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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第17話

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だれでも歓迎! 編集
 渾身の力を込めて、その剣を振るう。
 全霊の力をもって、その拳を振りぬく。
 真っ向から激突した力と力がぶつかり合い、その衝撃が周囲のビル、鏡のように張り巡らされた窓を一斉に破砕する。
 粉雪のように舞い散るガラスの雨の中で一瞬の静寂を伴った後、その両者は弾けるように吹き飛ばされた。
 後方に吹き飛ばされる身体を、両の脚で制止する。
 アスファルトに数mの傷跡を残しつつ身体を停止させたモーリーは、一歩踏み出すと同時に魔剣を上段から一刀にて虚空を両断した。
 刃から放たれた圧倒的な魔力は先の傷跡を消し飛ばし、更に抉り砕きながら一直線に敵――ブラボーへと殺到する。
「!」
 モーリーと同様に体勢を立て直したブラボーは、眼前に迫ってくる衝撃波を見て取るよりも速く地を蹴った。
 一瞬遅れてブラボーのいた場所を魔力の暴圧が駆け抜ける。
 留まる事を知らない衝撃波は100m程離れた突き当たりのビルに衝突し、一瞬で瓦礫へと変貌させた。
「ち……!」
 忌々しげに舌を打つモーリー。上空を見上げた。
 モーリーの放った魔力の斬撃を回避した後、ビルの壁面を蹴って上空に跳んだブラボーを見て取ると、彼女もまたそれに追いすがり地を蹴った。
 十階建てのビルの屋上に向かって物理法則を無視して駆け上がる。
 一瞬にして屋上まで辿り着いたが――そこには既にブラボーの姿はない。
 ――頭から足の先に、悪寒が走り抜けた。
 反射的に天を見上げる。自分に向けて一直線に降下してくるブラボーの姿があった。
「流星・ブラボー脚ッ!!」
 咄嗟に魔剣を振り上げてブラボーの蹴足を刃で受け止める。
 圧倒的な衝撃が身体を貫き、屋上の床が瓦解した。
「ぐ、う……っ!」
 十階、九階、八階。魔刃にて剛脚を受け止めたまま、モーリーはブラボーと共に床を貫通しながら絡み合っていく。
 七階、六階、五階。渾身の力を込めて魔剣を振るう。同時にブラボーが身体を回転させるように翻り、拳を叩き込んだ。
「直撃・ブラボー拳!!」
 僅かに身体を反らして肩口で受け止める。胸元を貫く衝撃。
 四階、三階、二階。モーリーは口惜しげに歯を噛んで、シルバースキンの襟元を掴んだ。
 そして一階。床に叩きつけられる直前、モーリーは渾身の力でその腕を引く。
 少女の外見からは想像もつかないような剛力にブラボーは引き摺られ、空中で体躯を入れ替えられた。
 モーリーを上に、ブラボーを下にして両者は床に叩きつけられる。
 シルバースキンによって衝撃は相殺できたとはいえ、相手に上を取られた不利は覆せない。
 身体を翻すよりも速く、モーリーの脚が飛んだ。
 床を踏み抜かんばかりの衝撃がブラボーの胸に叩き込まれ、その身体を床に縛り付ける。
「終わりだっ!」
 叫んでモーリーが魔剣を振りかぶる。
 と同時に、ビルの壁を突き破って無数の魔力の塊が飛来した。


