おはようセックス@小説まとめ
男心と夏の空
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「タマに、だ」
藍鉄鉄紺は静寂を砕くように口を開いた。
「タマに、何もかもがバカバカしくって、どうでもよくって、陳腐で、滑稽なモノに思えてくる事があるんだ、ワタシは」
別に暗いとも思えないような表情で、藍鉄は少しだけ目線を下にずらした。
渦巻き頭で無精髭を生やした男が、面白くなさそうに顎を掻いた。
渦巻き頭で無精髭を生やした男が、面白くなさそうに顎を掻いた。
「誰でもそうだろ」
そう言って、渦巻き頭──フラックスは唇を尖らせた。
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男心と夏の空
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藍鉄は少しだけ驚いたような表情を見せるが、また元の表情に戻る。
反応が薄いのを不満に思ったのか、フラックスが続けて口を開く。
反応が薄いのを不満に思ったのか、フラックスが続けて口を開く。
「別に突き放した訳じゃねぇぜ?そんで呆れた訳でもない。単に、俺は誰でもそうやって悩むだろうと思うってだけだ」
「へえ、キミもそうやって悩んだりするコトが?」
「へえ、キミもそうやって悩んだりするコトが?」
藍鉄が面白そうに言う。
「あっちゃ悪いかよ」
「イヤ、ワタシは生来、キミみたいな男は総じて悩みもなく能天気に生きているものだと思っていた」
「……なあ鉄紺よ、俺はお前とそれなりの付き合いだと思っているんだが」
「なんだ突然気持ち悪い」
「変な意味じゃねえよ!ただ、俺ってそんなにアホに見えるのか?」
「イヤ、ワタシは生来、キミみたいな男は総じて悩みもなく能天気に生きているものだと思っていた」
「……なあ鉄紺よ、俺はお前とそれなりの付き合いだと思っているんだが」
「なんだ突然気持ち悪い」
「変な意味じゃねえよ!ただ、俺ってそんなにアホに見えるのか?」
フラックスの問いかけに、藍鉄は何を言われたかわからない、といった風に肩をすくめて、首を傾げて見せた。
「……ああそうかい、そうだよどうせ俺はアホだよ記憶喪失だしフラックスってイタイ名前名乗るし天パだし髭濃いし」
「まあ落ち着け。悪かったよ」
「まあ落ち着け。悪かったよ」
大柄な男がその風貌とは不釣り合いにいじけてみせると、藍鉄は両手を上げて苦笑した。
「ワタシは自分がバカだ、と思った人間とは関わらないようにしている」
藍鉄が諭すように言う。
「……ケッ、スカした言い回し使いやがって」
「ワタシのクセだ」
「ふん……それじゃそろそろ本題に入るか」
「ワタシのクセだ」
「ふん……それじゃそろそろ本題に入るか」
フラックスが鼻を鳴らす。
「俺が考えるに、何もかもがどうでもよくなるのには原因が必ずある」
「何故そう言える?」
「そういう思考が襲ってくるのは大概決まったタイミングなんだよ。疲れた日の夜中とか、嫌な事があった時とか、徹夜明けの朝日を見た時とか、数日部屋に篭って何かに没頭した後とか……少なくとも何かに集中したり、楽しんだりしてる時にはそんな考えはない。浮かんでもすぐ、シャボン玉みてーにぱーんと弾け飛ぶ」
「何故そう言える?」
「そういう思考が襲ってくるのは大概決まったタイミングなんだよ。疲れた日の夜中とか、嫌な事があった時とか、徹夜明けの朝日を見た時とか、数日部屋に篭って何かに没頭した後とか……少なくとも何かに集中したり、楽しんだりしてる時にはそんな考えはない。浮かんでもすぐ、シャボン玉みてーにぱーんと弾け飛ぶ」
フラックスは身振り手振りで弁ずる。
「要するに、一つの所に留まるからいけねーんだよ。ネガティブで退廃的で……厭世的?な考えは、大体『打ちのめされてる』時にしか浮かばねー。
学校の先生にこっぴどく説教された小学生は、その後すぐにでも死にたいように衝動に襲われるだろーが、一時間もすればそんな事忘れて友達とスマブラしてんだよ。
問題なのは引きずって歩く事だ。悪い部分が自分にあるのを誤魔化して歩き続ける事だ。それじゃあ目の前に楽しい事がない時にいつもそれに襲われちまう。
結果、麻薬か何かの中毒者みてーに楽しい事に現実逃避を続けて、いざ現実が絶望に振り切れた瞬間にゲームオーバーだ」
学校の先生にこっぴどく説教された小学生は、その後すぐにでも死にたいように衝動に襲われるだろーが、一時間もすればそんな事忘れて友達とスマブラしてんだよ。
問題なのは引きずって歩く事だ。悪い部分が自分にあるのを誤魔化して歩き続ける事だ。それじゃあ目の前に楽しい事がない時にいつもそれに襲われちまう。
結果、麻薬か何かの中毒者みてーに楽しい事に現実逃避を続けて、いざ現実が絶望に振り切れた瞬間にゲームオーバーだ」
フラックスは熱弁すると、聞き入っていた藍鉄に問いかける。
