りえパート+黒田パート(不安です)

2、企業のCSRの捉え方とその効果
第一章で、CSRが現代の企業にとって無視できない大きな要因であることはわかった。
では、CSR活動を実際に行う企業はCSRをどのように捉えているのか。またCSR活動とはただ単に義務として健全な経営体制を証明するためだけに行われているのであろうか。この章では企業のCSRの捉え方、CSR活動を行うことによって企業が得られる効果についてみていく。

1-1 CSR報告書
企業がCSRをどのように捉えているかを知るために有効なのが「CSR報告書」である。
CSR報告書とは各企業が自社のCSRへの取組みの内容、活動を内外に公表する目的で制作する報告書のことである。企業がCSR報告書を制作することは義務付けられてはいないが、CSR報告書を作成する企業は年々増えている。

1-2 各企業のCSRの捉え方
第一章で述べたとおりCSRの定義はさまざまである。よって、当然CSRの捉え方も企業によって違う。しかし、各企業はCSRを捉える上で、必ず経営理念・企業理念との関係性に触れている。以下、CSR報告書を公開している企業のうちに40社を無作為に抽出して、企業ごとのCSRに対する捉え方をまとめたものであるのだが、その際に経営理念・企業理念の関係性から大きく三つに分類して表を作成した。
なお、経営理念と企業理念はともに組織としての企業が掲げるものであるので本論文では同義とする。以下、本論文中では企業理念も経営理念として使う。

1-2-1  CSRを経営理念に基づくものと捉える企業
まず、CSRを経営理念に基づくものと捉える企業である。これらの企業は、CSRという概念が生まれる前から存在していた経営理念に基づいて、CSR活動を行うとしている。すなわち、経営理念という概念の中にCSRが存在しているのである。

表1 CSRを経営理念に基づくものと捉える企業
社名 CSRの捉え方
味の素グループ 経営理念に基づく
大塚製薬 企業理念をもとにCSRを行
IHI 企業理念をもとにCSRを行う
電通 企業理念に基づく
キヤノンMJ 根幹に経営理念がある
キリングループ 経営理念に沿って行う
トヨタ 基本理念との2本柱。基本理念をステークホルダーごとにまとめたもの
日本IBM 理念に基づくもの
三井物産 経営理念をもとに行う
ホンダ フィロソフィーに基づく*フィロソフィー=ホンダの経営理念
三菱重工 企業理念に基づく
ライオン 社是・経営理念・企業行動にそうもの
セブン&アイホールディングス 社是に掲げる「信頼される誠実な企業」を基本にCSRに取り組む
各企業のCSR報告書・ホームページをもとに筆者が作成

1-2-2  CSRを経営理念の実現する手段と捉えている企業である。
次にCSRを経営理念の実現する手段と捉えている企業である。これらの企業は、経営理念を実現するための実際の企業活動としてCSRを位置付けている。すなわち、CSR を企業・経営理念を具体化することと捉えているのだ。いわば、CSRとはこれらの企業にとって経営理念そのものである。

表2 CSRを経営理念の実現する手段と捉えている企業
社名 CSRの捉え方
旭化成 企業理念の実現
花王株式会社 企業理念を実践するもの
カシオ 経営理念を実現すること
カルビー 理念実現の方針
KDDI 基本理念の実践
サントリーホールディングス 企業理念の実践
デンソー 基本理念を実現させる
東芝 企業理念の実現
シャープ 経営理念の実現
豊田通商 企業理念・ビジョンを実現すること
ニコン 企業理念の追求のため
日清オイリオ 企業理念の実現
日本郵船 企業理念の実現を目指すこと
ハウス食品 企業理念を社員一人一人の行動に翻訳
三菱自動車 企業理念を実践すること
三菱UFJフィナンシャル 経営理念の実践が原点
明治製菓 理念を実現→社会に貢献
雪印グループ 企業理念の実現
ユニチャーム 社是の実現
NECエレクトロニクス 企業理念そのもの
サッポログループ 基本理念を知らせる
各企業のCSR報告書・ホームページをもとに筆者が作成


