よぞらのほしよ
二人はほぼ同時に地面を蹴った。煌めく爪と緑の光が、高い音を立てて衝突する。
押し負ける、と翠は瞬時に判断した。
爪を弾くと、翠は陸との間に間合いを取った。 しかしその翠の頭上から、ふっと影が差す。
気づいて上を見上げたときにはもう遅く、“がんせきふうじ”が翠を包囲し、光が入る隙間もないほど完全に閉じ込めた。
陸はその横を駆け、ぴくりとも動かない紅の身体を抱き起こす。
気づいて上を見上げたときにはもう遅く、“がんせきふうじ”が翠を包囲し、光が入る隙間もないほど完全に閉じ込めた。
陸はその横を駆け、ぴくりとも動かない紅の身体を抱き起こす。
「紅、紅っ…!?」
何度も何度も彼の身体を揺さぶると、紅はようやくうっすらと片目を開けた。
すぱんと縦に切り裂かれたもう片方は、閉じたまま。
すぱんと縦に切り裂かれたもう片方は、閉じたまま。
「……りく?…いるの…?」
「紅、こう…!…早よ、治さんと……」
「……いいよ、陸…」
「…いい、って――」
「僕、もう、何も……見えないんだ、全部……目の前が全部、真っ赤なんだ」
「紅、こう…!…早よ、治さんと……」
「……いいよ、陸…」
「…いい、って――」
「僕、もう、何も……見えないんだ、全部……目の前が全部、真っ赤なんだ」
ずるりと落ちた眼鏡が、血溜まりに沈む。
紅が激しくせき込むと、喀血が彼の服をより赤く濡らした。
紅は切れ切れの呼吸をしながら、言葉を一つ一つ絞り出す。
紅は切れ切れの呼吸をしながら、言葉を一つ一つ絞り出す。
「……りく、僕、の、わがまま、に、付き…合わせて…ごめん」
紅が伸ばした手は、陸の頬にすら触れられない。
何もない空間を、ただ、泳いだだけ。
何もない空間を、ただ、泳いだだけ。
「…陸、きみは、もう……君が守りたいものをまもって………いい、んだよ、君が、……“陸”が、守りたいものを」
大丈夫。
そう言って、紅は血に塗れた顔に不器用な笑みを浮かべた。
そう言って、紅は血に塗れた顔に不器用な笑みを浮かべた。
「きみは強いから、何だって守れるよ」
ざら、
ざらざら、
紅の足先から音が聞こえた。
それは、虚無が紅を浸食していく音。
ざらざら、
紅の足先から音が聞こえた。
それは、虚無が紅を浸食していく音。
「……嫌や…紅、俺は、お前を――!」
「ご、めんね、りく」
「ご、めんね、りく」
ざらざらざら、
「ふう、くろ、てつ、みんな、」
ざらざらざらざら、
「ごめ――」
ざら。
陸の腕の中から、紅も、紅の言葉も、全部消えた。
残されたのは陸だけ。
残されたのは陸だけ。
紅、とぽつり呟いても返事は返ってくるはずはなかった。
後ろの方からどぉおんと低い爆発音が聞こえたが、陸は何も反応を見せない。
砂を踏みしめながら、翠が言う。
翠の顔には、笑みは浮いてはいなかった。
後ろの方からどぉおんと低い爆発音が聞こえたが、陸は何も反応を見せない。
砂を踏みしめながら、翠が言う。
翠の顔には、笑みは浮いてはいなかった。
「……紅は、終わりましたか」
「…あぁ」
「それでは相手をしましょうか?…私もあまり暇じゃないんです」
「……俺は、」
「…あぁ」
「それでは相手をしましょうか?…私もあまり暇じゃないんです」
「……俺は、」
陸は立ち上がると、翠の方に向き直った。
爛と目を光らせ、陸は。
爛と目を光らせ、陸は。
「……俺は、お前とは戦わん」
「…!?」
「…!?」
声こそ出さなかったものの、翠は驚きに目を見開いた。
対する陸は、やけに落ち着いた調子で続ける。
対する陸は、やけに落ち着いた調子で続ける。
「…紅は、俺に…守りたいもん守ればええ、って…言うた。……せやから、俺は紅との約束を守る。……静葉を、守る」
それに、と陸が付け足した。
「お前を殺すんは、俺やない」
「――ッ何を、」
「――ッ何を、」
翠が何か言う前に、辺り一面に響いた地響きがそれを遮る。翠にダメージは無いが、突然の揺れに思わず足下をすくわれてしまう。
そして地面から突き出してきた“ストーンエッジ”が、翠の足を抉った。右足から吹き出る鮮血に、思わず顔を歪める。
“ストーンエッジ”は次々と地面からその姿を現す。翠を直接攻撃するのでなく、取り囲むように、それは翠の周りに続々と現れる。
そして地面から突き出してきた“ストーンエッジ”が、翠の足を抉った。右足から吹き出る鮮血に、思わず顔を歪める。
“ストーンエッジ”は次々と地面からその姿を現す。翠を直接攻撃するのでなく、取り囲むように、それは翠の周りに続々と現れる。
やがて砂埃がもうもうと立ち上がった頃、地鳴りも岩の柱もぴたりと治まった。
急いで岩の柱の間を縫うように走り、砂埃がやや晴れた場所までたどり着いた時には…陸の姿は、すっかり見えなくなっていた。
また探し直しか、と息をついた翠の脳に、陸の言葉が反響する。
急いで岩の柱の間を縫うように走り、砂埃がやや晴れた場所までたどり着いた時には…陸の姿は、すっかり見えなくなっていた。
また探し直しか、と息をついた翠の脳に、陸の言葉が反響する。
『……お前を殺すんは――』
翠は、足を踏み出さなかった。
その代わり、ゆっくりと目を閉じて、想う。
その代わり、ゆっくりと目を閉じて、想う。
◆
……そこから少し離れた所で走っていた陸は、不意に足を止めた。
そして、自分の右手に目をやる。
……そこから少し離れた所で走っていた陸は、不意に足を止めた。
そして、自分の右手に目をやる。
今までどんな攻撃も寄せ付けなかった硬質の腕に、一筋のヒビが走っていた。
「……大丈夫」
けれど陸は、前を向く。
「俺は、強い」
◆◆
紅たんドロップアウト
紅たんドロップアウト