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しゅふの戦場、しかし平坦な

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しゅふの戦場、しかし平坦な

その日、月臣学園新聞部はいつもどうりにやかましかった。

「ねえ鳴海さん鳴海さん、また新しく学校がやってきたようですよ」
相変わらず情報の早い新聞部部長に呆れながら、鳴海歩はその学校の心配をした。
「そうか。そいつらも大変だ」
目の前のひよの含め、月臣学園の厄介な人間たちでさえ、所属している学校ごと異世界へ招かれる。
なんて体験。多数の学園が混在している現状。これらに楽に適応出来た者は多くない。
「いえ、そちらの方々は普段から身近な神さま悪魔、特に父兄による厄介事に
慣れているそうで。これくらいの出来事じゃなんともないとかなんとか」
一回の台詞に多数の突っこみどころが有った気がするが、なんとか無視できた。
子ども先生や傭兵少年や魔法少女の前では、インパクトが薄れてしまうのかも知れない。
「……これ以上壊れないといいな。俺の常識」
その神さまも、ため息くらいでバチを当てたりはしないだろう。
「ため息をつくと、幸せが逃げちゃいますよ?」
たまにはお姉さんらしく窘めるひよの。
「安心しろ。逃げるような幸せは元々無い」
「それは凄い幸せだという告白か、幸せにして欲しいという催促なのか悩みますね」
こいつは何を言っているんだという歩の視線を無視して、ひよのは歩の手を握る。
「それでは、幸せ探しにいきましょうか。いざ! 引越祝いに!」
「いってらっしゃい。俺はこれから買い出しがあるんだ」
「おいしいお弁当のためなら仕方ないですね。はぁ、ピクニックを待ちますか」
意外とあっさり手を離したひよのは、怖いくらい綺麗な笑顔で。
いってらしゃいと口にした。けれどすぐに、でもですねと付け加えた。
「鳴海さんは探偵なんですから、もう少しスリルでショックなサスペンス
日常を求める心があってもいいと思うんですよねー」
「そんな日常は嫌だな。平穏無事が一番だ」
ひよののため息を背に、歩は新聞部を後にした。


歩が向かったのは、近くにあるスーパーだ。名前は未だ無い。少し前は『百花屋』という名前だった気がするが、
また名無しに戻っている。この店はよく名前が変わるのだ。それが利権問題なのか店主の趣味なのかは歩は知らない。
聞いたことも確かめたこともないが、ここはどちらかといえば『一般人』が主な客層らしく、非常識なものは見ない。
常連客の意見を反映させてるせいで、変なものは幾らか見かけるが。『うっちゃり』が人気というのは果たして正気だろうか。
「よ~い、しょっと」
言ってる側からうっちゃりが消えていった。持って行ったのはここ最近見かけるようになった少女だ。
この前はもっと落ち着いていた気がするのだが、今日は雰囲気がほわほわしている。
元気な語尾が聞こえてくるが、おかしいのは彼女ばかりではなく、
「おばちゃん、トマトしるこ一つ――っ」
「……えーと、どろり濃厚ピーチ味を」
「生命の水を下さいであります」
「超神水を頼みますです」

ここは常磐台のビリビリお嬢様といった電気タイプ対策にと、自販機が一つもない。
その分なのか、別会計の飲み物コーナーは常連のリクエストによって調教され。
地方限定のものだろうが何だろうが、容赦なく置かれている。
ありふれたスーパーだった頃の影が殆ど無く、歩としては少しやりづらい。
けれどそろそろ無くなることを思いだして、牛乳を頼もうとしたが、止めた。
無いと暴れる姉さんは今いないんだ。ヨーグルトは残ってるから、それでいい。

「オレは水でいい」
「爽健美茶一つ、お願いします」
「俺は烏龍茶で」

伸ばし損ねた手をどこに向けるべきか迷い、周囲の賑やかさに引きずられそうになったが、
結局歩は、爽健美茶を頼んだエコバックヤンキーと似たようなものを注文した。

「あれが噂の高須くん……お父さんに似てるね! あと、柊くんにも」
「柊先輩と? それはどうなんでしょうか……」
さっきの少女が考え込んでいる志宝エリスと一緒にこっちを覗いていた。
父親に似てるってのは目付きのことだろうか。だとしたら、似てない父子かもしれない。
それにしても、有名人は大変そうだ。柊蓮司も高須竜児も。