1-2-3  CSRを経営活動の基盤と捉えている企業
そして、CSRを経営活動の基盤と捉えている企業である。これらの企業は1-2-1、1-2-2と異なり、CSRを経営理念との関係性ではなく、経営理念のもと行われる経営活動との関系を捉えているのである。ここでのCSRとは経営戦略そのものである。

表3 CSRを経営活動の基盤と捉えている企業
社名 CSRの捉え方
NTTドコモ 経営の根幹に
アサヒビール株式会社 企業活動の基盤
味の素グループ 企業経営そのもの
伊藤忠商事 CSRと一体化した事業展開。企業理念が源流
三菱地所グループ 経営の中心
各企業のCSR報告書・ホームページをもとに筆者が作成

1-3 本論文での捉え方
経営理念という観点から見た場合、CSRの位置づけは企業ごとに違いがあり、三分類されると述べた。しかし、CSRという観点から見た場合、経営理念はCSRの重要な要素であることが分かる。各企業が経営理念基づいたCSR活動を行うことで、経営理念を実現させ、さらには経営にまでCSRを組み込む。各企業の捉え方に細かな違いはあれども、CSRは抽象的な経営理念を具体化したものといっても過言ではない。
本論文では、以下CSRを「経営理念を具体化したもの」と捉える。

1-3-1経営理念
経営理念とは、経営活動に関して企業が抱いている価値観であり、企業が経営活動を推進していくうえでの指導的な原理である。(中略)経営理念問題の重要性とは経営理念を掲げることでなくして、これを企業の存在と活動の全様式に体現することである。(「顔の見える企業」梅澤正、1994)
すでに記述した通り本論文では「CSR=経営理念を具体化したもの」として捉えているので、梅澤正教授の「顔の見える企業」を参考に、CSR活動を、経営理念を実践することであると捉える。すなわち「CSR活動=経営理念を体現する行為」と捉える。

体現する:一般に哲学・思想・理念・考え方といった観念を目に見える具体的な存在にすること

1-3-2企業理念の浸透手段として
本論文では「CSR=経営理念を具体化したもの」、「CSR活動=経営理念を体現する行為」と捉えている。
ならば企業内外の人々はCSR活動を認識することにより、間接的にその企業の経営理念を認識することにつながる。このことから、CSR活動を行うことは経営理念を企業内外に浸透させるという側面も持つと考えられる。

2 CSRの効果
すでに多くの研究者がCSRに関する論文を発表しており、CSRは企業を取り巻くステークホルダー、そしてその企業自体に様々な影響を与えているという結果が出ている。本論文ではCSRを、経営理念を具体化したものであると述べた。それでは、企業理念としてのCSRが企業内外に浸透すると企業はどのような効果を得られるのだろうか。
効果について述べていく前に、企業価値の重要性について考えていきたい。企業価値は、水尾順一氏によると経済業績と社会業績から構成されるという(1)。前者は企業活動の中でも売上など財務的な数値として表すことが出来る業績のことであり、後者はコンプライアンスや社会貢献などを行うことでステークホルダーが企業に対して与えるイメージのことである。なお、ここでは経済業績のことを有形資産、社会業績のことを無形資産と呼ぶことにする。水尾氏の研究によると両者は表裏一体の関係にあるため、どちらかが欠けても企業の業績に悪影響を与えることに繋がる。つまり企業価値とは企業が持続的な成長を遂げる上で必要不可欠な要素であるということができる。
以上を踏まえた上で、
①企業価値の主要な決定因子が、有形資産から無形資産へと移行していること
②無形資産の中核に位置するものがコーポレートブランドであること
この二点より、“コーポレートブランド価値の向上”という観点からCSRの効果をみていく(4)。


