人外と人間
戦闘ロボと女の子 冷たい手 和姦
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冷たい手 903 ◆AN26.8FkH6様
青い空に黒い煙が空に幾筋も登っている。
建物も人もなにもかも、どこもかしこも綺麗に焼けて、かつて街だったはずのそこは、一面の焼け野原だった。
耳をつんざく様な甲高い音が空を横切り、音の後から白い線が青空を横断していく。
白いチョークで描かれたようなまっすぐな飛行機雲。
黒焦げの遺体を掘り出し瓦礫の片づけをしていた住民達は皆、それを見て一瞬うんざりとした表情を浮かべ、そしてまた無表情に作業へ戻っていった。
「ありゃ、戦闘機だ」
「嫌だねェ、この間和平条約結んだばかりだろうに」
「長年続いてる小競り合いが一時休止しただけだろ、またいつ始まるかもわからんさ」
ボソボソと小声で囁かれる会話が、聞くとはなしに耳に入る。
黙って、作業をした。苦労してどかした、崩れた民家の下から出てきた、真っ黒に炭化した親子の遺体。固く抱き合った男女らしき二人の間には、性別もわからない小さな子供。
何か祈ってやればいいのだろうか。だが、祈りの言葉など、銃口を向けた時の敵の『神よ…』や『助けてくれ』『死にたくない』ぐらいしか知らず、この親子を送り出す言葉も知らなかった。
神という存在など信じてはいない。信じてはいないのに、祈りの言葉を捜す自分は滑稽だ。
建物も人もなにもかも、どこもかしこも綺麗に焼けて、かつて街だったはずのそこは、一面の焼け野原だった。
耳をつんざく様な甲高い音が空を横切り、音の後から白い線が青空を横断していく。
白いチョークで描かれたようなまっすぐな飛行機雲。
黒焦げの遺体を掘り出し瓦礫の片づけをしていた住民達は皆、それを見て一瞬うんざりとした表情を浮かべ、そしてまた無表情に作業へ戻っていった。
「ありゃ、戦闘機だ」
「嫌だねェ、この間和平条約結んだばかりだろうに」
「長年続いてる小競り合いが一時休止しただけだろ、またいつ始まるかもわからんさ」
ボソボソと小声で囁かれる会話が、聞くとはなしに耳に入る。
黙って、作業をした。苦労してどかした、崩れた民家の下から出てきた、真っ黒に炭化した親子の遺体。固く抱き合った男女らしき二人の間には、性別もわからない小さな子供。
何か祈ってやればいいのだろうか。だが、祈りの言葉など、銃口を向けた時の敵の『神よ…』や『助けてくれ』『死にたくない』ぐらいしか知らず、この親子を送り出す言葉も知らなかった。
神という存在など信じてはいない。信じてはいないのに、祈りの言葉を捜す自分は滑稽だ。
その日一日は、瓦礫を掘り出す作業で終わった。明日も同じ作業で終わるに違いない。
明後日も、明々後日も、そしてその先の先の先の日も。
夕焼けで赤く染まった橋の上を歩いていると、橋の真ん中で小さな影が橋の柵を乗り越えようとしているのが見えた。キラキラと夕日を受けて、影が金色に揺れた。
何も考えなかった。反射的に内焼エンジンに火が入り、鉄の体に膂力が生み出される。
一歩踏み出した足が、普通の人間を越える長い距離を踏み出し、その次の足がさらに遠くを踏みしめる。さらに次の足。さらに次の足。前へ、ひたすら前へ。
一瞬で景色が流れ、目標到達まで数秒とはかからなかった。手を伸ばす。
小さな影が衣服を引っ掛けながら苦労して柵を乗り越えた瞬間、その首根っこを。
「いやぁああああああああッ!!!!離して!!離してェエエエエ!!!!」
叫ぶ声は高く、身体に回したもう一つの手を無茶苦茶に叩きながら、小さな体が暴れた。
それに構わず柵の内側、橋の上へ下ろすと、金色の髪を振り乱し、緑の眼からボロボロと水滴を零し、こちらへ殴りかかってきた。
まだ幼い少女だった。
今日見た、親子の遺体、真ん中に抱えられていた子供よりは少し上だろう。
「と、とうさんとかあさんのとこにっ二人に会いにいくの…っ
ばか!ばかばかばか!!ジャマして!!なんでジャマするの!!」
小さな手が金属を叩いてペコペコと音を立てている。
その手を握りつぶさないように、慎重に握った。手を傷める。
「冷たい!!はなして!!あんたなんかきらい!!とうさんやかあさんをもやしたくせに!」
それは自分ではなく敵国の機兵だと言おうとしたが、黙った。
命令を受けて戦い、兵士の民の命を刈り取っていく機兵に何の違いがあろうか。
自分も、そして彼女の家族を奪った機兵も全く、同一の存在と言ってよかった。
この国は疲弊しており、今や戦闘員の8割は機兵で占められている。
小規模戦闘が毎日のように起こり、国境に近い都市は深く傷つき、今こうして一時的な和平条約が結ばれ、つかの間の静寂が起こっているとはいえ、いつ前線に戻るかわからない。
それは相手国も鏡合わせのように同じ状況であり、疲弊した国土復興の為、前線から多くの機兵が瓦礫の下の遺体を掘り出しているのだろう。
「しね!おまえなんかしね!しね!!」
何度も何度も、手を押さえられた彼女は自分を蹴りつけていた。それは彼女の足が痛くなるだけだと指摘しようとも思ったが、やはり何か言うのは止めた。
緑の眼に映る巨大な黒い金属の異形は歪んでいて、歪んだ像が映りこんだ熱い水滴がふっくらとした頬を伝わっては地面に転がり落ち、吸い込まれていった。
そのうちに地面に座り込み、ゼエゼエと喉を鳴らしながらそれでもまだ嗚咽を続ける彼女を抱上げ、配給所へ向かった。
椀を取ってきてスプーンと一緒に握らせると、スープの配膳を受けるよう促す。
憎悪と戸惑いの入り混じった眼で私を見ていた幼子は、差し出された暖かな液体にころりと顔を崩し、そのうちにうとうととした眼を閉じ、自分にもたれかかってゆらゆらと身体を揺らした。
配られた毛布に包んでやり、横にいた。
夜が明け、彼女が起きるまで横にいた。
そして、彼女が起きてからも。
明後日も、明々後日も、そしてその先の先の先の日も。
夕焼けで赤く染まった橋の上を歩いていると、橋の真ん中で小さな影が橋の柵を乗り越えようとしているのが見えた。キラキラと夕日を受けて、影が金色に揺れた。
何も考えなかった。反射的に内焼エンジンに火が入り、鉄の体に膂力が生み出される。
