旅は道連れ 2-402様
秋深まる森の夜はひっそりと静まり返り、ぱちぱちとはぜる焚き火の音と暖かさがマークを包む。
狼の遠吠えが時折聞こえることを除けば、フクロウもヨタカも鳴かぬ夜であった。
揺らめく炎が、踊るよう影を投げかけ、彼を眠りの園へといざなう。
マークは、毛布を体に巻いて横になった。星空を見上げながら、彼は少しだけ郷愁を覚えていた。当てもなく旅を始めて一年が過ぎた。そろそろ世界を見て回るというだけの旅はやめて、なにか確固たる目的をもった旅をしなければいけないと思う。
そんなことを思いながらうとうとしていた頃である。
次第に近づく、サクサクと落ち葉を踏む音に眠気が覚めた。
一体何かしら?鹿でも居るのかしら。狼なら大変だ。
鉈を手に取りこの音はなんだろうかと考える。焚き火を盾にしながらほんの数十秒を待つ。やがて、星影のなか、焚き火の炎に輝く双眸が見えた。闇にきらめくそれは、揺らめく鬼火のように見える。目の高さからするとかなりの背の高さがありそうだ。
息の詰まるような数十秒が過ぎた時である。
「○○○○ ○○○ ○○○○○○」
長い音節と、余り抑揚がない、なにやら、聞いたこともない言葉?が投げかけられた。
「なにかご用でしょうか?」
マークは困惑しながらも、相手に聞こえるように声を張り上げる。
意味がまったく解らないため、どうすればよいか解らない。
「あー ○○○○? ○○○○? ウルザ○? ○○○○? …」
マークの問いかけに、そいつも困惑したような調子でなにやら答える。どうやら本当に言葉が通じないようだが、その言葉の中にウルザという単語のみ聞き覚えがあった。
それははるか昔の言葉で、旧い口伝の伝承を伝え、理解するためのものだった。
老人達に聞くとまずこう教えられる。ウルザ語は "親しい隣人" と話すための言葉だ。
彼等とはなかなか逢えないけれど、今も森の中に居るのだと。
マークは記憶にある物語を思い出す。こんな時、どんなやり取りをやっていただろう。
狼の遠吠えが時折聞こえることを除けば、フクロウもヨタカも鳴かぬ夜であった。
揺らめく炎が、踊るよう影を投げかけ、彼を眠りの園へといざなう。
マークは、毛布を体に巻いて横になった。星空を見上げながら、彼は少しだけ郷愁を覚えていた。当てもなく旅を始めて一年が過ぎた。そろそろ世界を見て回るというだけの旅はやめて、なにか確固たる目的をもった旅をしなければいけないと思う。
そんなことを思いながらうとうとしていた頃である。
次第に近づく、サクサクと落ち葉を踏む音に眠気が覚めた。
一体何かしら?鹿でも居るのかしら。狼なら大変だ。
鉈を手に取りこの音はなんだろうかと考える。焚き火を盾にしながらほんの数十秒を待つ。やがて、星影のなか、焚き火の炎に輝く双眸が見えた。闇にきらめくそれは、揺らめく鬼火のように見える。目の高さからするとかなりの背の高さがありそうだ。
息の詰まるような数十秒が過ぎた時である。
「○○○○ ○○○ ○○○○○○」
長い音節と、余り抑揚がない、なにやら、聞いたこともない言葉?が投げかけられた。
「なにかご用でしょうか?」
マークは困惑しながらも、相手に聞こえるように声を張り上げる。
意味がまったく解らないため、どうすればよいか解らない。
「あー ○○○○? ○○○○? ウルザ○? ○○○○? …」
マークの問いかけに、そいつも困惑したような調子でなにやら答える。どうやら本当に言葉が通じないようだが、その言葉の中にウルザという単語のみ聞き覚えがあった。
それははるか昔の言葉で、旧い口伝の伝承を伝え、理解するためのものだった。
老人達に聞くとまずこう教えられる。ウルザ語は "親しい隣人" と話すための言葉だ。
彼等とはなかなか逢えないけれど、今も森の中に居るのだと。
マークは記憶にある物語を思い出す。こんな時、どんなやり取りをやっていただろう。
"こんばんは。隣人さん。側に来て、火に当たっておいきなさい"
ダメでもともとで、彼はこう話しかける。
しばし間が空いた。なにやら思案する気配のあと、このように返事が返ってきた。
しばし間が空いた。なにやら思案する気配のあと、このように返事が返ってきた。
"ありがとう、ウルザの言葉を話す方。それでは暖を取らせていただくことにしましょう。"
コツコツと足音を響かせて、そいつが焚き火をはさんでマークの正面に現れる。
まるで馬のように鼻面が長い顔。ねじれ伸びる二本の角。長く柔らかそうなたてがみ。
牛のような耳に数多くつけた耳飾と、やさしげに見える瞳が焚き火の明かりにきらきらと輝いている。
