ロボ×女の子 3 1-639様
「ココデ大人シクシテイロ!」
ごみを捨てるようにエリアスを暗い部屋に投げ入れたフラッドは、それきり何も言わずに重厚な扉を閉めた。
「このーっ、ここから出せっ!」
外から髪一本ほどの光しか差さない中、無駄だとは分かっていても、彼女は怒りの全てを込めて扉を叩いた。
辺りに空しく鉄の鈍い音が響く。最後に弱弱しい手が扉を軽く弾いた時、今まで黒一色だった世界に光が現れた。
だが、薄気味悪いそれは決して生を連想させるものではなく、むしろ悲痛な現実をエリアスに突きつけてきた。
「カレリア様。」
炎の爪痕の残るカレリアの顔が目に入った瞬間、もう現実を直視できなくなった。
ぺたりとその場に座り込み、瞳に涙を溜めて、冷たい壁に頬を寄せる。
「ヴァンダル・・・。」
その冷たさは、彼女を傷つけた者を全て滅ぼすと言った、地の底のフラッドが唇に誓ったものと同じだった。
この戦いには勝てない。全てを滅ぼす事なんてできやしない。
心が痛かった。何に対してかは、まだ輪郭が不明瞭であったが。
ごみを捨てるようにエリアスを暗い部屋に投げ入れたフラッドは、それきり何も言わずに重厚な扉を閉めた。
「このーっ、ここから出せっ!」
外から髪一本ほどの光しか差さない中、無駄だとは分かっていても、彼女は怒りの全てを込めて扉を叩いた。
辺りに空しく鉄の鈍い音が響く。最後に弱弱しい手が扉を軽く弾いた時、今まで黒一色だった世界に光が現れた。
だが、薄気味悪いそれは決して生を連想させるものではなく、むしろ悲痛な現実をエリアスに突きつけてきた。
「カレリア様。」
炎の爪痕の残るカレリアの顔が目に入った瞬間、もう現実を直視できなくなった。
ぺたりとその場に座り込み、瞳に涙を溜めて、冷たい壁に頬を寄せる。
「ヴァンダル・・・。」
その冷たさは、彼女を傷つけた者を全て滅ぼすと言った、地の底のフラッドが唇に誓ったものと同じだった。
この戦いには勝てない。全てを滅ぼす事なんてできやしない。
心が痛かった。何に対してかは、まだ輪郭が不明瞭であったが。
誰かが喚いている。どうやら、体中のセンサーの調子がおかしいようだ。何もかもぼんやりとしている。
「さっさとしなさい!この忌々しいフラッドのリミッターを解除して、あの身の程知らずな小娘に、これが何たるかを思い知らせてやるんだよ!」
その声に反応して全ての回路が戦慄き、ヴァンダルの意識は晴れた。個として完璧な中に入った傷、すなわち元首への怒り憎しみ、気がついた時には尖った指先が元首の喉元に突きつけられていた。
「私をどうするだと?私はもう何者にも束縛されない!エリアスはどこだ!彼女を解放しなければ今ここで殺してやる!・・・なぜ笑っている!答えろ!」
「おやりなさい。」
元首が目で合図すると、ヴァンダルの挙動に怯えて動けなかった人々が急に動き出し、何かのスイッチを入れた。
その時、ヴァンダルは初めて自分の頭部に得体の知れないものが繋がっている事を知った。
彼の目から光が消え、恨みを搾り出すような機械音が後を引く。
「エ・・・・・・リ・・ア・・・ス・・・・。」
ヴァンダルという名の意志が消えた。後に残ったのは、本来の姿であった元首の最後の砦、単純な破壊者であるフラッドだった。
「言いたい事は分かるね?」
元首の言葉の一句一句が染み、彼の中にフラッドの基本要素である破壊の二文字が浮かび上がる。真っ赤な光に染め上げられた目が、救いの騎士を待ち続ける少女に残酷な宣告をすべく、漆黒の檻へと向かった。
人々が困窮していく中で、不本意でも憎き元首の門前に下らねばならない人々は多々いた。少々荒っぽい方法ではあったが、ティトはその中の一人と成り代わり、上手く中に潜り込んだ。幸い、前にここで働いた経験があり、内部構造を理解していたので、エリアス達が捕らえられている場所は推測できる。
