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消えていった君に捧ぐ

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nightmareofmio

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葬送曲




「"波導使い"と"ルカリオ"は、ふたつでひとつの双子のようなものだ。」
「互いの力を相互に強めあう、言うなれば、唯一無二のパートナー。」


頭の中で声が遠く響いた。
だから彼らは、僕たちを同時に産み出す必要があったのだろう。最強を望んだから。
彼が組織を逃げた時、僕は必死で彼を探した。
僕のパートナーになるはずだった"リオル"、魂の半身。片方だけではだめなんだ。

なのに今。

僕は神と成った彼を、殺そうとしている。




瞬間、血塗られた真ッ赤な爪が眼前に迫り来た。

幻は咄嗟に身を引いて、寸でのところで爪を避ける。
直撃すれば痛いで済まない、首をもがれる程度ならまだ安い。
二撃、三撃。立て続けに凶器が振り回される。幻はそれら全てを躱した。
いや、躱すのが精一杯。ぎりぎりだ。
「なんで当たんないわけ?」
青は明らかに苛ついた様子で、攻撃は次第に大振りに苛烈になった。
風を切る音が既に痛い。地面も簡単に砕けて跳んだ。
青が拳を瓦礫にめり込ませた、次の動作に移るまでの僅かな隙を突いて、幻はその脚を一閃した。
しかし、"トリデプス"の頑健な鎧が打撃を阻む。
青は怯むことなく拳を振り抜いた。幻の頬に赤く血の筋が引かれる。
きっちり跳び退いて攻撃を僅かな切り傷に抑えた幻に、青は並々ならぬ戦闘センスを感じとっていた。
成る程、こちらの攻撃は読まれているということか。
「よく避けたねぇ」
「知ってるからね、君の癖も、好みも…何回組み手してるか、数えきれないくらいだから」
幻は柔和に微笑んだ。遠い過去を懐かしむように。けれど青い瞳は直ぐに青を睨む。
そこには明らかな怒り――青ではない誰かに向けられた、目を背けたくなるような厳しい怒りがあった。
「君は変わった…君はもう、リオじゃない」
「何の話?」
青も相当に苛立っていた。攻撃は尽く避けられ、わからない名で自分を呼び捨てられる。
幻はここで青と戦いながら青を見ていない。
青はため息を吐いた。
相手は少し頭がいいだけの人間、ならばこちらも頭を使えばいい。
地面を蹴って打ち込んだ拳は、ただの打撃とは違う。案の定幻はひらりとそれを躱したが、それは想定内。

「――――!!?」

幻の動きが止まる。ばちっと音を立てて火花が散った。
"かみなりパンチ"の帯びた電流が、蛇のように幻に食らいつく。
さしたるダメージにはならないが、電撃特有の追加効果が彼の体を縛った。
身動きがとれずに転がり、それでもなお激しく燃える紺碧い炎。
青は幻にそっと触れた。癖の黒髪をくしゃりと撫でて、幻の瞳を覗き込む。
「冬の言った通りだ、目の色が違うだけ。でもあなた、ぼくじゃない。」

幻は、笑った。
唇を吊り上げたいやらしい笑顔は、とても彼の端正な顔には似合わない。
その歪さに思わず青は躊躇った。
誰だ、こいつは。青金石、まさしく宝石を思わせる深い色の瞳が、焦げ堕ちる。
赤い鋼玉、心臓からこぼれた涙。断罪の業火の如き、暗い炎の色へ。
「こんな簡単な罠すら見抜けないなんて…落ちたね、リオ」
声は背後から響いた。
瞬間、"幻"は瓦解し融け落ち、青の真後ろへ跳んだ。
はっとして振り返れば、そこには赤い回転鋸を従えた幻がいる。
次の瞬間には、鋸はけたたましい笑い声のような不協和音を奏で、青に襲い掛かった。

それは、一瞬のこと。降注ぐ血肉の雨の中。
身体をずたずたに引き千切られても、青はまだ藻掻いている。それが彼の、神と呼んだ力だったのだろうか。
幻はばらばらになった青の上で、悲しい目で青を見下ろす。
夢だとわかっていても、こんな姿の青――リオを見たくはなかった。
溢れた血が、次第に白い煙のような靄を帯びはじめる。青の夢が、消えはじめた。
「…――や、死にたく、ないよ…!」
「許してくれリオ…私のせいだ」
青はふと動きを止めて、頭上の幻を見た。青の赤い瞳が、微かに輝く。
「……ごめんなさい」
誰に向けた言葉だったのだろう。
空に輝く大きな三日月。それを背負った幻は黒衣も相まって、さながら鎌を担いだ死神のよう。
青はすこしはにかむように微笑んで、ゆっくり目を閉じた。
その姿が霧消する。青が、終わった。幻は悲痛な表情で、消えていく青を見送った。

「ねーェ、いつまでそしてるツモリなの? このヒト死んじゃうよぉ?」
"幻"が冬を抱き上げた。冬は固く目を閉じ、肌からは色味がひいている。
青の爪に背中から貫かれたそのままだ。
幻が駆け寄る。
「消えちゃいそうだネぇ…」
「……できるかい?」
「ヒト使い荒いー」
文句を言いながらも"幻"は楽しそうだ。
高い声で笑うと、彼は姿を変えた。どろり、粘度の高そうな紫の液体が冬に落ちる。
冬の身体はその侵入を拒むように跳ねたが、それは傷口から容易に入り込む。
冬が目を開ける。
しかし、見慣れた琥珀色ではなく、燃えるような深紅の瞳。冬に溶け込んだ"彼"は、冬の声で笑った。
『こんナ無茶苦茶いうヒト、初めてェ…』
他人の命を繋げなどと。《名無し》の彼とて、そんなものに変化したことなど無い。
今、この身体の持ち主はすっかり眠っている。
起きるまでに身体を駆使して傷を治せば、なんとかなるだろうが…。
「それは失敬」
"冬"を助け起こして、幻はため息を吐いた。
とにかく疲れ果てている。色々なことが一度にありすぎた。休める場所を探さなくては。

「君はどうするの?」
『治るまではいてアゲル。お兄さんちっとモあまーくなさそうだシ、それでサヨナラ』
「じゃあ、暫くいっしょか。女の子を探してるんだろう?」
『探してくれル? 怪我はなんとかするよぉ』
幻は深く頷いた。"冬"を置いて駆け出す。"冬"は手を振ってその背中を見送り、低い声で笑った。

悪夢に化けた彼は、そんなことしなくたって夢を自在に探し回れる。
けれど今、彼は"冬"だ。身体を見下ろして、愉快そうに笑う。
『身体の怪我だけじゃないネ、このヒト…よっぽどさっきのお兄さんがスキなのかナ?』
去って行く背中に、身体が勝手に泣いた。傷でないどこかが、ちくりと痛い。
『この夢が終わったラ…遊んでみようカナ』
楽しめソウだもんね。"冬"は自身を撫でて、とろりと笑った。




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