一歩踏み出した足が、普通の人間を越える長い距離を踏み出し、その次の足がさらに遠くを踏みしめる。さらに次の足。さらに次の足。前へ、ひたすら前へ。
一瞬で景色が流れ、目標到達まで数秒とはかからなかった。手を伸ばす。
小さな影が衣服を引っ掛けながら苦労して柵を乗り越えた瞬間、その首根っこを。
「いやぁああああああああッ!!!!離して!!離してェエエエエ!!!!」
叫ぶ声は高く、身体に回したもう一つの手を無茶苦茶に叩きながら、小さな体が暴れた。
それに構わず柵の内側、橋の上へ下ろすと、金色の髪を振り乱し、緑の眼からボロボロと水滴を零し、こちらへ殴りかかってきた。
まだ幼い少女だった。
今日見た、親子の遺体、真ん中に抱えられていた子供よりは少し上だろう。
「と、とうさんとかあさんのとこにっ二人に会いにいくの…っ
ばか!ばかばかばか!!ジャマして!!なんでジャマするの!!」
小さな手が金属を叩いてペコペコと音を立てている。
その手を握りつぶさないように、慎重に握った。手を傷める。
「冷たい!!はなして!!あんたなんかきらい!!とうさんやかあさんをもやしたくせに!」
それは自分ではなく敵国の機兵だと言おうとしたが、黙った。
命令を受けて戦い、兵士の民の命を刈り取っていく機兵に何の違いがあろうか。
自分も、そして彼女の家族を奪った機兵も全く、同一の存在と言ってよかった。
この国は疲弊しており、今や戦闘員の8割は機兵で占められている。
小規模戦闘が毎日のように起こり、国境に近い都市は深く傷つき、今こうして一時的な和平条約が結ばれ、つかの間の静寂が起こっているとはいえ、いつ前線に戻るかわからない。
それは相手国も鏡合わせのように同じ状況であり、疲弊した国土復興の為、前線から多くの機兵が瓦礫の下の遺体を掘り出しているのだろう。
「しね!おまえなんかしね!しね!!」
何度も何度も、手を押さえられた彼女は自分を蹴りつけていた。それは彼女の足が痛くなるだけだと指摘しようとも思ったが、やはり何か言うのは止めた。
緑の眼に映る巨大な黒い金属の異形は歪んでいて、歪んだ像が映りこんだ熱い水滴がふっくらとした頬を伝わっては地面に転がり落ち、吸い込まれていった。
そのうちに地面に座り込み、ゼエゼエと喉を鳴らしながらそれでもまだ嗚咽を続ける彼女を抱上げ、配給所へ向かった。
椀を取ってきてスプーンと一緒に握らせると、スープの配膳を受けるよう促す。
憎悪と戸惑いの入り混じった眼で私を見ていた幼子は、差し出された暖かな液体にころりと顔を崩し、そのうちにうとうととした眼を閉じ、自分にもたれかかってゆらゆらと身体を揺らした。
配られた毛布に包んでやり、横にいた。
夜が明け、彼女が起きるまで横にいた。
そして、彼女が起きてからも。
相変わらず彼女は憎悪の眼で自分を見た。
その眼はそのうちに柔らかい光を浮かべるようになり、瓦礫を掘り起こす自分の後をよくついて回るようになり、自分の名をネリだと名乗り、自分をビスと呼ぶようになった。
ビスとは、生まれるはずだった弟の名前で、母の腹の中にいたのだと言った。
よりどころをなくした人間は、別なよりどころを求めるのだろう。幼い頭で命を絶とうと考えるまでに絶望していた彼女の新しいよりどころが自分という訳だ。
この手は大勢の人間を屠ってきて、彼女のような境遇の子供を幾人作り出したかわからないのに。
戦闘員も非戦闘員も多く殺し、中には年端の行かぬ子供だって数え切れぬほど殺した。
矛盾を感じる。
最近何度も、自分の存在に矛盾を感じる。矛盾はエラー信号となって、金属の頭蓋の中で木霊する。
矛盾の原因の一端であるネリは、そんな時、何故か自分の頭を撫でる。
何も言わずに撫でてくるので、黙って撫でられると、ネリは眼を細めて笑う。
エラー信号が酷くなる。
その眼はそのうちに柔らかい光を浮かべるようになり、瓦礫を掘り起こす自分の後をよくついて回るようになり、自分の名をネリだと名乗り、自分をビスと呼ぶようになった。
ビスとは、生まれるはずだった弟の名前で、母の腹の中にいたのだと言った。
よりどころをなくした人間は、別なよりどころを求めるのだろう。幼い頭で命を絶とうと考えるまでに絶望していた彼女の新しいよりどころが自分という訳だ。
この手は大勢の人間を屠ってきて、彼女のような境遇の子供を幾人作り出したかわからないのに。
戦闘員も非戦闘員も多く殺し、中には年端の行かぬ子供だって数え切れぬほど殺した。
矛盾を感じる。
最近何度も、自分の存在に矛盾を感じる。矛盾はエラー信号となって、金属の頭蓋の中で木霊する。
矛盾の原因の一端であるネリは、そんな時、何故か自分の頭を撫でる。
何も言わずに撫でてくるので、黙って撫でられると、ネリは眼を細めて笑う。
エラー信号が酷くなる。
街と配給所を行ったりきたりする生活が幼子にとって良い訳はない。
救済教会で孤児の面倒を見てくれるという。そこに連れて行こうとすると、最初に会ったときのように泣き喚き、転がって暴れ、懇願する。離れたくないという。
何度かそのやり取りを繰り返し、エラー信号が頭蓋の中でわんわんと反響する。
ついでに、椀やら水差しやらを投げつけてくるので、仕方なくしばらくは共にいると言った。
これ以上配給所のキャンプ場で騒いでいては周囲に迷惑だと判断する。
少し、エラーが収まる。
救済教会で孤児の面倒を見てくれるという。そこに連れて行こうとすると、最初に会ったときのように泣き喚き、転がって暴れ、懇願する。離れたくないという。
何度かそのやり取りを繰り返し、エラー信号が頭蓋の中でわんわんと反響する。
ついでに、椀やら水差しやらを投げつけてくるので、仕方なくしばらくは共にいると言った。
これ以上配給所のキャンプ場で騒いでいては周囲に迷惑だと判断する。
少し、エラーが収まる。
「あたし、ビスのお嫁さんになったげる」
相変わらずネリは自分の後を付いて回る。自分が瓦礫を掘り起こしていると、近くで遊び、泥ダンゴを量産しながらそんな事をいう。そして泥ダンゴを差し出してきて「はいどうぞ」と言う。
自分は「いただきます」という。一連の動作はルーチンワーク化され、彼女が後ろで「はいどうぞ」という度にそちらを振り向かず作業を続けながら、「ネリのお料理は美味しい」