「違った。」
倉庫の扉を蹴り開け、中に誰もいない事を確認すると、急ぎ早に次の推測点に向かう。
次の倉庫の扉に手を掛けた時、背後から響いてきた重い足音に思わず体を強張らせた。
落ち着けと言い聞かせて、ティトは潔く振り返る。
「あ・・・、ヴァンダル、さん。無事だったんですね。」
緊張が解けて冷えた汗を拭いつつ、ティトはヴァンダルを見上げる。妙な違和感があったが、すぐには分からなかった。
「エリアスは大丈夫でしょうか?それより、先程は随分と酷い事を・・・ぐおっ!」
喉が潰れたような声と共に、ティトは崩れ落ちた。胸を両手で押さえてのた打ち回る彼を赤い光が見下ろす。違和感とはこの事だったのか。エリアスが・・・危ない。
鮮血の滴る鉄指が、視界の内にぼやけて見える。その滴を数えている内に意識が飛んだ。
「さっさとしなさい!この忌々しいフラッドのリミッターを解除して、あの身の程知らずな小娘に、これが何たるかを思い知らせてやるんだよ!」
その声に反応して全ての回路が戦慄き、ヴァンダルの意識は晴れた。個として完璧な中に入った傷、すなわち元首への怒り憎しみ、気がついた時には尖った指先が元首の喉元に突きつけられていた。
「私をどうするだと?私はもう何者にも束縛されない!エリアスはどこだ!彼女を解放しなければ今ここで殺してやる!・・・なぜ笑っている!答えろ!」
「おやりなさい。」
元首が目で合図すると、ヴァンダルの挙動に怯えて動けなかった人々が急に動き出し、何かのスイッチを入れた。
その時、ヴァンダルは初めて自分の頭部に得体の知れないものが繋がっている事を知った。
彼の目から光が消え、恨みを搾り出すような機械音が後を引く。
「エ・・・・・・リ・・ア・・・ス・・・・。」
ヴァンダルという名の意志が消えた。後に残ったのは、本来の姿であった元首の最後の砦、単純な破壊者であるフラッドだった。
「言いたい事は分かるね?」
元首の言葉の一句一句が染み、彼の中にフラッドの基本要素である破壊の二文字が浮かび上がる。真っ赤な光に染め上げられた目が、救いの騎士を待ち続ける少女に残酷な宣告をすべく、漆黒の檻へと向かった。
人々が困窮していく中で、不本意でも憎き元首の門前に下らねばならない人々は多々いた。少々荒っぽい方法ではあったが、ティトはその中の一人と成り代わり、上手く中に潜り込んだ。幸い、前にここで働いた経験があり、内部構造を理解していたので、エリアス達が捕らえられている場所は推測できる。
「違った。」
倉庫の扉を蹴り開け、中に誰もいない事を確認すると、急ぎ早に次の推測点に向かう。
次の倉庫の扉に手を掛けた時、背後から響いてきた重い足音に思わず体を強張らせた。
落ち着けと言い聞かせて、ティトは潔く振り返る。
「あ・・・、ヴァンダル、さん。無事だったんですね。」
緊張が解けて冷えた汗を拭いつつ、ティトはヴァンダルを見上げる。妙な違和感があったが、すぐには分からなかった。
「エリアスは大丈夫でしょうか?それより、先程は随分と酷い事を・・・ぐおっ!」
喉が潰れたような声と共に、ティトは崩れ落ちた。胸を両手で押さえてのた打ち回る彼を赤い光が見下ろす。違和感とはこの事だったのか。エリアスが・・・危ない。
鮮血の滴る鉄指が、視界の内にぼやけて見える。その滴を数えている内に意識が飛んだ。
死んだ目をした少女に、一瞬にして光が戻った。扉が開いたから。扉に切り取られた縁の中にヴァンダルがいたから。
「ヴァンダルっ・・・!」
感極まってエリアスの瞳から涙が零れ落ちた。ふらつく足取りで立ち上がり、ヴァンダルの胸に倒れ込むように歩く。
