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Alice.

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mato4869

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Alice.


柔らかい草が返すくしゃくしゃの足音。
友達が呼ぶ声がする。
日差しが暖かかった。風がくすぐったかった。草花が笑う。

私は穴の中に飛び込んだ。
時計兎を追わなくちゃ。
友達が呼ぶ声が遠ざかる。
待って兎さん。行かないで。ここに居て。
止まって。

「それが愚かだと言うのですよ、アリス。」
いかれ帽子屋が諦めた目で笑う。
「彼の時計は止まらない。」
お茶会のお客はだぁれもいない。
みんないなくなってしまったのだと言う。
「貴女もいずれ。」
それでも私は兎を追うの。

「お前に今更何ができる、アリス。」
ハートの女王が怖い目で言う。
「奴の時計はもう止まらない。」
お城の兵隊はだぁれもいない。
みんないなくなってしまったのだと言う。
「貴様もいずれ。」
それでも私は兎を追うの。

「どうせ道に迷うわよ、アリス。」
チェシャ猫が冷たい目で嗤う。
「あの人の時計は止められないの。」
森の動物はだぁれもいない。
みんないなくなってしまったのだと言う。
「アンタもいずれ。」
それでも私は兎を追うの。

冷え切った地面が返す凍った足音。
友達の声は聞こえない。
日差しはない。風もない。草花もない。
時間もない。
あるのは一つだけ。
兎さんの時計だけ。

兎は走る。時計と走る。
時計の針で刻んで走る。
待って兎さん。行かないで。ここに居て。
止まって。

どのぐらい走っただろう。
時計兎が立ち止まっていた。
よかった。やっと。今なら手が届く。
はやる胸を押さえて、捕まえるように手を伸ばす。

ゆっくり振り向いた時計兎が
わらった。


「悪いな。」


最後の時計の針の音。
石畳に散らばる継ぎ接ぎの破片。
友達が呼ぶ声がする。
時計兎は、
時計兎は、



―――君の願いはなんだね?

飛び込んだ穴の先は、林檎のように真っ赤な空。
それでも私は、兎を追うの。



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