「ど、泥棒ですー!」
スーパーの和やかな喧騒を、少女の叫びが切り裂いた。
常連さえいればどんな日用品でも販売されている、ミセ。
そんな商品の中には高値で取引されるような貴重品だって混じっているらしい。
手の届かない値段だからって、諦めきれない馬鹿がいたのかも知れない。
届かないモノに手を伸ばす。そいつはようやく自分のものになったと喜んでいるのだろうか。
けれど残念ながら。ここでそんな手段で手に入れても、すぐに奪い返されるだけだ。

「へへっ、カリン塔には行けなかった俺が、こんな所でこいつに出会えるとはなぁ!……っと!?」
笑いながら店内を爆走気分のそいつの目の前を、一本の葱が通りすぎる。丸っこいサングラスを道連れに。
「お前、早くその娘に返してやれ」
名を、衛宮士郎という。魔法少女の兄にして家政夫(ブラウニー)といった、
冗談みたいな肩書きの持ち主だ。ここ学園世界では珍しくもないらしいのだが。
「出やがったなぁ、正義の味方! だがお前にも、今の俺は止められないっ! いけっ、シュガー弾!」
マスクをしていたそいつは、人差し指と中指で挟んでいた店の商品を自分の真下にぶちまけた。
「……へーくしょん、くしょんっ! っていうかこれこしょうだろっ!?」
まともに胡椒を喰らいながらしっかり突っこんでいる衛宮は、苦労していそうだ。

無事に店の外に出られたと思ったそいつは、何も持っていない手を天高く掲げた。
「これで超神水は俺の……って、ない?」

「探し物はこれですか? お兄さん」
竹内理緒が何も知らない童女のような顔をして、件の超神水を持っていた。
「おお、嬢ちゃん有り難うよ。そいつは俺のだから返してくれねえか?」
理緒の目が、獲物に迫る猫のように見えたのは気のせいではないだろう。
「貴方のモノ? 違うでしょう。それは夕映さんのものです」
「年上の言うことは素直に聞こうな嬢ちゃん」
いやどうだろう。理緒がお兄さんなんて呼んだからややこしいが、
実はお姉さんなのかもしれない。そこの泥棒よりは、だ。
「あたしは信じる人は選ぶんですよ?」
「嫌われちまったかな? なら、力ずくでぇ!」
理緒を見た目で判断するとろくな目に遭わない。
何せあいつは破壊の魔女だからな、魔女の外見は当てにならないとか。
そして不用意に爆弾娘に近づいたそいつは、文字通りの意味で地雷を踏んだ。
「――みぎゃ!?」
人間一人が目の前で黒こげに変わる経験は、そうあるものでもないだろう。
業火の勾玉とかいったものを八十神高校の生徒から貰ったと聞いたのは、いつだったか。
「――で、どうして盗んだりしたんです?安いんだから買えばいいでしょうに」
超神水なんて大仰な名前がついてはいるが、ただの変わった飲み物なはずだ。
飲んだ事こそ無いが、自販機に200円も入れればお釣りが来るだろうに。
「……学生にはな、どうしても万引きしたくなるときがあるのさ」
歩は天を仰いだ。空は馬鹿らしくなるほど遠く、蒼く澄んでいた。
どうやら、この万引き犯は本物の馬鹿だったらしい。
なんとも馬鹿らしいが、とても平和でよいことだ。
「はうー?それが若さって事なんでしょうか、ねー?」
口元に指を当て、可愛らしく小首をかしげるのは構わない。構わないが、
「あんたにだけは、言われたくない台詞だと思うぞ」
「そうでしょうかねー?」
理緒が悪戯猫を思わせる笑みを向ける。その目線の先は、件の万引き犯へ。


