人外と人間

鎧騎士系モンスター×幼女 4

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善意の果てに── 4 1-59様

 翌朝、少女は朝食として街で買ったパンを小さく千切って食べていた。
 鎧男はモンスターではあるが外見は鎧ということで、人目に触れてもあまりモンスターだと気付かれない。
なので時々、街に立ち寄って必要なものを買い揃えたりしている。お金は狩った動物の肉を売って、それで少女の服や街でしか買えない食べ物などを物色する。
 だが、さすがに長居して厄介ごとになっては不味いので宿に泊まることはしないが。
 しかしそうした『住』が不自由な生活をさせてしまっている分、『衣』と『食』だけでもと思いこうしてパンなどを買って食べさせている。
 そんなパンを少女が食べているとき、鎧男は少女へ声をかけた。少女はまだ少し眠気の残る野暮ったい顔を鎧男に向ける。

「ん、ふぁにおじふぁん?」
「こらこら、口の中の物を飲み込んでから喋りなさい」
「ん――んく。うん、それでなに、おじちゃん?」
「うん。君がもうちょっと大きくなったらの話なんだけどね、おじちゃんが剣の稽古つけてあげようと思うんだ」
「えっ、それほんとう!? おじちゃんほんとう!?」
「ああ、もちろんだとも。おじちゃんは嘘はつかないよ」
「ほんとうだよ?! やくそくだからねっ!」
「ああ、約束だ」
 少女が突き出した小指に鎧男は強くなりすぎないように自分の小指を絡めた。
 少女との約束の中に鎧男は心の中で、彼女を守り抜くことを密かに付け足して。
 指きりが終わると少女は眠気も吹き飛んだのか上機嫌で朝食を再開する。と、少女はパンを半分に千切って鎧男へ差し出した。
「おじちゃん、おれいにはんぶんこ!」
「え? でもおじちゃん食べなくても大丈夫――」
「はーんーぶーんーこー」
 鎧男が困惑気味に遠慮したが、それでも少女はずずいっと更に鎧男の前に押し付ける。少女には鎧男は食べなくても大丈夫ということは教えているのだが、剣の稽古をつけてもらう約束をしてもらえたのがそんなに嬉しかったのだろうか。ここまでされるとさすがに悪いと思い渋々受け取る。
鎧男の思いも露知らず、少女は早く食べてくれないかとわくわくしながら鎧男を見上げてくる。
凝視されて掻かない冷や汗を掻きながら、無駄にパンの裏表を何往復も見比べた後、ぽいっと兜を上げた隙間から放り入れた。
 それを見て満足したか少女もぱくぱく半分になったパンを食べ始めた。
 鎧男はというと、パンの引っ掛かっている股関節辺りに違和感を覚えつつ、少女の食べる姿を眺め続けた。
 それから少女が朝食を終え、野宿の後片付けを済ませると鎧男と少女は山道へと戻ってきた。
「よし、それじゃあ行こうか」
「おーっ!」
 少女は元気良く腕を振り上げると鎧男の手をとってスキップしながら下山し始めた。鎧男はそれに合わせ、ゆっくりとした足取りで鎧を鳴らしながらのっそり歩いていく。
 山に少女のパタパタとスキップする靴音と、鎧男のカシャカシャと鎧を揺らす音が重なって木霊した。
 鎧男は歩み始めた。
 『善意』の先へと。
 そこにあるのは悲しみか、それとも――。
 とりあえず、今考えるべきことは。
 どうやってこっそりとこのパンを落とそうか。







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