人外と人間

改造人間×吸血鬼娘 いつか、道の果て 完

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いつか、道の果て 完 5-177様

事態が落ち着いたと、アラム・ヴォフクが聞かされたのは翌朝。
兄の呼び出しだった。掻い摘んで、説明する。余計なことには触れずに。
襲撃を前に、意見を違えたこと。そして話した、これからのこと。
二人のスタンスは、ウィリー・ウィリーに保護される以前と同じ。

「お前らの目的がそれなら、俺らは―――いや。今はまだ、言えねぇか。悪い」
兄は。おそらくは協力する、と言い掛けて、一度止めた。
中立共生派、としての立場がある。対策室への明確な敵対行為にあたる決断は、未だ下せないのだろう。彼自身の思いとは、別に。
「マリィ・アトキンズに何かあったら、あいつにも顔が立たねぇからなあ」
呻るように、ウィリー・ウィリー総長たる人物が言った。
マリィの父方の遺伝子提供者は、兄の親友だった人物。だからなのだろう、叔父、だとか親戚の娘に対するような有り様に苦笑する。
「クリスも懐いてる」
「あの子は……誰にでも、懐くからね」
「いや?遊んでもらうんだから何が何でも助けろって、昨日もすっげぇ煩くてな」
母親によく似た趨きの、兄の娘を思い出す。
アラムにすら屈託なく接する、くるくるとよく笑う少女。とはいえ、
(全く――僕が一番ないがしろにされている)
冗談まじりにそんなことを考えられるようになった、自らの余裕に驚く。
二度とこうして話をすることもないと思っていたのに。
言葉を交わすのは、眼を覚まして数度目。執務室を訪れる度に驚く。
――がさつな性格で、弟や恋人にはしょっちゅうからかわれていた兄の仕事場とは、思えないほどに整然としていて。時は過ぎたのだ。

アラムも、兄も、これだけ変わってしまうほど。
彼が損なったあの女性の面影を感じても、彼も兄も、何もない振りをして対話できてしまう、その程度には。
「いいよ、わかってる。僕も、恐らく、マリィも」
―――だからこそ、あの少女も意地を張る。
それぞれの事情があることも、一方で、心から気遣われていることも、理解している。

「……結局、お前らの関係って何なんだ?」
真顔で、兄。
「お前も変わったよな。彼女を保護したとき、お前が昔のままなら、俺ぁ―――」
そのまま、放り出そうと思っていたらしい。
直情な、兄らしいあけすけな言葉にアラムは笑う。
「さぁ。余裕がないしね、僕も、彼女も」
道行は目的を果たす、そのときまで。
そう、昨夜、決めた。

× × ×

『……あなたを、許さない』
『ああ』
『信用はしてるけど、信頼はしない』
『ああ』

知っている。
それが、自分たちのルールだから。
「だけど」
かすかな声が、囁く。
細く細く、睦言のように。

願う、願う。
この世界の何処にも存在しない、彼らの神に向けて。





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