「よお、嬢ちゃん。……夕映だったか? まあいいや。嬢ちゃんには悪いことしたな」
「……私としては無事に未開封で帰ってきたから、まあいいのですが」
トカゲに比べればだいぶましです、と理解できるものの少ない呟きを零す夕映。
どちらにしても、目の前の万引き犯は聞いてないので関係ないのだが。
「俺はな……ヤムチャが最強になれる可能性を証明したいと常日頃から思っててな
もしこいつを……超神水を飲んでいたなら、もっと違う展開になっていたと……」
「彼の代わり、というわけですか。しかしそんな策は無用ですよ
余計なことをしなくても、彼は元々トーナメントで優勝できるはずでした」
無粋な横やりさえなければ、といつのまにかそこにいた少女が加える。
その格好は確か、澄百合学園の制服だったはずだ。
歩は澄百合学園について、ひよのから聞いたことがあった。何故か誇らしげに、
『鳴海さん。世界は平和だと思いますか?』
『平和だろ、概ね』
『ふっふっふ……ところが! まだまだ世の中には
少年少女による血で血を洗う闘争が続いている学校があるのですっ!』
その中の一つが澄百合学園らしく、詳しくは聞かなかったが物騒だという理解でいたのだが。

「ですので貴方の行為も無粋です。余計と言っても過言では無いでしょう」
「――ハハッ! そうだな嬢ちゃん。ヤムチャは俺の想像なんかより強いよな!」
「ところで夕映さん。私にも分けて貰えないでしょうか」
「ごちそうさまでした」
そんな人物が何故こんな所で万引き犯と意気投合しているのだろうか。不思議だよ。
ね? と理緒の目が語っている。見知らぬ人間のギャップに驚いた後は、旧知の人間との交流を再開することにした。
「で、あんたは相変わらずか?」
「ええ。相も変わらず正義の味方のまね事なんぞをやってますよ」
「似合ってるのが世界の不思議だよ」
「そうですか? まあ本物ほどでは無いですけど」
その胡椒まみれになった正義の味方はどうしているだろうか。
そろそろ雑用込みで、後始末をこなした後だとしても復活する頃だろう。
「おーい、犯人無事かっ!?」
「意識はあるな」
歩が目を向けると。会話をしていて体力が回復してきたそいつを、白いフェレットが興味深そうに覗いている。
どんぺり、と声がした。飼い主に呼ばれたのか、白いフェレットは声の方へと去っていった。
「固定ダメージ一回だから無事ですよ。まったく、あたしをなんだと思ってるんですか」
「いや……だって、だってなあ?」
衛宮の言いたいことが理解できた気がするが、それとは無関係に思いついたことがある。
「……二人のブラウニー」
今度、気が向いたら広めてやろうと思った歩は、軽く言い争う二人を背に店の中へと戻っていった

それからは何事もなく、いつものスーパーの日常だった。平和が戻ったという事なのだろう。
「お、またあったな」
「ああ、あんたは確か……正義の味方?」
意外な人物と再会したのはいいのだが、さてなんて名前だっただろうか。
買い物籠に目が行ってしまって、すっかり思い出せない。
「衛宮だ、衛宮士郎。で、どうかしたか?」
そういえば、件の魔法少女は衛宮という名字だった気がする。
「いや、随分多いんだなと思ってな」

「よく食べてよく暴れるでっかい虎が来るからな、これくらいないと」
教師でもあるあの虎は、家では結構ビーストだ。そんな姉貴分をしっかり持て成すのは
自分だと、気合いを入れて腕まくりする衛宮に続く声があった。
「大河も太るんだよな……神さまはどうしてその肉を上に向けてくれなかったのか
……いや、しっかりしろ高須竜児。そう、俺がしっかりせねば」
太らないと思っていた小虎でも、太ることがあるのだと思い知った出来事を思い出していた。
そんな高須が、虎の話を繋げた。しかし買ったものは豚肉でも特に脂身の多めな奴だった。
「う~聞いてあげたいけど、そればっかりは無理ッスよ~
むしろね、そんなこと出来たらキキョウちゃんと一緒にリンちゃん位の胸を~!」
その隣の未だ名を知らぬ少女が肉の話を繋げていた。
少女――シアだって小さい方ではないが、身近に大きな親友がいると、叫びたくなるときもあるのだ。

