードの隙間や他の金具を狙って跳弾を利用して攻撃してきていた。
(お、お尻に穴が増えるところだった)
偶然でなく狙ったのだという事実に急いで窓から飛び降りる。綺麗にまでとはいかないが着地すると
目標物へと走りだす。
偶然でなく狙ったのだという事実に急いで窓から飛び降りる。綺麗にまでとはいかないが着地すると
目標物へと走りだす。
アインは下へ降りたマリアの走る方向を見る、その先は消防署に備え付けの駐車場、そしてそこに並ぶ
消防車両の数々、マリアはそのどれかに乗って逃亡しようというのか。だがこの位置からでは撃てと
言わんばかりだ。銃口を背中に合わせて引き金に指を這わせる、さっきまでの自分の胸にあった不思議な
感慨は今はもう感じられない。撃つ直前に三度マリアと目が合う。
消防車両の数々、マリアはそのどれかに乗って逃亡しようというのか。だがこの位置からでは撃てと
言わんばかりだ。銃口を背中に合わせて引き金に指を這わせる、さっきまでの自分の胸にあった不思議な
感慨は今はもう感じられない。撃つ直前に三度マリアと目が合う。
勝ち誇ったような表情を浮かべ目を少女からその後方へ流すと、
マリアは今までとは比べようもないほどの大音声で叫んだ。
「今よーーーーーーー!」
マリアは今までとは比べようもないほどの大音声で叫んだ。
「今よーーーーーーー!」
その言語に反射的に体を戻す、やはり大沢マリアは戦い慣れしているのだとアインは思った。
先ほどといいこうも自分を囮にするとは度胸が一般人とはかけ離れすぎている。そしてこの状況下で囮を
買って出るほど信頼できる人物と合流できたらしい事は厄介だった。
先ほどといいこうも自分を囮にするとは度胸が一般人とはかけ離れすぎている。そしてこの状況下で囮を
買って出るほど信頼できる人物と合流できたらしい事は厄介だった。
またそれとは別に自分が騙されていたという事に安心と失望の両方を覚えている事にアイン自身は気づかない。
狙撃の危険を感じつつも窓からそっとマリアが呼びかけた方に眼をやるが何も無い。遮蔽物も人影も何も。
ハッタリだと気づいたときにはマリアは真っ赤なポンプ車に乗りキーを回しエンジンをかけていた。
狙撃の危険を感じつつも窓からそっとマリアが呼びかけた方に眼をやるが何も無い。遮蔽物も人影も何も。
ハッタリだと気づいたときにはマリアは真っ赤なポンプ車に乗りキーを回しエンジンをかけていた。
「運転手(君塚)さん、私に力を!」
そう叫ぶと重たいペダルを力いっぱい踏み込み逃走へと漕ぎ出す。
他の車が邪魔だったせいでアインも飛び降りて全速でかけ出していた。加速が乗り切る前に差が詰まるが
それもじりじりと引き離されていく。タイヤを撃つために走りながら体をタイヤと同直線上になるように移動すると
ノイズ混じりマリアが車内のマイクで話しかけてくる。
そう叫ぶと重たいペダルを力いっぱい踏み込み逃走へと漕ぎ出す。
他の車が邪魔だったせいでアインも飛び降りて全速でかけ出していた。加速が乗り切る前に差が詰まるが
それもじりじりと引き離されていく。タイヤを撃つために走りながら体をタイヤと同直線上になるように移動すると
ノイズ混じりマリアが車内のマイクで話しかけてくる。
「アインちゃん!次に会う時は、あやとり思い出しといてね!それとカナンにあったらよろしくねー!」
そう言われて何故か足が止まってしまう。見る見る内にポンプ車は小さくなっていく。
そう言われて何故か足が止まってしまう。見る見る内にポンプ車は小さくなっていく。
自分はあやとりができなかったが為に拒まれたのだろうか、理解できない。しかしマリアが自分から去る
ことを告げたとき確かに何も無いはずの自分の中で何かが疼くのを感じた。
気がつけばこの程度の活動はなんでもないハズのアインの背中は汗でじっとりと濡れ喉はカラカラに渇いていた。
ことを告げたとき確かに何も無いはずの自分の中で何かが疼くのを感じた。
気がつけばこの程度の活動はなんでもないハズのアインの背中は汗でじっとりと濡れ喉はカラカラに渇いていた。
しばらくしてデイパックから徐ろに貰ったままの紐を取り出すと指にかける、やはり何度やっても思い出せないし
できなかった。
「ふーっ、またお腹に穴が開いちゃうかと思ったよー」
暢気に独り言を零すが心中はまったく穏やかではいられなかった。
できなかった。
「ふーっ、またお腹に穴が開いちゃうかと思ったよー」
暢気に独り言を零すが心中はまったく穏やかではいられなかった。
(たぶん、今のあたしじゃ何もアインちゃんに言ってあげられない。何もしてあげられない。
あの子を助けられるのは、きっと......)
