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ゆめのはて

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夢の崩落




銃を納めて、ソラは倒れ伏している二人に近づいた。
ルイと、ゲン。見慣れた顔だ。すこし安堵して、連れて帰ろうと、触れようとした瞬間。
目の前の闇が、音をたてて裂けた。
薄布を裂くように、その奥から凝り固まって澱んだ空気が溢れてくる。
目が、放せない。見ているのは怖ろしい。喉が締め付けられるように軋む。
右腕がまた、痛みを持った。奥から近づいてくる何か。ただひたすらに、怖ろしい。
ずるり、胎児が産まれ出るように現れたのは、靡く白髪と赤い布、睨む青い瞳。

「……いずれ、このような事態になるのではないかと思っていた」
罅割れたような声でそう呟くと、その何者かは銃を構えることすら忘れたソラに近づく。
ソラは金色の瞳をいっぱいに見開いて、恐怖に喘いでいた。
目を閉じることが出来ない。目の前に残像が重なる。03が落ちる。死、が。
「一本の糸が抜け落ちただけでも、布は容易に解れて消えるものだ…」
憂わしげにため息を吐き、青い瞳でソラを見つめる。
「醒者は夢を破綻させ、夢を崩壊させる。彼らは夢の秩序から外れているからだ…
 しかし<クレセリア>は何も理解っていない!」
一言吼えて、ふぅむ、と息を吐き出し、優しくソラに触れた。
癖のついた銀髪から、肩になだれている赤毛、それから右腕へ。
「おかげでこの私ですら姿を現さざるを得なくなってしまった…
 目醒めたものが夢を見るのは不自然だと、少し考えれば理解できるだろう?」
ソラの頬を辿って、子供に言い聞かせるように、優しく撫でる。
それこそ蛇に睨まれた蛙の如く、ソラは身じろぎひとつしなかった。
「……崩壊など、誰も望まない」

「では、望むものがあるとしたら?」
赤い世界を断ち割るように響いたのは、清涼のような声だった。
瑠璃を弾いたように澄んだ声。それは、ダークライ――ひいてはソラの、足元から。
「この世界を終わらせることを望むものなら、ここに在るが?」
晴れてどこまでも高く深く澄み渡った、美しい空の青。
真っ直ぐに、<ダークライ>を見つめている。
「……やあ、しぶといね、君も」
「おかげさまで」
黒い衣装を翻して、煩わしげに目元の包帯を取り払う。
<ダークライ>は、旧友でも見るような親しげな目で彼を見ていた。
「ゲン、どうやってここへ? <クレセリア>の手引きか?」
「まさか、私はずっとここに居たさ…ただ、記憶として、だがね」
「ああ、あの時閉じ込めておいた」
感心したように声を上げる。その様子は、明らかに状況を楽しんでいた。
「記憶の積み重ねが人と成るなら、記憶は人と等しい。成る程。」
「だが、体が無かった…感謝するよ、私の体を連れて来てくれたことを」
あくまで互いに物腰は柔らかいが、燃え盛りそうな睨み合いがそれを否定する。
<ダークライ>はふ、と笑って、音も無く後退る。
その背後には、禍々しい瘴気を吐く裂け目があった。
「此方にも事情というものがある。君たちを強制的に眠らせたり追い出したりも出来なくはないが」
吸い込まれるように、その姿が消えた。
「繕いは、一瞬でできるものではないからね……」
後にはただ、元通り赤い世界が広がっているばかりだった。


「…ゲン、」
「君はこのまま、ルイとマキを連れて帰れ」
ソラは黙って、ひとつだけ頷いた。それから思い出したように、ゲンを少し引き寄せる。
「……怪我、している」
確かに黒衣のあちこちは裂け、ところどころには生温い血が滲んでいる。
マキ――翼がつけた傷だ。ゲンは顔を顰めた。
「大丈夫、痛いけれど…あの人はもっと痛い」
虚空を睨む青い瞳に、平素の穏やかさは微塵もない。
ソラは髪を縛っていた布切れを解き、包帯のようにゲンの怪我に巻き、縛った。
「ありがとう。…頼むよ、ソラ。私はあの人を探さなくてはならないんだ」
「ああ…わかっている」
歩き出したゲンの背中に、呼び止めるように声をかけ。
「幸運を祈る」
ソラは几帳面に敬礼をしてみせた。上がらないはずの右腕で。
ゲンは一瞬驚いたが、すぐ笑顔に戻り、敬礼で返した。



「綻びた夢はしだいにその裂け目を広げて行く」
「やがて夢は崩壊する」
「目覚めるのは、夢を夢と知る醒者のみ」
「夢を夢と知らぬものは――その時、」




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