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天と海の島

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天と海の島


どれだけの距離を走っただろう。
疲労こそないが、走れども走れども答えは見つからない。
目覚めてから一時も立ち止まることなく海美は走り続ける。

「ッ!?今の声って……」

ここで初めて海美の足が止まる。前方から叫び声が聞こえた為だ。
海美の記憶が正しければ、声の主は恐らく水瀬伊織だろう。
伊織の身に何かあったのだろうか?それとも別の者が危険に晒されているのだろうか?
少なくとも、何か問題が発生したのは間違いない。

海美は――逃げた。
誰かが殺すところも殺されるところも見たくない。
かといって助けに行く勇気もない。混乱に乗じて自ら討ちに行くなどもっての外だ。

「ごめん……本当にごめん……」

現実から逃げ続けた海美は、ついに仲間の危機からも目を背けた。


分岐点へと引き返し、今度は先程選ばなかった道を駆け抜ける。
どこまで逃げればいいのだろう。その問いには誰も答えてくれない。
恐怖と焦燥を振り払うように、更にペースを上げて走る。

だがしばらくして、海美はまたもや立ち止まることになる。再び分かれ道に差し掛かったのだ。
最初の分岐では特に気にせず走り抜けたが、また戦いの場に遭遇してしまう可能性がある以上、今度は慎重に動かなければならない。
もう何も決断したくないのに、なぜ何度も選択を迫られなければならないのか。海美は心の中で毒づく。



「はぁっ……はぁっ……やっぱり、山道はちょっときついな……」

悩んだ挙句、海美は山頂へと続く道を選んだ。
山中ならさほど人も集まらないだろう。それに、山小屋のようなものがあればそこで立て篭もることも出来る。そう予想したのだ。
逃走の為の決断。海美の行動指針はあくまで逃げることだった。
こんなところで死んでたまるか。どこまでも逃げ続けてやる。そう決意し、疾走していた矢先だった。


「あら海美さん、ご無事でしたか~♪」


恐るべき風格を携えた少女が立ちはだかっていた。


逃げられない。
穏やかな笑顔からは想像もつかない朋花の威圧感を前に、海美は一歩も動けないでいた。

「早速本題に入らせていただきます。……あなたは殺し合いに乗っていますか?」

どうやらこの島は逃走を決して許さないようだ。
今日何度目かわからない決断の時が訪れる。殺し合いに乗るのか、乗らないのか。


「……ない……」
「え?」

「私だってわかんないよ!いきなりこんなところに放り込まれて殺すとか殺さないとか!いい加減にしてよ!
 死にたくないし誰も殺したくなんてない!でも誰かが死ななきゃみんな殺されちゃう……どうすればいいのよ……」

返答の代わりに、海美は感情を爆発させた。
一度瓦解したが最後、もう止められなかった。
自身の苛立ちと不安を朋花へと叩きつける。

「――海美さんも、ずっと心細かったのですね」

子供のように感情を昂ぶらせる海美に対し、朋花は――


「私でよければ話していただけませんか?」


海美に救いの手を差し伸べた。


   ◆   ◆   ◆


海美はこれまでの経緯と自身の胸中を朋花に打ち明けていた。
自分が何をすべきか見つける為に走り続けていたこと。
答えが出せずにずっと逃げていたこと。
仲間が襲われているかもしれないのに見捨てて走り去ったこと。

朋花も真剣に耳を傾ける。
その光景はさながら教会の懺悔室のようだ。

「ごめんね、こんな話して。でも、聞いてもらったらなんか楽になった気がする!ありがと、朋花様!」
「ふふ、神に仕える者として、当然の責務を果たしたまでですよ~♪」

高圧的な印象を持たれがちな朋花だが、彼女の根底は慈愛に満ちている。
プロデューサー相手には厳しい発言が目立つものの、本来はとても優しい少女だ。

「それにしても、やっぱり朋花様は強いなー。私なんて悩んでばっかりだったのに」
「……強くなんてありませんよ。現に私はまつりさんを救えませんでしたし……」
「まつりん?まつりんがどうかしたの?」

