大戦争@親衛隊詰所
それは、ごく何気ない至って平穏な、ある夕方のこと。生徒会室、要するに夜来園長を守るために存在する親衛隊の詰め所での出来事。
親衛隊隊長の園端は紅茶を煎れ、唯一の女子隊員である常盤はケータイを弄り、最年少の神宮は本をめくり、名物ラブドールの椿野は窓の外をぼんやり眺めて、思い思いに優雅に5時を過ごしていた。書類も片付いた。やることはない。ただ、午後5時半までが彼らの勤務時間なのだ。
親衛隊隊長の園端は紅茶を煎れ、唯一の女子隊員である常盤はケータイを弄り、最年少の神宮は本をめくり、名物ラブドールの椿野は窓の外をぼんやり眺めて、思い思いに優雅に5時を過ごしていた。書類も片付いた。やることはない。ただ、午後5時半までが彼らの勤務時間なのだ。
「みなさん、紅茶入りましたよ」
園端の声に、ソファに沈んでいた常盤が起き上がる。
「あら、ありがとう隊長。…白、冬子、いらないの?」
「いりますけど、いいとこなんですちょっと待って」
園端の声に、ソファに沈んでいた常盤が起き上がる。
「あら、ありがとう隊長。…白、冬子、いらないの?」
「いりますけど、いいとこなんですちょっと待って」
神宮は本から顔を上げずに返事を返す。椿野は窓際から静かに離れて、園端に礼をした。常盤は机をしばらく眺め回し、園端に尋ねた。
「砂糖知らない?」
「常盤先輩太りますよ」
「白、ボコるわよ」
「砂糖ならシンクの下にあるはずです、見てきましょうか」
「いいわ、そのくらいする」
「常盤先輩太りますよ」
「白、ボコるわよ」
「砂糖ならシンクの下にあるはずです、見てきましょうか」
「いいわ、そのくらいする」
常盤が部屋の奥へ姿を消した。園端は紅茶を啜り、ため息をつく。…平和だなあ。
そのぬるま湯世界をぶった切る大絶叫が響き渡った。常盤の声だ。瞬時に園端の表情が引き締まる。さっと立ち上がり、常盤のもとへ駆け付けた。神宮がのんびり後ろに続く。
そのぬるま湯世界をぶった切る大絶叫が響き渡った。常盤の声だ。瞬時に園端の表情が引き締まる。さっと立ち上がり、常盤のもとへ駆け付けた。神宮がのんびり後ろに続く。
「桃さん!!」
「どうしたんです常盤先輩ぁい」「ごっ…」
「どうしたんです常盤先輩ぁい」「ごっ…」
普段の常盤らしからぬ動転ぶり。白い指が指す方向を、園端と神宮の目が追った。その先には言うまでもない、黒光りする昆虫がちょこんと、白い壁に乗っかっていた。
「ななななんとかしてぇっ!」
常盤に縋りつかれた園端は微妙な表情のまま固まっている。隣では神宮が引き攣った笑顔を浮かべていた。
「…園端先輩、今こそ年長者の威厳を示す時だと思いますよ…?」
「神宮さん…こういう時には年下が先陣切って突撃するべきだと思いますが…?」
「どっちでもいいわよお! いいから早くっ!!」
「神宮さん…こういう時には年下が先陣切って突撃するべきだと思いますが…?」
「どっちでもいいわよお! いいから早くっ!!」
仕方なく園端は雑誌を、神宮は新聞を装備した。対象は依然壁を悠々と移動中。右手から園端、左手から神宮がじりじりと近づく。近くで見るとますます背筋にくるものがある。二人は目配せをして、呼吸を合わせて武器を振り上げた。瞬間、敵は離脱用パラシュート…もとい羽を広げ、まっすぐに常盤の方向へ滑空した!
「きゃああああああああ嫌あああああああ!」
彼は見事リノリウムに着陸すると、何事もなかったかのように触角を手入れし始めた。常盤は電光石火の素早さでそこを離れる。か細い体はふるふる震えている。しかし、向こうから覗き込むように見ている椿野を認めると、常盤は声を張った。
「ちょっと冬子! あんたも一応オトコでしょうがそいつ退治して!」
椿野はじっと床を見る。床に鎮座した彼をしばらく眺めた後、くるっと反転して生徒会室を出ていった。遠くでぱたぱたと呑気そうな駆け足の足音。
「あっ椿野先輩…」
「ああ…逃げちゃいましたね」
「冬子ただじゃおかない」
「ああ…逃げちゃいましたね」
「冬子ただじゃおかない」
入れ違いに、引き戸ががらっと開く。さらに呑気そうな声がした。
「マイスイートご在室ぅー?」
時計を見ると20分近い。犀川がやってきたらしい。
時計を見ると20分近い。犀川がやってきたらしい。
「犀川さんですよね!? 今全員手が放せないんで、ソファでお待ちを…」
「てか椿野先輩逃げちゃったんですけど…」
「てか椿野先輩逃げちゃったんですけど…」
犀川が顔を覗かせた。
「何してんの皆さん?」
「…いや…ちょっとそこにGという名のラスボスが…」
「うわ、ちょっと先に言って!!」
「…いや…ちょっとそこにGという名のラスボスが…」
「うわ、ちょっと先に言って!!」
飛びのいた犀川を常盤が睨む。
「冬子逃げたの代理で退治して頂戴!」
犀川はすごい勢いで首を真横に振った。慌てて手近の雑誌を盾にする。
「や、無理無理無理無理! こいつだけは死んでも無理い!」
「なによ軟弱ね! この草食系! 童貞!!」
「童貞違う! 卸し済み!」
「軽く自慢!? もういいわよヘタレ!」
「なによ軟弱ね! この草食系! 童貞!!」
「童貞違う! 卸し済み!」
「軽く自慢!? もういいわよヘタレ!」
すごすご退却していった犀川にもう2、3言罵声を浴びせ、常盤は園端と神宮を見た。
「二人ともじっとしてる場合じゃないでしょ!」
「…いや、桃さん元気だなあと思って」
「常盤先輩ならできますってゴキくらい」
「女子はゴキの相手なんかしませんの!」
「…いや、桃さん元気だなあと思って」
「常盤先輩ならできますってゴキくらい」
「女子はゴキの相手なんかしませんの!」
言い争いに発展しかねない睨み合いの中、遠くからまたぱたぱたと呑気な足音が響いてくる。部屋に椿野が飛び込んできた。抱えたステンレスのボールからは泡が溢れている。椿野は犀川への挨拶もそこそこに、ボールの中身を床にぶちまけた。
「ちょっ、冬子!?」
「椿野さん!?」
「椿野さん!?」
床一面にクレンザの泡が広がる。ラスボスは泡の中でしばらくもがいたが、やがてゆっくりと動きを止めた。椿野はふう、と息を吐くと、傍らで固まっている犀川に擦り寄る。
「………」
「…なんかよくわかんないけどよかったね。冬、帰ろ」
「…なんかよくわかんないけどよかったね。冬、帰ろ」
椿野の手を引いて、犀川が歩きだす。時刻はちょうど5時半。ぽかんと口を開けて停止した3人を置いて、犀川と椿野は悠々と部屋を後にする。勿論ボールも泡も死骸も置きっぱなし。漸く状況を把握したらしい常盤が叫んだ。
「っ片付けてから帰りなさいよバカップルーーー!!」