よわいこはたべられちゃうぞ
陸は、そこに大人しく座っていた。虚ろな瞳で赤い空を見上げ、たまに喉を静かに鳴らす。以前のように世界を歩き回ることも、好敵手を探して目を光らせることもない。ぼんやり空を見上げるだけ。自分を助けてくれた<カビゴン>の青年の声だけが、唯一聞く人の声。
熱っぽさがまだ残っていたある夜、陸は手を月にかざした。綺麗に血を拭き取ってもらった爪は鈍く月明かりに光る。
月を掴もうと腕を動かしても、手が届くはずがない。陸は目を細めて、やがて思う。
月を掴もうと腕を動かしても、手が届くはずがない。陸は目を細めて、やがて思う。
もう、なにも、ないのかもしれない。
レックウザも、カイオーガももういない。残るクレセリアとて、実質、今の陸が殺せないはずがない。でも彼女はあれからすっかり、陸の前に姿を見せない。
では誰が、神を二人も殺した自分と対等に殺しあえるというのか。陸はぼんやりと記憶を探るが、皆死んだか、いなくなった。この前のジュプトルを相手にしなかったことを少しだけ後悔しても、遅い。
では誰が、神を二人も殺した自分と対等に殺しあえるというのか。陸はぼんやりと記憶を探るが、皆死んだか、いなくなった。この前のジュプトルを相手にしなかったことを少しだけ後悔しても、遅い。
…今日は脳がやけにすっきりしている。久しぶりの感覚だ。物事を獣の本能でなく、人の理性で判断できる。
陸は小さく小さく、笑った。
陸は小さく小さく、笑った。
ああ、おれは、つよい、
めちゃくちゃ、つよい
でも、いちばんじゃ、ない
めちゃくちゃ、つよい
でも、いちばんじゃ、ない
それでも、もとめないと――
そこまで考えた辺りで、<紅>と名乗ったカビゴンがやって来た。カビゴンは昨日より少しだけ近付いて、恐る恐る言葉を繋げて話しかけてくる。
彼の言うことは理解できたし、彼の質問にもある程度返答は出来る。…というより、
出来るように、なってしまった。
彼の言うことは理解できたし、彼の質問にもある程度返答は出来る。…というより、
出来るように、なってしまった。
その日の去り際に、陸は彼に問いかけた。
「どうして、たすけた」
彼は初めてこちらに興味を示したことに驚きながらも、迷い、やがて答えた。
「…人が死ぬのは…嫌い」
*
その日の朝、いつものお家。紅は今日も隅っこで、部屋を漠然と視界に入れる。いつもと変わらない家具の配置、いつもと変わらない時間の経過、いつもと変わらない住人たち。変わるはずがない、いつもと同じ。
そう、思ってた。
この家に漂う空気は吐きそうなほどに甘ったるい。作られた甘さが換気もされずにただただ蔓延している。
紅が眺めた先には、鉄がいた。笑みを浮かべる彼に返した笑顔は、どれだけ綺麗なんだろう。
そう、思ってた。
この家に漂う空気は吐きそうなほどに甘ったるい。作られた甘さが換気もされずにただただ蔓延している。
紅が眺めた先には、鉄がいた。笑みを浮かべる彼に返した笑顔は、どれだけ綺麗なんだろう。
自分では、見たくもないけれど。