まるで馬のように鼻面が長い顔。ねじれ伸びる二本の角。長く柔らかそうなたてがみ。
牛のような耳に数多くつけた耳飾と、やさしげに見える瞳が焚き火の明かりにきらきらと輝いている。
着ているコートは、複雑な白地に黒の花柄模様が入った柔らかそうな毛皮で出来ていて、脛辺りから見える足には、二つに割れた蹄があった。
これは竜の人だ。マークはそう確信する。それは伝承に稀に出てくる者達だ。
そんな存在に言葉が通じたことに感動する。と同時に不安にもなる。いくら言葉が通じても危害を加えられない可能性がなくなったわけではないのだ。
これは竜の人だ。マークはそう確信する。それは伝承に稀に出てくる者達だ。
そんな存在に言葉が通じたことに感動する。と同時に不安にもなる。いくら言葉が通じても危害を加えられない可能性がなくなったわけではないのだ。
竜の人は毛皮のコートを脱いで近くの木にかけると、焚き火を中心とした、マークの右前に来ると、会釈のようなものをしながら腰を下ろした。
改めてそれを見る。良く肥えた草食獣のような身の詰まった体。胸にある牝牛のように張った乳房から、女ということが伺える。着ているものは、なめした皮の腰巻に胸当てだけで、嫌でもその豊満な体つきが目に入る。特徴はそれだけではない。彼女の尻にはワニのような太くて長い尾もついている。
マークは会釈を返すと、何を言っていい物かと思案した。
改めてそれを見る。良く肥えた草食獣のような身の詰まった体。胸にある牝牛のように張った乳房から、女ということが伺える。着ているものは、なめした皮の腰巻に胸当てだけで、嫌でもその豊満な体つきが目に入る。特徴はそれだけではない。彼女の尻にはワニのような太くて長い尾もついている。
マークは会釈を返すと、何を言っていい物かと思案した。
"はじめまして、小さなお方。私はシードラ。あなたは何というの?"
"えーと。僕はマーク。ここまで歩いて来ました"
シードラがなにやらああそうといい、少し微笑んだ。
"ごめんなさい。私はあまり、ウルザ語を話せないの。でも、他の言葉でも同じかな"
"いえ、僕も、ほとんど話せません"
"ごめんなさい。私はあまり、ウルザ語を話せないの。でも、他の言葉でも同じかな"
"いえ、僕も、ほとんど話せません"
共に何かぎこちないやりとりがしばらく続くと、二人はあまりしゃべることが無くなってしまった。いや、しゃべりたいのだが、自由に話すだけの語彙がないのだ。
シードラは少し退屈そうに喉を鳴らしたあと、なにやら気がついたようにごそごそと持ち物を探し始めた。そしてしばらくすると、にっこりとしてなにやら筒を取り出す。
"これ、一緒に飲みましょうか?"
ぽんと蓋を開けると、ピートの匂いがする。どうやら酒であるらしい。
シードラは水筒に口をつけると、一口のみ、その後それをマークに渡す。
おそるおそる鼻を近づけると、いっそう強いピートの匂いと、少しだけ甘い香りがした。
シードラの期待のまなざしが注がれるなか、マークもまねをしてごくりとそれを流し込んだ。
"!?"
とても強く刺激的な液体は、蒸留酒であった。マークはむせそうになるのを何とか押さえ一気に飲み込んだ。酒を飲むこと自体初めてで、しかも強い酒である。味はおろか、モノ自体の善し悪しも解らない。マークはふうと息を吐いた。その吐く息が熱い。
"僕は、初めて酒を飲みました。とても…強いのですね"
言いながらシードラに水筒を渡す。シードラは受け取ると、今度は勢いよく数回喉を鳴らした。
"この酒はね。私の故郷のものなの"
それだけ言って彼女はふうと息を吐いた。
「○○○○○○○○(一人さまよう旅は寂しいもの。わたしも、ずっと歩いてきたわ)」
そして、なにやら呟く。
そのつぶやきを聞きながら、マークはもうこの暑さを我慢できないでいた。しかも猛烈に眠い。これが酔いが回るという事なのだろうか。
"マーク?"
シードラが話しかける。
マークはそれになにやら答え、やがて一時もこらえられなくなり、その場で眠ってしまった。
「×××っ!?」
…
完全にマークが寝てしまうと、シードラはマークを膝にだきよせ空を仰いだ。そして息を吸うとゆっくりと歌い始める。
彼女の紡ぐ歌と旋律は、どこか懐かしく、そしてもの悲しく夜の森に消えていった。
シードラは少し退屈そうに喉を鳴らしたあと、なにやら気がついたようにごそごそと持ち物を探し始めた。そしてしばらくすると、にっこりとしてなにやら筒を取り出す。
"これ、一緒に飲みましょうか?"