「良かった。あの馬鹿元首に酷いことされてるんじゃないかって、ずっと思ってたの。でも、何ともないね・・・?・・・聞いてる?」
彼女を腕の内に抱きすくめる訳でもなく、何の反応も示さずにヴァンダルはただそこに立っていた。
「ねえ。・・・っ!!」
余りの無反応ぶりに業を煮やし、エリアスは彼の頭を下に向けさせる。
丁度その時だった。逆光に照らされていた鉄面が、暗さの中に色彩を取り戻し、真っ赤な目が彼女を釘付けにしたのは。
フラッドと同じ、意志の無い、元首の人形の――。
エリアスが身を引くより早く、ヴァンダルの意識を無くした器は彼女の細い肩に鉄指を食い込ませた。
歓喜の涙は消え、痛み一色に彩られる。
「痛い、痛いよ・・・。どうしちゃったの・・・?わたしが分からないの?」
その震える声が、ほんの少し回路を動かしたのか、一瞬動きが止まった。
しかし、それは本当に一瞬の事で、その刹那を機に、エリアスが予想もしない事態が起こった。
「痛っ!」
床に叩きつけられ、荒い呼吸を繰り返す少女の上に、重い鉄の塊が圧し掛かる。
二つの赤い光は冷たく彼女を見下ろしていたが、不意にぐっと顔を近づけた。
恐怖を抱いた唇に冷たさがしみる。凶器の手はエリアスの胸をこねくり回し、ツーと服を破るように下半身へ下りていった。それが臍の下まできた時、一瞬の隙をついて顔を背け、冷たい唇を振り払って叫んだ。
「言ったじゃない!わたしを傷つけた者は全て滅ぼすって!あなたの敵はわたしじゃない!
思い出して!あなたが何をしたかったか!何を憎んで、どうしてわたしと一緒なのか!」
赤い光が消えた。ヴァンダルの後頭部から、機械の部品のような物が火花を散らして床に落ちる。
「私は、かの元首の治世を憎むエリアスによって解放され、彼女と同じく私の敵でもある・・・。」
目に黄色い光を取り戻したヴァンダルが低く呟く。
「ヴァンダル!わたしが分かる!?」
「エリアス。今の私がこの身を賭けて守るべき少女(もの)。行くぞ。今度こそお前を傷つけた者共を、この腕で滅ぼそう。」
敢えてエリアスの血を拭わない手を、彼女の前に差し出した。そして、彼女は一時も迷わずにその手を取った。
「ヴァンダルっ・・・!」
感極まってエリアスの瞳から涙が零れ落ちた。ふらつく足取りで立ち上がり、ヴァンダルの胸に倒れ込むように歩く。
「良かった。あの馬鹿元首に酷いことされてるんじゃないかって、ずっと思ってたの。でも、何ともないね・・・?・・・聞いてる?」
彼女を腕の内に抱きすくめる訳でもなく、何の反応も示さずにヴァンダルはただそこに立っていた。
「ねえ。・・・っ!!」
余りの無反応ぶりに業を煮やし、エリアスは彼の頭を下に向けさせる。
丁度その時だった。逆光に照らされていた鉄面が、暗さの中に色彩を取り戻し、真っ赤な目が彼女を釘付けにしたのは。
フラッドと同じ、意志の無い、元首の人形の――。
エリアスが身を引くより早く、ヴァンダルの意識を無くした器は彼女の細い肩に鉄指を食い込ませた。
歓喜の涙は消え、痛み一色に彩られる。
「痛い、痛いよ・・・。どうしちゃったの・・・?わたしが分からないの?」
その震える声が、ほんの少し回路を動かしたのか、一瞬動きが止まった。
しかし、それは本当に一瞬の事で、その刹那を機に、エリアスが予想もしない事態が起こった。
「痛っ!」
床に叩きつけられ、荒い呼吸を繰り返す少女の上に、重い鉄の塊が圧し掛かる。
二つの赤い光は冷たく彼女を見下ろしていたが、不意にぐっと顔を近づけた。
恐怖を抱いた唇に冷たさがしみる。凶器の手はエリアスの胸をこねくり回し、ツーと服を破るように下半身へ下りていった。それが臍の下まできた時、一瞬の隙をついて顔を背け、冷たい唇を振り払って叫んだ。
「言ったじゃない!わたしを傷つけた者は全て滅ぼすって!あなたの敵はわたしじゃない!