などとつけくわえる。
ネリは少し大きくなり、身長が高くなる。
相変わらずネリは自分の後を付いて回る。自分が瓦礫を掘り起こしていると、近くで遊び、泥ダンゴを量産しながらそんな事をいう。そして泥ダンゴを差し出してきて「はいどうぞ」と言う。
自分は「いただきます」という。一連の動作はルーチンワーク化され、彼女が後ろで「はいどうぞ」という度にそちらを振り向かず作業を続けながら、「ネリのお料理は美味しい」
などとつけくわえる。
ネリは少し大きくなり、身長が高くなる。
ネリが初潮を迎える。
朝、毛布の中から「お腹がいたい……」と訴えてくるので毛布を捲ると、下半身、下腹部から出血していた。毛布で巻いて救済教会に駆け込む。
頭の中に詰め込まれたデータの一つに該当する症状があり、それは成長による女性ホルモンの分泌により子宮内壁が剥がれ落ちて血液とともに体外へ排出される女性特有の生理的出血であり、生命活動に危機を及ぼす病状ではない事を指し示している。
それでも、頭の中でがなりたてるアラームはいままでに感じたどんなエラー信号よりも深く自分に行動を促し、できるだけ静かに、できるだけ丁寧に、できるだけ優しくネリを運搬する。
自分では適切な処置が取れない事、国民の命を出来るだけ守らねばならないという命令があんなエラー音を出させたのだ。
多分、あのエラー音が『苦痛』であるとこの時思う。
救済教会でネリをしばらく預かってもらう。
頭蓋のどこかで、かすかなエラー信号が鳴る。エラーの理由はわからない。もうずっとわからない。
いつか、致命的なエラーが起こるのではと思う。
朝、毛布の中から「お腹がいたい……」と訴えてくるので毛布を捲ると、下半身、下腹部から出血していた。毛布で巻いて救済教会に駆け込む。
頭の中に詰め込まれたデータの一つに該当する症状があり、それは成長による女性ホルモンの分泌により子宮内壁が剥がれ落ちて血液とともに体外へ排出される女性特有の生理的出血であり、生命活動に危機を及ぼす病状ではない事を指し示している。
それでも、頭の中でがなりたてるアラームはいままでに感じたどんなエラー信号よりも深く自分に行動を促し、できるだけ静かに、できるだけ丁寧に、できるだけ優しくネリを運搬する。
自分では適切な処置が取れない事、国民の命を出来るだけ守らねばならないという命令があんなエラー音を出させたのだ。
多分、あのエラー音が『苦痛』であるとこの時思う。
救済教会でネリをしばらく預かってもらう。
頭蓋のどこかで、かすかなエラー信号が鳴る。エラーの理由はわからない。もうずっとわからない。
いつか、致命的なエラーが起こるのではと思う。
救済教会を訪ねると、ネリが沈んでいくのに気がついた。
体調がまだ思わしくないのか、何か気にかかることでもあるのかと尋ねてみると、彼女は少し泣きそうな顔で笑った。
「ねえ、ビス。あたしって大人かな」
初潮を迎え、受胎可能になったことを指すのならば大人といえなくもないのだろうか?だが成長したとはいえまだ小さく未成熟な少女を大人と言うのは語弊がある。少なくとも大人というのは成人した者を言うのではないか。そう言うと、「ビスはすぐむずかしい言葉を使う」とネリが少しふくれた。自分は少し思案してから、ネリの頭を慎重に撫でた。
「まだ子供と言う事だ」
「よかった!!」
パッとネリの顔が明るくなる。何か言われたのだろうか。大人だから、といったニュアンスの事を。
ネリは自分の手を頭から外し、胸に抱え込んだ。
「ビスの手は冷たいね」
「金属で出来ているから、外気で冷えるんだ」
「あたしの手ってあったかい?」
「ネリの手に触られた箇所の温度が上昇している。逆に、ネリの手の温度が下がっている。熱が平均化する」
「よくわかんない」
「つまりネリと自分の手の温度が一緒になる」
「ビスもあったかくなるということだよね?」
「ネリの手が冷たくなるとも言う」
ビスがあったまるならいいよとネリが笑った。その頬をやはり慎重に撫でた。
やっぱり冷たいといってネリがまた笑う。
頭蓋の中のエラー信号は無視した。
体調がまだ思わしくないのか、何か気にかかることでもあるのかと尋ねてみると、彼女は少し泣きそうな顔で笑った。
「ねえ、ビス。あたしって大人かな」
初潮を迎え、受胎可能になったことを指すのならば大人といえなくもないのだろうか?だが成長したとはいえまだ小さく未成熟な少女を大人と言うのは語弊がある。少なくとも大人というのは成人した者を言うのではないか。そう言うと、「ビスはすぐむずかしい言葉を使う」とネリが少しふくれた。自分は少し思案してから、ネリの頭を慎重に撫でた。
「まだ子供と言う事だ」
「よかった!!」
パッとネリの顔が明るくなる。何か言われたのだろうか。大人だから、といったニュアンスの事を。
ネリは自分の手を頭から外し、胸に抱え込んだ。
「ビスの手は冷たいね」
「金属で出来ているから、外気で冷えるんだ」
「あたしの手ってあったかい?」
「ネリの手に触られた箇所の温度が上昇している。逆に、ネリの手の温度が下がっている。熱が平均化する」
「よくわかんない」
「つまりネリと自分の手の温度が一緒になる」
「ビスもあったかくなるということだよね?」
「ネリの手が冷たくなるとも言う」
ビスがあったまるならいいよとネリが笑った。その頬をやはり慎重に撫でた。
やっぱり冷たいといってネリがまた笑う。
頭蓋の中のエラー信号は無視した。
ネリの側にいるとエラーが起こり、ネリと離れていてもエラーが起こる。
ならば、どこにいても同じなのではないか。
ここ数年戦闘命令も出ず、自分に与えられた『街の復興に努め、市民の安寧を守れ』にはネリが含まれる。ネリの安寧を守る事と与えられたコマンドは矛盾しない。
ネリの側にい続けてもいいのではないか。都合のいい結論である。詭弁である。
だが、エラー信号にまみれた電子脳は己の都合のよい結論を支持した。
夜中、暗い資材置き場の片隅に立ちながら、自分はそう結論を下した。ネリの側にいる。
その時、人の耳では聞こえないかすかな喧騒がセンサーに飛び込んできた。
悲鳴と怒号と怒声と笑い声。硝子の割れる音。足音。
悲鳴が女の悲鳴であることに気がついたときには、身体はもう走り出していた。
