一手
全部、邪魔。
ひどく静かで、音が聞こえない。
いつからか人の姿も見えなくなった。見えるのは輪郭もわからないほどぼやけた動く影。男か女かもわからない。
でも問題はない。興味もない。
判断する必要なんてひとつもない。
いつからか人の姿も見えなくなった。見えるのは輪郭もわからないほどぼやけた動く影。男か女かもわからない。
でも問題はない。興味もない。
判断する必要なんてひとつもない。
彼女ニ近寄ル奴ハ、全部邪魔。
ほらまた一つ、愚かな影が寄ってきた。
*
改めて対面すると、憶測は確信に変わった。
ああ、きっと彼にはもう何も見えていないのだ。
ああ、きっと彼にはもう何も見えていないのだ。
静葉へ向けられた焔の目は、敵愾と殺意に満ちていた。
這う血管はまた増えているように見える。白かったシャツはさらに赤く汚れていた。
目を合わせただけで手も足も震えている。死の淵に立っているリアルな戦慄。怖くない、訳ない。
でもその淵から見えるものは、静葉が目を向けなかった真実だった。
これが、焔。
「ほむ、ら…。」
勇気を振り絞って呼んだ名前も、熱気にかすれて消えてしまった。
ざり、ざり。ゆっくりと確実に焔が近づく。
思わず肩が跳ねた。逃げようと足が震えて、それをぐっと押し殺す。
駄目。終わりにしないと。ざり、ざり。ゆっくりと確実に焔が近づく。
ぎゅっと拳を握って、弱々しくも睨みつけた。
これ以上"守らせる"訳にはいかない。守らせる対象がいたら、駄目なんだ。
目を合わせただけで手も足も震えている。死の淵に立っているリアルな戦慄。怖くない、訳ない。
でもその淵から見えるものは、静葉が目を向けなかった真実だった。
これが、焔。
「ほむ、ら…。」
勇気を振り絞って呼んだ名前も、熱気にかすれて消えてしまった。
ざり、ざり。ゆっくりと確実に焔が近づく。
思わず肩が跳ねた。逃げようと足が震えて、それをぐっと押し殺す。
駄目。終わりにしないと。ざり、ざり。ゆっくりと確実に焔が近づく。
ぎゅっと拳を握って、弱々しくも睨みつけた。
これ以上"守らせる"訳にはいかない。守らせる対象がいたら、駄目なんだ。
両の羽根の落とす影が静葉を呑んだ。
足音が止まる。小さく息を呑む。
ひどく光る目が静葉を射抜く。
高く振りかぶった右手が、風を切った。
足音が止まる。小さく息を呑む。
ひどく光る目が静葉を射抜く。
高く振りかぶった右手が、風を切った。
長い鋭いその爪は
冥の額の寸前で、火花に包まれて止まっていた。
「…く、ろ?」
多分、一瞬の出来事。焔と静葉の間に冥が割り込み、『サイコキネシス』でその手を止めたのは。
冥は静葉に目を向ける余裕もない。爪先という小さな範囲に全身全霊でサイコキネシスをかけていた。これだけ本気でも、わずかに気を抜けば破られる。
「なに…してるの冥、はやく…。」
「嫌です。」
「はやく…っ」
「嫌だと言いました。」
ばちばちばち。紫の火花が激しく爆ぜる。それは消えかけの不安定な火にも似ていた。
「頭を冷やしにどこへなりと逃げなさい。まだそれ以外に方法はあるはずです。」
「でも冥…っ!」
「…時間は、稼ぎます。」
ばちばちばちばちばち。
ますます不安定になる火花、冥の目にも焦りが浮かんだ。なんて酷い力量差。
焔は煩わしそうにぎろりと冥を睨んだだけ。
それだけで、辛うじて止めていた爪が冥へと喰いこんでくる。
