魔女と神様.6
がむしゃらに十字架を振るった。
滅茶苦茶に斬らんと振り回した。
のしかかる圧倒的な『威圧感』を振りはらうように。
走り飛び蹴り殴り斬り刺し、できうる限りの行動をぶちまけた。
私は弱くない。
私は弱くない。
私は弱くない。
ただただ、栞はその思いにとり憑かれていた。
護る強さ、それが栞。強さが証明できなきゃ、護れない。
滅茶苦茶に斬らんと振り回した。
のしかかる圧倒的な『威圧感』を振りはらうように。
走り飛び蹴り殴り斬り刺し、できうる限りの行動をぶちまけた。
私は弱くない。
私は弱くない。
私は弱くない。
ただただ、栞はその思いにとり憑かれていた。
護る強さ、それが栞。強さが証明できなきゃ、護れない。
護れないんだ。
持てる最大限の雷を込めて、栞は火竜の羽根に『牙』を刺す。
「ギッ…!」
腕や身体にどれだけ喰らっても呻かなかった火竜が呻いた。
手負いの獣のように羽根を振り、栞を放り投げた。同時に吹き荒れる『熱風』。
「っが…!!」
小さな体躯が、派手に火傷を負って地面に落ちた。
それでも意地で身体を起こす。だが対する火竜の、様子がおかしかった。
持てる最大限の雷を込めて、栞は火竜の羽根に『牙』を刺す。
「ギッ…!」
腕や身体にどれだけ喰らっても呻かなかった火竜が呻いた。
手負いの獣のように羽根を振り、栞を放り投げた。同時に吹き荒れる『熱風』。
「っが…!!」
小さな体躯が、派手に火傷を負って地面に落ちた。
それでも意地で身体を起こす。だが対する火竜の、様子がおかしかった。
戦意しか見せなかった瞳が、戸惑って揺れていた。
まるで悪い夢から醒めた人のように。
「…mィ…」
醜く血管に覆われた手を伸ばし、呻くように、呟く。
「み…ズ、ハ…?」
まるで悪い夢から醒めた人のように。
「…mィ…」
醜く血管に覆われた手を伸ばし、呻くように、呟く。
「み…ズ、ハ…?」
ざぁっと一瞬栞の脳裏に大量の画像が駆け抜けた。
それはあまりに多すぎてわからなかったけれど、無意識が呟きを漏らす。
「……"貴様"、」
途端、風が吹き荒れた。
思わず腕で顔を庇うと、火竜がどこかへ飛んで逃げていくところだった。
栞は一瞬だけ迷う。翠を追うべきか、火竜を追うべきか。
天秤はすぐに傾き、栞は火竜を追って駆けだした。
それはあまりに多すぎてわからなかったけれど、無意識が呟きを漏らす。
「……"貴様"、」
途端、風が吹き荒れた。
思わず腕で顔を庇うと、火竜がどこかへ飛んで逃げていくところだった。
栞は一瞬だけ迷う。翠を追うべきか、火竜を追うべきか。
天秤はすぐに傾き、栞は火竜を追って駆けだした。
敵を、潰す。それが護る強さだと、栞は信じていた。
+++
++
+
身を焼く熱さが、激痛が、ゆっくりと遠ざかる。
栞はどこか、真っ暗で底の無い場所を落ち続けていた。
意識も一緒に遠ざかってしまいそうだ。
栞はどこか、真っ暗で底の無い場所を落ち続けていた。
意識も一緒に遠ざかってしまいそうだ。
不思議と心は落ちついていた。
縛るもの全てから解放されていく心地がした。
このまま、目を閉じて眠るのも悪くないかな。
縛るもの全てから解放されていく心地がした。
このまま、目を閉じて眠るのも悪くないかな。
りぃん、りぃん。
妙に耳触りな鈴の音がした。
妙に耳触りな鈴の音がした。
『こっちだよ、私の仔羊達。』
鈴を鳴らした老人が呼ぶ。
『そちらへ行っていいのかい?』
鈴の音はまどろむ意識を揺り起こした。そうだ、まだだ。鈴の鳴る方へ行かないと。