「っ!」
 反射的に虚無の弾丸総てを切り払う。
 一瞬とはいえ気が逸れたその隙をブラボーが見逃すはずがない。
 押さえつけていた脚を払い、僅かに身体を傾がせた彼女にブラボーは倒立姿勢から蹴りを叩き込んだ。
 モーリーの身体が吹き飛び、ビルの壁を打ち壊して外にまで押し出される。
 ブラボーの蹴撃をまともに喰らってしまった彼女は屈辱に瞳を燃え上がらせて、制止すると同時に地に手をたたき付けた。
「――噛み砕け!」
 モーリーの号令と同時に魔力が収束し、放たれる。
 今しがた彼女が押し出された――そしてブラボーがいるであろうビルを挟み込むような形で巨大な鉄塊が天に伸びる。
 コンクリートで形作られた《ドラゴンファング》が、その名の通り地からその顎を開いてビルを飲み込み、圧壊させる。
 その魔力の発動の中心にいたブラボーがそれを避けられたはずもなく、彼は膨大な鉄塊によって押し潰され――
「ッ!?」
 ――白銀のコートを揺らし、ブラボーが躍り出た。
 《ドラゴンファング》で完全に圧壊したはずのビルは何事もなくモーリーの眼前に聳え、彼女が外に蹴りだされた時にできた穴からブラボーが疾駆していたのである。
 まるで時間が巻き戻ったかのような錯覚――否、そもそも魔法による破壊が始めからなかったかのような状況。
「《ノーリーズン》! 夢使いっ!!」
 肉薄するブラボーから地を蹴って跳び退ると同時、モーリーは忌々しげに叫んだ。
 因果に干渉して魔法そのものを始めから”なかった事”にする、虚無系統に属する高位魔法だ。
 先程ブラボーへの一撃を阻んだ虚無の弾幕――《ヴォーティカルカノン》を思い出して彼女は結論を出した。
 《ノーリーズン》で打ち消されないほどの干渉力を持つ魔法も、無論モーリーは使う事もできる。
 だが、元々彼女は魔法を用いるタイプではなかった。
 彼女は歯を噛んで魔剣を握り締める。
 ”女公爵”モーリー=グレイの恃む所は手にした魔剣、その剛刃のみ。
「舐めるな……!」
 迫撃するブラボーを鋭く見据え、真っ向から受け止める。
 再び激突する魔剣と剛拳。
 踏み込みの衝撃が互いの立つ大地を打ち砕き、衝撃が周囲を駆け抜けていく。
 しかし、先の激突の再現は、結末まで再現される事はなかった。
 モーリーが身体ごと叩きつける勢いで魔剣を一気に振りぬく。
「ぐ――っ!」
 そしてブラボーの身体が吹き飛んだ。
 身を引いたのではなく、完全に力負けして弾き飛ばされた。
 実に数十mを吹き飛ばされてブラボーはようやくたたらを踏んで体勢を立て直す。
 そこに――返しの刃で放たれた衝撃波が全身を貫いた。
 衝撃を相殺するシルバースキンがみしみしと悲鳴を上げる。
 腕を前面で交差させて耐え凌ぐがその威力は凄まじく、ブラボーの身体は更に吹き飛ばされた。
 ブラボーを巻き込んで背後に立ち並ぶビル群を次々と薙ぎ倒し、なお威力を減じないその魔力。
 衝撃波に押し飛ばされながらブラボーはその拳を天に振り上げ、そして渾身の力でそれを振り下ろす。
「両断・ブラボーチョップ!!」


 突き刺さる力が魔力を叩き潰し、破砕する。
 周囲のアスファルト、鉄筋の悉くを崩壊させてモーリーの魔力はようやく霧散した。
 だが――次の瞬間、彼が見たのは眼前で魔剣を振り上げるモーリーの姿だった。
 衝撃波だけではブラボーを討ち得ない事を理解していたのだろう、彼女は魔力を放つと同時にそれに追いすがり、間合いを詰めていたのだ。
 避けられるタイミングではない。
 ブラボーは腕を上げてシルバースキンにてその斬撃を受け止める。
 圧倒的な衝撃がぶつかり、火花が散る。
 そして――六角形の破片と共に拳から腕部、肩口までのシルバースキンが一気に粉砕された。
 ここにおいてモーリーの気概と魔剣の威力は先日の比ではない。
 魔剣から放たれる魔力の衝撃波はまだしも、その剛刃による直接攻撃はもはやシルバースキンを以てしても防ぎきれなかった。
「―――ッ!」
 だが、委細構わずブラボーは勢いを減じたモーリーの魔剣をいなし、一歩深く踏み込んだ。
 斬撃の間合いから拳撃の間合いへ。
 モーリーの剣をブラボーが避けられなかったように、モーリーもまたブラボーの拳を避けられるタイミングではない。
 彼女の胸部に拳が叩き込まれた瞬間、まるで爆薬でも仕込んでいたかのようにモーリーの身体が弾けとんだ。
 その背後にあったビルに激突し、壁面を貫いて彼女の姿が爆煙の中に消える。
 そして空から、
「《ジャッジメント・レイ》!!」
 光の雨が降り注いだ。
 ビルを諸共に巻き込んで光がモーリーの吹き飛ばされた場所へと殺到する。
 目を覆うほどの光量と爆音、破壊の嵐。
 下階部分が完全に崩壊し、上階部分が崩落して中にいるだろうモーリーを押し潰した。
 総てを打ち砕く光の乱舞が収まり、ビルの瓦礫が爆煙に包まれる。
 少しだけの静寂。
 そして――瓦礫のビルが蠢いた。
 巨大な岩塊と化したビルがゆっくりと持ち上がっていく。
 おおよそ四階分はあるだろうその上階部分を、モーリーは片手で持ち上げていた。
「お、おぉおおおっ!!」
 裂帛の声と共にモーリーがブラボーに向けてビルを投げ飛ばす。
 飛来する巨大な塊を前にブラボーは、地を蹴って跳んだ。
「粉砕・ブラボラッシュ!!」
 無数の拳がビルに叩きつけられる。
 叩き、抉り、砕き、潰し、叫んだその技の通りにビルが粉砕されていく。
 だがブラボーの動きはそこで止まらない。
「ぉおおおおっ!!」
 中空で粉砕し無数の岩塊となったそれを、次々とモーリーに向かって蹴り飛ばした。
 墜落する流星群を思わせる瓦礫が降り注ぐ。
 だが、彼女にとってそのようなモノは小石のようなものだ。
「下らん――!」
 委細構わずブラボーに向かって突進する――その刹那。
 彼女はほんの僅かに身体を傾がせた。
 甲高い金属音が響き渡る。
 火花を散らして駆け抜ける何かを、しかし彼女は一顧だにせず、
「賢しいぞ、小僧……!」
 あらぬ方向へ向けて魔剣を一閃させた。
 それまでの攻撃とは違う、明らかに手を抜いた魔力の衝撃波。
 それがモーリー=グレイの先の一撃に対しての返礼であり、その相手への正当な評価だった。