内焼機関に火が入り、各部のリミッターが外れ、景色がみるみるうちに流れ出し、視界がナイトスコープビジョンに切り替わり、鮮明な明るさが広がる。
以前に繁華街だった区画、そこから聞こえてくる悲鳴は間違いなく女性のもので、聞き覚えがあり………ネリだ。
何故、安全な地区に立つ救済教会にいるはずの彼女がこんなところに。
そうだネリの安寧を守らねば。ネリを守らねば。ネリを。ネリをネリをネリをネリを彼女をネリネリネリネリネリネリネリネリネリネリネリネリRRRRRRrrrrrrrrrrrrrrr亜qwセdrftgyふじこlp;nnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnrrrrrrrrrrrryyyyyyyyyyynhyujnkml;01010101010111111111111111100000101010100111000110101010100000000
ならば、どこにいても同じなのではないか。
ここ数年戦闘命令も出ず、自分に与えられた『街の復興に努め、市民の安寧を守れ』にはネリが含まれる。ネリの安寧を守る事と与えられたコマンドは矛盾しない。
ネリの側にい続けてもいいのではないか。都合のいい結論である。詭弁である。
だが、エラー信号にまみれた電子脳は己の都合のよい結論を支持した。
夜中、暗い資材置き場の片隅に立ちながら、自分はそう結論を下した。ネリの側にいる。
その時、人の耳では聞こえないかすかな喧騒がセンサーに飛び込んできた。
悲鳴と怒号と怒声と笑い声。硝子の割れる音。足音。
悲鳴が女の悲鳴であることに気がついたときには、身体はもう走り出していた。
内焼機関に火が入り、各部のリミッターが外れ、景色がみるみるうちに流れ出し、視界がナイトスコープビジョンに切り替わり、鮮明な明るさが広がる。
以前に繁華街だった区画、そこから聞こえてくる悲鳴は間違いなく女性のもので、聞き覚えがあり………ネリだ。
何故、安全な地区に立つ救済教会にいるはずの彼女がこんなところに。
そうだネリの安寧を守らねば。ネリを守らねば。ネリを。ネリをネリをネリをネリを彼女をネリネリネリネリネリネリネリネリネリネリネリネリRRRRRRrrrrrrrrrrrrrrr亜qwセdrftgyふじこlp;nnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnrrrrrrrrrrrryyyyyyyyyyynhyujnkml;01010101010111111111111111100000101010100111000110101010100000000
ネリ、
男達は、己の死に気がつかなかった。
こんな夜中に、寝巻きにストールを巻きつけただけの無防備な少女を見つけた時、己の幸運に感謝したごろつきどもは、彼女を組み敷きながら酒を飲みまわし、大いに気勢をあげ、騒いでいた。そのせいで、死が、冷たい鉄で出来た機兵の形をして飛び込んでくるのに気がつかなかった。
胸元で交差する両手から飛び出した薄いブレードが、空中に大きく孤を描いた。
少女を組み敷いていた男の首が空中に飛び、噴水のように生暖かな液体が周囲に飛び散った。
泣き叫んでいた少女は泣くのを忘れ、路地の入口を見た。
金属で覆われたシンプルな顔に赤い光が灯っていた。よく知った顔がそこにいた。
よく知っているはずだった。
機兵は入口近くに立っていた男の胸を貫き、少女の手足を押さえていた男達の顔面に両手のブレードを叩き込んだ。ごろつき共の顔面に冷たい金属が突き立てられ、鼻を割り眼球を断ち切り頭蓋骨を粉砕して、後頭部まで一気に貫く。
両手を引くと、男達が脳漿と血を撒き散らして倒れた。石畳がそいつらから染み出した生暖かな液体で覆われていく。
4人。4人の命が一瞬で、あっさりと消えた。一瞬だった。
赤い眼が、少女を見た。
この機兵は、少女がよく知っている者によく似ていたし、対極的に似ていなかった。
ああ彼は、本当に兵器だったのだなあと少女は思った。
むせ返るような生暖かく、生臭い血気が充満したこの狭い空間で、少女と機兵は見つめ合っていた。
カシャンと音を立てて、機兵の手にブレードが収納される。
少女の顔に跳ねた返り血を拭こうかと少し手を伸ばし、そして機兵は止まった。
こんな夜中に、寝巻きにストールを巻きつけただけの無防備な少女を見つけた時、己の幸運に感謝したごろつきどもは、彼女を組み敷きながら酒を飲みまわし、大いに気勢をあげ、騒いでいた。そのせいで、死が、冷たい鉄で出来た機兵の形をして飛び込んでくるのに気がつかなかった。
胸元で交差する両手から飛び出した薄いブレードが、空中に大きく孤を描いた。
少女を組み敷いていた男の首が空中に飛び、噴水のように生暖かな液体が周囲に飛び散った。
泣き叫んでいた少女は泣くのを忘れ、路地の入口を見た。
金属で覆われたシンプルな顔に赤い光が灯っていた。よく知った顔がそこにいた。
よく知っているはずだった。
機兵は入口近くに立っていた男の胸を貫き、少女の手足を押さえていた男達の顔面に両手のブレードを叩き込んだ。ごろつき共の顔面に冷たい金属が突き立てられ、鼻を割り眼球を断ち切り頭蓋骨を粉砕して、後頭部まで一気に貫く。
両手を引くと、男達が脳漿と血を撒き散らして倒れた。石畳がそいつらから染み出した生暖かな液体で覆われていく。
4人。4人の命が一瞬で、あっさりと消えた。一瞬だった。
赤い眼が、少女を見た。
この機兵は、少女がよく知っている者によく似ていたし、対極的に似ていなかった。
ああ彼は、本当に兵器だったのだなあと少女は思った。
むせ返るような生暖かく、生臭い血気が充満したこの狭い空間で、少女と機兵は見つめ合っていた。
カシャンと音を立てて、機兵の手にブレードが収納される。
少女の顔に跳ねた返り血を拭こうかと少し手を伸ばし、そして機兵は止まった。
ネリがこちらを見ていた。
白い肌には盛大に赤が飛び、着ている薄いリネンの寝巻きの裾は、いまだ流れ出す血で汚されていた。
血溜まりの中でネリがこちらを見ている。硝子のような緑の眼に映る黒い金属の人影。