思い出して!あなたが何をしたかったか!何を憎んで、どうしてわたしと一緒なのか!」
赤い光が消えた。ヴァンダルの後頭部から、機械の部品のような物が火花を散らして床に落ちる。
「私は、かの元首の治世を憎むエリアスによって解放され、彼女と同じく私の敵でもある・・・。」
目に黄色い光を取り戻したヴァンダルが低く呟く。
「ヴァンダル!わたしが分かる!?」
「エリアス。今の私がこの身を賭けて守るべき少女(もの)。行くぞ。今度こそお前を傷つけた者共を、この腕で滅ぼそう。」
敢えてエリアスの血を拭わない手を、彼女の前に差し出した。そして、彼女は一時も迷わずにその手を取った。
二人が元首の前に戻った時、元首の驚きようは非常に滑稽なもののように思えた。
「嘘でしょう!?お前が抑圧していたものは破壊ではなかったというのか!?フラッド、この異分子を破壊しなさい!」
号令に従ってフラッド達は向かってきたが、即座にヴァンダルの腕の一振りで左右へなぎ払われる。
「どうした!これしきがお前の砦なのか?脆いな。」
辺りに散らばったフラッドの残骸を見下しながら、ヴァンダルは元首を睨み付ける。
「お優しい元首殿。最後に言い残したい事はおありですか?」
エリアスは怯え縮こまった元首に、硬い笑みを投げかけて言った。彼の姿は非常に哀れだったが、それを思うには、余りにも憎しみが強すぎた。
「ヴァンダル、元首殿は何もおっしゃりたい事がないようよ。」
ヴァンダルの手が、エリアスの手の上に重ねられた。彼らは各々の影の檻に元首を閉じ込め、愚かな命乞いを聞き流して、一気に血と機械油に塗れた腕を振り下ろした。
終わった、これで全部―― 平和に―― 仲間の犠牲は無駄ではなかったと――。
元首死亡の報は瞬く間に国中を駆け巡り、人々は胸を撫で下ろした。
「本当に・・・良かった。」
病院の純白のベッドに横たわったティトが呟いた。
「ヴァンダルさんには酷い事を言ったよ。謝りたいんだが、いるかい?」
エリアスはドアを振り返り、ヴァンダル、と呼んだが、入ってくる気配がない。不思議に思い、ドアを開け放つと、さっきまでそこにいたフラッドはいなかった。
「ヴァンダル、どこ?」
どこにいても間違いなく目立つ紫色の鎧の影はない。一度病室を出て、辺りを探し回ったが、影も形も見当たらなかった。
彼の中には地の底での長い月日のブランクがあり、その上元首の束縛からも完全に解放された。それでも、行くあてなど無いはずなのに、一体どこへ消えてしまったのだろう。沈んだ表情で病室に戻り、ふと窓の外を見ると、空の彼方にはっきりと紫の鎧の翼が見えた。
「ごめん!すぐ戻るから!」
いた?と言いたげだったティトをそのままに、エリアスは追われていた時と同じように全力で走りながら、砂埃がすっかり晴れた街を駆け抜けていった。
そう、ヴァンダルが帰る場所は、たった一つだけあったんだ。
「嘘でしょう!?お前が抑圧していたものは破壊ではなかったというのか!?フラッド、この異分子を破壊しなさい!」
号令に従ってフラッド達は向かってきたが、即座にヴァンダルの腕の一振りで左右へなぎ払われる。
「どうした!これしきがお前の砦なのか?脆いな。」
辺りに散らばったフラッドの残骸を見下しながら、ヴァンダルは元首を睨み付ける。
「お優しい元首殿。最後に言い残したい事はおありですか?」
エリアスは怯え縮こまった元首に、硬い笑みを投げかけて言った。彼の姿は非常に哀れだったが、それを思うには、余りにも憎しみが強すぎた。
「ヴァンダル、元首殿は何もおっしゃりたい事がないようよ。」
