追走録
「むぅ、おいつかないですねぇ…」
息を切らして逃げる電<デン>を、背中から追ってくる巨大な影。
氷海の船のように地面をがりがり断ち割って、それはもうそこまで来ている。
「こうちゃんもつかれちゃうじゃないですか」
巨大な地竜の背びれに掴まっているのは細身の青年。
彼はくすっと笑って、竜の金属の身体を撫でる。
この追いかけっこは、何時から続いていただろう。
そんなことも今となってはどこかに落としてきた記憶、忘れ去ってしまった。
ただ電は逃げることを選び、蛇と青年は追うことを選んだ。それだけのこと。
息を切らして逃げる電<デン>を、背中から追ってくる巨大な影。
氷海の船のように地面をがりがり断ち割って、それはもうそこまで来ている。
「こうちゃんもつかれちゃうじゃないですか」
巨大な地竜の背びれに掴まっているのは細身の青年。
彼はくすっと笑って、竜の金属の身体を撫でる。
この追いかけっこは、何時から続いていただろう。
そんなことも今となってはどこかに落としてきた記憶、忘れ去ってしまった。
ただ電は逃げることを選び、蛇と青年は追うことを選んだ。それだけのこと。
「あ、そっかぁ」
えいっ、と指を鳴らす。その音が騒音の中で明確にぱきりと響いたとき、電の足はもつれていた。
そこで縫いとめられたように、一歩も動くことが出来ない。
「……!?」
「"ふういん"つかえばいいんですね、わすれてました♪」
無邪気な笑い声と裏腹、電の背後では巨竜が鎌首を擡げる。
低い唸り声、鉄錆びた匂いのする生暖かい吐息。
電はぎゅっと目を閉じて、せめて世界から目を背ける。
えいっ、と指を鳴らす。その音が騒音の中で明確にぱきりと響いたとき、電の足はもつれていた。
そこで縫いとめられたように、一歩も動くことが出来ない。
「……!?」
「"ふういん"つかえばいいんですね、わすれてました♪」
無邪気な笑い声と裏腹、電の背後では巨竜が鎌首を擡げる。
低い唸り声、鉄錆びた匂いのする生暖かい吐息。
電はぎゅっと目を閉じて、せめて世界から目を背ける。
――まったく、これだからお前は駄目なんだ…逃げてばかりでちっとも戦おうとしない
獲物にかじりつこうと迫っていた牙が、何かを感じて一瞬怯んだ。
明らかに相手の気配が変わった。青年も興味深そうに獲物を見た。
電の背中のツバサが、風を孕む。竜と青年を睨みつける。
「邪魔だ」
獲物にかじりつこうと迫っていた牙が、何かを感じて一瞬怯んだ。
明らかに相手の気配が変わった。青年も興味深そうに獲物を見た。
電の背中のツバサが、風を孕む。竜と青年を睨みつける。
「邪魔だ」
熱気が音を立てて蛇を覆った。一瞬にして周囲の水分が消えうせる。
逃げ回ってばかりで退路を絶たれるとは、なんとも愚かしい。
しかし、勝利を確信して立ち去ろうとした電の脚は、まだ動かなかった。
「"ねっぷう"…めんどくさいわざおぼえてるじゃないですか」
「…馬鹿な、」
ぽつ、ぽつ。
雨垂れが電の頬を濡らす。雨が降り出し、たちこめていた熱気は洗い流されるように消えていく。
白い煙が薄らいで、その膜の向こうには相変わらず、巨大な蛇の姿がある。
「ほのおには"あまごい"、ってだれかがいってましたね…ね、こうちゃん?」
こうちゃんと呼ばれた竜は唸り声を上げて、愕然としている電に飛び掛った。
酷くなる雨を背景に、青白い稲妻が走る。それは生きているように的確に竜を捕えた。
ダメージこそほとんど受けないが、竜はぶるぶると頭を振る。
「こうちゃん? だいじょう――!?」
心配して竜に触れた青年のもとへ、稲妻は真っ直ぐに伸びその牙をむく。
竜の背を転がり落ち、青年は動かなくなった。
光に照らされた瓦礫の山の上に、電は人影を見る。
どこか、懐かしい、
「―――にげなきゃ、」
青年の技の効果が切れたのだろうか、足が軽くなっている。
そのまま瓦礫の折り重なる闇の中へ、電はすぐに姿を消した。
人影も電を見届けてから、同じように姿を消す。
次第に雨脚も遠のいて、そこには蛇と青年だけが残される。
逃げ回ってばかりで退路を絶たれるとは、なんとも愚かしい。
しかし、勝利を確信して立ち去ろうとした電の脚は、まだ動かなかった。
「"ねっぷう"…めんどくさいわざおぼえてるじゃないですか」
「…馬鹿な、」
ぽつ、ぽつ。
雨垂れが電の頬を濡らす。雨が降り出し、たちこめていた熱気は洗い流されるように消えていく。
白い煙が薄らいで、その膜の向こうには相変わらず、巨大な蛇の姿がある。
「ほのおには"あまごい"、ってだれかがいってましたね…ね、こうちゃん?」
こうちゃんと呼ばれた竜は唸り声を上げて、愕然としている電に飛び掛った。
酷くなる雨を背景に、青白い稲妻が走る。それは生きているように的確に竜を捕えた。
ダメージこそほとんど受けないが、竜はぶるぶると頭を振る。
「こうちゃん? だいじょう――!?」
心配して竜に触れた青年のもとへ、稲妻は真っ直ぐに伸びその牙をむく。
竜の背を転がり落ち、青年は動かなくなった。
光に照らされた瓦礫の山の上に、電は人影を見る。
どこか、懐かしい、
「―――にげなきゃ、」
青年の技の効果が切れたのだろうか、足が軽くなっている。
そのまま瓦礫の折り重なる闇の中へ、電はすぐに姿を消した。
人影も電を見届けてから、同じように姿を消す。
次第に雨脚も遠のいて、そこには蛇と青年だけが残される。
「ったあぁぁ~…あーあ、よごれちゃいました…」
青年はごそごそと身体を起こして、白い装束についた土埃を払う。
しかし、"ひかりのかべ"を使わなければ、今頃その装束もまとめて黒焦げになっていただろう。
「でも、だれでしょうね? "かみなり"でしたけど…おなかへりましたか?」
蛇は鼻先を青年におしつけるような仕草をした。青年は笑ってその金属の肌を撫でる。
そして、慈しむように目を閉じた。
青年はごそごそと身体を起こして、白い装束についた土埃を払う。
しかし、"ひかりのかべ"を使わなければ、今頃その装束もまとめて黒焦げになっていただろう。
「でも、だれでしょうね? "かみなり"でしたけど…おなかへりましたか?」
蛇は鼻先を青年におしつけるような仕草をした。青年は笑ってその金属の肌を撫でる。
そして、慈しむように目を閉じた。