エラー信号が続いている。
ネリ。
ネリ。
ネリ。
ネリ。
白い肌には盛大に赤が飛び、着ている薄いリネンの寝巻きの裾は、いまだ流れ出す血で汚されていた。
血溜まりの中でネリがこちらを見ている。硝子のような緑の眼に映る黒い金属の人影。
エラー信号が続いている。
ネリ。
ネリ。
ネリ。
ネリ。
ネリ。
何か彼女に声をかけようと思い、彼女の顔を拭こうと思い、手を伸ばしたところで自分の手先が真っ赤になっているのに気がついた。
こんな手で彼女を触ったら、彼女が汚れてしまう。
彼女を、ネリを汚してはならない。
人を殺すのは汚れか?ならば、当の昔に自分は汚れきっていて、本当はネリに触ってはいけなかったのだ。
ネリに触ってはいけなかったのだ。
今も、自分が作り出した4体の屍に罪を感じない。何故なら自分は己に課せられた義務を、命令を忠実に遂行しただけなのだから。市民の安寧を守り、ネリの安寧を守る。
犯罪者、暴徒に対しては非戦闘員であっても攻撃が許されている。
だが、それを実行し続けた結果、自分は汚れきっていたと言う事に、今、気がついた。
このエラー音、鳴り響き、木霊のように広がるエラー音は、そのことだったのだ。
触ってはいけない、ネリに触ってはいけない。
こんな手で彼女を触ったら、彼女が汚れてしまう。
彼女を、ネリを汚してはならない。
人を殺すのは汚れか?ならば、当の昔に自分は汚れきっていて、本当はネリに触ってはいけなかったのだ。
ネリに触ってはいけなかったのだ。
今も、自分が作り出した4体の屍に罪を感じない。何故なら自分は己に課せられた義務を、命令を忠実に遂行しただけなのだから。市民の安寧を守り、ネリの安寧を守る。
犯罪者、暴徒に対しては非戦闘員であっても攻撃が許されている。
だが、それを実行し続けた結果、自分は汚れきっていたと言う事に、今、気がついた。
このエラー音、鳴り響き、木霊のように広がるエラー音は、そのことだったのだ。
触ってはいけない、ネリに触ってはいけない。
「教会に、戻りなさい」
手を引き、そう言った。
ネリが、硝子のような眼でこちらを見ている。
「ここは治安が悪い。夜中に歩いてはいけない。教会に、戻りなさい」
繰り返した。身動きしないネリにもう一度繰り返そうとした時、薄い唇が自分の名を呼んだ。
「ビス」
「君がビスと呼ぶ固体であるというならその通りだ」
「何で名前、呼んで、くれないの」
「………」
ネリが立ち上がった。寝巻きは血で汚れ、裾が破られてはいたが、ネリに大きな外傷は見当たらない。安堵する。そして、安堵という感情に、戸惑う。
胸が少し暖かくなるような、安心という、心地よい、感情。ネリ。
「さむい」
「え?」
「さむいの。あ、足がまだガクガクしてるし、と、とっても!とっても怖かったの!!」
言いながら、今更恐怖を思い出したように、また眼からボロボロと涙がこぼれてきて、慌てて彼女を抱きしめた。慎重に。
「怖かった!!怖かったよビス!!すごく嫌だった!!こ、こんなところで、死ぬんじゃないかって思って!!あんな奴等に、全部奪われるんじゃないかって!!」
自分に抱きついてきたネリは、わんわんと泣いた。血で汚れたまま、ずっと彼女を抱きしめていた。
血溜まりの中、4体の屍が転がる暗い路地で、ネリはいつまでも泣いていた。
手を引き、そう言った。
ネリが、硝子のような眼でこちらを見ている。
「ここは治安が悪い。夜中に歩いてはいけない。教会に、戻りなさい」
繰り返した。身動きしないネリにもう一度繰り返そうとした時、薄い唇が自分の名を呼んだ。
「ビス」
「君がビスと呼ぶ固体であるというならその通りだ」
「何で名前、呼んで、くれないの」
「………」
ネリが立ち上がった。寝巻きは血で汚れ、裾が破られてはいたが、ネリに大きな外傷は見当たらない。安堵する。そして、安堵という感情に、戸惑う。
胸が少し暖かくなるような、安心という、心地よい、感情。ネリ。
「さむい」
「え?」
「さむいの。あ、足がまだガクガクしてるし、と、とっても!とっても怖かったの!!」
言いながら、今更恐怖を思い出したように、また眼からボロボロと涙がこぼれてきて、慌てて彼女を抱きしめた。慎重に。
「怖かった!!怖かったよビス!!すごく嫌だった!!こ、こんなところで、死ぬんじゃないかって思って!!あんな奴等に、全部奪われるんじゃないかって!!」
自分に抱きついてきたネリは、わんわんと泣いた。血で汚れたまま、ずっと彼女を抱きしめていた。
血溜まりの中、4体の屍が転がる暗い路地で、ネリはいつまでも泣いていた。
ネリと出会ってから数年がたつ。
焼け野原だった町の復興も進み、焼け出された住民の仮の宿であった配給所近くのバラックにはもう住民は殆どいない。近く、8割を撤去する予定になっている。
その一つにネリを運び込み、資材置き場から毛布や水、傷薬などを調達してきた。
清潔なタオルを濡らし、ネリの顔や身体を慎重に拭いてやる。
寝巻きの下も特に大きな外傷はなく、手足の擦り傷ぐらいだった。やはり安堵し、安堵するという自分に戸惑う。ネリは黙ってされるがままになっていた。
ネリの肢体はどこもかしこも白く細く、人間というのはこんなに華奢だったのかと改めて思う。
今ネリは、下着姿だ。薄いスリップに、下着一枚。全く無防備な姿だった。
多分細い首を一瞬で折ることができる。抱きしめて、体中の骨をバラバラにすることも。
慎重に、慎重に。
ネリの足を拭いてやり、血が飛んだふとももまでタオルでふき取るとネリが身じろぎした。
「ねえビス」
「どうした」
「あたしって、胸小さいじゃない」
「成長途中だからな」
「男の人って、胸大きいのが好きだよね?」
「個人の好みだと思われる」
「ビスは?」
「人間の外見に特に好みがないので」
「ないの?!」
「ない」
「え、じゃあ、じゃあ、大きくても小さくても関係ない?」
「そう言う事になるか」
「良かったー」
何が良いのか知らないが、ネリが良かったならそれでいい。ネリの頭を撫でた。
焼け野原だった町の復興も進み、焼け出された住民の仮の宿であった配給所近くのバラックにはもう住民は殆どいない。近く、8割を撤去する予定になっている。
その一つにネリを運び込み、資材置き場から毛布や水、傷薬などを調達してきた。