 モーリーの魔力が一直線に剛太へと迫っていく。
 彼は唇を噛んで地を蹴った。
 十分に距離を取っていたとはいえその威力は絶大であり、生身の剛太が受ければ一撃で戦闘不能になる事は明らかだった。
 とはいえ、モーリーは始めから中村 剛太を歯牙にかけていない。
 ここで討ち取る事も考慮には入れていないだろう。
 ほとんど当てる気のないその一撃を余裕を持って回避して剛太は屈辱に拳を握る。
「大魔王にとっちゃ俺はその辺の小石同然ってか……くそっ」
 吐き捨てるように言いながら、頭の中ではその事実を冷静に受け止める。
 目の前では再びモーリーとブラボーの戦闘が再開されている。
 端的に言ってしまって、レベルが違う。入り込む余地が微塵にもない。
 だが、それでも。
 それでもここにいる以上、自分は何かをしなければならない。
「無事か」
 空より声が響き、ナイトメアが静かに滑空してきた。
 それを目の端で確認しながら剛太は小さく頷く。
「まだやれるか?」
「やりますよ。俺なりのやり方で」
 問いに即答してきた剛太を見てナイトメアは僅かに目を見開き、そして薄く笑った。
 絶対的な戦力差を目の当たりにして、なお戦意を失わずに戦局を見据える少年に、ナイトメアは静かに言う。
「ならば任せよう。フォローは要るか?」
「要りません。強いて言うなら頑張って下さい、と。美味しい所は俺が持っていきますんで」
「……そうか。ならば俺達も美味しい所を持っていかれないように頑張らねばな」
 苦笑を漏らしながらナイトメアは再び宙に浮かび上がる。
 主戦場に向かって空を駆けていくナイトメアを言葉もなく見送って、剛太は一つ深呼吸をした。
 戦力差は論ずるのが馬鹿らしいほどに明確。それは認めよう。
 ブラボーやナイトメア達に加勢して闘ったとしても、いいとこ足手纏いにしかならない。それも認める。
 そもそも、己が力で以て真っ向から敵を打ち倒し道を徹すのは中村 剛太のスタイルではないのだ。
 非力なモノならばそれ以外の部分で補い、覆すだけだ。
 剛太は両の手に持つチャクラムを握り締める。
 手の中でモーターギアが速度を増して回転する。
 歯車(ギア)は既に揃っている。チャンスは恐らくただ一度。
 中村 剛太は両の手と頭のギアを回転させながら、その一瞬を待つ。