多分、一瞬の出来事。焔と静葉の間に冥が割り込み、『サイコキネシス』でその手を止めたのは。
冥は静葉に目を向ける余裕もない。爪先という小さな範囲に全身全霊でサイコキネシスをかけていた。これだけ本気でも、わずかに気を抜けば破られる。
「なに…してるの冥、はやく…。」
「嫌です。」
「はやく…っ」
「嫌だと言いました。」
ばちばちばち。紫の火花が激しく爆ぜる。それは消えかけの不安定な火にも似ていた。
「頭を冷やしにどこへなりと逃げなさい。まだそれ以外に方法はあるはずです。」
「でも冥…っ!」
「…時間は、稼ぎます。」
ばちばちばちばちばち。
ますます不安定になる火花、冥の目にも焦りが浮かんだ。なんて酷い力量差。
焔は煩わしそうにぎろりと冥を睨んだだけ。
それだけで、辛うじて止めていた爪が冥へと喰いこんでくる。
その時、冥はふっと後ろに引きこまれるのを感じた。
何かが残像も残さず駆け抜けて、冥と静葉を廃墟の中へ引っ張り込む。焔の爪は地面に刺さった。
焔の後ろからさらに二つ影が駆ける。全員が廃墟に入ったのを確認すると、最後の影が止まって振り向いた。
「『いわなだれ』!」
いくつも落ちた岩が廃墟への入り口を塞いだ。
さらに落ちる岩が窓も周辺も塞いでいく。仕上げに岩は『てっぺき』を纏った。
頑健なシェルターのできあがりだ。
「(…大丈夫か。)」
冥は振り向いて驚く。二人を引きこんだのは風だった。
「けが…ない?」
おずおずと静葉に話しかけるのは紅。
「ふー…これでしばらくは防げるだろ。ったくもー冷や汗かいちゃったじゃないの。」
くる、と背を向けていたその人が振り向いた。
「冥、だいじょぶ?」
「…鉄…。」
「よしよし、怪我はないみたいだな。」
鉄はすたすたと冥に近づいて、おもむろにチョップを振りおろした。
「このお馬鹿っ!」
痛覚はないものの、さすがに冥はびっくりする。
「どーして一人でふらっとどこかに行くの!しかもこんな危ないとこまできて!」
「べ、別に危ないって程のことは…」
「あれ、こわい。」
紅は岩の外を指さした。口をちょっとだけへの字にして冥を見つめる。…怒ってる?
「ほら見ろ、紅もあぶないって言ってるぞ。はんせーしなさい。」
もう一度ぺちっと冥は叩かれた。そして、くしゃくしゃと撫でられる。
「…誰か一人でも、家族が欠けたら許さないんだからな。」
「………鉄、」
鉄が俯くと髪が目元を隠してしまう。次に顔をあげると、本当に何もなかったようにいつもの鉄だった。
ぱんぱんと手を叩いて全員を集めた。この状況をどうするか、作戦会議のお時間だ。
「さって、とりあえず追い出しちゃったけどあの人だぁれ?」
「そこの女性のストーカーですよ。」
「(…敵だな。)」
「わるいやつ。」
静葉が必死に首振ってるのはみんなスルーした。
「(そんな奴は斬り捨ててしまえ。)」
「うーん、でもねぇ…。」
戦意を示す風に鉄は頭をかいた。鉄の言いたいことはわかる。冥は考え込んだ。
相手は羽根持ちで機動力が高い。裏から逃げようとしたってすぐに見つかるし、どこに逃げたってすぐ追いつかれる。
倒す、しか道はないのだが、それはかなり無茶苦茶な話だ。
ここにいる5人のうち技を使えるのは3人。しかしとても戦力とは呼べないレベルだ。能力値の差も酷いが、風は相性が悪く鉄と冥は足が遅い。
どうすればいい…?どうすれば生きのびられる…?
