世界の蝶番はうめく ◆MVYO7niwxE
「ウチは厳格な家庭でよ。親の前じゃ、カツラを外しているんだ」
林田は手際よくモヒカンを被り直す。ピノッキオはこの東洋人を慎重に観察している。
「そこまでして、その髪型に拘る必要はあるの」
「クロ高のワルがサラリーマンみたいな七三分けじゃ恰好つかねえだろ」
「ふぅん、大変だね」
「クロ高のワルがサラリーマンみたいな七三分けじゃ恰好つかねえだろ」
「ふぅん、大変だね」
心のこもらない声で相槌を打つ。
ピノッキオの関心は彼の外見から、呼吸や姿勢、仕草へと移行していた。
初めに見かけたときは、その全身から恐怖と混乱がにじみ出ていた。
だが、今はどうだ。異常なまでに肝が据わっている。この短期間で心境にどんな変化があったのか。
などと、思い巡らしていた時、林田は馴れ馴れしく語りかけてきた。
ピノッキオの関心は彼の外見から、呼吸や姿勢、仕草へと移行していた。
初めに見かけたときは、その全身から恐怖と混乱がにじみ出ていた。
だが、今はどうだ。異常なまでに肝が据わっている。この短期間で心境にどんな変化があったのか。
などと、思い巡らしていた時、林田は馴れ馴れしく語りかけてきた。
「話は変わるけどよ。この殺し合いって、実はたいしたことないんじゃねえか」
「素人が優勝できると思ってるの。馬鹿じゃない」
「素人が優勝できると思ってるの。馬鹿じゃない」
会場で見た異能力者に加え、福祉公社の連中までいるのだ。
一流の殺し屋のピノッキオでさえ、彼らの皆殺しをするのは困難だと認識している。
一流の殺し屋のピノッキオでさえ、彼らの皆殺しをするのは困難だと認識している。
「いや、そういう意味じゃねえ。あれは飯を食ったり、授業中に昼寝したり、
ヨソの高校と喧嘩したりするのと変わらない、退屈で平凡な日常じゃねえかってことだ」
ヨソの高校と喧嘩したりするのと変わらない、退屈で平凡な日常じゃねえかってことだ」
モヒカンが風でそよぐ。生き物のように捉えどころなく動く。
ピノッキオは彼の突飛な問いかけを前に、つい考え込んでしまう。
ピノッキオは彼の突飛な問いかけを前に、つい考え込んでしまう。
自分にとって平凡な日常とはなんなのか。暗殺稼業だろうか。殺しは得意だが別に趣味ではない。
ただ、育ての親、命の恩人であるクリスティアーノのためにやっている。あの人はそれを喜んでいるのかよく分からない。
それでも、自分にできることは他にないから、任務に従い人を殺す。自分の意思で選んだ道だ。
ただ、育ての親、命の恩人であるクリスティアーノのためにやっている。あの人はそれを喜んでいるのかよく分からない。
それでも、自分にできることは他にないから、任務に従い人を殺す。自分の意思で選んだ道だ。
逆に平凡な日常でないものはなんだろう。それは農村でやったブドウ畑の世話かもしれない。
あれは悪くない。ずっと続けていたいと思う。けれど、それでは暗殺者の牙が鈍る。
二つの世界は大きな隔たりがあり、両立できない。だから、
あれは悪くない。ずっと続けていたいと思う。けれど、それでは暗殺者の牙が鈍る。
二つの世界は大きな隔たりがあり、両立できない。だから、
「君にとって、この世界は日常とは別モノさ」
そして、ピノッキオにとっては、ありふれたルーチンワーク、変わらない日常。
ここは生と死の境界がせめぎ合う空間。喪失、怨嗟、殺戮が満ち溢れている。
ここは生と死の境界がせめぎ合う空間。喪失、怨嗟、殺戮が満ち溢れている。
「いや、違うな。それは認められねえ。
てめえはムードに流されて、ここが平凡な日常じゃないと思い込まされてるんだ」
てめえはムードに流されて、ここが平凡な日常じゃないと思い込まされてるんだ」
なぜか強気に出るモヒカン男。
「いつもと違うから、いつもと違うルールに従え。オレはそういう考え方が大嫌えだ。
ワルってのは、食いたいときに食って、寝たい時に寝る。人殺しなんざに手は染めない」
「面白いことを言うね。でも、口先だけじゃ、現実は変わらない」
ワルってのは、食いたいときに食って、寝たい時に寝る。人殺しなんざに手は染めない」
「面白いことを言うね。でも、口先だけじゃ、現実は変わらない」
ピノッキオは相手を小馬鹿にしたように言った。だが、林田は鼻息荒く反論する。
「人間ってのは、先入観から解放されれば何だってできる。
現にオレは英語を喋れない思い込んでいたが、お前と話せている」
「……それは別の理由だと思う。あと、ボクが話すのはイタリア語だよ」
「えっ、そうだったのか」
現にオレは英語を喋れない思い込んでいたが、お前と話せている」
「……それは別の理由だと思う。あと、ボクが話すのはイタリア語だよ」
「えっ、そうだったのか」
林田はモヒカンを抱えて膝をつく。ピノッキオは眉を潜めて考える。
この東洋人はからかっているのか。それとも規格外の馬鹿なのか。いずれにせよ、只者ではない。
この東洋人はからかっているのか。それとも規格外の馬鹿なのか。いずれにせよ、只者ではない。
――だったら……アンタが私様を守りなさいよっ!
