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辛口Poleo

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mato4869

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辛口Poleo



「それがもうほんっとに可愛かったんですよーなんだかちっちゃくってびくびくしてて、あぁでも見た目の歳は変わらないんですよなんというか挙動が幼いと言いましょうかショタっ気が出たといいましょうかもうもう本当に可愛くて可愛くて!」

丸いテーブルに並ぶ2つのカップ、それとポット。
にぎやかな男と無口な少女の向かい合わせ。
「親切な方が道案内してくださってですね、ほんとに助かりましたぁなんだかロックな羽根の方でしたけど。おしゃれですかね?流行りですかねぇ。」
少女は無言で男に茶を注ぐ。
「それで行ってみたらもうもう信じられないくらいかわゆいカルロがいてですね私長い付き合いですけどあんなカルロ見たことないです!」
少女は無言で男の茶に葉を足す。
「信じられないですよね泣く子も黙るカルロのあんな…ぶほっ!辛っ!」
「足してあげたわ。ミントには鎮静作用があるから。興奮が収まったでしょう?」
「ひどいです栞さんもはやこれミントティーの味じゃないでしょう!」
「生憎お子様向けのポレオの淹れ方は知らないのよ。」
しれっと言い返した栞は自分のカップに茶を注いだ。今日のミントティーは栞のお手製だ。彼女の故郷ではこれをポレオと呼ぶ。
言い返せない翠は、さめざめ泣きながら辛いミントティーを飲むしかなかった。最初は美味しかったのに、いじわる、とぶちぶち呟くも栞は聞こえない振り。
記憶を取り戻した翠はやたらと多趣味になった。というよりむしろ、"無謀"と"好奇心旺盛"が正しい。
例えばお茶を淹れたいと思えば知識が零でも突進し、滅茶苦茶な手順で有毒な草を淹れようとする。さすがの栞もこれは止めた。
ちなみに刹は異臭がした時点で奥の間に逃げ、我関せずと寝ている。
「ですが美味しいですね栞さんのお茶。うふふ、これが紅茶かー…。」
「全然違う。ポレオはハーブティー。せめて多少は調べてから始めなさい。」
「じゃあ栞さんに教えてもらいます。それでいいでしょ?」
「…母親の受け売りよ、ただの。」
生前よく淹れてくれた母の見よう見まねだ。別に褒めてもらう程のものじゃない。
それでもやたら嬉しそうにおかわりする翠を見ると、腹のあたりがこそばゆい。
「カルロにも飲ませてあげたいなぁ。そうだ、水筒に入れて持っていこう!」
…栞は無言で翠の手にポットから茶をかけた。
「あっつ!あつ、あつつ!熱い熱い熱い!」
「…馬鹿なこと言ってるからよ、ったく…ストーカーに成りたいのかしら。」
何かにつけカルロカルロだ、この男。
溜息をついて、冷水に浸した雑巾を翠の顔へ投げつける。手と一緒に頭も冷やすといい。しつこくしてカルロとやらに嫌われても知らないわよ。
「…それで?仲間探しは順調なの?」
「大前進ですよ、カルロ可愛かったし!」
「それはもういいから。」
もう散々聞いた。尚も語ろうとするのでポットで脅して黙らせる。
「もう一人いるんでしょう?会えたの?」
「…まぁその…会えたことは会えたんですが…。」
「けちょんけちょんのぼっこぼこ、と。」
「違いますー!ちゃんと勝てますもん!空の神舐めないでください!」
「はいはい、最低限弟子には勝てるようにした方がいいわよ。」
「違いますもん栞さんのばかー!」
だこだこテーブルを叩く翠は子どもにしか見えない。やめてくれお茶が零れる。
「そうじゃなくて、炎龍はどうやら彷徨い歩いてるみたいなんですよ…だから定期的に会えないなぁ、と。」
「…あれだけ手ひどくやられといて定期的に会う?正気を疑うわね。」
「多少反抗期でも愛を注がずにいられないのが親心、ですよ。」
栞さんにもね、と言わんばかりの笑顔を見せたから脛を蹴飛ばしておいた。
本当にこの男は…弱いくせに軽率なことしかしない。
「助けるどころか…殺されても、知らないわよ。」
少し温度の下がった栞の声。
翠はさすがに気づいたが、困ったように眉を下げて微笑んだ。
「それでも、ですよ。愛する弟子《我が子》ですから。」



