少しだけ、昔の事を思い出した。
あぁ、そうは言っても"あいつら"にとっては未来の話か。
厳密に言うと、あいつらの"片方"にとっては、だけれども。
未来世界。
闇に閉ざされた、暗黒の世界。
俺が住んでいた森も例外ではなく、黒へと閉じ込められていた。
其処にやってきた双子が居たんだ。
片方が男の子だったのは覚えている。容姿も思い出せる。
傷だらけの"片割れ"を庇いながら逃げてきた、らしい。
大人しそうだったけれど、とても勇敢だったのを覚えている。
けれど、もう片方の事を思い出せない。
性別も、年齢も、容姿も、性格も何もかもが思い出せない。
覚えているのは、"その人"が、俺の大切な何かだった事、だけ。
それが尊敬だったのか憧れだったのか恋心だったのかはたまた憎悪だったのかは分からない。
――分からないのならば、確認すればいい。
そう思い立って、動き始めたのが数日前。
「――また、か。」
頭が割れるような、激しい痛み。
この世界について心当たりを思い出そうとすると、いつもコレだ。
コップに入った生温い水を一気に飲み干す。
そして、小さく溜息。
「ったく・・・これじゃ全然前に進みやしないな。」
何も考えないで歩けばいいのだが、こうも何もない世界だと自然といろいろ考え込んでしまう。
何も無い、というか、昔に戻った、というか。
"あいつら"から見て、"未来世界"を、彷彿とさせる世界。
俺の生きた、昔の世界。
しいていうならばあの世界はまさに暗黒。この世界のように赤くすらなかったが。
休憩を終え、歩みを進めても、出会うものと言えば誰とも分からない死体くらい。
・・・偶に襲い掛かってくる黒い何かは、出会うものと数えるかどうか疑問になるけれど。
「死体があるって事は、一人くらい生きててもいいんじゃないのか?」
足元の骸を踏まないようひょいひょいと避けて歩く。不安定な足場はお手の物だ。
いや、言うなれば足の物か?・・・足の物って味○素に似てないか?語呂が。
「・・・やめよう、虚しくなってきた・・・。」
これだから一人は嫌なんだ。変なことばかり考えてしまうから。
誰か居ないか。
その想いだけを抱いて、彷徨う事数日後。
ついに見つけた。生きている人。
桃色の髪の少女。何か考え事をしているのか、反応は無い。
座っているのか、少し低いそのシルエットに声をかける。
「お嬢さん、」
しまった、次の言葉が見つからない。
今一人?なんて聞いたら確実に怪しいナンパに見られるだろう。
別に他に誰か居ても危険でなければいいのだけれど。
脳内思考を巡らしているところを、向こうがこちらに気付いた。
一瞬驚きに目が見開かれたが、直ぐ表情が微笑となる。
「何か御用?」
幸い、敵意は見当たらない。
安心して、少しだけ距離を縮める。
「や・・・何と言うか、捜し人?をしてるんだが・・・」
「あら奇遇ね。私も人探しの途中なの。」
「そうなのか?お互い大変だな。」
「えぇ。歩き回るのも疲れちゃった。」
見えた相手の姿。
足に痛々しく突き刺さった鉄パイプに怯む。
「ごめんなさい、驚かせちゃったかしら?」
「い、いや・・・大変そうだな、立てるのか?」
「えぇ、大丈夫よ。」
少女が微笑む。
少し考えるような仕草をした後、一言。
「やっぱり、手を貸してくださる?」
「あぁ。」
細いその手に、自らの手を差し出してやる。
いち、に、さん、し、ご。
立ち上がった少女の代わりに、その場に崩れるは緑。
「ごめんなさいね、捜し人は貴方じゃないの。」
倒れたその姿に、バイバイ。
Sweet Pea = スイートピー(門出、別離、悲しい思い出)