ピノッキオは江戸前留奈を守るために雇われている。あの少女もまた、破天荒だった。
彼女ならば、奇妙な東洋人の使い道が分かるかもしれない。
彼をオーナーの元に連れて行こうと決意する。
彼女ならば、奇妙な東洋人の使い道が分かるかもしれない。
彼をオーナーの元に連れて行こうと決意する。
その直後、両者の針路を決定づける放送の刻が訪れた。
○ ○ ○
「神山、竹之内、フレディ、3人とも死んじまったのか。ちくしょう、ちくしょう……」
林田は公園のベンチに両手を強くたたきつける。号泣、男泣き。
(神山はまだ、呼ばれてないけど)
というツッコミを、ピノッキオはするつもりはなかった。ただ、冷めた目で見守っていた。
眼前の涙はありふれていて、殺し屋の興味を引くものではなかった。
眼前の涙はありふれていて、殺し屋の興味を引くものではなかった。
自分の目的はクリスティアーノの元に帰ること。そのための手段はどうでもよかった。
確かに、少女を殺すのは気分は悪い。けれども、勝手に死ぬ分には仕方ない。
ただ、江戸前留奈は彼にとって興味深い人間だった。彼女の中に、元の世界での現クライアント、
フランカに似たものを感じ取ったからかもしれない。だからこそ、彼女の取引に乗った。
確かに、少女を殺すのは気分は悪い。けれども、勝手に死ぬ分には仕方ない。
ただ、江戸前留奈は彼にとって興味深い人間だった。彼女の中に、元の世界での現クライアント、
フランカに似たものを感じ取ったからかもしれない。だからこそ、彼女の取引に乗った。
けれど、その少女は死んでしまった。彼はふたたびフリーになった。
下手人は名前と虐殺数からして、おそらく福祉公社の人間だろうか。
公僕が一般市民を虐殺とはお笑い草だ。
下手人は名前と虐殺数からして、おそらく福祉公社の人間だろうか。
公僕が一般市民を虐殺とはお笑い草だ。
この東洋人が言うように、ここは『好きに振る舞える世界』かもしれない。
ウキツと仕事の契約を結んだ覚えはない。誰を殺しても、殺さなくても自由だ。
ウキツと仕事の契約を結んだ覚えはない。誰を殺しても、殺さなくても自由だ。
ピノッキオは林田の態度次第で行動を変えようと思った。
もし、失意に囚われたままならば、一緒にいても鬱陶しいだけだ。
当初の予定通り、首をはねる。ポケットに隠したナイフを軽く握り締める。その刹那、
もし、失意に囚われたままならば、一緒にいても鬱陶しいだけだ。
当初の予定通り、首をはねる。ポケットに隠したナイフを軽く握り締める。その刹那、
「頼む、俺を弟子にしてくれ」
林田は砂利道の上で土下座していた。ピノッキオは呆気にとられる。
彼はこれまで、誰かの下で働くことしかしていない。
彼はこれまで、誰かの下で働くことしかしていない。
「いきなりそんなこと言われても困るんだけど」
「アンタは喧嘩のプロかなんかだろ。カツラを掴んだ時の動きでわかったぜ。
今だって、殺気をビンビン飛ばしてやがる」
「アンタは喧嘩のプロかなんかだろ。カツラを掴んだ時の動きでわかったぜ。
今だって、殺気をビンビン飛ばしてやがる」
彼は自分の正体を察したうえで、虚勢なき余裕を見せていたのか。
ピノッキオは林田の胆力に関心する。それとも、これまで忘れていただけなのか。
もしそうだとしたら、やっぱりただのバカだ。
ピノッキオは林田の胆力に関心する。それとも、これまで忘れていただけなのか。
もしそうだとしたら、やっぱりただのバカだ。
「意外とよく見てるんだね。でも、君と一緒にいることに何のメリットがあるの」
「……ああ、そうだ、メカ沢だ。メカ沢に会えば首輪を外せる」
「……ああ、そうだ、メカ沢だ。メカ沢に会えば首輪を外せる」
おそらく、メカが得意だからメカ沢。きっとニックネームなのだろう。
ピノッキオも首輪の枷はできるだけ早く外したいと考えていた。
殺しを強制する者に逆らうことは、これまでにない奇妙な興奮を覚える。
そして、いつもと変わらない声で答える。
ピノッキオも首輪の枷はできるだけ早く外したいと考えていた。
殺しを強制する者に逆らうことは、これまでにない奇妙な興奮を覚える。
そして、いつもと変わらない声で答える。
「外見の特徴は?」