それらは全て、当人しか事情を知らない。独り言のようなものだが、

微妙に会話が成立しているように聞こえるのが面白い。
縁があるとすれば、同じ場所で同じ時間を共有していたぐらいなのだが。
「灯ちゃんは今日空いてるかな、なんだか一緒に食べたくなっちゃった」
今の歩も、隣ではにかむ志宝と同じような気持ちなのだろう。
家族のような、奴らの話。自分が作った料理を、上手そうに食べてくれる人のこと。
そんな話が聞こえた気がして、少し暖かくなった。そして少し寂しくなった。
歩は家に帰っても一人だが、昼間自分の弁当を勝手に食べていくひどい娘がいる。
この時間の所為で、そんなひよのの希望を叶えてみようかという気になった。


食はスリルでショックでサスペンスなんだとか。


納豆アイスでもあれば、面白い反応が見られるかな、と思いつつ歩は店内を再び回っている。
「いきなり変なものと言っても、なかなか見つからないもんだな……」
「そこの道行く変な人」
「……どうしたものか」
「待って下さい。そこの道行く変なもみあげの人」
厄介な人間に見つかってしまった。だが変なものと言えばこいつかも知れない。
疲れた顔で歩は立ち止まり、周囲を見渡す。自分だけが止まっている状況にため息を一つ。
「残念だよな。そいつはもう行っちまったみたいだ」
「何言ってるんですか。貴方ですよ、貴方。ささ、いらっしゃい変なもみあげの人」
誤魔化せないのは解っているが、悪あがきくらいはしたかった。
「嫌だ」
「分かります解ります。風子が魅力的すぎて
目を合わせられないのですね。ですが素直になりましょう」
「それだけは絶対にない」
抵抗しつつも、歩は店内へと引きずり込まれていく。
わざとか素なのかは知らないが、風子と話が噛み合うことは滅多にない。
「さあ、いらっしゃい! 出張、風子の古河パンですよ~」
「コロネ焼けたよ~」
これまた小学生くらいの女の子が出来たてのチョココロネを並べていた
店内を見渡すと、大半がコロネと星形のパンで埋め尽くされていた
レジ近くにほんの少し、申し訳なさそうにせんべいパンや食パンが並んでいる。
これで売り上げは大丈夫なのかと心配にもなるが、
親衛隊がいるから大丈夫らしい。世の中上手くできている。

「では、オーソドックスなヒトデパンはいかがです?」
「コロネの基本、チョココロネはどう?」
気付くと、店員二人から商品を勧められていた。
期待の籠もった視線に晒されながら、歩はひよのの言葉を思い出していた。
「普通のはいいから、なるべくショッキングなものを」
だから、スリルを求めてみることにした。そしたらどうしてか拗ねられた。
「邪道だよ……あんなの邪道だよ……。でもコロネは王道なんだよ……?」
「テスラさん」
ヒトデとコロネを持った風子がテスラに近づく。コロネはテスラに奪われ、はむはむと喰われていく。
「テスラサイコー!コロネサイコー!風子サイコー!」
「うん!」
半分閉じていた瞳が明るく輝き、テスラから風子へ飛び付く。幸せオーラが高まっていく。
抱き合っているのを観ると、相変わらず同い年にしか見えない。しばらくして。
「ではもみあげさん」
「鳴海だ」
「鳴海さん、ヒトデはそんな異端すら許容します。受け取って下さい」
妖しく光る星形が歩へと迫ってくる。その色は食べ物のものとは思えない。
この娘は人の不安を煽るのが得意らしい。やはり無理矢理にでも帰るべきだったのか。
「お前にレインボー!」

ここで受け取ったヒトデが、後にひよのの手により
小さなお空の虹になるのだが、それはまた別の話であろう。

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