清潔なタオルを濡らし、ネリの顔や身体を慎重に拭いてやる。
寝巻きの下も特に大きな外傷はなく、手足の擦り傷ぐらいだった。やはり安堵し、安堵するという自分に戸惑う。ネリは黙ってされるがままになっていた。
ネリの肢体はどこもかしこも白く細く、人間というのはこんなに華奢だったのかと改めて思う。
今ネリは、下着姿だ。薄いスリップに、下着一枚。全く無防備な姿だった。
多分細い首を一瞬で折ることができる。抱きしめて、体中の骨をバラバラにすることも。
慎重に、慎重に。
ネリの足を拭いてやり、血が飛んだふとももまでタオルでふき取るとネリが身じろぎした。
「ねえビス」
「どうした」
「あたしって、胸小さいじゃない」
「成長途中だからな」
「男の人って、胸大きいのが好きだよね?」
「個人の好みだと思われる」
「ビスは?」
「人間の外見に特に好みがないので」
「ないの?!」
「ない」
「え、じゃあ、じゃあ、大きくても小さくても関係ない?」
「そう言う事になるか」
「良かったー」
何が良いのか知らないが、ネリが良かったならそれでいい。ネリの頭を撫でた。
ネリは怖くないのか」
「ビスの事?」
「人間を4人殺した事」
「怖かったよ」
「そうだろう」
「でも、ビスは怖くないよ」
「どちらなんだ」
教えない、とネリが笑った。そうかと言ってやはりネリの頭を撫でた。
ネリが少し黙る。こちらの手を取り、ネリは手に自分の頬を当てて呟いた。
「ねえビス、あたしのこと好き?」
「……」
「大事?」
「……………」
「大事だよね」
「何故断言するんだ」
「だって、さっき泣きそうな顔したもん」
「さっきとは」
「怖いかって聞いてきたとき」
「泣く機能はない」
「でも泣きそうだったよ」
「そうか」
ネリが言うならそうなのだろう。ネリの頬からネリの温度がこちらに伝わってきて、冷たい金属が少しづつ温まってくるのがセンサーでわかる。
ネリの頬を撫で、もう片手でネリの身体をゆっくりと抱きしめた。
「ねえ、触って」
もう触っている。そう言おうとしたら、ネリはゆっくり顔を寄せてきて、自分の金属の顔に唇を落とした。
エラー音が響く。自分は人間じゃないと言おうとした。だけどそれを言ったら彼女を否定する気がして、何も言わずに彼女を抱き寄せる。
頬にかかる金色の髪をかきあげて、頬を撫で、背を撫で、肩を撫でた。
少し躊躇ってから、スリップの中に手を入れ、腹を撫でる。
日向で温まる猫のように目を細め、ネリが小さな吐息を漏らした。
「ビスの手は冷たいね」
「すまない」
「でも嫌じゃないよ」
腹からゆっくりと上に上り、薄い乳房を撫でる。ビクっとネリの体が強張った。
「嫌なら言ってくれ」
「嫌じゃないから……もっと触って」
こちらの首に手を回し、やはり猫のように擦り寄ってくるネリの体が暖かく、熱がじんわりと自分の体まで温めてくる。ネリは冷たいだろうに。
「教会でね」
ネリが囁く。
「神父さんが、もう子供の生める体なのだから大人なんだって、大人になった女の子は大人の事をしないといけないんだって言うの。大人の女は子供を作っていっぱい生んで、この国に人を増やさないといけないんだって。そんなこと言いながら、体触られて……嫌だったの」
ネリが以前に言っていた、自分は大人か否かという言葉の意味がやっとわかった。
エラー音が酷くなってきた。
ネリを教会に預けた時の、人の良さそうな初老の神父の顔が思い浮かんだ。
エラー音は高くなっていき、ギリギリと体の中から軋む音がする。
「ビスがまだ子供だって言ってくれたから、だからしなくていいんだと思って。
だから教会にいるの止めたの。そういうことするなら、大人の事するなら、ビスがいい。
神父さんもやだ、あの怖い人たちもやだ、殺されたって可哀相とか思ってあげない。
ビスがいいよ。ビスに触られたいの」
エラー音が少し小さくなる。
しがみ付いてくる小さな体からますます熱を奪って、金属の体がゆっくりと温まっていく。
寒いせいか、固くなった小さな乳首を摘むと、くすぐったさに少女が笑い転げた。
「ビスの事?」
「人間を4人殺した事」
「怖かったよ」
「そうだろう」
「でも、ビスは怖くないよ」
「どちらなんだ」
教えない、とネリが笑った。そうかと言ってやはりネリの頭を撫でた。
ネリが少し黙る。こちらの手を取り、ネリは手に自分の頬を当てて呟いた。
「ねえビス、あたしのこと好き?」
「……」
「大事?」
「……………」
「大事だよね」
「何故断言するんだ」
「だって、さっき泣きそうな顔したもん」
「さっきとは」
「怖いかって聞いてきたとき」
「泣く機能はない」
「でも泣きそうだったよ」
「そうか」
ネリが言うならそうなのだろう。ネリの頬からネリの温度がこちらに伝わってきて、冷たい金属が少しづつ温まってくるのがセンサーでわかる。
ネリの頬を撫で、もう片手でネリの身体をゆっくりと抱きしめた。
「ねえ、触って」
もう触っている。そう言おうとしたら、ネリはゆっくり顔を寄せてきて、自分の金属の顔に唇を落とした。
エラー音が響く。自分は人間じゃないと言おうとした。だけどそれを言ったら彼女を否定する気がして、何も言わずに彼女を抱き寄せる。
頬にかかる金色の髪をかきあげて、頬を撫で、背を撫で、肩を撫でた。
少し躊躇ってから、スリップの中に手を入れ、腹を撫でる。
日向で温まる猫のように目を細め、ネリが小さな吐息を漏らした。
「ビスの手は冷たいね」
「すまない」
「でも嫌じゃないよ」
腹からゆっくりと上に上り、薄い乳房を撫でる。ビクっとネリの体が強張った。
「嫌なら言ってくれ」
「嫌じゃないから……もっと触って」
こちらの首に手を回し、やはり猫のように擦り寄ってくるネリの体が暖かく、熱がじんわりと自分の体まで温めてくる。ネリは冷たいだろうに。
「教会でね」
ネリが囁く。
「神父さんが、もう子供の生める体なのだから大人なんだって、大人になった女の子は大人の事をしないといけないんだって言うの。大人の女は子供を作っていっぱい生んで、この国に人を増やさないといけないんだって。そんなこと言いながら、体触られて……嫌だったの」
ネリが以前に言っていた、自分は大人か否かという言葉の意味がやっとわかった。
