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ある男のエセー

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nightmareofmio

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追走録




「むぅ、おいつかないですねぇ…」
息を切らして逃げる電<デン>を、背中から追ってくる巨大な影。
氷海の船のように地面をがりがり断ち割って、それはもうそこまで来ている。
「こうちゃんもつかれちゃうじゃないですか」
巨大な地竜の背びれに掴まっているのは細身の青年。
彼はくすっと笑って、竜の金属の身体を撫でる。
この追いかけっこは、何時から続いていただろう。
そんなことも今となってはどこかに落としてきた記憶、忘れ去ってしまった。
ただ電は逃げることを選び、蛇と青年は追うことを選んだ。それだけのこと。

「あ、そっかぁ」
えいっ、と指を鳴らす。その音が騒音の中で明確にぱきりと響いたとき、電の足はもつれていた。
そこで縫いとめられたように、一歩も動くことが出来ない。
「……!?」
「"ふういん"つかえばいいんですね、わすれてました♪」
無邪気な笑い声と裏腹、電の背後では巨竜が鎌首を擡げる。
低い唸り声、鉄錆びた匂いのする生暖かい吐息。
電はぎゅっと目を閉じて、せめて世界から目を背ける。


――まったく、これだからお前は駄目なんだ…逃げてばかりでちっとも戦おうとしない
獲物にかじりつこうと迫っていた牙が、何かを感じて一瞬怯んだ。
明らかに相手の気配が変わった。青年も興味深そうに獲物を見た。
電の背中のツバサが、風を孕む。竜と青年を睨みつける。
「邪魔だ」

熱気が音を立てて蛇を覆った。一瞬にして周囲の水分が消えうせる。
逃げ回ってばかりで退路を絶たれるとは、なんとも愚かしい。
しかし、勝利を確信して立ち去ろうとした電の脚は、まだ動かなかった。
「"ねっぷう"…めんどくさいわざおぼえてるじゃないですか」
「…馬鹿な、」
ぽつ、ぽつ。
雨垂れが電の頬を濡らす。雨が降り出し、たちこめていた熱気は洗い流されるように消えていく。
白い煙が薄らいで、その膜の向こうには相変わらず、巨大な蛇の姿がある。
「ほのおには"あまごい"、ってだれかがいってましたね…ね、こうちゃん?」
こうちゃんと呼ばれた竜は唸り声を上げて、愕然としている電に飛び掛った。
酷くなる雨を背景に、青白い稲妻が走る。それは生きているように的確に竜を捕えた。
ダメージこそほとんど受けないが、竜はぶるぶると頭を振る。
「こうちゃん? だいじょう――!?」
心配して竜に触れた青年のもとへ、稲妻は真っ直ぐに伸びその牙をむく。
竜の背を転がり落ち、青年は動かなくなった。
光に照らされた瓦礫の山の上に、電は人影を見る。
どこか、懐かしい、
「―――にげなきゃ、」
青年の技の効果が切れたのだろうか、足が軽くなっている。
そのまま瓦礫の折り重なる闇の中へ、電はすぐに姿を消した。
人影も電を見届けてから、同じように姿を消す。
次第に雨脚も遠のいて、そこには蛇と青年だけが残される。


「ったあぁぁ~…あーあ、よごれちゃいました…」
青年はごそごそと身体を起こして、白い装束についた土埃を払う。
しかし、"ひかりのかべ"を使わなければ、今頃その装束もまとめて黒焦げになっていただろう。
「でも、だれでしょうね? "かみなり"でしたけど…おなかへりましたか?」
蛇は鼻先を青年におしつけるような仕草をした。青年は笑ってその金属の肌を撫でる。
そして、慈しむように目を閉じた。






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