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らくえん

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へヴん





「…あ……ごめん、なさい…」
「…いや、大丈夫。立てるかい?」

幻が差し伸べた手に掴まり、何とか立ち上がった。とはいえ、まだ足がふらつくし気持ちも落ち着かない。視界がぼんやりとぼやけているのは、もしかしたら涙のせいなのかもしれない。

「……ごめんなさい」
「君が謝る必要はない。…それにあの人を守りきれなかった僕には、言葉を受けとる責任がある。謝るのは、僕の方だ」

幻はそう言うと、静葉の方を振り向く。名前を呼ばれた静葉は少し驚いたように、声に反応した。

「…急ごうか。早く、見つけよう」
「……そう、ね。行こう、アノ君」
「もう行くのォ?ちぇー」



「…!…まっ…待っ、て」


離れようとした幻の服の裾を、紅は引き止める。ほんの小さな力だった。幻のより少しだけ低い位置の赤い瞳が少し迷って、蒼い瞳と交わる。開いた紅の口。

「あの、おねがい…よかったら…彼を連れていって、やって」
「彼…ってまさか」
「…うん」

そう頷き、紅は後ろを振り返る。後ろにいたのはアノニマスと、ずっと大人しく黙っていた陸。

「……陸、皆を手伝ってあげて」
「………てつだ、う?」

金色が大きく見開かれ、また細められる。驚いたのは陸だけでなく、幻や静葉も然りだった。アノニマスだけが楽しそうに笑いながら、するりとその空間から気配を消す。

「…ちゃんと、“僕”や皆の言うこと、聞いて。君を傷つけない人を傷つけちゃ、駄目。……君の探しものも、たぶん…見つかるから」
「おれの、さがし、もの……?」
「そう、…ちゃんと、“僕”の言うこと、聞けるよね」

陸は少しだけ考えて、やがて頷いた。紅は陸の方に体を向けたまま、幻に話しかける。

「…アノニマスがいれば、ある程度…陸のコントロールも、出来る。強化された<グラードン>…陸の力は、きっと、きみたちの力になる…はず」
「…君は?」
「僕は、ここから離れるわけにはいかない。……せめて、鉄がこれ以上壊れないように、一緒にいて、あげないと」

振り返った紅の笑顔は、僅かながらもとても綺麗。でもその笑顔こそ、本当に呆気なく崩れてしまいそう、幻はそんな印象を受けた。
やがてしばらくの沈黙の後、静葉が陸の名前を呼んだ。陸は紅の横を通り、静葉の前まで歩み寄る。ついさっき紅がしたように髪を撫でてやると、心地良さそうに目を細めた。
どこからか再び姿を現したアノニマスは、その様子を見つめる紅の隣に立つ。ぷぅと頬を膨らませた“カルロ”の姿は、服装と色を除けば瓜二つだ。

「このセカイの人たち、みぃんな人使いアラァイ…」
「…今度また、研究所に来なさい。ホールケーキくらいならあげますから」
「カルロのがいいー」
「………働き次第では、ですね」

紅の言葉にアノニマスは一瞬驚き、そしてけたけたけたけた笑う。渋い顔をした紅はそれ以上何も言わずに、空を仰いだ。
いつもより大きく見える三日月。紅はそっと手を伸ばしてみた。当然届かない、けど。

「紅」

静葉の声に、紅は上げた手を下ろす。

「いって、くるね」




来たときよりも増えた影を見守りながら、紅は思う。

すきなひとをなくした二人。
きっとありつくのは奪った人。

それはやがて、辿れば世界のなにもかもに変わる。
何もかもは、作ったのは神様。
奪うのも与えるのも全ては神様次第。

カルロは、知っている。

この世で一番優しいのは楽園の神で、
一番非情なのも楽園の神だと。
優しい神よ、どうか皆のために。




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