 振り下ろされる刃を正に紙一重で回避する。
 擦過する魔力はシルバースキンによって防ぎ、致命的な直接攻撃のみを受け流す。
 絡み合うように踏み込んで蹴りを放つ。だが、それは突き出された手甲によって完璧に受け止められた。
 下段から返しの刃。だが、片腕を防御に使った分威力は少ない。
 彼女がそうしたようにブラボーもまた片腕で受け止める。
 白刃と銀鱗が激しい火花を上げ――
「………っ」
 ブラボーは吹き飛んだ。
 半ば衝撃に乗って退いた形であったのでダメージは殆どない。
 ましてシルバースキンを纏っているならなおさら……と言いたい所だったが、ハットの奥のブラボーの表情は険しかった。
 傍から見た状況であれば五分の戦いに見えただろうが、当事者のブラボーにとってはそうではない。
 明らかな劣勢。ここに来て予想だにしていない『問題』が露呈したのだ。
 神速の踏み込みでモーリーがブラボーの間合いに侵入する。
 両の手で振りかぶる渾身の一撃。
「!?」
 殆ど反射的に地を蹴って、ブラボーはモーリーから大きく距離を取った。
 モーリーは僅かに眉根を寄せて動きを止め、十mほどの距離で対峙し、睨みあう。
 これまでの戦いで始めてみせる、ブラボーの明らかな後退。
 その意図が読めずにモーリーはうかつに踏み込めないでいた。
 彼女の見据えるブラボーの背後に、一つの影が降り立つ。ナイトメアである。
 彼は迎撃の魔力を蓄えたまま、モーリーから視線を外さないブラボーに囁いた。
「身体は大事無いか」
「今の所は問題ない」
 ウィザードたるナイトメアと錬金の戦士たるブラボーが行動を共にするにあたって、事前に判明した問題が一つだけある。
 それは絶対防御を誇るシルバースキンの特性ゆえの問題――それは、シルバースキンは魔法的な効果も一切遮断するという事だ。
 シルバースキンの防衛能力は物理的な攻撃は当然の事ながら、ウィザード達の使う魔法に対しても絶大な防御を発揮する。
 それはある意味有利な点であるのだが、逆にブラボーにとって有利な魔法すらも遮断してしまうのだ。
 周囲に障壁をはる防御魔法ならば問題はないが、彼自身の身体能力を強化したり傷を癒す回復魔法は完全に遮断して無効化しまう。
 そして、彼が徒手空拳であるが故に得物に魔力を乗せる付与魔法も効果を示さない。
「――だが、恐らく長くはもたん」
「何……?」




 続けられた声にナイトメアは眉を潜めブラボーを凝視した。
 彼はモーリーを見据えたまま、半ば自嘲めいた息を漏らした。
「どうやらシルバースキンにも限界があったようだ」
 モーリー=グレイとの戦闘を経て露呈した問題。
 それは、シルバースキンの耐久力と再生速度が低下している事だった。
 シルバースキンは確かに絶対の防御力を誇る。だが、それでも核鉄から構築される武装錬金には違いない。
 度重なる特性の発動で、核鉄そのものが損耗してきているのだ。
 なまじ彼自身の力量とシルバースキンの防御性能が高く、一度の戦闘においてこれほどまで硬化と再生を繰り返す事はなかったがゆえに露呈しなかった欠点だった。
「ならば早々に片をつけるとしよう。中村 剛太が漁夫の利を企んでいるらしいからな」
「……ブラボー」
 ナイトメアの皮肉気な言葉に、ハットに表情が隠されていても明らかに苦笑とわかる声を漏らしてブラボーが呟く。
 会話はそれで終了した。
 何をどうするかなど、歴戦の二人にとっては確認する必要もありはしない。
 ナイトメアが地を蹴って後退すると同時、ブラボーはモーリーに向かって一歩を踏み出した。
 二人の動きを見てモーリーが魔剣を構え、目を細める。
 距離を取った夢使い。立ちはだかる戦士。
 ならばそこから来るのは当然――

「――さあ、悪夢の時間(ドリームタイム)を始めよう」

 ナイトメアの周囲に魔力の暴風が吹き荒れた。
 両の手を掲げ、音にならない詠唱を囁くナイトメアに圧倒的な力が収束していく。
 それはこれまで放たれてきた魔法の比ではなく、神威を思わせるような圧力は魔王モーリー=グレイを以てして表情を険しくさせるほどのもの。
「そのようなモノを撃たせるとでも――!」
 それゆえに彼女がその行為を赦すはずもなく、
「行かせん!!」
 それをブラボーが看過するはずもなかった。




