くるってみだれて
冥に見つかったその日も、紅は陸の元へやって来た。今日もまた食料をいくつか持って、紅は昨日と同じ道を走る。そろりと屋根のない廃墟に顔を覗かせると、陸は昨日とほとんど変わらない態勢でそこに座っていた。
まだ陸が移動していなかったことに心中安堵しつつ、紅は陸に話しかける。
まだ陸が移動していなかったことに心中安堵しつつ、紅は陸に話しかける。
「…よかった、まだ…いてくれて」
「………」
「…陸?」
「………」
「…陸?」
陸は黙ったまま、紅の瞳を見据える。やがて、影のさした瞳が細められた。陸の低く唸るような威嚇の声が、紅の大きな耳に聞き取れる。
そして、紅の体がぴしりと凍りついた。
そして、紅の体がぴしりと凍りついた。
「…くすくす、久しぶりィv」
「……ッ!!」
「……ッ!!」
背中を襲うはねとつく悪寒。嫌だ最悪だ振り返りたくない。
紅がゆっくり、ゆっくり振りかえると、自分と同じ顔がひとつそこにあった。ただ違うところは髪の色が青みがかっていることと、服装。僅かに赤く染まった白衣が、紅に対する嫌味のように見えた。
“カルロ”は覚えている。彼の名前は、ない。名の無い“アノニマス”は、“カルロ”の姿を象る。
紅がゆっくり、ゆっくり振りかえると、自分と同じ顔がひとつそこにあった。ただ違うところは髪の色が青みがかっていることと、服装。僅かに赤く染まった白衣が、紅に対する嫌味のように見えた。
“カルロ”は覚えている。彼の名前は、ない。名の無い“アノニマス”は、“カルロ”の姿を象る。
「………なんで、ここに」
「カルロの甘ァい匂いはスグニ分かるよー?けたたーvv」
「…最悪」
「えぇー、何で何でー?」
「カルロの甘ァい匂いはスグニ分かるよー?けたたーvv」
「…最悪」
「えぇー、何で何でー?」
くすくすくすくす、もう一人の…紅は、笑い続ける。必死に引き離そうとする紅に対し、彼は楽しそうに笑みを浮かべていた。
「…どうして、来たの」
「んー?えっとォ、お姉さんとお兄さんが探しものしてるからァ、おてつだいちゅうv
デモネ、カルロの匂いがシタカラ来ちゃった、けたたっv」
「さがし、もの…?」
「んー?えっとォ、お姉さんとお兄さんが探しものしてるからァ、おてつだいちゅうv
デモネ、カルロの匂いがシタカラ来ちゃった、けたたっv」
「さがし、もの…?」
それって、紅が訪ねた言葉は、足音で消えた。え、と視線を戻せば、数日ぶりに立ち上がった陸の姿。やがて遠くから聞こえたのは、アノニマスを呼ぶ声。
「……陸…?」
「…来、た」
「…来、た」
ぎらぎらと光る金の瞳。陸は地面を蹴り、だっと駆け出した。二人の体がすれ違い、陸は、廃屋を飛び出す。紅が後を追い始めたのは、既に廃屋が紅とアノニマス二人だけになってから。
慌てて外に出、アノニマスを引き剥がす。陸の鎧の向こうに見えたのは、青い髪の女性と、黒い姿の男性。
陸の体が、跳んだ。
慌てて外に出、アノニマスを引き剥がす。陸の鎧の向こうに見えたのは、青い髪の女性と、黒い姿の男性。
陸の体が、跳んだ。
「……なにコレ」
「幻さん、下がってッ!」
「幻さん、下がってッ!」
地面に陸の爪が突き立ち、男と女は別々の方向にそれを避けた。だが陸は男の方には興味を示さず、女の青い髪を執拗に追いかけた。“きりさく”の猛攻を女性は紙一重のところでかわすが、反撃が出来ない。…まだ、人への攻撃方法を考えられるほど、心は落ち着ききっていない。
同じく何もできず、その光景を愕然と見ていた紅が、やがて拳を握りしめ後ろを振り返る。振り返った先には、少しつまらなさそうに立っているアノニマス。
「…アノニマス、陸を止めて」
「エー?」
「…早く」
「ちぇー、さっきまでイジメてたくせにーィ」
「エー?」
「…早く」
「ちぇー、さっきまでイジメてたくせにーィ」
イジワルイネェ、アノニマスはそう言いながら両腕を融解させる。でろりと溶けたその腕を陸に向けると、そこから伸びた幾重もの触手が、陸に絡み付いた。足、腹、腕、そして首。抵抗しようとする陸に駆け寄り、陸の爪と女性の間で、紅は出来る限り優しく陸に語りかける。
「…この人は、僕の知ってる人…だから、殺しちゃ、だめ」
「………だ、め…?」
「そう、…ごめんね」
「………だ、め…?」
「そう、…ごめんね」
今になって、陸が唸っていたのは彼女が来るのを感じたためだと気付いた。紅は未だに惜し気に喉を鳴らす陸の髪を、少し背伸びして撫でる。陸は目を細め、やがて抵抗を止めた。大人しく、紅が振り向いて女性に話しかけるのを見つめる。
「…また、会ったね」
「……紅?」
「……紅?」
青い髪の女性。静葉の瞳を、紅はまっすぐ、見た。