ふと朋花の表情が暗くなる。

「……彼女はこの殺し合いに乗っています」
「そんな!まつりんがそんなことするわけ……」
「私だって信じたくありません。ですが彼女自身がそう宣言したのです」

徳川まつり。一見何を考えているのかわからないが、その実誰よりも他者への気配りを徹底する少女。
かつて彼女の主催するパーティの運営を手伝ったこともある海美はそのことをよく理解している。
だからこそ朋花の発言を信じられなかった。しかし、ここで彼女が嘘をつくとも思えない。
まつり程の人物でも踏み止まれなかったのだ。事態は想像していた以上に深刻なのかもしれない。

「でもご安心ください。その程度の障害では私の覇道を脅かすことなんてできませんから~♪」
「覇道……?もしかして朋花様、何か企んでる?」

無邪気に、けれども不敵に朋花は微笑む。

「ええ、もちろん♪しかも海美さんが来てくださったおかげで素晴らしい妙案が浮かびましたよ~♪」
「え、私?」



「海美さん、天空騎士団に加わる気はありませんか?」



   ◆   ◆   ◆



高坂海美は走る。使命を全うする為に。
計画を聞いた海美はその後、朋花と別行動をとっていた。

『海美さんには引き続き島中を走り続けていただきたいのです。
 そして、殺し合いに反対していそうな方と出会ったらこう伝えてください。
 天空橋朋花がプロデューサーを倒す為の同志を募っている、と』

朋花の野望。それは『天空騎士団を再構築し、この殺し合いを壊滅させる』こと。
海美は仲間を探し出し、聖母の元へと集める尖兵の任を授かった。
とはいっても、とる行動はさして変わらない。
朋花の力になってくれそうな者を見つける為に『走る』。殺し合いに乗っていそうな者からは迷わず『逃げる』。
だが今は逃げる為に走るのではない。自分を救ってくれた聖母の愛に応える為、劇場の仲間を助ける為に走るのだ。

「待っててね朋花様!こんな島、日が暮れる前に一周しちゃうんだから!」

迷いを振り切った海鳥は今、大いなる天空へと羽ばたく。


【一日目/午前/F-7】

【高坂海美】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:走る/伝える
 1:恐怖。決断することへの恐れ。真っ直ぐであるが故の困惑。
 2:朋花に協力する。


   ◆   ◆   ◆


「やはり海美さんと合流できたのは僥倖でした~♪
 説明を最後まで聞かずにまつりさんのいる方へ向かおうとしたときは肝を冷やしましたが……」

海美に伝言を頼んだことは後に大きな実りとなるだろう。
協力者が増えれば増えるほど目的の遂行も容易になる。
もし彼女と合流することができたなら、参加者の大半の行動方針が明らかになるはずだ。
もちろんメリットばかりではない。殺人者が本心を偽り、紛れ込む可能性も十分に考えられる。
しかし、朋花は演技を得意とする徳川まつりの殺気すら見抜いたのだ。
生半可な実力の相手なら難なく迎撃できる。……銃器さえ所持していなければ。

それでも、強力な敵を引き寄せるリスクを背負うことになろうとも、仲間に召集をかけることは必要だった。
裏切り者の騎士を討伐し、死の恐怖に屈した姫君を退ける為には今以上の力を得なければならない。

天空騎士団。それは朋花に絶対の忠誠を誓い、地の果てまでも彼女を支える親衛隊の総称。

自分と対等に接してくれた仲間たちを騎士団として支配下に置くことに罪悪感はある。
だが、この島には海美のように道を見失い、今にも挫けてしまいそうな者が大勢いるのだ。
そんな彼女たちを救い、導く為には、絶対的な存在である聖母として君臨し続けなければならない。
大義の為に偽善者になる覚悟は出来ていた。

兎にも角にも、まずは銃器に対抗できるような武器の入手が最優先だろう。こればかりは海美に任せきりにはしておけない。

「うふふ、せいぜい首を洗って待っていてくださいね~、プロデューサーさん♪
 あなたを断罪する為の準備は着々と進んでいますよ~♪」


【一日目/午前/F-7】

【天空橋朋花】
[状態]健康、多少の動揺
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、不明支給品1~2(銃に匹敵するような武器はない)
[思考・行動]
基本:プロデューサーに罰を与える
 1:誰か人と合流する
 2:徳川まつりへの対策を考えておく


   ◆   ◆   ◆


天空橋朋花は指導者となる決意をし、殺し合いを打破する為の力を蓄え始めた。
それこそが、皮肉にも彼女が打ち倒さんとする徳川まつりの狙い通りだと気付く者は誰もいない。


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