エラー音が酷くなってきた。
ネリを教会に預けた時の、人の良さそうな初老の神父の顔が思い浮かんだ。
エラー音は高くなっていき、ギリギリと体の中から軋む音がする。
「ビスがまだ子供だって言ってくれたから、だからしなくていいんだと思って。
だから教会にいるの止めたの。そういうことするなら、大人の事するなら、ビスがいい。
神父さんもやだ、あの怖い人たちもやだ、殺されたって可哀相とか思ってあげない。
ビスがいいよ。ビスに触られたいの」
エラー音が少し小さくなる。
しがみ付いてくる小さな体からますます熱を奪って、金属の体がゆっくりと温まっていく。
寒いせいか、固くなった小さな乳首を摘むと、くすぐったさに少女が笑い転げた。
毛布に横たえて、下着の上からそっと股間を撫でると、布の上からでもそこが湿っているのがわかった。少し押すと、ヌチャリと音を立てて布が沈み、ぬるりとした感触が伝わる。
「あっ…なんか…変な感じ……」
「嫌だったり痛かったらすぐ言うんだ」
「ん……」
女性の身体を触るのは初めてではない。
そういう機能がついてなくても、前線でセックスシーンは何度も見たし、その真似事をやらされた。
まだ軍に人間が多かった時の時代だ。合意の伴わないセックスも多かった。非戦闘員の捕虜の女性をレイプする兵士達。慰問団でやってきた娼婦達を抱く兵士達。
興が乗って、機兵に妙な器具をつけ、セックスの真似事をする女兵士。レイプ時に機兵を連れ、女性の愛撫をさせながら腰を振る男達。泣き喚く女性の悲鳴がネリの悲鳴に重なる。
酷い事もしてきた。今更ながらに、そう思う。
戦場は人間から理性を奪い、正気を奪う。多分彼等は、ああやって馬鹿な行為をする事で死の重圧から逃れようと必死だったのだろう。
ゆっくりとネリの身体を触る。
スリップと下着を脱がすと、糸を引いて透明な液体が彼女の股間を濡らしていた。
濡れた唇を割り、指を這わしていくと、ネリが声を堪えようと毛布に顔を埋めた。
「痛いか?」
耳まで赤くなりながら、首を振る。
ゆっくりと指を這わせながら、充血して勃起したクリトリスをつまみ、軽く擦りあげる。
潤滑油代わりの愛液を指になすりながら擦り上げていくせいで、クチュクチュと音が立つ。
時折「…んくっ」などと小さな声を押し殺しながら毛布にしがみ付いていたネリが、指にあわせて軽く腰を擦り付けてくるようになってきた。ネリの唇は今や緩やかに口を開け、秘肉が淫らに赤い色を見せながら涎を零している。
「あっ…なんか…変な感じ……」
「嫌だったり痛かったらすぐ言うんだ」
「ん……」
女性の身体を触るのは初めてではない。
そういう機能がついてなくても、前線でセックスシーンは何度も見たし、その真似事をやらされた。
まだ軍に人間が多かった時の時代だ。合意の伴わないセックスも多かった。非戦闘員の捕虜の女性をレイプする兵士達。慰問団でやってきた娼婦達を抱く兵士達。
興が乗って、機兵に妙な器具をつけ、セックスの真似事をする女兵士。レイプ時に機兵を連れ、女性の愛撫をさせながら腰を振る男達。泣き喚く女性の悲鳴がネリの悲鳴に重なる。
酷い事もしてきた。今更ながらに、そう思う。
戦場は人間から理性を奪い、正気を奪う。多分彼等は、ああやって馬鹿な行為をする事で死の重圧から逃れようと必死だったのだろう。
ゆっくりとネリの身体を触る。
スリップと下着を脱がすと、糸を引いて透明な液体が彼女の股間を濡らしていた。
濡れた唇を割り、指を這わしていくと、ネリが声を堪えようと毛布に顔を埋めた。
「痛いか?」
耳まで赤くなりながら、首を振る。
ゆっくりと指を這わせながら、充血して勃起したクリトリスをつまみ、軽く擦りあげる。
潤滑油代わりの愛液を指になすりながら擦り上げていくせいで、クチュクチュと音が立つ。
時折「…んくっ」などと小さな声を押し殺しながら毛布にしがみ付いていたネリが、指にあわせて軽く腰を擦り付けてくるようになってきた。ネリの唇は今や緩やかに口を開け、秘肉が淫らに赤い色を見せながら涎を零している。
クリトリスを擦りながら、片手の指を唇にそえる。人差し指をゆっくりと秘唇に這わせ、押し込んでいった。
「あっ……ん、んん……」
金属の指を淫らに飲み込んで、ネリが甘い声を上げた。
第二間接まで入れて指を曲げ、指の腹で内壁を擦るとさらに声が上がる。
「痛くないか、ネリ」
「…気持ち、いい……ひゃうッ」
一度引き抜き、今度は二本添えて指を入れ直す。少し入れては抜き、抜いてはまたゆっくりと入れ、中で擦りながら、クリトリスを摘んでこすってやる。
ニチュニチュグチュグチュと粘着のこすれる音、ネリの吐息が、部屋の中を満たしていた。
「ビスの指……あたしの中で暖かくなってきた、ね」
「ああ、暖かい。ネリの中は、暖かい」
「あたしが……ビスも気持ちよくしてあげられればいいのに」
両手を伸ばし、頭をつかまれて引き寄せられた。キスされる。
「逆だ」
「何が……?」
「自分が人間だったら………ネリを暖かい身体で抱けたのに」
「大丈夫、ビスの冷たい体はあたしが暖めてあげる」
ぎゅううと抱きしめられる。小さな身体に。
あの日、川に飛び込もうとしていた、小さな小さな子供に。
冷たい金属の指に犯されながら、いっぱしの女の顔をして、そんな事を言う少女に。
何か言いたい事があって、彼女にどうしても伝えたくて、だがいくら金属の頭蓋を探しても言葉は見つからなくて、擦りあげるたびに小さく吐息を吐き、声を上げて身を捩るネリの身体をずっと腕の中に抱いていたいという訳のわからない執着と、このまま彼女を気持ちよくさせていたいという欲望だけが残って、必死で抱いた。
彼女の中へ差し込まれる指は三本となり、根元まで差し入れ、内壁を擦りながら何度も何度も引き抜き、突き入れた。
「んんあっはっ…やぁ……ビス、ビスぅ…ッ」
しがみ付いてくるネリの頬に顔を寄せる。目鼻も唇も持っていなかったが、せめて彼女に口付けをしたかった。
薄い乳房を軽く揉み、乳首を軽く摘みながら下肢を抱えて足を大きく開かせる。
ネリを自分のものにしたかった。自分がネリのものになりたかった。
何かに執着するこの気持ちがエラーなのだとしたら、自分は当の昔に壊れていたのだ。