 疾駆する甲冑の騎士に真っ向から立ち塞がる。
 邪魔者は総て斬って捨てんと振り下ろされた一撃をブラボーは裂帛の気合で受け止めた。
 じりじりと不協和音を放つシルバースキンを奮い立たせて魔刃を受け止める。
 身体ごと激突してきたモーリーの疾走を数mで押し留め、拳を振るう。
 だが現状モーリーにとって重要なのはブラボーを倒す事ではなく、その背後にて強大な魔法を練り上げているナイトメアを駆逐する事だ。
 眼前に迫る拳撃はあえて無視。甘んじて一撃を受ける代わりにその防壁を突破する――
「粉砕ッ!」
「っ!!」
 ―― 一撃、ではなかった。 
「ブラボラッシュ!!」
 弾幕のような無数の拳撃。
 喰らう事を許容したモーリーの身体に次々と拳が叩きこまれる。
 モーリーにとって重要なのがナイトメアの駆逐であるように、ブラボーにとっても重要なのは彼女の打倒ではなくその足止めなのだ。
 敵を屠る一撃は必要ない。ただ侵攻を押し留める壁であれば良い。
 怒涛のラッシュで動きを止められたモーリーの腹部に衝撃が貫き、彼女は吹き飛ばされる。
 拳撃の隙間を縫うように放った蹴りでモーリーを後退させると、ブラボーは彼女に追随するように更に前進する。
 モーリーはたたらを踏んで押し流される身体を制止すると、前方を垣間見るより早く魔剣を一閃させた。
 放たれる衝撃波の暴圧。魔力の波を貫いて、モーリーに肉薄するブラボー。
 一瞬にして間合いを詰めると同時に地を踏みしめた。
 大地を踏み抜かんばかりの震脚。そして眼前の魔王に渾身の拳を――
「―――っ!?」
 放たれた拳が、空のみを貫いた。
 やり過ごしてブラボーを抜き去ったのではない。
 防衛を念頭においている以上どう動こうともブラボーはそれに対抗できるようにしていた。
 それでも相手を捕らえ損なったのは、モーリーが跳び退って後退したからである。
 遠距離からの魔法――否、魔剣の衝撃波。
 肩に担ぐようにして振りかぶるモーリーの魔剣が圧倒的な魔力を纏う。
 だが、現在のモーリーとブラボーの立ち位置――中距離においてその選択は賢明とは言い難かった。
 モーリーがナイトメアに向かって魔剣を振りぬく前に、その拳が彼女を打つ。
 ブラボーが地を蹴って追撃する。間合いの詰めは一瞬。
 防御を度外視している無防備な胸部に渾身の拳を叩き込む、その刹那。
「―――」
 ブラボーは遅すぎるタイミングで、それに気付いた。
 眼前のモーリーが凄絶な笑みを浮かべてブラボー”だけ”を見ていた事に。
「砕けよ!!」
 拳を打ち出すだけのブラボーと、剣を振り下ろさねばならないモーリー。
 明確にすぎる勝敗の道理は、常識を逸脱して覆された。
 相手の攻撃に《重ね、当て》る、魔剣使いが絶技。
 刹那の時間に割り込むように魔剣がひらめき、ブラボーの身体に食い込む。
 叩きつけられる膨大な魔力。神速と呼ぶに相応しい圧倒的な一閃。
 ブラボーを守護するシルバースキンが崩壊する。
 銀鱗が千々に砕け散っていく中、なお勢いを減じない魔王の白刃がブラボーの胸を袈裟に切り裂いた。



