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ないたいたいなりたいいたい

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miduku

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なりたい いたい




「…紅?」


何が起こったのか、静葉には理解できなかった。けれど今、すんでのところで直撃を避けた幻の先には、紛れもない紅の姿がある。それを紅と認めるにはあまりにも残虐な容貌の紅が、いる。
血に濡れた指を舐める彼と、かつてうずくまって震えることしかできなかった彼は、まるで別人だった。

ぼんやりとした光を帯びていた目が、ふっとこちらを捉える。目の光が突然、恍惚とした甘味を纏った。再びくるりと視線を動かして見上げた先には、鋼の竜。
声は聞こえなかったけれど、静葉の目には彼の口がこう動いたように見えた。

「こうりゅう」
「たべて いいよ」


もう一度紅がにっと笑ったのを合図に、咬竜の牙がこちらへ襲いかかってきた。



「随分乱暴なんだね。それが君の本性、とやらかい?」
「ううん。今までの僕は紛れもなくありのままの“紅”だし、今の僕だってありのままの“紅”だよ。
けどね、今は少しお腹がすいて、少し苛々してるだけ」

すぐ向こうから聞こえる音の方に紅はちらりと目をやる。そこでは咬竜が雄叫びを上げながら、食欲のままに獲物に襲いかかっていた。戸惑いを抑えきれない静葉たちは抵抗こそすれど、咬竜を倒しにはかからない。紅はもう一度幻に向き直ると、笑顔を浮かべたまま続けた。

「あの人たちは咬竜にあげるんだ。ずっと我慢させてたから。でも、幻さんは僕が食べてあげるよ。あなたのお陰で我慢しなくてもよくなったけど、鉄と冥がいなくなったのは、やっぱり、あなたのせいだから」

血の付いた手を強く握りしめると、幻に向かって大きく振りかぶる。漆黒の大鎌は“メガトンパンチ“をとらえたが、その重みに小刻みに震えていた。

「だから、許さない」

どうにか弾き返した幻の足元からは、幾重もの影が紅に向かってその手を伸ばす。それを紅が避けきって一度息をついた、かと思えば、ひゅんっという空気の切れる音。
幻によく似た、けれど青い耳のついた誰かの“インファイト”が、紅の腹に直撃した。
紅の細い身体は呆気なく吹っ飛ばされ、乾いた地面に勢いよく叩きつけられる。

「言ったろう、容赦はしないって」

痛みに歪めた顔を持ち上げた先には、冷たい目線。幻の右手に集まった影は、すぐにまた鎌を象った。

「まずは君から、さようならだね」


真っ直ぐに振り下ろされた鎌が、確かに筋肉に突き刺さった感触はあった。
けれどそれはぎゅっと固く瞳を閉じた紅の筋肉ではなかった。
獣の唸る声が、二人の耳に届く。

「……り…く?」

二人の間に立ちはだかったのは、陸。肩に深々と刺さった鎌を振り払うと、陸は幻を威嚇するように大きく吠えた。
一方補食に精を出していた咬竜も、その声に気づいて紅たちの方にぐるんと身体を向ける。倒れている紅にそっと頭を近づけると、心配するように低くもたげた。
陸は紅に背を向けたまま、言う。

「俺は…紅になら、何されたって…ええ……けど、俺が…強くなりたかったのは、守るため…や…もう、なくさんために…!」

「…俺は……お前おらんなるのだけは、絶対…嫌や…!」
「…陸、」

陸を見上げながら、紅はぼろりと涙を落とした。ぼろり、ぼろり、大粒の涙が地面に跡を付ける。ようやく紅の中身が、『かなしい』という感情でいっぱいになった。
少し離れたところから、紅の名前を呼ぶ声が聞こえた。駆け寄って来た静葉に手を借りて、紅はふらりと立ち上がる。小さな声のごめんなさいへの静葉の返事は、爪と刃のぶつかりあう音にかき消された。

「紅、休んでていいよ」
「ううん、僕も闘う。…やっぱり、気が済まないから」

涙をぐしぐしと拭うと、紅は何度目かの笑みを見せて、言った。

「お腹も、すいてきたし」







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