Winter Fall
月が落ちた。
地球とタンデム、静かなリズムで踊る。
ああ、身体が締め上げられるように苦しくなる。
もう一歩も前へ踏み出せないほどに。
そうしてわたしは霧闇に吠えた。
海へ帰らなくては。
微かに。
霧笛の共鳴。
百万年だ。
長かった。
わたしに出来るだろうか。
温い水面から身を起こす。
愛せるだろうか、君を。
それとも。
滅びてしまうのが、先だろうか。
地球とタンデム、静かなリズムで踊る。
ああ、身体が締め上げられるように苦しくなる。
もう一歩も前へ踏み出せないほどに。
そうしてわたしは霧闇に吠えた。
海へ帰らなくては。
微かに。
霧笛の共鳴。
百万年だ。
長かった。
わたしに出来るだろうか。
温い水面から身を起こす。
愛せるだろうか、君を。
それとも。
滅びてしまうのが、先だろうか。
「…樹くん。」
こんな横顔をしていたかしら。記憶はひどく散逸として、脆弱な脳味噌はまるで溶けかけているようだ。
そのどろけた脳内では、ディスティネーションギターが掻き鳴らされていた。
馬鹿らしい。こんなときにどうしてアイアン・メイデンなんだ。
もっと他に思い浮かぶべきものがあるだろ。例えばそう、愛した男の戯言なんか。
樹くん。
君も、そうなのか。それともロックは嫌いかな。
ああ、ほんとうはそんなことなんてどうでもいいんだ。こっちを向いて。
金色に焦げた瞳で、射抜きなさい!
一緒にロックンロールを踊ろう!
「樹くん、おいで」
ぎらついた、まるで美しい蛇の目がわたしを見た。
でも私は蛇に睨まれたカエルじゃない。蛇を睨み返す毒蛇。
ざまあみやがれ、ほんとは悪意なんて、青い目にしか似合わないんだ。
「…冬さん」
わたしは、手を伸ばした。
まるで迷子の子供を見つけたときみたく、優しく微笑みながら。
「君を、やっと見つけた」
こんな横顔をしていたかしら。記憶はひどく散逸として、脆弱な脳味噌はまるで溶けかけているようだ。
そのどろけた脳内では、ディスティネーションギターが掻き鳴らされていた。
馬鹿らしい。こんなときにどうしてアイアン・メイデンなんだ。
もっと他に思い浮かぶべきものがあるだろ。例えばそう、愛した男の戯言なんか。
樹くん。
君も、そうなのか。それともロックは嫌いかな。
ああ、ほんとうはそんなことなんてどうでもいいんだ。こっちを向いて。
金色に焦げた瞳で、射抜きなさい!
一緒にロックンロールを踊ろう!
「樹くん、おいで」
ぎらついた、まるで美しい蛇の目がわたしを見た。
でも私は蛇に睨まれたカエルじゃない。蛇を睨み返す毒蛇。
ざまあみやがれ、ほんとは悪意なんて、青い目にしか似合わないんだ。
「…冬さん」
わたしは、手を伸ばした。
まるで迷子の子供を見つけたときみたく、優しく微笑みながら。
「君を、やっと見つけた」
そして、彼は実に、素直だった。
高音のファルセット。鮮血はO型。でも声を上げたのはわたしじゃない。
真っ直ぐに右肩を貫いた剣で、背中から地面に落ちる。
樹くんの瞳が、色んな色に変わった。血をうまそうに舐めたのに、はっとしたようにわたしを見た。
「冬さ、ん」
「……樹くん、ありがとう」
喉を残してくれて。腕を片方残してくれて。わたしはそっと、不器用な左手で彼に触れた。
「驚かせてすまない」
コールドスリープされた彼の耳に届くように。
唇と傷口は連動して、言葉と血泡を交互に零す。
「君に、どうしても会いたかったんだ」
目の前いっぱいの若草色の髪は、見る影もなくほつれて汚れている。
抱きしめるように、背中から。われながら酷い自爆テロだ。
撫でる。少し、手で梳いた。指通りは抜群、きっと柔らかい髪質なのだろう。
どこかの黒い剛直毛とはえらい差だ。君とわたしの男は、全然似ていないのに。
「もう大丈夫。大丈夫だよ、樹くん」
動きが見えやしなかった。あれ? いつのまに? って感じだ。
ずぶりと腹にねじ込まれた剣は、根元まで。
釣り上げられるような恰好になって、傷口からも唇からも、どんだけ出るんだって量の血が溢れていく。
それでもわたしは微笑むことをやめてはいけない。
それでもわたしは、彼に語りかけなくてはいけないのだ。
「も、…一人じゃない。わたしはここに、いるよ」
聞いて、樹くん。
すぐに済ませてしまわないで。
わたしの悪夢が醒める前に。
きっと、君とは二度と会えないから。
だから、聞いて。
ああ、どうしてわたしは、泣いてるんだろう?
「だいじょうぶ。きみが世界中から嫌われても…わたしは、きみが好きだから」
畜生、君に届け、届け、届け!
指はこれ以上伸びちゃくれない。
君に触れられるのは、今が限界だ。
「きみ自身がきみを、どんなにゆるせなかったとしても…それでも」
贖罪のため? いや違う。
何の、誰のためでもない。
誰だってそうだ。何の、誰のためでもなく引き千切れて死んでいくのだろう?
厳かに、滅んでいくんだ。
霧笛が遠く、深海へ伸びて。
呼び起こされた愛情は、狂ってしまうのだろう!
それでも。
わたしは幸せ、なんだ。
だって樹くんは、真っ直ぐにわたしを見てくれている。
わたしも、真っ直ぐ彼を見返した。黄金と琥珀、交錯の時。
真っ直ぐに右肩を貫いた剣で、背中から地面に落ちる。
樹くんの瞳が、色んな色に変わった。血をうまそうに舐めたのに、はっとしたようにわたしを見た。
「冬さ、ん」
「……樹くん、ありがとう」
喉を残してくれて。腕を片方残してくれて。わたしはそっと、不器用な左手で彼に触れた。
「驚かせてすまない」
コールドスリープされた彼の耳に届くように。
唇と傷口は連動して、言葉と血泡を交互に零す。
「君に、どうしても会いたかったんだ」
目の前いっぱいの若草色の髪は、見る影もなくほつれて汚れている。
抱きしめるように、背中から。われながら酷い自爆テロだ。
撫でる。少し、手で梳いた。指通りは抜群、きっと柔らかい髪質なのだろう。
どこかの黒い剛直毛とはえらい差だ。君とわたしの男は、全然似ていないのに。
「もう大丈夫。大丈夫だよ、樹くん」
動きが見えやしなかった。あれ? いつのまに? って感じだ。
ずぶりと腹にねじ込まれた剣は、根元まで。
釣り上げられるような恰好になって、傷口からも唇からも、どんだけ出るんだって量の血が溢れていく。
それでもわたしは微笑むことをやめてはいけない。
それでもわたしは、彼に語りかけなくてはいけないのだ。
「も、…一人じゃない。わたしはここに、いるよ」
聞いて、樹くん。
すぐに済ませてしまわないで。
わたしの悪夢が醒める前に。
きっと、君とは二度と会えないから。
だから、聞いて。
ああ、どうしてわたしは、泣いてるんだろう?
「だいじょうぶ。きみが世界中から嫌われても…わたしは、きみが好きだから」
畜生、君に届け、届け、届け!
指はこれ以上伸びちゃくれない。
君に触れられるのは、今が限界だ。
「きみ自身がきみを、どんなにゆるせなかったとしても…それでも」
贖罪のため? いや違う。
何の、誰のためでもない。
誰だってそうだ。何の、誰のためでもなく引き千切れて死んでいくのだろう?
厳かに、滅んでいくんだ。
霧笛が遠く、深海へ伸びて。
呼び起こされた愛情は、狂ってしまうのだろう!
それでも。
わたしは幸せ、なんだ。
だって樹くんは、真っ直ぐにわたしを見てくれている。
わたしも、真っ直ぐ彼を見返した。黄金と琥珀、交錯の時。
「きみが、すきだから」
薄く笑ったわたしの首に、刃が落ちた。
最期に見えた君の瞳は、濡れていたような気が、したけれど。
最期に見えた君の瞳は、濡れていたような気が、したけれど。