2-1 コーポレートブランド
 では、コーポレートブランドとは一体どのようなものであるのか。一橋大学大学院の伊藤邦雄教授によると、コーポレートブランドとは「人々がその会社に対して抱くイメージを決定づける無形の個性」と定義している(2)。
 コーポレートブランドの構成要素は大きく三つに分けられる。それは、経営者のビジョン、企業文化、顧客や株主が持つイメージである(3)。しかしこの三つは独立したものではない。経営者のビジョン(経営理念)が企業内で浸透し、それが企業文化として企業に定着すると、従業員の行動に一貫性が保たれるようになり顧客や株主にも反映されるようになるのだ。つまりこの三要素がうまくかみ合うことでコーポレートブランドを創造できるということである。
次に、コーポレートブランドはどのような意義があるのだろうか。前述したようにコーポレートブランドは無形資産の中核に位置し、無形資産は企業価値をを決定する主因子である。ここからコーポレートブランド価値を向上させることは企業価値を高めることに繋がることがわかる。企業価値を高めるためにも、他社と差別化された個性を形成し、ステークホルダーにより魅力に感じさせるようなコーポレートブランドを創造することが求められる。

2-2 CSRとコーポレートブランド
 前節では、コーポレートブランドの要素と意義について述べたが、これらをを踏まえ次はCSRがどのようにコーポレートブランドに繋がるのかを考える。

2-2-1 CSRのコーポレートブランドへの働き
 CSRがコーポレートブランドに繋がるには二つの経路があるといえる。まず一つ目は、ステークホルダーをひきつけることでブランド価値に通じる経路である。CSRを行うことでステークホルダーに良いイメージや評判・魅力を与え、より当該ブランドを選択するようになる。二つ目は、取引を成功させることでブランド価値を高める経路である。こちらはCSRによって消費者団体などのターゲットになるリスクを減らし、ステークホルダーの不安要素を取り除きより信頼性のある取引を促すことができる。これらの経路を通して、CSRはコーポレートブランドの要素である「顧客や株主のイメージ」
にプラスの作用を与え、ブランド価値向上をもたらすことがいえる。


2-2-2 CSRを浸透させるために
 しかし、CSRを行えば必ずしもコーポレートブランドに結びつくというわけではない。CSRを行っているということをステークホルダーに認知させることでその経路を通じ、効果が得られるわけであるが、日本人には陰徳を美とする文化が根付いているためひけらかすのを嫌うからである。この問題を解決するためにも、これまで述べてきたように企業はCSRを経営理念やビジョンと結びつけることでステークホルダーへ伝えていくことが重要なのである。その伝達方法としては二種類が挙げられる。一つ目は、企業が直接伝える方法だ。例えば工場見学や株主総会などといった機会を利用してステークホルダーへ伝えていく。もう一つは媒体を利用して間接的に伝える方法だ。こちらは、CSR報告書や環境報告書などの冊子、またホームページを利用することで伝える。「CSR元年」である2003年前後でCSR報告書類を発行し始めた企業が多く、現在は後者による伝達方法が主流であると考えられる。

2-3 問題提起
 前節までから、CSRを行いそれをステークホルダーへ浸透させることで、コーポレートブランドという企業価値決定の主因子の価値を高めることを示した。では、第二章でも述べたようにCSRが注目を浴びブームが存続する理由は果たして企業価値向上のためだけなのであろうか。以下の章ではその他の可能性について検討していく。


(1)水尾 (2003) pp252-253
(2)伊藤 (2004) p275
(3)原 (2002) p64
(4)伊藤 (2002) p34
(5)岡本 (2006) pp10-17

参考文献
伊藤邦雄・日本経済新聞社広告局 編 (2002) 『企業事例に学ぶ実践・コーポレートブランド経営』 日本経済新聞社
岡本大輔・梅津光弘 (2006) 『企業評価+企業倫理 CSRへのアプローチ』 慶應義塾大学出版会
古室正充・白潟敏朗・達脇恵子(編著) (2005) 『CSRマネジメント導入の全て』 東洋経済新報社
高巌・日経CSRプロジェクト編 (2004) 『CSR 企業価値をどう高めるか』 日本経済新聞社
日本経済新聞社 編 (2004) 『会社の価値はトップで決まる』 日本経済新聞社
水尾順一 編著 (2003) 『ビジョナリー・コーポレートブランド』 白桃書房
最終更新:2009年11月10日 20:58
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