人外と人間

ロボ×女の子 1 非エロ

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ロボ×女の子 1 1-639様

とにかく、逃げなければ!
カレリアを筆頭とした暴虐な元首への反乱は、あと一歩の所で失敗してしまった。
人々が逃げ惑う戦火の中、カレリアは忠臣達を必死の思いで逃がし、炎に散った。
だが、元首直属の無慈悲な精鋭、フラッドと呼ばれるロボット兵は、すぐに彼らを追い、惨殺した・・・。

それほど遠くない所から叫び声を聞き、エリアスは耳を塞ぎながらも足を早める。
肩の辺りでウェーブのかかった銀髪は吹きすさぶ砂塵でもつれ、慣れない荒涼とした山岳地帯を走ったせいで、靴ずれも起きていたが、彼女は逃げる事を止めなかった。
「もう少しだったのにっ・・・!」
いつ殺されるか分からない今より、達成できなかった悲願の方が、彼女の心に多く満たされていた。しかし、それもやがて底知れない恐怖に変わっていった。
「フラッド!」
前方の砂塵の中から、薙刀のようなものを振り上げるフラッドの姿を見た瞬間に、エリアスは来た道を引き返した。先回りしているとは思わなかった。
ドン、と硬く冷たい音と、自分のキャッという短い悲鳴を同時に聞き、地面にしりもちをついたままの彼女が見上げた先には、鮮血の滴る鉄の爪と、真っ赤な目をした別のフラッドがあった。
「嫌ぁあああぁあ!!!」
慌てて向きを変えたが、後ろからは薙刀を持ったフラッドが滑るように追ってきた。
ほとんど何も考えられない頭に悲鳴を延々と響かせ、少しでもフラッドから身を隠そうと足場の悪い方へ進んでしまったのが、彼女の運の尽きだった。

「嘘・・・。」
ガラガラと崩れるような音を聞き、初めて回りを見たエリアスの立っている場所は崖っぷちだった。右にも左にも逃げられる場所はもうない。フラッドは数を増し、じりじりと彼女に迫っている。
その歩みが止まった時、一体のフラッドがエリアスを指差し、冷酷に言い放った。
「撃テ!」
その瞬間、彼女の足元は崩れ落ちた。刃物や弾丸の雨こそ浴びなかったものの、エリアスは無数の石と共に、崖下の底知れない割れ目に吸い込まれていった。

―寒い。ここはどこ? わたし、頭から落ちたのに、何で生きているの?
エリアスが体を起こして辺りを見回すと、周囲はただ闇に包まれていた。ある一方向に青白いライトで描かれた線があるだけだ。
崖下にこんな空間があるなんて聞いた事がない。
立ち上がってそちらに足を進める。足に伝わる感触から、床に衝撃吸収剤が混ぜられていたようだ。
靴ずれは純粋にか、それとも痛覚が麻痺しているのか、もう痛くなかった。
永遠に続くかと思われた光の道の終点にあったものを見て、エリアスは思わず息を呑んだ。
「フラッ・・・ド・・・。」
幾重にも鎖が繋がれていたが、深い紫の鎧は、間違いなくフラッドだった。しかし、なぜ拘束されているのだろうか。
自分を殺しにきた刺客ではないのか?
「誰だ・・・。」
急に聞こえてきたややノイズの混じった声に、心臓が飛び出るほど驚き、フラッドを凝視したままエリアスは後ずさる。
その目に明るい黄色の光が灯り、鋭く削られた指が動いた。そのまま鎖を引きちぎってしまいそうだ。
「お、お願い!殺さないで!」
エリアスは掠れた声で叫んだが、フラッドは動じる事なく静かに話し出した。

「心配するな。私は意志のないフラッドではない。」
「え・・・?」
「私は、元首が真に危険な時に元首を守る最後の兵だ。だが、お前の態度を見ると、今の元首はおかしいようだな。」
「今の元首はわたし達からひたすら搾取するだけなの。それで、耐え切れなくなって反発したのに、こんな事って!カレリア様!」
頬を緩やかに零れ落ちる涙は青白いライトに反射して、星のように光っている。
その様子をしばらくの間見守ったフラッドは、エリアスにある事を告げた。
「私の胸に手を置け。」
戸惑いながらもエリアスはフラッドに恐々と近づき、言われた通りに手を置く。
「お前の名は?」
彼女より頭二つ分ほど高い所から降ってきた声は、不思議な安堵感を彼女にもたらし、恐怖を欠片も残さず吹き飛ばした。
「エリアス・・・。」
名前を教えた瞬間、フラッドを拘束していた鎖は消えうせた。そして、自由になった腕は、待ち焦がれていたかのようにエリアスの細い体躯を抱きしめた。
「え、ちょっ、何?」
皮膚の代わりにフラッドの体を覆う鉄の冷たさと、抱きしめられる理由の不明瞭さに、エリアスは戸惑う。
そして、彼は彼女の耳元に唇を寄せ、静かに呟いた。
「私が最後に動いたのも、今お前が苦しんでいる世と同じような元首の治世だった。」
それはどこか悲しげで、憂いを帯びた響きだった。
「この腕が恐ろしいと、全てを破壊する私が恐ろしいと、勝手な理由を付けてこのような暗く冷たい場所に押し込めた。」
エリアスから腕を離した途端、彼は急に押し黙ってしまった。
(この人は、そんなにも長い間、こんな所に一人で・・・。)この理由が同情だけだったのかは分からないが、エリアスは余っていたフラッドとの幅を埋め、精一杯背伸びをして彼に抱きつき、黄色い目をしっかりと見上げた。

「エリアス、私が恐ろしくないのか?」
「怖くないって言うなら、嘘かもしれない。でもね、んっ・・・。」
次の言葉は、冷たい鉄の感触に阻まれた。エリアスの唇をゆっくりとなぞっていったフラッドの氷のような舌は、その冷たさとは裏腹に、熱い後味を彼女に残していった。
「これで、お前を傷つけた者を全て、我が腕で滅ぼそう。」

反逆者の血の臭いを引きずって帰還するフラッド達は、頭上を飛び回る影に気づき、足を止める。
その影は彼らの行く手に降り立った。
「元首ヘノ反逆者、エリアスヲ確認。排除セヨ。」
彼らは、裏切り者と判断されかねないフラッドよりも、エリアスを殺す事を優先した。
武器を持ち直し、一斉にエリアスに飛び掛った刹那、彼女の傍らのフラッドが腕を振り上げた。
次の瞬間には、元は元首の忠実な人形だった者達の残骸がそこら中に転がっていた。
機械油に塗れた腕を後ろ手に隠し、フラッドはエリアスに向かって不器用に笑った。
彼女は指先を唇に当てたまま、妙に困ったように呟く。
「わたし、あなたの名前をまだ聞いてなかったわ。」
この問いかけには、フラッドもエリアスと同じように困惑した。何しろ、作られてからまともに名前らしい名前を呼ばれた記憶がない。
「名前は・・・ない。」
「じゃあ、ヴァンダル、なんてどう?」
細い指で胸の装甲を突きながら、エリアスは言った。
「全くもって問題はないな。」
フラッド改めヴァンダルは、さらりと新しい名前を受け入れた。
「ねえ、ヴァンダル。」
「分かっている。」
機械油に濡れていない手で、エリアスの手を傷つけないように取り、その甲に口付けを落とした。
「お前が憎いと思う世界は、いらない。」
砂塵の中にぼんやりと浮かぶ元首の居城を見据え、ヴァンダルはエリアスを抱いて飛び立った。







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