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夕風のメロディーはとうに絶え

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夕風のメロディーはとうに絶え

紗代子さんから逃げ切ったあと、私と律子さんは地図を確認して北に向かっていたことを知りました。

逃げるときにはどっちに進んでるかなんて気にする余裕はなかったので、ちょっとだけ安心です。

だって、キャンプ場の方向にはまだあのドリルの音の子がいるかもしれないから。

このまま北の街まで行ってもよかったのですが、ひとまず律子さんの提案で茂みに隠れて休息を取ることにしました。

疲労を抱えたまま襲われたら逃げられないし、放送も近いから、と。

放送。死んでしまった子の名前を読み上げ、禁止エリアを告知するためのもの。

誰が呼ばれるんだろう。

私が逃してしまったロコちゃんは、どうなったんだろう。

春香さんと紗代子さんの間に、何があったんだろう。

他の皆は、どうしてるんだろう。

そんなことを考えているうちに、時間は過ぎていたみたいで。

放送が、始まりました。


『それでは、まず開始からここまでの死者の発表を行います』



――天海春香




『それでは、これで第一回放送を終了します』

淡々と始まった放送は事実だけを伝えて、淡々と締めくくられた。
それは、伝える内容の重さとは不釣り合いなほど。
放送の場でも感情を隠すのならば、なぜプロデューサーは最後に顔を晒したのだろうか。
可憐のようにそれが原因で乗る気になる子を増やすためだとしたら、あまり好感が持てるものではない。
だが、それらは直接的にはなんの意味もなく。
重要なのは当然放送の内容――禁止エリアと死者の発表である。

(……禁止エリアは……そうね、当分は問題ないかしら)

携帯端末が使えなくなったときのことを考えて内容をメモしながら、律子は放送の内容に思いを馳せる。
禁止エリアはH-4とC-3。そのうちC-3は、ちょうど今いるエリアの真北に位置している。
とはいえ、そのエリアにあるのは旅館と山の上の展望台だ。行く可能性があるかどうかは微妙な所か。
H-4については、まず近づく機会すらないだろう。今だってこうして離れていっているのだから。

(……死者は十二人、か。多いのやら、少ないのやら。
 少なくとも、紗代子以外にも積極的な子が複数いるのは間違いないわね)

六時間で十二人。単純に考えても一時間に二人のペースだ。
とても紗代子一人で殺して回れる量ではない。
もちろん、元より紗代子一人だけだと考えていたわけではないが。

(紗代子ねぇ。結局春香との間に何があったのかはわからず終い。とはいえ……)

遭遇した紗代子は、どう見たって平静ではなかった。
その紗代子をあれだけ錯乱させた原因であろう春香は、先ほど放送で名前を一番最初に呼ばれている。
死者の名前の順番は、名簿順でも五十音順でもなく。
だとしたら、考えられるのは死亡した順。
それはつまり、『天海春香はこの殺し合いで最初に死亡した』ということだ。
最初に死亡した春香がこの島で紗代子以外のアイドルにも出会っている可能性は、おそらくそう高くない。
なら、春香を殺したのは。

(……やめやめ。その場を見ていない以上、想像の域を出ないもの。
 憶測で語るのは危険だわ。……それより、今はこっちが問題か)

メモを仕舞いながら、隣へ視線を向ける。
そこには、可憐が呆然とした表情でへたり込んでいた。

「嘘……春香、さん……」

ぽつりと可憐の口から漏れたのは否定の言葉。
春香が死んだことがよほどショックだったのだろう。
たしかに、可憐は春香と仲が良かった。懐いていた、と言うべきだろうか。
気弱な可憐を春香が励ます。それはシアターでもおなじみの光景だった。
十六歳とは思えない雰囲気の可憐も、春香の前では歳相応……いや、それより幼い印象すら受けたものだ。
もちろん、春香以外とは疎遠だったわけではない。
しかしそれでも、可憐にとっての春香は特別な存在だった。
だから、可憐が春香の死に衝撃を受けるのは当然だ。
そう、普通なら。

そのまま流すこともできたのに。
慰めの一つでもかけてやれば、可憐は落ち着いたかもしれないのに。

「ねぇ、可憐。あんた、本気でそれ言ってるの?」

気付けば、律子は可憐に問うていた。

「え……?」

可憐が顔をこちらに向ける。その瞳から涙が一筋こぼれ落ちた。
本気で悲しんでいるのだろう。本気で悼んでいるのだろう。
それが律子には気に食わなかった。

「わからない? ならもう一度言うわよ」

だからだろうか。
止めることもできた言葉を、律子は止めなかった。
可憐がどのような反応をするのかも、予想した上で。
律子は言葉を投げかけた。

「ねぇ、可憐。殺し合いに乗ったあんたが、本気で春香が死んで悲しいって、そう言うの?
 あんた、その意味わかってる?」

「――ぁ」
「はぁ。その様子だとやっぱりわかってなかったみたいね。……呆れた。そんな子に私は殺されかけた、と」

ため息一つ。可憐の反応は予想通りでしかなく。
故に律子は、言葉を鞘に収めることはしなかった。

「殺し合いに乗ったくせに、春香の死が悲しい? 笑わせないでよ。
 あんた、春香に実際に会ったらどうするつもりだったの? 殺せたの?」
「それ、は……」

春香を殺す。自分の手で。想像しただけで、可憐は息が詰まりそうになった。
殺し合いに乗るということはそういうこともあり得るなんて当然のことなのに。
一度でも、それを考えただろうか。想定していただろうか。
可憐には、まったく自信が持てなかった。