ヴァンダルの手が、エリアスの手の上に重ねられた。彼らは各々の影の檻に元首を閉じ込め、愚かな命乞いを聞き流して、一気に血と機械油に塗れた腕を振り下ろした。
終わった、これで全部―― 平和に―― 仲間の犠牲は無駄ではなかったと――。
元首死亡の報は瞬く間に国中を駆け巡り、人々は胸を撫で下ろした。
「本当に・・・良かった。」
病院の純白のベッドに横たわったティトが呟いた。
「ヴァンダルさんには酷い事を言ったよ。謝りたいんだが、いるかい?」
エリアスはドアを振り返り、ヴァンダル、と呼んだが、入ってくる気配がない。不思議に思い、ドアを開け放つと、さっきまでそこにいたフラッドはいなかった。
「ヴァンダル、どこ?」
どこにいても間違いなく目立つ紫色の鎧の影はない。一度病室を出て、辺りを探し回ったが、影も形も見当たらなかった。
彼の中には地の底での長い月日のブランクがあり、その上元首の束縛からも完全に解放された。それでも、行くあてなど無いはずなのに、一体どこへ消えてしまったのだろう。沈んだ表情で病室に戻り、ふと窓の外を見ると、空の彼方にはっきりと紫の鎧の翼が見えた。
「ごめん!すぐ戻るから!」
いた?と言いたげだったティトをそのままに、エリアスは追われていた時と同じように全力で走りながら、砂埃がすっかり晴れた街を駆け抜けていった。
そう、ヴァンダルが帰る場所は、たった一つだけあったんだ。
先端が崩れた崖の淵に降り立ち、ヴァンダルは色が褪せたように思えるかつての元首の独裁国家を見つめていた。その景色の上に尖った指をかざし、心を持たない同胞、ティト、そしてエリアスの血を吸った記憶を鮮やかに蘇らせる。紫の鎧を軋ませながら、暗闇が手を伸ばしてくるような地の底を、目の光を強めて凝視する。帰らなければならない。私はエリアスに、彼女を傷つけた者を滅ぼすと言った。だが、実際には私自身が元首に拘束され屈服し、彼女を傷つけてしまった・・・。所詮、私は元首の操り人形、人殺しの機械であるフラッドなのだ。平和な世界での存在は好ましくない。ただ、何も言わずに姿を消した為、今頃躍起になって探し回っているかもしれないエリアスの事は、多少気がかりである。・・・何故だ?元々元首を倒す為の利害が一致しただけの存在なのに。
「ヴァン・・・ダル・・・。」
不意に走り抜けたか細い声は、壊れ時を示唆しているのかと思われた。しかし、再度聞こえてきた時に振り返ると、治療痕がうかがえる肩で小刻みに息をする少女が立っていた。
「ティトが、あなたに、謝りたいって。」
「謝らなければならないのは私の方だろう?それに私のした事を踏まえれば、謝られる価値など無い。」
沈黙の後、エリアスは決壊したかのように口を開いた。
「どうして何も言わずに行っちゃうの!?」
「他の人々は、フラッドは人殺しの機械と思っているだろう。これ以上一緒にいれば、人々はお前にとって害になる噂を始めるかもしれない。」
「ある訳ないじゃない!ねえ、一番の功労者は誰なの?あなたじゃない。」
ヴァンダルはあくまで淡々と続けた。
「私の代わりにティト殿に謝ってくれ。エリアス、お前がいたからこそ私は目的を果たす事ができた。ここでお別れだ。」
「嫌っ―――!」
引き止めるように冷たい鎧の上になだれ込む。当たり所が悪かったのか、無数のフラッドを相手にしても揺らぐ事のなかった機体は、棒切れのようにエリアスごと地の底へと落ちていった。徐々に加速していく逆さまの世界で、エリアスは悲痛に叫ぶ。
「確かに最初の約束は守ってもらった!だけど、カレリア様も皆も死んだ、殺された!