 刹那の攻防に勝利を収めたモーリーは、しかし崩れ落ちるブラボーを一瞥する事もなくもう一人の敵――ナイトメアに視線をやった。
 彼の周囲に寄り集まった魔力は既に人外の領域――魔王のそれに匹敵する。
 もっとも、魔法として放たれない限り何の意味もない事ではある。
 モーリーは地を蹴ると同時に再び魔剣に魔力を纏わせた。
 ナイトメアにはブラボーのような防御力はない。まして現在は魔法の詠唱中で無防備だ。
 仮に詠唱を破棄してここから放たれる衝撃波を回避したとしても、所詮は魔法を旨とする夢使い。後に相対してモーリーに抗しうる相手ではない。
 どこぞにいるチャクラム使いの少年は論外だ。
「……終わりだ」
 ナイトメアを見据えたままモーリーは魔剣を振りかぶる。
 そしてこの戦闘の終焉の一撃を――
「……?」
 振りかぶった姿勢のまま、モーリーは不意に動きを止めた。
 否、彼女が動きを止めたのではない。振り下ろそうとする腕が、何かに絡め取られている。
 気付けば腕だけではなく、その脚その身体が総て動かない。
 ちらちらと踊る銀鱗を視界に収めたその瞬間、モーリーは顔をゆがめた。
「これ、は……!」

「――シルバースキン・リバース……!」

 シルバースキンが打ち破られた原因はモーリーの一撃の苛烈さでもあり、シルバースキン自体の限界でもあった。
 だが、あの刹那で敗北を悟ったブラボーは半ば打ち砕かれるに任せていたのだ。
 全力で受け止めてダメージを幾分減らした所で二人の攻防に何ら意味はない。
 先に念頭に置いた通り、彼の目的はモーリーの足止めであるが故に。
「錬金の戦士っ! 貴様あぁあっ!!」
「ぉおおおぉおおおぉおぉっ!!」
 二人を繋ぎとめる銀鱗の鎖がぎしぎしと悲鳴を上げる。
 猛るモーリーを全霊の力を以て拘束するブラボーの咆哮に応えるように、

「―――《ヴァニティ・ワールド》!!」

 極大の魔力が重なった。




 モーリーの周囲の空間が切り取られる。
 銀鱗の鎖にて拘束された彼女を閉じ込める檻のように結界が構築され、世界を遮断する。
 その内側――モーリーが取り込まれたのはその魔力によって生み出された一種の異世界。
 その極小の世界は存在するために生み出されたのではない。それはただ、捩れ砕けるためだけに生み出された世界。
 因果と空間を巻き込んで世界が圧壊する。世界そのものの崩壊には如何なる防御も意味を成さない。
 捩れ狂い潰れていく世界がモーリーの存在そのものを打ち砕く――
「あぁあああぁあああぁっっ!!!」
 ――だが、その世界を捻じ伏せてこその魔王の称号。
 裂帛の咆哮と渾身の力で魔剣を振り上げる。
 総身に叩きつけられる魔力の衝撃を以てなお”女公爵”の意思と魔剣は砕けない。
 纏った魔力と共に刃を振り下ろす。
 せめぎあい荒れ狂う魔力。取り込まれた世界の内側からその力で斬り拓く。
 耳朶を貫く破砕音と共に、《ヴァニティワールド》が斬って捨てられた。

「――どりぃ~む」
「―――」

 虚無の世界より脱出したモーリーが見たのは、ただ暗闇。
 魅入られたように動きを止めた彼女の眼前、広げられたナイトメアの掌。
 黒色の腕に鮮やかな刻印が浮かび上がる――

「《ディヴァイン・コロナ》――!!」

 ――それは確かに、モーリー=グレイにとっては悪夢といえた。
 虚無の属性の《ヴァニティワールド》と、天聖に属する《ディヴァインコロナ》は共にこの世界で知られる中でも最上級の魔法。
 絶大な威力を保有するそれらの魔法は、その力と代償に致命的なほどの詠唱時間を要する。
 魔王級の存在であるか術式構築速度を極める陰陽師であるならともかく、夢使いであるナイトメアに二つの魔法を連続使用する事はできないはずだ。
 実際最初の《ヴァニティワールド》はブラボーに守られて詠唱を行っている。
 この事態は絶対にありえない。それこそ夢か幻だ。
 だが――彼女の身を包む白色の閃光と浄罪の灼熱は、間違いなく現実だった。



 生み出された小型の太陽に、周囲の瓦礫ごと呑み込まれ消えていくモーリーを視認しながら、ナイトメアはブラボーの許へと跳躍した。
「……やはり一度しか使えんか」
 腕に刻まれた淡い光を放つ刻印を擦りながら、彼は小さく呟く。