私は"護る"者だから…。
鈴を鳴らした老人が呼ぶ。
『そちらへ行っていいのかい?』
鈴の音はまどろむ意識を揺り起こした。そうだ、まだだ。鈴の鳴る方へ行かないと。
私は"護る"者だから…。
+
目を覚ますと随分とカラフルなものが見えた。意識が目覚めるにつれそれはステンドグラスだとわかった。
そこから差し込む光は不思議と無色。その中で埃が踊るのが見えた。ちかちかと鬱陶しい。
懐かしいデジャヴ。今やすっかりと見慣れた意識。
寝かされていた長椅子から見上げると、覗き込んでいた翠と、目が合った。
「ああ、よかった。目を覚まされましたね。」
「貴方こそ…よく生きてたわね。」
「おかげさまで。」
「…ふん。」
少し滲んだ目頭を悟らせまいと、栞はそっぽを向いた。
そんな栞に翠はくすくす笑う。
「大変でしたね。栞さんが死んでしまう程だったなんて。」
「…え?」
世間話のような言う、翠。
その翠の声にうすら寒さを覚え、栞は身を起こした。翠はただ穏やかに笑っているだけだ。
そう、穏やかに。
それは確かに翠の微笑みだけど、"最近の"翠の笑い方ではなかった。これは、まるで、出会ったばかりの翠。
「大丈夫ですよ、栞さんは何も問題もなく生き返っています。」
翠は本を持っていない。代わりに胸元へ手を当てた。
そこから差し込む光は不思議と無色。その中で埃が踊るのが見えた。ちかちかと鬱陶しい。
懐かしいデジャヴ。今やすっかりと見慣れた意識。
寝かされていた長椅子から見上げると、覗き込んでいた翠と、目が合った。
「ああ、よかった。目を覚まされましたね。」
「貴方こそ…よく生きてたわね。」
「おかげさまで。」
「…ふん。」
少し滲んだ目頭を悟らせまいと、栞はそっぽを向いた。
そんな栞に翠はくすくす笑う。
「大変でしたね。栞さんが死んでしまう程だったなんて。」
「…え?」
世間話のような言う、翠。
その翠の声にうすら寒さを覚え、栞は身を起こした。翠はただ穏やかに笑っているだけだ。
そう、穏やかに。
それは確かに翠の微笑みだけど、"最近の"翠の笑い方ではなかった。これは、まるで、出会ったばかりの翠。
「大丈夫ですよ、栞さんは何も問題もなく生き返っています。」
翠は本を持っていない。代わりに胸元へ手を当てた。
「御神の加護がありましたから。」
当てた手から爪が伸びた。
翠は緑色に輝く『ドラゴンクロー』を、まっすぐ栞へと、振りおろした。
「ッ!?」
すんでで避ける。翠は想定済みだったようだ。ふんわりと微笑んで見せた。
「栞さん、ひとまずのお別れを言いたくて待っていたんです。貴女が起きてくれたら教会から去るつもりでした。」
「…去って何処へ?」
「御神の下へと。」
うっとりと翠は言った。
「この優しい世界を作り、統べる方の下へと。」
ダークライ。
栞は一発でぴんときた。けれどわからない、翠がどうしていきなりこんなことを言いだしたのか。
翠は最初の一撃以降攻撃する様子がない。間合いだけはとりながら栞は尋ねた。どうして、と。
翠は微笑んで、両腕を差し伸べた。
「護りたい、からですよ。」
見えない何かを抱きしめるように、胸元へ両腕をたぐりよせる。
「あのお方を護ること。あのお方の敵を全て潰して、未来永劫あのお方を護り抜くこと。それが私の望み。この世界にやってきた理由だったんです。」
そう、やっと気づけたんですよ。
栞は、呆然と翠を見つめた。歪な鏡を見ているような気持ちだった。
そうだ、護ることは敵を潰すこと。翠は正しい、栞も正しい。それなら翠を止めるべきじゃない?