「お前はどうだよ。何か変なもん引きずってんじゃねーのか?」
「……ワタシは、そうだな……確かに、色んなものを引きずっている気がする。過去の小さな過ちとか、無数の後悔を」
「お前みてーなのはそうなりやすいんだろうなァ。お前、部屋の物とか捨てられねーんじゃねーの?」
「……まあ、そういう所は……」
「部屋のもんが捨てられねーのはよお、それに思い出が詰まってるからだ。……思い出が詰まってるのはみんな同じだ。あとは、それをどれだけ大切に抱え込んでるかだ。
鉄紺よ、思い出は大切なもんだ。大事にすんのは間違ってねえ。……俺にはないもんだしな。
けどよお、俺は記憶喪失になって、ある意味良かったって思ってんだよ。なんつーか、過去の思い出っつーしがらみから解放されたみてーでよ。
記憶は無限だが、手に収まるのは僅かって事だぁな。手ェ一杯に思い出溜め込んでちゃ、真っ直ぐ歩けねェだろうが。
つーワケで、もうつまらん思い出とはおさらばするんだな」
「……ワタシは、そうだな……確かに、色んなものを引きずっている気がする。過去の小さな過ちとか、無数の後悔を」
「お前みてーなのはそうなりやすいんだろうなァ。お前、部屋の物とか捨てられねーんじゃねーの?」
「……まあ、そういう所は……」
「部屋のもんが捨てられねーのはよお、それに思い出が詰まってるからだ。……思い出が詰まってるのはみんな同じだ。あとは、それをどれだけ大切に抱え込んでるかだ。
鉄紺よ、思い出は大切なもんだ。大事にすんのは間違ってねえ。……俺にはないもんだしな。
けどよお、俺は記憶喪失になって、ある意味良かったって思ってんだよ。なんつーか、過去の思い出っつーしがらみから解放されたみてーでよ。
記憶は無限だが、手に収まるのは僅かって事だぁな。手ェ一杯に思い出溜め込んでちゃ、真っ直ぐ歩けねェだろうが。
つーワケで、もうつまらん思い出とはおさらばするんだな」
藍鉄は黙って聞いていたが、最後の言葉を聞いて様子を変えた。
少し険の強い面持ちで、藍鉄は反駁する。
少し険の強い面持ちで、藍鉄は反駁する。
「……ツマラン、思い出だと?」
「あー、気に障ったか?悪い悪い、貶すつもりじゃ」
「じゃあなんだって言うんだ!!」
「落ち着けクソ野郎!」
「あー、気に障ったか?悪い悪い、貶すつもりじゃ」
「じゃあなんだって言うんだ!!」
「落ち着けクソ野郎!」
電球の紐が揺れる。
息を荒げた二人は暫し向き合うと一応の冷静さを取り戻し、再び話に戻る。
表情は険しいまま。
息を荒げた二人は暫し向き合うと一応の冷静さを取り戻し、再び話に戻る。
表情は険しいまま。
「…………なあ、鉄紺よ」
「なんだ、髭」
「せめて男爵と呼べ、男爵と」
「男爵、早く続けろ」
「あらよ。……なあ、思い出とオサラバってのはよお、別に捨てろ忘れろって言ってんじゃねえんだぜ。失恋の思い出ならともかくよ」
「もしも失恋の思い出なら?」
「それも同じさ。俺は『ケジメをつけろ』って言ってんだよ。ケジメってのは区別って事だ。過去は過去!……今は、今だろうが。違うか?」
「なんだ、髭」
「せめて男爵と呼べ、男爵と」
「男爵、早く続けろ」
「あらよ。……なあ、思い出とオサラバってのはよお、別に捨てろ忘れろって言ってんじゃねえんだぜ。失恋の思い出ならともかくよ」
「もしも失恋の思い出なら?」
「それも同じさ。俺は『ケジメをつけろ』って言ってんだよ。ケジメってのは区別って事だ。過去は過去!……今は、今だろうが。違うか?」
藍鉄は一瞬納得したような表情をした後、何かに引っかかったように不意に口角を上げた。
「……フ」
「あ?」
「キミは学校の教師のようだな。警備員よりよほど向いてるんじゃないか?」
「ふざけろ、俺は他人にもの教えるような人間じゃねえよ」
「正直、キミよりも思慮の浅い人間ばかりだったよ、ワタシが見た学校の教師なんて」
「大人は大変なんだろうさ」
「キミは大人じゃないと?」
「俺はただの、おっさんだ」
「なるほど、それは確かだ」
「あ?」
「キミは学校の教師のようだな。警備員よりよほど向いてるんじゃないか?」
「ふざけろ、俺は他人にもの教えるような人間じゃねえよ」
「正直、キミよりも思慮の浅い人間ばかりだったよ、ワタシが見た学校の教師なんて」
「大人は大変なんだろうさ」
「キミは大人じゃないと?」
「俺はただの、おっさんだ」
「なるほど、それは確かだ」
言って、二人の男は笑い合った。
「……で、どうにかなりそうかよ」
フラックスの言葉に、藍鉄は応える。
「少なくとも昨日までよりは、健康的に過ごせそうだ」
フラックスは意外そうにきょとん、とした顔をした後、背を向けて頭をぼりぼりと掻いた。
腰に手をあてて2、3歩あたりをうろついて、急に顔を半分だけ藍鉄に向けて、指を目の上あたりに持ってきて格好をつけた。
腰に手をあてて2、3歩あたりをうろついて、急に顔を半分だけ藍鉄に向けて、指を目の上あたりに持ってきて格好をつけた。
「それは何より」