がしゃんっ。
玄関から派手な音がする。翠が音に気づいた頃には、すでに栞は気配を察して走っていた。
慌てて翠も追いかける。音の元に着くと、栞が臨戦態勢でそれと対峙していた。
「よかったわね…どうやら悩み事は解決したようよ。」
砕けた扉の中心に立っていたのは、まぎれもない陸だった。
間も置かず陸の爪が地に刺さる。そこにいた栞と翠は、それぞれ別方向に避け飛んだ。
「炎龍!?どうして此処が!?」
「帰る貴方の姿でも見たのでしょう。とろくさいから招待することになるのよ!」
陸は耳も貸さず俊敏に追った。その動きで会話を受信すらしてないことがわかる。こいつ、おそらく言葉が理解ってない。栞はそう直感した。
『炎龍を助けたいんです。』
必死に避け続ける翠を横目に舌打ちをした。
本当に、つくづくこの神父は馬鹿で阿呆だ。
「…どこまでもとろくさい自分を恨むことね。」
たんっ、と壁を蹴って栞は飛んだ。まっすぐに陸へと。翠は青ざめる。
「栞さん、なにを!?」
「悪いけど手加減はしないわ。」
ひゅんと空を切って十字架を打ちつける。陸の装甲では傷一つつかなかった。やはり『でんこうせっか』じゃ話にならない。
そのまま栞は地面に降り立つ。振りむきざまに飛んできた爪を避けて十字架を叩きこんだ。今度の十字架は電気を帯びている。
だがそれは全くダメージにならなかった。陸は電気を浴びたことすら気付いていない。
翠はレックウザ。彼はその弟子。そうか彼は…地面タイプ、グラードン。
「…あっちもこっちも神ばかり。反吐が出るわね。」
「おまえ…つよい、か…?」
ぐるる、と低い唸りと共に陸が言う。栞は犬でも相手にするようにつんと流した。
「私なんてどうでもいいわ。…貴方、あの男に見覚えは?」
翠を指差す栞。陸はそちらに目は向けたが、目に留めるものはなかったようだ。栞へ向き直りぐるぐると吠える。
「…強いやつ…ころす…そん、だけや…。」
「……。」
栞が沈黙すると共に、後ろの翠も沈黙しているのがわかる。
わかったからあえて、口に出した。
「聞こえたでしょう?」

これが現実よ。

たんっと栞は後ろに飛んで間を取った。念じて眼前に『ひかりのかべ』を張る。翠の眼前にも同様に。
陸は構わず栞へと突進していった。細い体躯に似合わない大きな爪が鈍く光る。
「…つよう…ならんと…!」
迫る陸を栞は『チャージビーム』で迎撃する。だがそんな光線など痒くすらないようだ。
追いついた。凶悪な爪を振り抜いた。
当たった感触はない。
「…!?」
陸が上を見上げるのと、天井にいた栞が叫ぶのは同時だった。
「『スピードスター』!」
星をかたどった静電気が陸へ降り注ぐ。栞は床に降り立ち、距離を取りながら『スピードスター』を撃ち続けた。
決して避けられない無数の流星。『チャージビーム』の効果で威力も増している。陸にはそこそこ効いているようだ。腕で身を守る陸は痛みに堪える表情を見せる。
「うっとぉ…しぃ…。」
陸の目が凶気に光る。
「―――邪魔やぁあッ!!」
ばきばきばきっ。
陸が吼えた。守っていた腕を解き放って吼えた。その咆哮に呼応して床が陸を中心に『じわれ』する。
割れ目に呑まれなかったものの栞の足元がぐらついた。さらに飛んできた岩が栞を撃ち抜いていく。『げんしのちから』だ。バランスがとれず栞は地に倒れる。
慌てて起き上がろうとし、呆然とした。
地面のひび割れ全てから、火が吹きあがっていたからだ。
「強うならな…。」
ざり、ざり。陸は火を踏みしめてこちらへ来る。
赤黒い炎に包まれた爪を携えて。
爬虫類じみた、感情の一切ない目が栞へと向けられた。
「お前を…殺す…強う…なる…!」
爪が振り降ろされるのが、ひどくスローに見えた。

どんっ
「……。」
背中からきた衝撃。陸にしてみれば些細な衝撃。しかし爪の狙いを外してしまうのは十分だった。
「なんや…お前…。」
ぎしりと音をたてて振りむく。
爪型の淡い光を、陸に突きたてる翠の姿が見えた。
「炎龍…えんろん…。」
絞り出すように翠は呼んだ。

「これが、貴方の求めた"強さ"ですか…?」

半分しか見えない陸の顔には何の表情も浮かばず。
しかし陸は爪も振りあげず炎も撃たず翠を見ていた。
その隙に栞はローブから胡桃のようなものを取りだして、陸へと投げつける。当たった瞬間陸の姿はかき消えた。
手持ちの少ない『ワープのタネ』。できればあまり使いたくなかったが。
「…無事?」
あまり無事そうに見えない翠に栞は言った。
弟子を刺した光を、弟子を刺した両手を見下ろして翠は呆然としている。
「生きてはいるようね。」
「…栞さん、こそ。」
とさっ。翠は膝をついてへたり込んだ。栞は近づいて翠を見下ろす。翠はそれを呆然と見上げた。
巻き込んでごめんなさいとか、怪我をしてませんかとか、翠にはいっぱい言いたいことがあったのだけど
どうしてかうまく口が開かなくて
ただ、少女の肩口に頭を預けるしかできなかった。

(でも、諦めることはできないのでしょうね。)
栞はふぅっと溜息を吐いた。頭は払いのけずそのままにしておいた。
本当に馬鹿な神父。愚かで、無鉄砲で…一途で。



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