「そこで即答できない時点で問題外。私やロコは殺せるのに春香は殺せないなんて中途半端にも程があるわよ。
 春香はもう死んでしまったけれど、他には誰を殺せて誰を殺せないの?
 あんたは覚悟を決めたつもりだったかもしれないけど、全然そんなことできちゃいないのよ」

何か、言い返さないと。そう思ってはいるのに、可憐にはまるで反論が浮かばなかった。
口をポカンと開けたまま、一方的に律子の言葉が心に突き刺さる。
いとも簡単に、可憐の覚悟を崩していってしまう。
それとも、簡単に崩れてしまう程度の覚悟でしかなかったのか。
もう、それもわからない。

「断言するけど。可憐、そんな甘い考えのままならあんたは間違いなく生き残れないわ。
 一緒にいる私にだって危険が及びかねない。それとも……」

そこで一旦言葉を切って、律子は可憐に銃を突きつけた。

反射的に、可憐は身体を縮こまらせる。

「今ここで、私の手で楽にしてほしい? そうすれば、あんたは手を汚さないままあっちで皆と会えるかもね」
「私は、私は……死にたく、ないですっ……!」

可憐が叫ぶ。覚悟が出来てなくとも、迷いがあっても。
それだけは、偽りようのない気持ちだったから。
それを受けて、律子は……銃を、下ろした。

「……そ。なら、自分がどうしたいのか、何が出来るのか。それをもう一度よく考えてみなさい。
 あんたの処遇は、それを聞いてから決めるわ」

律子は銃を仕舞い、地面に置いていたリュックサックを拾い上げる。
殺されずに済んだはずなのに、可憐には息をつくことができなかった。
ただ、絞りだすように一言、お礼を言った。

「……ありがとう、ございます」

怪訝な顔をする律子。お礼を言われるなど、想像もしていなかったのだろう。

「お礼? やめてよ。中途半端なままじゃ私にも迷惑だって言ってるの」

ぶっきらぼうにそう言うと、律子は道の方へと歩いて行く。

「どこに……行くんですか……?」
「周囲の警戒よ。あんたのさっきの声を聞きつけて誰か来るかもしれないし」

そう言って、律子は茂みをかき分け道へと出て行ってしまった。
あとに残されたのは、可憐ただ一人。
立ち上がる気力も湧かず、ただ可憐は項垂れていた。

可憐は仲間たちを切り捨ててでも、信頼するプロデューサーの言葉通り、殺し合いに乗ることに決めた。
彼女は、それほどまでにプロデューサーのことを想っていた。
それでも、だ。彼女はその決断に、ほんの少しの迷いも抱かなかっただろうか。
答えは否だ。
ロコを殺せずに逃したとき、可憐は安堵した。
律子に遭遇したとき、一度は銃を下ろした。
こうして今、春香の死を悼んでいる。
可憐は、いつだって迷っていた。決断は、彼女自身を苦しめていた。
結局のところ、可憐は皆を切り捨てられてなどいなかった。
非情になどなれていなかった。
覚悟など決められていなかった。
篠宮可憐は獅子などではなく。ただの、臆病な少女だった。

「私は……どう、したら……」

「プロデューサーさん……春香さん……」

応えるものは、いない。


【一日目/日中/D-3】


【篠宮可憐】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、予備マガジン×3、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:私は……
1:律子さんについていく
2:武器はとられちゃったけど……律子さんは怖い、のかな?
3:逃がしたロコの事も少し気になる



(はぁ……何やってるんでしょうね、私)

周囲を警戒しながら、秋月律子は独りごちる。
可憐をあそこまで詰問することに、どれほどの意味があっただろうか。
これで本当に可憐が覚悟を決められるなら、行動を共にする上では利があるだろう。
しかし、萎縮して使いものにならなくなってしまえば、手駒を一つ失ってしまうことになる。
最悪、手を下すこともあり得る。
そのリスクを冒してまで、可憐に詰め寄る必要はあったのだろうか。
必要は、おそらくなかっただろう。だが、それでも。

(仲間を蹴落としてでも生き残るなんて決めた私が、今更あの子たちのために悲しめるわけ、ないじゃない)

理由はあった。
皆を切り捨てた篠宮可憐に、仲間を弔うことが許されるとしたら。
それは、秋月律子にも同様に許されてしまう。
律子もまた、皆を切り捨てたという点では変わらないのだから。
故に、律子は可憐を許せなかった。
許してしまえば、きっと自分は情を捨てられない。同じように、あの子たちを悼んでしまう。
そんな資格なんて、もう、ないのに。

(私は情を捨てなきゃいけない。情にほだされてなんていられない。生き残るって、そう決めたんだから)

頬を両手で叩き、頭を切り替える。
可憐がどうなるかは本人次第だ。一度突き放した以上、もう律子が干渉できる事象ではない。
だから、思考の外に追いやる。……そうでもしなければ、甘い毒に惑わされそうな気がしていたから。



【一日目/日中/D-3】

【秋月律子】
[状態]健康
[装備]防弾チョッキ、グロック19(12/15)
[所持品]支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本:不信。情にほだされないように、冷静な対応を。
1:現状は様子見。乗るべきと判断したら乗る。
2:紗代子と春香、ひいては南の街が危険? 少なくともそっちにはいかない。
3:可憐は……保留。これでも覚悟を決められないようなら……。


※放送内容から、名前を呼ばれた順番は死亡順であり、春香を殺したのは紗代子であると考えています。




 本当は臆病な私へ   時系列順に読む   desire 
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 Perfect simulation――?   秋月律子   Cause of U 
 篠宮可憐 


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