流星ドライブ
粘ついた湿気は肌を舐めるような不快感で以て、宛て所なく歩き回る翼に襲い掛かった。
腕に抱いた恋人、飴の表情を伺い見ては、安らかな寝顔に安堵の溜息を吐きかける。
結局、飴を空へ連れて行ってやる夢は叶わなかった。
背中から生えた剥き出しの骨には、ほとんど皮は残っていない。
腕に抱いた恋人、飴の表情を伺い見ては、安らかな寝顔に安堵の溜息を吐きかける。
結局、飴を空へ連れて行ってやる夢は叶わなかった。
背中から生えた剥き出しの骨には、ほとんど皮は残っていない。
初めから全て徒労だったのか。
骨だけのツバサ。どんなに風を浴びようと、どんなに羽ばたこうと、飛び立つことは叶わない。
いくら皮を繕ってみたところで、それは骨組み以上にはなれない。
所詮紛い物でしかない、骨と皮のツバサ。飛び立てるわけがなかったのだ。
しかしそれでは何故、こんなツバサに固執したのだろう。
飴のため? 飴が望んだから?
そんな単純な問いかけにも答えられない。わからない。
理由に愛を塗布してしまった以上、剥がすのは至難の技だった。
骨だけのツバサ。どんなに風を浴びようと、どんなに羽ばたこうと、飛び立つことは叶わない。
いくら皮を繕ってみたところで、それは骨組み以上にはなれない。
所詮紛い物でしかない、骨と皮のツバサ。飛び立てるわけがなかったのだ。
しかしそれでは何故、こんなツバサに固執したのだろう。
飴のため? 飴が望んだから?
そんな単純な問いかけにも答えられない。わからない。
理由に愛を塗布してしまった以上、剥がすのは至難の技だった。
飴の頬を撫でる。荒れた肌理はざらざらと、記憶の中の"彼"を風化させた。
『まっき、』
言葉まで鮮明に蘇る。"彼"は翼の手をひいて、まだツバサの開かぬ翼に空を見せた。
空は美しくそこに在る。ふと気付いてみれば、圧倒的なまでの存在感を持って。
いつかこの空を舞える日が来るのだろうか? この空を掌中に収める日が?
わからない――翼は立ち止まる。
飴がゆっくり目を開けた。立ち尽くす翼の腕の中で。
「よく、ごめんな」
「………俺は、ただ」
飴の喜ぶ顔が見たくて。そのためならどんな過ちも笑顔で犯せた。
それが過ちだとさえ気付かなかった。飴のため、飴のためなら。
飴が望む限り。
けれど飴は望まなかった。あの"エアームド"のツバサを千切ることを。
そしてやっと、愛を纏った獣は剥がれ落ちた。
「俺は間違っていたな…飴のためだなんて嘘だ、飛びたかったのは飴じゃなく、俺なんだ」
「よく……?」
「愛情なんて大義名分でしかない。殺したのも、皮を剥いだのも、全部俺がしたくてやった」
不意に笑いが込み上げる。それは乾ききって、胸のすくような笑いだった。
『まっき、』
言葉まで鮮明に蘇る。"彼"は翼の手をひいて、まだツバサの開かぬ翼に空を見せた。
空は美しくそこに在る。ふと気付いてみれば、圧倒的なまでの存在感を持って。
いつかこの空を舞える日が来るのだろうか? この空を掌中に収める日が?
わからない――翼は立ち止まる。
飴がゆっくり目を開けた。立ち尽くす翼の腕の中で。
「よく、ごめんな」
「………俺は、ただ」
飴の喜ぶ顔が見たくて。そのためならどんな過ちも笑顔で犯せた。
それが過ちだとさえ気付かなかった。飴のため、飴のためなら。
飴が望む限り。
けれど飴は望まなかった。あの"エアームド"のツバサを千切ることを。
そしてやっと、愛を纏った獣は剥がれ落ちた。
「俺は間違っていたな…飴のためだなんて嘘だ、飛びたかったのは飴じゃなく、俺なんだ」
「よく……?」
「愛情なんて大義名分でしかない。殺したのも、皮を剥いだのも、全部俺がしたくてやった」
不意に笑いが込み上げる。それは乾ききって、胸のすくような笑いだった。
ああ、空はここには無いのに!
ひとしきり笑って、翼はツバサに火を点けた。燃え落ちる皮膚の焦げる臭い。
飴は翼の肩ごしに、炎の乱舞を見送る。
炎の隙間、翼の背には乞い願ったあのツバサ。
「わかってるさ、見ないふりするぜ神様」
翼の言葉に、飴はにやりと笑う。ぱさ、と音を立てて包帯が肌を離れた。
「都合よく生きてこうぜ。夢は楽しむべきだろ」
"翼"と"飴"。二人分の過ち。落ちた皮、取れた包帯。燃えていく。
「パーティーはここから。夢は夢、でも俺は俺。群青、愛してるぜ。俺に着いてこいよ」
「何してくれる?」
「二人っきりでデートしようか、どこへでも連れてってやる。群青のやりたいこと全部やろう」
「まっきはいいの?」
"翼"は笑った。燃え尽きて灰になった二人の"夢"を見下ろして。
「俺は、群青といっしょにいたいだけだ」
手を取り合った。終幕へ向かう歯車が一気に回りだす。
「二人で死のうぜ、」
幻想の恋はもういらない。二人の終点まで、滑り出した流星ドライブ。
やがて二人が去った後、壊れた夢を慰めるように雨が降りだした。
飴は翼の肩ごしに、炎の乱舞を見送る。
炎の隙間、翼の背には乞い願ったあのツバサ。
「わかってるさ、見ないふりするぜ神様」
翼の言葉に、飴はにやりと笑う。ぱさ、と音を立てて包帯が肌を離れた。
「都合よく生きてこうぜ。夢は楽しむべきだろ」
"翼"と"飴"。二人分の過ち。落ちた皮、取れた包帯。燃えていく。
「パーティーはここから。夢は夢、でも俺は俺。群青、愛してるぜ。俺に着いてこいよ」
「何してくれる?」
「二人っきりでデートしようか、どこへでも連れてってやる。群青のやりたいこと全部やろう」
「まっきはいいの?」
"翼"は笑った。燃え尽きて灰になった二人の"夢"を見下ろして。
「俺は、群青といっしょにいたいだけだ」
手を取り合った。終幕へ向かう歯車が一気に回りだす。
「二人で死のうぜ、」
幻想の恋はもういらない。二人の終点まで、滑り出した流星ドライブ。
やがて二人が去った後、壊れた夢を慰めるように雨が降りだした。
灰になった夢は、ただ消え逝くのみ。