── 彼方の神座に仰ぎ奉る、掛けまくも畏き天照大御神、尊き恵みこの身に宿し奉りて、世のため人のため穢れ多き禍き竜を祓へ清めたらんと畏み畏み申す。
詠まれた祝詞に呼応して、天から降り注ぐ眩き光の激流が邪龍を穿つ。
比喩表現ではない。光がまるで実体を持つかのように邪龍の鱗を、爪を、翼を、そして眼を耳を鼻を貫いていく。
光によってもたらされる一方的な「浄化」の前に、邪龍───本来であれば東日本一帯に壊滅的な大打撃をもたらすはずだった「大嵐の邪龍」──は、その威勢を発する間もなく消しとばされる。
比喩表現ではない。光がまるで実体を持つかのように邪龍の鱗を、爪を、翼を、そして眼を耳を鼻を貫いていく。
光によってもたらされる一方的な「浄化」の前に、邪龍───本来であれば東日本一帯に壊滅的な大打撃をもたらすはずだった「大嵐の邪龍」──は、その威勢を発する間もなく消しとばされる。
凪。静寂。後に残ったのはそれだけだった。
邪龍討伐の儀の最後の舞である「祓い締めの舞」を終え、彼女──皇座の座長「日ノ本八千代」は私室で一息ついていた。
「まったく、科学技術で『予知』より先に龍の顕現を確認できるのは有難いことですが、海を隔てた先にいる龍を祓うのはまだ感覚が慣れませんね」
……そう、彼女は今、京都府にいる。
日本列島のはるか南、太平洋上を時速50kmで北上していた大嵐の邪龍は、京都にいた八千代によってなす術なく祓われたのだ。
日本列島のはるか南、太平洋上を時速50kmで北上していた大嵐の邪龍は、京都にいた八千代によってなす術なく祓われたのだ。
「鈿子、この後の予定は?」
「はい八千代さま⭐︎この後は天神龍『菅原道真公』の大鎮式、それが終われば今夜は『戦乱の大邪龍』についての日米韓会議の参加があります!…あ!『流感の邪龍』討伐は明日に延期になりました!『黒死病の邪龍』はさらに繰り上がって一週間後です!」
「はい八千代さま⭐︎この後は天神龍『菅原道真公』の大鎮式、それが終われば今夜は『戦乱の大邪龍』についての日米韓会議の参加があります!…あ!『流感の邪龍』討伐は明日に延期になりました!『黒死病の邪龍』はさらに繰り上がって一週間後です!」
鈿子、と呼ばれた女性はハキハキと答える。
「何か変わったことはないの?新たな巫女が産まれたとか、『皇座♾️』の活動報告とか」
八千代は退屈そうに尋ねる。
邪龍討伐など彼女にとっては日常の一コマでしかない。国際会議も、神龍に捧げる儀式も。
邪龍討伐など彼女にとっては日常の一コマでしかない。国際会議も、神龍に捧げる儀式も。
「ふふ、聞いてください八千代さま!あの『四神獣の神装巫女』が代替わりしたそうですよ!まだまだEランクってところみたいですけど、将来が楽しみですね!」
「……ええ、楽しみね。とても」
「……ええ、楽しみね。とても」
退屈そうな顔は崩さぬものの、八千代は口角をわずかに吊り上げる。
事実、後輩の存在はいつだって先達にとっては楽しみなものだ。少なくとも埒のあかない国際会議よりも、余程。
事実、後輩の存在はいつだって先達にとっては楽しみなものだ。少なくとも埒のあかない国際会議よりも、余程。
「では、私は大鎮式に備えて少しの間休むことにします。時間が来たら、また宜しくお願いするわ」
「承知しました⭐︎」
「承知しました⭐︎」
鈿子は明るい様子を崩さぬまま部屋を出ていった。
八千代は寝所で鈿子の話した巫女たちの話を思い返す。
八千代は寝所で鈿子の話した巫女たちの話を思い返す。
「四神獣の神装巫女」であるならば、いずれ私の立っている舞台に上がってくるだろう。その時が楽しみだ……。
そう八千代は感じながら、暫しの眠りに就くのだった。