否、と心の奥から声がした。
陸という敵を、火竜という敵を潰すため戦った栞。栞は護りたかった"翠"を護れたか?無邪気に明るく笑う翠は、もういない。
「待て、神父…っ」
「安心してください、栞さん。貴女が私と同じところにくれば、また一緒にいられます。」
けれど、と。
呟いた瞬間、『ドラゴンクロー』がきんと光った。
「貴女が貴女の主に再び仕えると言うのであれば…」
先刻よりも大きく獰猛な『ドラゴンクロー』。
避けきれず、栞は十字架で受け止めた。
「その時は、さようなら。栞さん。」
神父の微笑は、狂ったまま安定していた。
「…主、だと…?」
「御神が教えてくれたんです。御神は全て知ってらっしゃいますから。」
翠は交差をそっと解いた。
足元からごぼごぼと黒い影が湧きたつ。距離を詰めようとした栞を、爪で威嚇して止めた。
「自死の緑、保守の黒、傲慢の黄緑、稚拙の赤、狂愛の橙…革命の蒼。」
するりと伸びてくる影の触手に、翠は身を委ねた。
最後の最後、どこか切なげな微笑を浮かべながら。
翠は緑色に輝く『ドラゴンクロー』を、まっすぐ栞へと、振りおろした。
「ッ!?」
すんでで避ける。翠は想定済みだったようだ。ふんわりと微笑んで見せた。
「栞さん、ひとまずのお別れを言いたくて待っていたんです。貴女が起きてくれたら教会から去るつもりでした。」
「…去って何処へ?」
「御神の下へと。」
うっとりと翠は言った。
「この優しい世界を作り、統べる方の下へと。」
ダークライ。
栞は一発でぴんときた。けれどわからない、翠がどうしていきなりこんなことを言いだしたのか。
翠は最初の一撃以降攻撃する様子がない。間合いだけはとりながら栞は尋ねた。どうして、と。
翠は微笑んで、両腕を差し伸べた。
「護りたい、からですよ。」
見えない何かを抱きしめるように、胸元へ両腕をたぐりよせる。
「あのお方を護ること。あのお方の敵を全て潰して、未来永劫あのお方を護り抜くこと。それが私の望み。この世界にやってきた理由だったんです。」
そう、やっと気づけたんですよ。
栞は、呆然と翠を見つめた。歪な鏡を見ているような気持ちだった。
そうだ、護ることは敵を潰すこと。翠は正しい、栞も正しい。それなら翠を止めるべきじゃない?
否、と心の奥から声がした。
陸という敵を、火竜という敵を潰すため戦った栞。栞は護りたかった"翠"を護れたか?無邪気に明るく笑う翠は、もういない。
「待て、神父…っ」
「安心してください、栞さん。貴女が私と同じところにくれば、また一緒にいられます。」
けれど、と。
呟いた瞬間、『ドラゴンクロー』がきんと光った。
「貴女が貴女の主に再び仕えると言うのであれば…」
先刻よりも大きく獰猛な『ドラゴンクロー』。
避けきれず、栞は十字架で受け止めた。
「その時は、さようなら。栞さん。」
神父の微笑は、狂ったまま安定していた。
「…主、だと…?」
「御神が教えてくれたんです。御神は全て知ってらっしゃいますから。」
翠は交差をそっと解いた。
足元からごぼごぼと黒い影が湧きたつ。距離を詰めようとした栞を、爪で威嚇して止めた。
「自死の緑、保守の黒、傲慢の黄緑、稚拙の赤、狂愛の橙…革命の蒼。」
するりと伸びてくる影の触手に、翠は身を委ねた。
最後の最後、どこか切なげな微笑を浮かべながら。
「貴女は"魔女"と縁がある人…この世界にとって危険なのです。…願わくば、貴女が何も思い出しませんよう。」
また逢いましょう、栞さん。
影に溶けるように、言葉と翠が消えた。
影に溶けるように、言葉と翠が消えた。
…私はどこから間違えた?
栞は、翠の消えた空間を呆然と見つめていた。
あの時、もっと早く帰っていれば?
あの時、陸を倒せていれば?
あの時、火竜を倒せていれば?
栞は、翠の消えた空間を呆然と見つめていた。
あの時、もっと早く帰っていれば?
あの時、陸を倒せていれば?
あの時、火竜を倒せていれば?
あの時、翠を追うことを選んでいれば?
護りたいものを護るにはどうすればいいのか。
信じた方程式が崩れた今、栞は信じるべきものを見失った。
探さなきゃ。わからなきゃ。答えを出して戦わなくては。
危機感だけが虚しく空回り、身体は動いてくれなかった。
信じた方程式が崩れた今、栞は信じるべきものを見失った。
探さなきゃ。わからなきゃ。答えを出して戦わなくては。
危機感だけが虚しく空回り、身体は動いてくれなかった。
まもなく"神"の名の下に、彼らは"魔女"を狩りにやってくる。
fin.