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belief and faith.

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belief and faith.




「……。」

「どうした桃。随分と不機嫌そうじゃないか。」
「当たり前じゃない。」
空間に、影のように黒く縁取られた穴があいている。
そこからの景色を眺めるダークライに、桃は毒づいた。

「彼に近づく女なんて、みんな殺してやりたいもの。」
そこには此処から遠い場所で戦っている、樹と栞の姿が映っていた。

「君は本当に愛情の強い子だね、桃。まるで愛と結婚の女神・ヘラのようだ。」
「ナニソレ嫌味?いいから私も行かせて欲しいんだけど。腕無しと糞神父だけ行かせて私に我慢してろって言うの?」
「そう焦るな。まだ君にふさわしい舞台じゃない。」

ふん。桃は鼻で笑う。
「私じゃなくて、そいつにとって、でしょ?」

ダークライは、骨ばった手で赤い髪の毛を撫でた。
「そうとも言えるね、人形遣い<ドールマスター>。君達の舞台は、とびきり華やかにしてあげないと。」







「『でんじは』ッ!」
青白い火花が樹にまとわりついた。
「…ッ!」
もろに喰らった樹は麻痺し、膝をついた。これでしばらくは動けないだろう。時間稼ぎに過ぎないが。
肩に深く裂傷を負った薫が、栞の後ろでよろよろと立ちあがった。辛うじて首が飛ぶのは避けられたが、傷は深い。
「しお…りん…。」
「お目覚めかしら?邪魔だから消えて。」
「無茶…だよ、しおりん一人じゃ…。」
「そんなぼろっぼろの貴方がいたって…。」
がきんッ、容赦なく襲い来るドラゴンクローを十字架でいなした。
「物の数にも入らないってのよッ!!」
弾き飛ばすと同時に薫をひっつかみ、栞は後ろに飛んだ。しかし12歳の少女にとって薫は重く、思ったように飛距離が得られない。
追って飛んできた『エアスラッシュ』が、栞のローブを引き裂く。
ひるんだその隙に『しんそく』。遠かった翠の顔が、眼前で嗤った瞬間。
『はかいこうせん』。
小さな体躯は高々と吹っ飛び、地に叩きつけられた。
「弱いですね。御神に仇なす者を護ろうとする、貴女はとても弱い。」
反動で四肢が痺れるが、翠には大したことじゃなかった。だって、栞は倒れたまま動けやしないのだから。
痺れが取れたころ、ようやく栞がよろりと起き上がる。
「ッ…ぁあああッ!!!」
だっと駆けて『すてみタックル』を仕掛ける。それも翠のドラゴンクローによって、難なく弾かれてしまった。
「神を崇めず冒涜する"魔女"などに…、」
弾かれた一瞬に向けられた手のひら。放たれた光が再び栞の身体を浮かせた。『りゅうのはどう』。
ざっとその手を振りおろし、翠は金の眼で冷たく睨んだ。
「…私は負けない。そして示しましょう。御神の正しさを。」
御神の為に、何もかも葬って示しましょう。
もはや動かない塊となった栞へ、とどめの『りゅうのはどう』を放った。難なく命中し、栞は閃光と土煙に呑み込まれ見えなくなる。

「…今更…何を言ってるんだか…。」
…返った声に、翠は目を瞠った。
土煙が晴れると、『ひかりのかべ』で『りゅうのはどう』を差し止めた栞が現れた。
「最初から言ったはずよ…私は魔女だと。初めて会った時に言ったでしょう?『私は栞。この世の男全てを殺さんと願う女。貴様ら"神"も、同様に。』」
血が滲む程、強く"逆十字"を握りしめる。
「信仰なんてない。主なんてない。正しさなんて持ち合わせていない。そうよ、所詮は野良犬の牙。…けれど、これだけは言えるわ。」
既に折れた足で駆け、ずたずたになった腕を振り上げて、血みどろの逆十字にありったけの電光を込める。
『でんこうせっか』で、翠の背後を取った。

「貴方のように、殺める理由を他人のせいにしないわッ!!」

鋭利な銀十字は、ローブを易々と貫く。
短く呻いた翠は、その場に膝をついた。
振り向き様にドラゴンクローを構えた翠の眼前に、十字架の切っ先が、ぴたりと突きつけられた。
「貴方はそれを"苦"や"迷い"と呼んだわね。」
フードから零れた金髪が、風に揺れた。
「けれど違うわ。今なら言える。それは"苦"でも"迷い"でもない…私の"生き様"なの。」

翠は、ゆっくりと目を瞠る。
見つめ返す栞に、もう迷いはない。
「…貴方は…自分自身を、信じられるんですね。」
赤の本でもなく、男を殺すという理念でもなく。その時その時の、自分の意志を。
「…そんな大層な言葉は似合わないわ。」
「似合いますよ。今の貴女になら、とても。」
いつしか爪のひっこめ方すら忘れた手で、翠は栞の髪の毛に、そっと触れた。
「面白い、"人"。少しだけ…羨ましい。」
その手はすぐに離れた。
否。



落ちた。



「…え?」
呟いた声は栞の分だけ。呟くはずだった翠の声は、袈裟斬りにされて消えた。
噴き上がる血しぶきの中で、何が起こったのか栞には視認できない。
逃げて、という声がどこからか聞こえて、

栞をかばった薫が、胸を長剣に貫かれていた。

「…しおりん…逃げて…ッ!」
「残念だな。麻痺している相手にとどめも刺さないなんて。」
もう十分に痺れの取れた樹が、無感動に薫を見つめた。
「そんな相手ならいらないな。」
剣を引き抜き、また袈裟斬りに。
そして流れ作業のように、栞へと剣を振りおろした。幸い栞はぎりぎりで避けられたが。
「しおりん…!」
駄目だ、栞を樹に殺されては。樹に栞を殺させては。
まだ辛うじて息のある薫は、栞と樹を追おうとしたが
(やめて…!)
強烈に響く声が、それを止めた。

(やめてです、もう死んじゃうのは嫌!)
(死なないって言ったのに、ひとりぼっちにしないって言ったのに!)
(嫌です!薫がいなくなるかもしれないの嫌です、怖いです…!!)

「……あ。」
瞳孔の開いた目で、薫は今度こそはっきり悟った。
おしまいだと。
"お姫様"にそう言われたが最後、"薫"はここにいられない。
―――君が彼を信じる限り、彼はいつでも君と一緒だ。信じる限り、な。
それが、契約、だったから。

指先から力が抜けた。膝からも、首からも。
視界が暗く陰っていく。
肉体から剥離していくのがわかった。
"薫"はここにいられないから。
"薫"は、此の身体に、いられないから。
「…お姫様…。」
へたり、彼は膝をついた。
「ごめんね…強く、なれなくて…。」


弱い "ヒーロー"で ごめんね。



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