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第7話

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第7話

 百花繚乱。
 ディスレイファン三大矢術の一つとして、広く知れ渡っている名前。この名を聞いたことがある者は数おれど、どんな技なのかと聞かれて、明確な答えを返せる者などほとんどいない。
 それは『百花繚乱』という技が、殺人技すら超えた殺戮技であるがゆえだ。ただの人間ならば、百花繚乱を最後まで見ることなど確実に出来ない。
 言うなれば――『龍』と戦うためだけに生み出された技ゆえに。

 放った矢が走る。それはディスレイファンお得意のお家芸、『流星』。ギリギリまで引き絞った矢に、鉄をも貫く貫通力を与えた技。流星の名に恥じず、その矢は確実にアッサーラの右目を穿つ。勢いにのけぞるアッサーラに構わず、ディスはさらに弓を引き絞る。
「『一輪挿し』」
 幾多の『流星』が走る。それはアッサーラの体へと突き刺さり、貫き、えぐる。常人なら痛みに身もだえするほどの量。アッサーラはまるで、痛みなど感じていないかのように突貫した。
 それでこそ――百花繚乱を使うだけの価値はある。 「『蓮華』」
 右腕を振り上げたままの体勢で、アッサーラの体を幾多の矢が貫いた。横方向ではなく、縦方向。正面からではない。その矢は文字通り、アッサーラの足元から生えてきた。
「ぐあああああっ!」
 アッサーラが怒号以外での、初めての叫び声をあげる。
 土より生える春の蓮華。
 土より生える鏃の蓮華。
 アッサーラの体がぐらつく。狂人の苦痛。狂人が動きを止めるほどの、致命傷。
「――終わりだ」
 慈悲の言葉など欠片もなく、優しさは影をひそめて。龍殺し『流星矢』ディスレイファンとして。
「『夜桜・狂い咲き』」
 引き絞った幾多の矢が、アッサーラを狙う。
 矢筒にあった残りの矢を、全てつがえた『矢嵐』。それに『流星』にも及ぶ貫通力を持たせた、百花繚乱の締め技。
 宙を駆ける幾多の矢が、軌道を変え、弧を描き、余すことなく、突き刺さる。貫く。
 腕も、肩も、胸も、腹も、腰も、背中も、首も、顔も、頭も。
 直立不動のままで、アッサーラは絶命する。広げた両腕と、そこに生えた矢。それはまるで――
 咲き乱れる、桜の樹。

 時はわずかに遡る。
 ハジャとリオは対峙していた。片やにやにやと微笑んで。片や底知れぬ無表情で。
「……お姉さん、魔術師だな」
「うん」
 あっさりとリオが頷く。ハジャはひどく愉快そうに笑った。
「そうか、魔術師か! あんたも魔術師か! だったら分かるか俺の凄さが! 狂った親父なら、すぐにでも殺せる俺の凄さが!」
「うん、ごめん。分かんない」
 返答はあっさりと。余裕というわけではなく、軽んじているわけでもなく、特に何も考えていない。極論として言えば――そう、興味がないような口調。
 その言い方が癇に障ったのか、ハジャが眉間に皺を寄せる。
「だったら……見ろよ! 俺の凄さを! 俺の強さを! 俺の力をっ!」
 かっ、とハジャが眼を見開く。それと共に、顔、腰、腕、背中に幾多の『口』が生まれた。
 身体中のどこも口、口、口、口、口、口。リオはただ、片眉を上げただけで動揺の一つも見せない。
「ベロ様が俺を、魔術師として最強にしてくれたんだ! お前がどれだけ優れた魔術師でも、俺の五十八個同時詠唱を止められるもんかっ!」
「はー……」
 驚きというより動揺というより、恐れというより畏怖というより、その口から出たのは、呆れの溜息。
「あせごんといいロランといいミラケルといい、なんで魔術師ってみんな自信過剰のナルシストなのかなぁ。特にあんたはひどいね。リオちん的ナルシストランキング第二位にランクインしたよ」
「な、何……!?」
「ああ、ごめんね。一位はミラケルでもう不動だから」
「そんなこと聞いてない! くそっ、俺を軽んじるなら、死ね!」
 ハジャが両腕をあわせる。同時に、身体中にある幾多の口が同時に詠唱を始めた。
『『緋炎の龍ラスト・ドラゴン』が力の片鱗』
 全く同じ言葉の、全く同じ声の、五十八個の合唱。ハジャは完全に見下した眼差しで。リオは完全に見下した眼差しで。
『我求むは炎熱の槍。地獄より来たれり黒なる炎』
 リオは動かない。詠唱の一つも開始しようとはしない。
『焦熱の儀に伴い生まれよ炎熱』
 くわっ――ハジャの両目が見開くと共に、その呪文は完成した。
『火炎槍打<ファイアランス>!』
 空中に生まれた槍が、真っ直ぐにリオを狙う。リオは動かない。抵抗呪文もかけず、反射呪文もかけず、ただそこに立っているのみ。ハジャは勝利を確信した。
 炎の槍が貫いたその場所が、真っ黒な煙に包まれる。生きてはいまい。そう思った。そう考えた。国王『高位魔術師』ミラクルのように、無詠唱化魔法など覚えていないはずだから。
「――多分ね、あせごんなら双重炎獄<デュアル・ファイア>一発でこの五倍の威力は出せるね」
 黒煙の中から、声。
「ロランは炎魔法得意じゃないけど、それでも火炎槍打<ファイアランス>一撃で、あんたの十倍以上強いと思うよ」
 信じられなかった。信じたくなかった。ハジャの足が震えていた。
「でもね、詠唱長すぎ。あせごん相手なら五回、ロラン相手なら七回、ミラケル相手なら十五回は死んでる」
 風に流された黒煙から現れたのは、無傷で立っているリオ。
 服は完全に炎に焼かれ、一糸まとわぬ姿。気だるそうに細めた眼は、相変わらずの無感情。服のなくなった肢体には余すところなく刺青が彫ってあり、四枚の白い羽を背中で揺らしていた。牛の角のようにこめかみから生えた角は下を向き――それが、人間ではないと知れた。
「な、な、な、なななな、何なんだよお前っ! どうして死なないんだ!」
 リオはただでさえ細い眼をさらに細めて、薄く微笑んだ。そして右腕を流れるように振り上げる。
「うちのね、本当の名前を教えようか」
 轟く雷鳴。落ちる稲妻。それは真っ直ぐにリオの右腕へと落ち、ぱちぱちと放電をしながら絡みつく。まるで、眷属だとでも言わんばかりに。
「うちはね――『雷鳴の龍リオ』っていうんだよ」
 その微笑が消えて。リオが腕を下ろして。

 ハジャが身体中を雷で灼かれたのは、ちょうど三秒後。

       to be continued

コメント・感想

  • 存在理由は殺すことだけ・・。命ぜられるままに殺戮を繰り返す少女の瞳にあるのは、憎しみか、哀しみか・・・。 次回Bloody Princess〜Hunter of Wind〜    『 リックス 』   狂気の呪縛、貫け! ディス! -- やんばるくいな
  • って、内容知らないけど勝手にガンダムシード風次回予告してみたり・・ -- やんばる@睡眠不足
  • いきなり次回予告チックだw -- Kengo
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