クリトリスを責めて立てながらネリを犯していた指三本が、ぐうっとネリの内部で締め付けられる。
「も、もう…ぁッあああああああッ」
しがみ付いてきたネリの手に力が入り、ビクビクと腰が痙攣し、そして弛緩した。
投げ出された足の間、ネリの白い太腿から尻までが透明な愛液でテラテラと濡れ、光っていた。
「あっ……ん、んん……」
金属の指を淫らに飲み込んで、ネリが甘い声を上げた。
第二間接まで入れて指を曲げ、指の腹で内壁を擦るとさらに声が上がる。
「痛くないか、ネリ」
「…気持ち、いい……ひゃうッ」
一度引き抜き、今度は二本添えて指を入れ直す。少し入れては抜き、抜いてはまたゆっくりと入れ、中で擦りながら、クリトリスを摘んでこすってやる。
ニチュニチュグチュグチュと粘着のこすれる音、ネリの吐息が、部屋の中を満たしていた。
「ビスの指……あたしの中で暖かくなってきた、ね」
「ああ、暖かい。ネリの中は、暖かい」
「あたしが……ビスも気持ちよくしてあげられればいいのに」
両手を伸ばし、頭をつかまれて引き寄せられた。キスされる。
「逆だ」
「何が……?」
「自分が人間だったら………ネリを暖かい身体で抱けたのに」
「大丈夫、ビスの冷たい体はあたしが暖めてあげる」
ぎゅううと抱きしめられる。小さな身体に。
あの日、川に飛び込もうとしていた、小さな小さな子供に。
冷たい金属の指に犯されながら、いっぱしの女の顔をして、そんな事を言う少女に。
何か言いたい事があって、彼女にどうしても伝えたくて、だがいくら金属の頭蓋を探しても言葉は見つからなくて、擦りあげるたびに小さく吐息を吐き、声を上げて身を捩るネリの身体をずっと腕の中に抱いていたいという訳のわからない執着と、このまま彼女を気持ちよくさせていたいという欲望だけが残って、必死で抱いた。
彼女の中へ差し込まれる指は三本となり、根元まで差し入れ、内壁を擦りながら何度も何度も引き抜き、突き入れた。
「んんあっはっ…やぁ……ビス、ビスぅ…ッ」
しがみ付いてくるネリの頬に顔を寄せる。目鼻も唇も持っていなかったが、せめて彼女に口付けをしたかった。
薄い乳房を軽く揉み、乳首を軽く摘みながら下肢を抱えて足を大きく開かせる。
ネリを自分のものにしたかった。自分がネリのものになりたかった。
何かに執着するこの気持ちがエラーなのだとしたら、自分は当の昔に壊れていたのだ。
クリトリスを責めて立てながらネリを犯していた指三本が、ぐうっとネリの内部で締め付けられる。
「も、もう…ぁッあああああああッ」
しがみ付いてきたネリの手に力が入り、ビクビクと腰が痙攣し、そして弛緩した。
投げ出された足の間、ネリの白い太腿から尻までが透明な愛液でテラテラと濡れ、光っていた。
「あのね、お願いがあるんだけど」
毛布に包まったネリを抱きしめながら横になっていると、ふいにネリがキラキラした眼でそう言った。
「内容による」
「大きい家建てて」
「大きい家?」
「うん大きい家。人がいっぱい住める家」
「可能だが何故また」
「教会、あたしみたいなお父さんとお母さんがいなくなっちゃった子がいっぱいいてね、神父さんは嫌いだけど、ご飯食べれてお布団で寝れるのは嬉しいと思ったのね」
「ああ」
「でね、ビスと結婚しても赤ちゃん埋めないじゃない」
「けっこ……ん……」
エラー音が酷くなった。
「だから、そういう子をあたしとビスの子供にしちゃえばいいんだよ!お父さんとお母さんになろうよ!大家族になるよ!!」
「いいな」
「いいでしょ!ずっと考えてたんだよ、決まりね!!」
「決まりなのか」
「うん!」
「じゃあその前にやる事がある」
「なあに?」
機兵として存在する事に、人間でない事に意味があるのなら、それはネリを守れる力を持つという事だ。ここ最近、政府中央の機兵統括電脳からきな臭い情報がいくつか送られており、数年続いた和平条約が破られる可能性が高まっているという話だった。
そうなれば自分も従軍する事になるだろう。また殺し合いの前線に赴くのだ。
だがもう、政府の命で行くのでも、統括電脳のコマンドに従うのでもない。
ネリを守りに行くのだ。ネリの身にひどい事が起こらないように。ネリにつらい事が起こらないように。ネリが、幸せであるように。
毛布に包まったネリを抱きしめながら横になっていると、ふいにネリがキラキラした眼でそう言った。
「内容による」
「大きい家建てて」
「大きい家?」
「うん大きい家。人がいっぱい住める家」
「可能だが何故また」
「教会、あたしみたいなお父さんとお母さんがいなくなっちゃった子がいっぱいいてね、神父さんは嫌いだけど、ご飯食べれてお布団で寝れるのは嬉しいと思ったのね」
「ああ」
「でね、ビスと結婚しても赤ちゃん埋めないじゃない」
「けっこ……ん……」
エラー音が酷くなった。
「だから、そういう子をあたしとビスの子供にしちゃえばいいんだよ!お父さんとお母さんになろうよ!大家族になるよ!!」
「いいな」
「いいでしょ!ずっと考えてたんだよ、決まりね!!」
「決まりなのか」
「うん!」
「じゃあその前にやる事がある」
「なあに?」
機兵として存在する事に、人間でない事に意味があるのなら、それはネリを守れる力を持つという事だ。ここ最近、政府中央の機兵統括電脳からきな臭い情報がいくつか送られており、数年続いた和平条約が破られる可能性が高まっているという話だった。
そうなれば自分も従軍する事になるだろう。また殺し合いの前線に赴くのだ。
だがもう、政府の命で行くのでも、統括電脳のコマンドに従うのでもない。
ネリを守りに行くのだ。ネリの身にひどい事が起こらないように。ネリにつらい事が起こらないように。ネリが、幸せであるように。
腕の中のネリに、顔を近づけ、言う。
「結婚してください」
少女は、腕の中でこぼれるような笑顔で言った。
「喜んで!!」
「結婚してください」
少女は、腕の中でこぼれるような笑顔で言った。
「喜んで!!」
多分これが、祈るということならば、存在しない神にだって祈ろう。
ネリが、幸せでありますように。
居もしない神に祈る自分が滑稽だとはもう、思わなかった。
ネリが、幸せでありますように。
居もしない神に祈る自分が滑稽だとはもう、思わなかった。