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蒼の娘

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mato4869

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蒼の娘


「緑。緑。緑は敵。緑。緑。緑は嫌い。」
歌うように囁く彼女。名を岬と言う。けれどそれを知る由もなく。
肩を貫く痛みに脳を焼かれ、樹はただその声を聴かされていた。
『ストーンエッジ』の上に岬は立っていた。ふんわりと。無重力に。それはまさしく、天使のよう。
「レイはどこなの?そう。レイに会えないの?そうだね。そうだよね。レイは僕と会うのだものね。」
一歩踏み出した足は白魚のような輝きを纏う。その華奢な足で樹の胴を踏みつけた。
ぐじゅ、ごり。たまらず喉から叫びが迸った。
「ふふ、まったくレイってば遅いよ。早く会いにきて?僕を迎えにきて?式場まで連れてって?ドレスはどんなのがいい?なんでも言って?レイの理想のお嫁さんに僕を成らせて…?」
歌うように囁く彼女。樹を見つめて、樹ではない誰かに語りかける。微笑む口元は柔らかかった。細める瞳は美しかった。
青い火のよう、に。
その青い火が、樹の視線に気づいて揺れた。
「何見てるの、」
汚らわしい。
踏みつける足に力がこもり、右手に氷の断片が集う。
瞳が冴えた。
「死んでよ。」


「うおぉ――――っりゃあ!!!」
どぉんっ!とんでもない振動で岬と樹が揺れる。
岬が下を見ると、一匹のキレイハナが『すてみタックル』をかましていた。
派手に石柱を揺らした薫は上を見る。上ではまだポニーテールが揺れている。どういう状況かよく見えないが、とりあえず揺らして落としてしまえばいい!
「けっこー硬いですねぇっ…!『にほんば
「させないよ。」
岬の手が挙がるのが早かった。挙げた手を中心に白い厚雲が集う。そこから白い氷の粒、『あられ』が銃弾のように降り注いだ。
あられは滅茶苦茶にあたりを跳弾する。あっという間に視界が潰えた。
たじろぐ薫のすぐ後ろには岬が降り立っている。
「何、君。レイじゃない奴…。」
「…!逃げろ薫ッ!!」
「え!?な、わわっ!!」
慌てて薫がしゃがみ、頭上を『れいとうパンチ』が素通りする。奇しくもそれは樹を貫いている石柱に当たり。
ばきばきばきばきばきっ。ぼろぼろに瓦解させてしまった。
「あ、ラッキー。なんかわっかんないけどおねーさんありがと!ですv」
「うるさい…黙ってよ。僕を見ないで…!」
振り抜いたれいとうパンチで再び薫へ殴りかかる。調子をつかんできた薫は舞うように避けていく。
荒れるあられの中。跳弾を散らして二人分の足音が響いた。
「えへへ、おっそいおそいですよおねーさん?派手なことする割には手応えないですようっ!」
「うるさい…ッ!死ね!死んじゃえッ!」
近接戦を仕掛ける割に、岬の動きにはどこかたどたどしかった。まるで自分の身体に振り回されてるような、重心を掴み切れていないような。対して馬鹿みたいに近接戦を好む薫。速度も力量もケタが違った。
ぎっと岬が歯をくいしばる。追うことをやめ、両手を高々と空に掲げた。その手には再び雲が集う。
「死ねよ…死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ、レイ以外皆消え失せろッッ!!!」
手から白い爆風が巻き起こる。
それは『ふぶき』だった。薫が逃げも避けもできないまま、辺り一帯が雪で潰される。
「―――其処を退けこの糞ったれッ!!」
その後ろから何かが飛び出した。それは薫を文字通り踏みつけて高々と飛び跳ねる。掲げた銀十字が電気で雲と繋がった。
「『かみなり』ッッ!!!」
眩しい閃光と爆発音。天を裂き地を穿ち、特大の雷光が岬を貫いていた。
たっと降り立った少女は、薫が見覚えのある顔だった。
「痛ったー…あ、誰かと思えばしおりん。やっほーいでーす。」
「煩い死ね馬鹿阿呆呆け糞ったれッ!アンタときたら本当にロクなものを呼びこまない…!こいつをぶっ殺したらミンチにしてあげるわ!」
「あはは、りょーかいりょーかいですよ。このおねーさんよりしおりんの方が楽しめそうだし、ね♪」
軽口を黙殺して栞は目の前の"敵"を睨す。敵は光に眩みはしたがダメージは受けてないようだ。氷か水と踏んでかかったのだが、地面持ちだったのだろうか。
吹雪は潰えたがあられはまだ吹きすさぶ。その隙間から見えたシルエットは髪の長い女だった。
本来、女を殺すことはポリシーに反する。
でも何故だろう。こいつは"殺してもいい"と本能が告げていた。
「今度は…女…。本当に何なの…。」
ゆらり、岬がゆらめいた。青い瞳孔が開いている。
「緑が来る。女が来る。誰も彼もが僕の邪魔をする。こないで。こないで。こないでよ。邪魔しないで。しあわせ邪魔しないで。見ないで。触らないで。寄らないで。レイを、」

奪わないで。
網膜に映るのは瓦礫の塔。擦れていくレイの姿。奪われていくレイの笑顔。
ふつと消えた、彼のいない虚無を幻視したその瞬間
青い瞳が
青い火が
青い燐光が

全身に燃え広がった。


「死んじゃえ よ。」


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