「言葉で説明するのは難しいというか、触れちゃいけない部分があるんだが。
簡単に言うと声が渋くて、やたら丈夫で、顔が大きい男子高生だな」
「言葉で説明するのは難しいというか、触れちゃいけない部分があるんだが。
簡単に言うと声が渋くて、やたら丈夫で、顔が大きい男子高生だな」
イマイチ要領を得ないが、一目で識別できるユニークな容姿なのだろう。
林田は地面ギリギリまで顔を近づけ、殺し屋の少年に懇願する。
林田は地面ギリギリまで顔を近づけ、殺し屋の少年に懇願する。
「オレは自分の弱さに腹が立ってるんだ。
もっと強くなりてえ、仲間を酷い目に遭わせた連中を一発ぶん殴りてえ、友を助けてえ。力を貸してくれよ、師匠」
もっと強くなりてえ、仲間を酷い目に遭わせた連中を一発ぶん殴りてえ、友を助けてえ。力を貸してくれよ、師匠」
ピノッキオは林田をカミソリのような視線で貫いた後、ゆっくりと口を開いた。
「君に暫く付き合うよ。ただ、師匠になるのは御免だけどね」
「すまねえ。師匠、恩に着る」
「すまねえ。師匠、恩に着る」
少年は興奮した様子で顔を上げた。
二人は北へと向かう。首輪探知機の利用はある程度近づいてからだ。
二人は北へと向かう。首輪探知機の利用はある程度近づいてからだ。
ただ、林田は言葉足らずだった。
メカ沢に出会っても、神山の助力がなければ何をすればよいのかわからない。
だが、当の本人は神山は死んでしまったと勘違いしている。
そして、ピノッキオ自身、生存を告げる必要を感じていない。
この齟齬はいつ、解消されるのだろうか。
メカ沢に出会っても、神山の助力がなければ何をすればよいのかわからない。
だが、当の本人は神山は死んでしまったと勘違いしている。
そして、ピノッキオ自身、生存を告げる必要を感じていない。
この齟齬はいつ、解消されるのだろうか。
【一日目 E-4 朝】
【林田慎二郎@魁!!クロマティ高校】
[状態]:健康、疲労(大)、自責
[装備]:首輪探知機残り@バトロワ 使用回数4回
[道具]:基本支給品×1 未確認支給品1~2
[思考]
基本:とにかくクロ高の仲間を集める
1:神山の遺志を継いでメカ沢たちを見つける
2:神山の敵を討つ
3:ピノッキオを師匠呼ばわりする
備考:神山が放送で呼ばれたことに気づいていません
[状態]:健康、疲労(大)、自責
[装備]:首輪探知機残り@バトロワ 使用回数4回
[道具]:基本支給品×1 未確認支給品1~2
[思考]
基本:とにかくクロ高の仲間を集める
1:神山の遺志を継いでメカ沢たちを見つける
2:神山の敵を討つ
3:ピノッキオを師匠呼ばわりする
備考:神山が放送で呼ばれたことに気づいていません
【ピノッキオ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:健康
[装備]:ゆりっぺのナイフ@Angel Beats!、黒のナイフ(ベルトのギミック付き)@DARKER THAN BLACK、コルト ガバメント(7/7)@Phantom ~Requiem for the Phantom~
[道具]:基本支給品×1、ランダム支給品0~2 、コルトガバメントの弾倉×2
[思考]
基本:おじさんの元に帰る
1:林田と共にメカ沢を見つける
2:トリエラとは二度と会いたくない
3:武器が欲しい
[状態]:健康
[装備]:ゆりっぺのナイフ@Angel Beats!、黒のナイフ(ベルトのギミック付き)@DARKER THAN BLACK、コルト ガバメント(7/7)@Phantom ~Requiem for the Phantom~
[道具]:基本支給品×1、ランダム支給品0~2 、コルトガバメントの弾倉×2
[思考]
基本:おじさんの元に帰る
1:林田と共にメカ沢を見つける
2:トリエラとは二度と会いたくない
3:武器が欲しい
063:知らぬが仏 | 投下順に読む | 065:MOTER |
時系列順に読む | ||
050:クロマティ 逃げた先にも クロマティ | 林田慎二 | 0:[[]] |
050:クロマティ 逃げた先にも クロマティ | ピノッキオ | 0:[[]] |