ぽんと蓋を開けると、ピートの匂いがする。どうやら酒であるらしい。
シードラは水筒に口をつけると、一口のみ、その後それをマークに渡す。
おそるおそる鼻を近づけると、いっそう強いピートの匂いと、少しだけ甘い香りがした。
シードラの期待のまなざしが注がれるなか、マークもまねをしてごくりとそれを流し込んだ。
"!?"
とても強く刺激的な液体は、蒸留酒であった。マークはむせそうになるのを何とか押さえ一気に飲み込んだ。酒を飲むこと自体初めてで、しかも強い酒である。味はおろか、モノ自体の善し悪しも解らない。マークはふうと息を吐いた。その吐く息が熱い。
"僕は、初めて酒を飲みました。とても…強いのですね"
言いながらシードラに水筒を渡す。シードラは受け取ると、今度は勢いよく数回喉を鳴らした。
"この酒はね。私の故郷のものなの"
それだけ言って彼女はふうと息を吐いた。
「○○○○○○○○(一人さまよう旅は寂しいもの。わたしも、ずっと歩いてきたわ)」
そして、なにやら呟く。
そのつぶやきを聞きながら、マークはもうこの暑さを我慢できないでいた。しかも猛烈に眠い。これが酔いが回るという事なのだろうか。
"マーク?"
シードラが話しかける。
マークはそれになにやら答え、やがて一時もこらえられなくなり、その場で眠ってしまった。
「×××っ!?」
…
完全にマークが寝てしまうと、シードラはマークを膝にだきよせ空を仰いだ。そして息を吸うとゆっくりと歌い始める。
彼女の紡ぐ歌と旋律は、どこか懐かしく、そしてもの悲しく夜の森に消えていった。
マークが目が覚ますと、まだ夜は明けていなかった。夜明け前の闇に森は静まりかえっている。
酒は消えているようだが、体が熱く何やら重い。と、そこで彼は、シードラと一緒に寝ていることに気がついた。分厚いコートの中で、彼女は後ろから彼を抱きかかえるようにして眠っている。体格差があまりにもあるため、マークは丸まったシードラのなかにすっぽりと収まっている。マークがそっと匂いをかぐと、彼女からは土とピートと、そしてなにか麝香のような香りがした。彼女の温かみ、それに土とピートの匂いは、森の落ち葉の匂いと混じり合って仕事を終えたばかり母を感じさせた。
(すこしは甘えてもいいかな…)
そんな一瞬の火花のような思いと誘惑に負け、マークはもそもそと向きを変え、その豊かな胸に顔を埋め、目を閉じた。それに気がついたシードラは、少し微笑むと目を閉じる。
もう少しこうしていよう。夜明け前の闇が一番濃いのだ。何も起きている必要など無い。
酒は消えているようだが、体が熱く何やら重い。と、そこで彼は、シードラと一緒に寝ていることに気がついた。分厚いコートの中で、彼女は後ろから彼を抱きかかえるようにして眠っている。体格差があまりにもあるため、マークは丸まったシードラのなかにすっぽりと収まっている。マークがそっと匂いをかぐと、彼女からは土とピートと、そしてなにか麝香のような香りがした。彼女の温かみ、それに土とピートの匂いは、森の落ち葉の匂いと混じり合って仕事を終えたばかり母を感じさせた。
(すこしは甘えてもいいかな…)
そんな一瞬の火花のような思いと誘惑に負け、マークはもそもそと向きを変え、その豊かな胸に顔を埋め、目を閉じた。それに気がついたシードラは、少し微笑むと目を閉じる。
もう少しこうしていよう。夜明け前の闇が一番濃いのだ。何も起きている必要など無い。
次の朝。旅をする人影はもはや一人ではなかった。マークは考える。彼女なら古くそして新しい世界に導いてくれる。伝承や伝説をまとめ、後の世に残すのだと。
シードラも考える。私はこの子と行く。もう一度、この子と共に同じ種族を探そう。
一人より二人。二つの目よりも四つの目。きっと見つかる。
"さあ、マーク。まずはどこに行きましょうか?"
"まずは北へ。それと…シードラさんの言葉を教えて欲しいんだ"
シードラも考える。私はこの子と行く。もう一度、この子と共に同じ種族を探そう。
一人より二人。二つの目よりも四つの目。きっと見つかる。
"さあ、マーク。まずはどこに行きましょうか?"
"まずは北へ。それと…シードラさんの言葉を教えて欲しいんだ"
旅は道連れ。この世は、寄り添って行かねば生きづらいのだ。
imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。