 それは、『魔装』と呼ばれる近年になって開発された新しい魔法形態。
 戦闘に際して術式を組み上げるのではなく、予め組み上げられた魔法を刻印する事によって魔法を即時発動を可能とする技術である。
 魔法そのものを肉体に刻み込むという行程ゆえに負担がかかる事になるが、それを差し引いても詠唱の無防備状態を解消できるのは十分なメリットになる。
 現在においてはまだ実用化に至っていない魔装であるが、一線級のウィザードであるナイトメアはモニターとして試作型を運用していたのである。
 無論、試作段階のモノをこんなぎりぎりの戦闘で使うつもりはなかったのだが、おかげでモーリー=グレイの虚を突く事ができた。

「無事か、ブラボー」
「……どうにかな」
 問うてきたナイトメアにブラボーは苦々しく答えた。
 既にシルバースキンを核鉄に戻し袈裟に切り裂かれた胸に押し当てているが、それでも傷はかなり深い。
 しかもその核鉄も、戦闘によって細やかな亀裂が浮かんでおり十分な治癒力を発揮できないでいる。
「少々残りの魔力が怪しいが、治癒を施そう。中村 剛太の核鉄も併せれば」
「ナイトメアッ!」
 ナイトメアの言葉を遮って、ブラボーが叫ぶ。
 傷の痛みを無視して彼はナイトメアの身体を押し退け――かろうじて可能だったのは、致命傷を避ける事だけだった。
 身体を貫く灼熱にナイトメアが顔を歪ませる。胸に突き立った槍の穂先を忌々しく睨みながら、彼は膝を付いた。
 鈍い甲冑の音が、静寂の中に響き渡った。
 崩れ落ちるナイトメアを遮る形でブラボーは彼女に立ちはだかる。
 裂かれた胸はまだ満足に治癒していない。
 だが、傷の程度で言えば彼女も同様だった。
 身体に纏っていた白銀の甲冑はもはや見る影もなく砕け焼き融かされ、覗く素肌は鮮血に染まっている。
 だが……だが、それでも。
 虚無の世界に押し潰され、断罪の光球に焼き尽くされてなお、”女公爵”の烈火のような眼光は更に強く敵を睨み据える。
「――まだだッ!!」
 咆哮し残る魔力を解き放つ。
 満身創痍でありながらその放つ圧力は大気を揺らしブラボーの全身を撃つ。
「我が名はモーリー! モーリー=グレイ!! 偉大なる金色の魔王より序列三位を賜る”女公爵”!!
 この名、この剣にかけて、人間に敗れる訳にはいかない!!」
「……それはこちらとて同じ事!!」
 裂帛の気合と共に魔剣を構えるモーリーを真っ向から受け止めて、ブラボーはその手に持つ核鉄を掲げる。
「人々を守る戦士として、この惑星(ほし)に生きる一つの生命として!
 世界を侵す魔王に敗れる訳にはいかん!!」

「星薙ぐ魔剣よ! 我が生命を以て刃と成せえぇぇぇ!!」

 鮮血に濡れた手を刃に走らせると同時、これまでにないほどの力が魔剣より溢れ出す。

「猛ろ、俺の武装錬金!!」

 手にした核鉄を掲げて叫び、その総身に輝く銀鱗のコートを纏う。

 地を蹴るのは両者同時。
 小手先の業などここにおいてはもはや無意味。
 総てを打ち砕く絶対の破壊と、総てを護り防ぐ絶対の盾が真っ向から激突する――



 ――この戦いにおいてブラボーやナイトメアがモーリーを侮っていた、という要素は微塵もありえない。
 これから訪れる事になる結末の要因は、詰まる所たった一つの事実のみ。


 それは当たり前に過ぎる、ごく単純な事。


 それはただ単純に。



「―――――――魔器、」



 目の前の魔王という存在があらゆる常識を覆し、あらゆる想定を超越したモノであったという事。



「解放!!!!」



 放たれた閃光が地を薙ぎ払い、天を穿ち貫く。
 それまでの闘いが茶番であったかのような膨大な力。
 世界結界の拘束を断ち切って吐き出される死活の一撃。
 それは正に人智を越えるモノであり、そしてヒトの力の及ぶ所ではない。
「散華せよ!!」
 この惑星総てを打ち砕かんとする渾身の刃は周囲の何もかもを消滅させ、正面に立ちはだかるただ一人の男に向かって解き放たれる。
 遍く破砕を齎すその破光は全霊を以て形作られた銀鱗を跡形もなく粉砕し。
 それを纏うブラボーとその背後のナイトメア、その進路上の総てを呑み込んだ。


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