わたしにはもう何もないの!一緒にいて!守ってよー!」
ヴァンダルは黙して何も語らなかったが、地の底に至る寸前に、暗闇の中で鎧が大きく羽ばたいた。
日の光の下に舞い戻ると、空を覆いつくすような翼の下で、エリアスを抱き寄せる。
「外部からの働きがあったとはいえ、傷つけまいとした者に手を加えた。お前はそのような者に身を預ける覚悟があるのか?」
「覚悟がないなら、二回もあなたの手を取らなかった。」
「私が私でない時に、何をしたか分かっているのか?」
「・・・だから、その分守ってほしいの。」
凛とした目には、確かなそれが見受けられた。最初から彼女は多大な覚悟をしていた。だからこそ、彼らは地の底で出会ったのだった。
「了解した。この身が朽ちるまで、お前を守ると誓おう。」
「ヴァン・・・ダル・・・。」
不意に走り抜けたか細い声は、壊れ時を示唆しているのかと思われた。しかし、再度聞こえてきた時に振り返ると、治療痕がうかがえる肩で小刻みに息をする少女が立っていた。
「ティトが、あなたに、謝りたいって。」
「謝らなければならないのは私の方だろう?それに私のした事を踏まえれば、謝られる価値など無い。」
沈黙の後、エリアスは決壊したかのように口を開いた。
「どうして何も言わずに行っちゃうの!?」
「他の人々は、フラッドは人殺しの機械と思っているだろう。これ以上一緒にいれば、人々はお前にとって害になる噂を始めるかもしれない。」
「ある訳ないじゃない!ねえ、一番の功労者は誰なの?あなたじゃない。」
ヴァンダルはあくまで淡々と続けた。
「私の代わりにティト殿に謝ってくれ。エリアス、お前がいたからこそ私は目的を果たす事ができた。ここでお別れだ。」
「嫌っ―――!」
引き止めるように冷たい鎧の上になだれ込む。当たり所が悪かったのか、無数のフラッドを相手にしても揺らぐ事のなかった機体は、棒切れのようにエリアスごと地の底へと落ちていった。徐々に加速していく逆さまの世界で、エリアスは悲痛に叫ぶ。
「確かに最初の約束は守ってもらった!だけど、カレリア様も皆も死んだ、殺された!
わたしにはもう何もないの!一緒にいて!守ってよー!」
ヴァンダルは黙して何も語らなかったが、地の底に至る寸前に、暗闇の中で鎧が大きく羽ばたいた。
日の光の下に舞い戻ると、空を覆いつくすような翼の下で、エリアスを抱き寄せる。
「外部からの働きがあったとはいえ、傷つけまいとした者に手を加えた。お前はそのような者に身を預ける覚悟があるのか?」
「覚悟がないなら、二回もあなたの手を取らなかった。」
「私が私でない時に、何をしたか分かっているのか?」
「・・・だから、その分守ってほしいの。」
凛とした目には、確かなそれが見受けられた。最初から彼女は多大な覚悟をしていた。だからこそ、彼らは地の底で出会ったのだった。
「了解した。この身が朽ちるまで、お前を守ると誓おう。」
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