自分にできることを総動員して考える。考えれば考える程煮詰まっていたその時。
がさり。冥の後ろで人が起きる音がした。
何かが残像も残さず駆け抜けて、冥と静葉を廃墟の中へ引っ張り込む。焔の爪は地面に刺さった。
焔の後ろからさらに二つ影が駆ける。全員が廃墟に入ったのを確認すると、最後の影が止まって振り向いた。
「『いわなだれ』!」
いくつも落ちた岩が廃墟への入り口を塞いだ。
さらに落ちる岩が窓も周辺も塞いでいく。仕上げに岩は『てっぺき』を纏った。
頑健なシェルターのできあがりだ。
「(…大丈夫か。)」
冥は振り向いて驚く。二人を引きこんだのは風だった。
「けが…ない?」
おずおずと静葉に話しかけるのは紅。
「ふー…これでしばらくは防げるだろ。ったくもー冷や汗かいちゃったじゃないの。」
くる、と背を向けていたその人が振り向いた。
「冥、だいじょぶ?」
「…鉄…。」
「よしよし、怪我はないみたいだな。」
鉄はすたすたと冥に近づいて、おもむろにチョップを振りおろした。
「このお馬鹿っ!」
痛覚はないものの、さすがに冥はびっくりする。
「どーして一人でふらっとどこかに行くの!しかもこんな危ないとこまできて!」
「べ、別に危ないって程のことは…」
「あれ、こわい。」
紅は岩の外を指さした。口をちょっとだけへの字にして冥を見つめる。…怒ってる?
「ほら見ろ、紅もあぶないって言ってるぞ。はんせーしなさい。」
もう一度ぺちっと冥は叩かれた。そして、くしゃくしゃと撫でられる。
「…誰か一人でも、家族が欠けたら許さないんだからな。」
「………鉄、」
鉄が俯くと髪が目元を隠してしまう。次に顔をあげると、本当に何もなかったようにいつもの鉄だった。
ぱんぱんと手を叩いて全員を集めた。この状況をどうするか、作戦会議のお時間だ。
「さって、とりあえず追い出しちゃったけどあの人だぁれ?」
「そこの女性のストーカーですよ。」
「(…敵だな。)」
「わるいやつ。」
静葉が必死に首振ってるのはみんなスルーした。
「(そんな奴は斬り捨ててしまえ。)」
「うーん、でもねぇ…。」
戦意を示す風に鉄は頭をかいた。鉄の言いたいことはわかる。冥は考え込んだ。
相手は羽根持ちで機動力が高い。裏から逃げようとしたってすぐに見つかるし、どこに逃げたってすぐ追いつかれる。
倒す、しか道はないのだが、それはかなり無茶苦茶な話だ。
ここにいる5人のうち技を使えるのは3人。しかしとても戦力とは呼べないレベルだ。能力値の差も酷いが、風は相性が悪く鉄と冥は足が遅い。
どうすればいい…?どうすれば生きのびられる…?
自分にできることを総動員して考える。考えれば考える程煮詰まっていたその時。
がさり。冥の後ろで人が起きる音がした。
*
「ッがああああ!!」
ばきっ、ばきばきっ!
その頃焔は岩を『たたきつけ』続けていた。鉄壁に包まれた岩は硬く、なかなか崩れようとはしない。火も浴びせてみたが効果は薄かった。
しかし壊さない訳にはいかない。忌々しい影はこの中に入った。必ず引きずりだして殺してやる。殺してやる!
爪が痛むのも構わず叩きつけ続けた。
すると、
ばきっ、ばきばきっ!
その頃焔は岩を『たたきつけ』続けていた。鉄壁に包まれた岩は硬く、なかなか崩れようとはしない。火も浴びせてみたが効果は薄かった。
しかし壊さない訳にはいかない。忌々しい影はこの中に入った。必ず引きずりだして殺してやる。殺してやる!
爪が痛むのも構わず叩きつけ続けた。
すると、
すぱん。真っ二つにその岩が斬られた。
斬れた岩が左右に転がると、人の姿が現れる。
相手の姿もほとんどわからなくなった焔だが
その姿だけはクリアに見えた。全身の血を、沸騰させた。
斬れた岩が左右に転がると、人の姿が現れる。
相手の姿もほとんどわからなくなった焔だが
その姿だけはクリアに見えた。全身の血を、沸騰させた。
「…来い。お前の目当ては俺だろう。」
睨みつける金色。ポニーテールが、たなびいた。