あの子を助けられるのは、きっと......)
高速で北上するポンプ車の中でマリアは荒い息を吐きながらアインを想っていた。足りない、
彼女には意思が、自分には意思を齎すだけの何かが、そう考えながらアクセルを吹かし続ける。
結果からすれば逃げきったがひどい有様だった。
彼女には意思が、自分には意思を齎すだけの何かが、そう考えながらアクセルを吹かし続ける。
結果からすれば逃げきったがひどい有様だった。
髪は背中でざんばらになり肌も薄く切れており、消火器の粉で灰を被ったようになっている。スカートに
穴が開きおまけにデジカメもまだ使えるが液晶画面は死んでしまった。手当と休息が必要だった。
穴が開きおまけにデジカメもまだ使えるが液晶画面は死んでしまった。手当と休息が必要だった。
(カナンなら、どうやっただろう、何か分かるのかな......)
勘とイメージと記憶を頼りに運転をしながらマリアは憂いを募らせた。
勘とイメージと記憶を頼りに運転をしながらマリアは憂いを募らせた。
【一日目 F-3 消防署 早朝】
【大沢マリア@CANAAN】
[状態]:疲労(中) 打ち身 背中にごく浅い切り傷 出血(少)
[装備]:デジタルカメラ@現実 ポンプ車(車内に消防器具がいくつか)、粉末消化器1つ
[道具]:基本支給品×2、確認済み支給品0~2
[思考]
基本:カナンを探す。自分の出来る事を見つける。
1:青い髪の少女(立華かなで)を警戒。
2:アインと決別するが心配でもある。
※デジタルカメラで立華かなでとアインの戦闘を撮影しました。
※ポンプ車内の消防器具はあとの書き手さんにお任せします。
※マリアの参戦は本編終了後。
[状態]:疲労(中) 打ち身 背中にごく浅い切り傷 出血(少)
[装備]:デジタルカメラ@現実 ポンプ車(車内に消防器具がいくつか)、粉末消化器1つ
[道具]:基本支給品×2、確認済み支給品0~2
[思考]
基本:カナンを探す。自分の出来る事を見つける。
1:青い髪の少女(立華かなで)を警戒。
2:アインと決別するが心配でもある。
※デジタルカメラで立華かなでとアインの戦闘を撮影しました。
※ポンプ車内の消防器具はあとの書き手さんにお任せします。
※マリアの参戦は本編終了後。
【アイン@Phantom ~Requiem for the Phantom~】
[状態]:健康 不安(自覚なし)
[装備]:ベレッタM92FS残弾(8/15)飛び出しナイフ@現実、核鉄「バルキリースカート・アナザータイプ」@武装錬金
紐@現実
[道具]:基本支給品、手榴弾セットx3、ハンディトランシーバー@現実
[思考]
基本:どのような形であれ、サイスマスターを勝利させる。
1:利用できる者は利用し、このゲームを有利に進める。
2:使えない者、マスターに害ある者はリスクに応じて速やかに排除する。
3:マスターの優勝または脱出に繋がる情報を得る。
4:マリアに執着
※サイスマスターとは今後の方針などを事前に決めました。
※第二部からの参戦。
[状態]:健康 不安(自覚なし)
[装備]:ベレッタM92FS残弾(8/15)飛び出しナイフ@現実、核鉄「バルキリースカート・アナザータイプ」@武装錬金
紐@現実
[道具]:基本支給品、手榴弾セットx3、ハンディトランシーバー@現実
[思考]
基本:どのような形であれ、サイスマスターを勝利させる。
1:利用できる者は利用し、このゲームを有利に進める。
2:使えない者、マスターに害ある者はリスクに応じて速やかに排除する。
3:マスターの優勝または脱出に繋がる情報を得る。
4:マリアに執着
※サイスマスターとは今後の方針などを事前に決めました。
※第二部からの参戦。
048:ドキッ乙女だらけのいらん子中隊 | 投下順に読む | 050:クロマティ 逃げた先にも クロマティ |
時系列順に読む | ||
029:天使~Angel~ | アイン | 0:[[]] |
大沢マリア | 0:[[]] |