黒衣の二重影
やはり、見えない。
幻はふかくため息をついて、空から視線を戻す。
白の銀盆がどこにも見えない。彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
「…負けないでくれ」
君は私たちの希望なんだ。白い月を掲げた革命軍。負けるわけにはいかないんだ。
もう眠ろうと黒い衣装を翻し、幻はふと、微かな音を聴いた。
…からからら。金属質のものを引きずる音。行軍で疲れた体も自然に走り出す。
幻はふかくため息をついて、空から視線を戻す。
白の銀盆がどこにも見えない。彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
「…負けないでくれ」
君は私たちの希望なんだ。白い月を掲げた革命軍。負けるわけにはいかないんだ。
もう眠ろうと黒い衣装を翻し、幻はふと、微かな音を聴いた。
…からからら。金属質のものを引きずる音。行軍で疲れた体も自然に走り出す。
狭い路地を抜けて、大通りへ。目標はすぐに見つかった。
「冬!」
機械的に振り返った冬の身体には、染みついたように影が広がる。
まるで幻を近づけまいとするように影が牙を剥いた。獣の咆哮を聞く。
けれどそのどの影も、冬を飲み込んで姿を変えようとはしなかった。
影の真ん中で無表情に幻を見つめる冬の目には、光は宿っていない。
それでも。これ、が気まぐれでも。
幻は腹を決め、ゆっくり、一歩ずつ冬に近づいた。影は吠えるばかりで、襲いかかろうとはしない。
そっと腕を伸ばして、髪に、肩に、背中に触れて、抱き寄せる。
「…ごめんね、冬…」
冬は言葉を発せないらしい。唇から息を漏らして、凶器を取り落した。
幻は、きつく冬を抱いた。顔を肩に埋めて、爪を立てる。
虚空を見上げるばかりの冬の表情が、苦しげに歪む。目を、閉じた。
「冬!」
機械的に振り返った冬の身体には、染みついたように影が広がる。
まるで幻を近づけまいとするように影が牙を剥いた。獣の咆哮を聞く。
けれどそのどの影も、冬を飲み込んで姿を変えようとはしなかった。
影の真ん中で無表情に幻を見つめる冬の目には、光は宿っていない。
それでも。これ、が気まぐれでも。
幻は腹を決め、ゆっくり、一歩ずつ冬に近づいた。影は吠えるばかりで、襲いかかろうとはしない。
そっと腕を伸ばして、髪に、肩に、背中に触れて、抱き寄せる。
「…ごめんね、冬…」
冬は言葉を発せないらしい。唇から息を漏らして、凶器を取り落した。
幻は、きつく冬を抱いた。顔を肩に埋めて、爪を立てる。
虚空を見上げるばかりの冬の表情が、苦しげに歪む。目を、閉じた。
その瞬間だった。束縛を解かれたかのごとく、数多の影が鞭のようにしなる。
「…っぐ…!」
弾き飛ばされた幻は向かいの壁面にひどく叩き付けられて、一つ呼吸をして崩れ落ちた。
ぱち、ぱち、ぱち。拍手の音が、落ちそうな幻の意識を繋ぐ。
「みすみす飛び込んできた勇敢さに敬意を表しているんだよ、そんな風に睨むんじゃない」
「…"ダー、ク、ライ"…!」
"ダークライ"は楽しそうに笑って、荒く息をする幻に近づく。
「愛しい者に殺されるんなら、君も満足だろうと思ったのさ」
「…こんなところで、私は…」
「諦めなさい、幻さん。先ほどの打撃で脊椎を損傷したんですよ。下半身、動かないでしょう? それに肺もやられてますし。諦めて"冬"の手にかかるか、私に止めを刺されるか、どちらを選びます?」
"ダークライ"の横に佇んだ翠の腕が、淡い燐光を帯びた。"ドラゴンクロー"を構えたのだ。
幻はぎり、と唇を噛む。状況は極めて絶望的だった。冬は相変わらずの無表情で、凶器を引きずる。
「早くお選びなさい! 翠は悠長に待ってくれるでしょうけど、私はあいにくよ?」
幻がもたれかかっている建物の上から、妖精の声がした。完全に囲まれているらしい。
痛みに引きずられて消えてしまいそうな思考回路を必死でたたき起こして、幻は思考を巡らせた。
冬が、その前に立つ。
声のない唇で、短い二音の名を呼んだ。
幻は、その声を確かに聴いた。
「…わかった…諦める、よ。もう、やってられない、」
「うふふ、いい心がけね! 冬、やっちゃいなさいよ!」
弾き飛ばされた幻は向かいの壁面にひどく叩き付けられて、一つ呼吸をして崩れ落ちた。
ぱち、ぱち、ぱち。拍手の音が、落ちそうな幻の意識を繋ぐ。
「みすみす飛び込んできた勇敢さに敬意を表しているんだよ、そんな風に睨むんじゃない」
「…"ダー、ク、ライ"…!」
"ダークライ"は楽しそうに笑って、荒く息をする幻に近づく。
「愛しい者に殺されるんなら、君も満足だろうと思ったのさ」
「…こんなところで、私は…」
「諦めなさい、幻さん。先ほどの打撃で脊椎を損傷したんですよ。下半身、動かないでしょう? それに肺もやられてますし。諦めて"冬"の手にかかるか、私に止めを刺されるか、どちらを選びます?」
"ダークライ"の横に佇んだ翠の腕が、淡い燐光を帯びた。"ドラゴンクロー"を構えたのだ。
幻はぎり、と唇を噛む。状況は極めて絶望的だった。冬は相変わらずの無表情で、凶器を引きずる。
「早くお選びなさい! 翠は悠長に待ってくれるでしょうけど、私はあいにくよ?」
幻がもたれかかっている建物の上から、妖精の声がした。完全に囲まれているらしい。
痛みに引きずられて消えてしまいそうな思考回路を必死でたたき起こして、幻は思考を巡らせた。
冬が、その前に立つ。
声のない唇で、短い二音の名を呼んだ。
幻は、その声を確かに聴いた。
「…わかった…諦める、よ。もう、やってられない、」
「うふふ、いい心がけね! 冬、やっちゃいなさいよ!」
「……やってられるか、革命軍なんて。」
血を吐いた唇で笑うと、衣装が靡く。
ごう、と一陣の風が吹き抜けて、幻はゆっくり立ち上がる。
そして冬の手を取ると、指先にそっとキスをした。
ごう、と一陣の風が吹き抜けて、幻はゆっくり立ち上がる。
そして冬の手を取ると、指先にそっとキスをした。
「あなたの行く場所へ、どこへでも、僕は行くよ。神も世界も関係ない。あなただけだ。」
一滴の赤い涙が、幻の右頬を伝った。