アットウィキロゴ
澪街悪夢Wiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

澪街悪夢Wiki

魔女と神様.6

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

魔女と神様.6



がむしゃらに十字架を振るった。
滅茶苦茶に斬らんと振り回した。
のしかかる圧倒的な『威圧感』を振りはらうように。
走り飛び蹴り殴り斬り刺し、できうる限りの行動をぶちまけた。
私は弱くない。
私は弱くない。
私は弱くない。
ただただ、栞はその思いにとり憑かれていた。
護る強さ、それが栞。強さが証明できなきゃ、護れない。

護れないんだ。
持てる最大限の雷を込めて、栞は火竜の羽根に『牙』を刺す。
「ギッ…!」
腕や身体にどれだけ喰らっても呻かなかった火竜が呻いた。
手負いの獣のように羽根を振り、栞を放り投げた。同時に吹き荒れる『熱風』。
「っが…!!」
小さな体躯が、派手に火傷を負って地面に落ちた。
それでも意地で身体を起こす。だが対する火竜の、様子がおかしかった。

戦意しか見せなかった瞳が、戸惑って揺れていた。
まるで悪い夢から醒めた人のように。
「…mィ…」
醜く血管に覆われた手を伸ばし、呻くように、呟く。
「み…ズ、ハ…?」

ざぁっと一瞬栞の脳裏に大量の画像が駆け抜けた。
それはあまりに多すぎてわからなかったけれど、無意識が呟きを漏らす。
「……"貴様"、」
途端、風が吹き荒れた。
思わず腕で顔を庇うと、火竜がどこかへ飛んで逃げていくところだった。
栞は一瞬だけ迷う。翠を追うべきか、火竜を追うべきか。
天秤はすぐに傾き、栞は火竜を追って駆けだした。

敵を、潰す。それが護る強さだと、栞は信じていた。







+++



++









身を焼く熱さが、激痛が、ゆっくりと遠ざかる。
栞はどこか、真っ暗で底の無い場所を落ち続けていた。
意識も一緒に遠ざかってしまいそうだ。

不思議と心は落ちついていた。
縛るもの全てから解放されていく心地がした。
このまま、目を閉じて眠るのも悪くないかな。

りぃん、りぃん。
妙に耳触りな鈴の音がした。

『こっちだよ、私の仔羊達。』
鈴を鳴らした老人が呼ぶ。
『そちらへ行っていいのかい?』
鈴の音はまどろむ意識を揺り起こした。そうだ、まだだ。鈴の鳴る方へ行かないと。
私は"護る"者だから…。





目を覚ますと随分とカラフルなものが見えた。意識が目覚めるにつれそれはステンドグラスだとわかった。
そこから差し込む光は不思議と無色。その中で埃が踊るのが見えた。ちかちかと鬱陶しい。
懐かしいデジャヴ。今やすっかりと見慣れた意識。
寝かされていた長椅子から見上げると、覗き込んでいた翠と、目が合った。
「ああ、よかった。目を覚まされましたね。」
「貴方こそ…よく生きてたわね。」
「おかげさまで。」
「…ふん。」
少し滲んだ目頭を悟らせまいと、栞はそっぽを向いた。
そんな栞に翠はくすくす笑う。
「大変でしたね。栞さんが死んでしまう程だったなんて。」
「…え?」
世間話のような言う、翠。
その翠の声にうすら寒さを覚え、栞は身を起こした。翠はただ穏やかに笑っているだけだ。
そう、穏やかに。
それは確かに翠の微笑みだけど、"最近の"翠の笑い方ではなかった。これは、まるで、出会ったばかりの翠。
「大丈夫ですよ、栞さんは何も問題もなく生き返っています。」
翠は本を持っていない。代わりに胸元へ手を当てた。

「御神の加護がありましたから。」

当てた手から爪が伸びた。
翠は緑色に輝く『ドラゴンクロー』を、まっすぐ栞へと、振りおろした。
「ッ!?」
すんでで避ける。翠は想定済みだったようだ。ふんわりと微笑んで見せた。
「栞さん、ひとまずのお別れを言いたくて待っていたんです。貴女が起きてくれたら教会から去るつもりでした。」
「…去って何処へ?」
「御神の下へと。」
うっとりと翠は言った。
「この優しい世界を作り、統べる方の下へと。」
ダークライ
栞は一発でぴんときた。けれどわからない、翠がどうしていきなりこんなことを言いだしたのか。
翠は最初の一撃以降攻撃する様子がない。間合いだけはとりながら栞は尋ねた。どうして、と。
翠は微笑んで、両腕を差し伸べた。
「護りたい、からですよ。」
見えない何かを抱きしめるように、胸元へ両腕をたぐりよせる。
「あのお方を護ること。あのお方の敵を全て潰して、未来永劫あのお方を護り抜くこと。それが私の望み。この世界にやってきた理由だったんです。」
そう、やっと気づけたんですよ。
栞は、呆然と翠を見つめた。歪な鏡を見ているような気持ちだった。
そうだ、護ることは敵を潰すこと。翠は正しい、栞も正しい。それなら翠を止めるべきじゃない?
否、と心の奥から声がした。
陸という敵を、火竜という敵を潰すため戦った栞。栞は護りたかった"翠"を護れたか?無邪気に明るく笑う翠は、もういない。
「待て、神父…っ」
「安心してください、栞さん。貴女が私と同じところにくれば、また一緒にいられます。」
けれど、と。
呟いた瞬間、『ドラゴンクロー』がきんと光った。
「貴女が貴女の主に再び仕えると言うのであれば…」
先刻よりも大きく獰猛な『ドラゴンクロー』。
避けきれず、栞は十字架で受け止めた。
「その時は、さようなら。栞さん。」
神父の微笑は、狂ったまま安定していた。
「…主、だと…?」
「御神が教えてくれたんです。御神は全て知ってらっしゃいますから。」
翠は交差をそっと解いた。
足元からごぼごぼと黒い影が湧きたつ。距離を詰めようとした栞を、爪で威嚇して止めた。
「自死の緑、保守の黒、傲慢の黄緑、稚拙の赤、狂愛の橙…革命の蒼。」
するりと伸びてくる影の触手に、翠は身を委ねた。
最後の最後、どこか切なげな微笑を浮かべながら。

「貴女は"魔女"と縁がある人…この世界にとって危険なのです。…願わくば、貴女が何も思い出しませんよう。」

また逢いましょう、栞さん。
影に溶けるように、言葉と翠が消えた。



…私はどこから間違えた?
栞は、翠の消えた空間を呆然と見つめていた。
あの時、もっと早く帰っていれば?
あの時、陸を倒せていれば?
あの時、火竜を倒せていれば?

あの時、翠を追うことを選んでいれば?

護りたいものを護るにはどうすればいいのか。
信じた方程式が崩れた今、栞は信じるべきものを見失った。
探さなきゃ。わからなきゃ。答えを出して戦わなくては。
危機感だけが虚しく空回り、身体は動いてくれなかった。



まもなく"神"の名の下に、彼らは"魔女"を狩りにやってくる。


fin.



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー