流転過程のアイソレーション ◆SrxCX.Oges
◆
「とんだ茶番だったな」
目の前で起こったいっそ間抜けですらある光景を前にして、笹塚が小さく呟いた。
女性を狙って飛んでいた一枚のカード。
それが、今まさに衝突寸前となったところでぴたりと静止した。
勢いを失ったカードははらはらと漂いながら地面へと力なく落下し、小さな爆発を起こして消えた。
その一連の流れを見届けたディケイドは、茫然と立つ
フィリップを横目に腹部のバックルを展開して変身を解除する。
生身の人間――
門矢士としての姿を晒したのは、もう戦闘の意思が無いということなのだろう。
この時になってやっと、フィリップは彼が最初から女性を傷付ける気など無かったのだと察した。
フィリップの応戦も、照井の急行も、何もかもただの徒労であったわけだ。
……何だ、それは。
「…………ディケイド、君は一体何の意味があって、こんなふざけた真似を……!」
「受け取れ」
義憤のままに食って掛かろうとしたフィリップに構わず、士はディバッグから取り出した何かを放り投げてきた。
一つは機械的な外見のベルト、二度目が硬質なケース、そして三度目が真っ赤な携帯電話だ。
慌てて受け取ったフィリップだが、その意図が分からずまたも呆気に取られる。
いや、正確にはその道具一式の使用意図が推測できたからこそ、士がフィリップに渡した意図が余計に分からない。
「これは……」
「仮面ライダー電王に変身するためのベルトだ。お前も“仮面ライダー”だったなら、大体分かるだろう?」
「なぜ、僕にこれを渡すんだ?」
「お前なら、まあ相応しいだろうと思ったからだ。少なくともそいつ等とは気が合うだろうしな」
「……俺達を試したのか?」
声を上げたのは、様子を伺っていた照井だった。
問われた士は照井の方へと顔を向け、大した問題では無いかのように言ってのけた。
「まあ、そう取ってもらっても構わない」
「だったら、今の戦いで俺達を倒そうという気は無いということか?」
「……この場に“仮面ライダー”はいないからな。そういうことになる。だったら、今はお前らに“仮面ライダー”を譲ってやる」
その一言で今度こそ、本当は最初から士に敵意が無かったことを確信した。
全ては、フィリップ達の人間性を観察するための演技だったのだ。その目的は……認めるに値する人間に、仮面ライダーの力を譲り渡すこと。
そしていかなる因果か、三人の中でベターと認められたのは目的をろくに果たせなかったはずのフィリップであった。
士の行動の意図は分かった。だからこそ、フィリップには門矢士という人間がますます分からない。
仮面ライダーを付け狙う、暴力的な人間性に変わり果ててしまったのではなかったのか? この行動は話に聞く人間像とぶれていないか?
仮面ライダーという名の重みを理解はしているのか? ならば、なぜその名を持つ者を討とうとする?
士の本質は、正義なのか? 悪なのか?
何のために、今も仮面ライダーを名乗っている?
「君は……君にとっての“仮面ライダー”とは、一体――」
「それじゃ、もう用も無いしさっさと行かせてもらう」
「待て、君はこれからもこんなことを……」
「それが俺の責務だからな……まあ、喧嘩を売ったことだけは謝っておく」
フィリップの質問も静止も空しく、士は撤退の一手を打つ。
先程は投擲に使っていたトランプのカードが、今度はまるで巨大な板のような形となって士の身体に重なる。
その大きさを保ったまま、また回転しながら空の中へと消えていく。士の姿は、既にどこにも無かった。あのカードに張り付いたといったところなのだろうか。
ともかく、門矢士はベルト一式と女性の身柄だけを残して消えてしまった。それだけが、事実として残された。
「……何だっていうんだ」
殆ど状況に流されるまま辿り着いた結末に、フィリップは徒労感をたっぷり含ませながら嘆息した。
一先ず、今自分が得たものくらいは確認しておこうと考えた。混乱の収まらない頭は、その後でゆっくり落ち着ければいい話だ。
そんな言葉を頭に並べながら、フィリップは渡されたベルトを目の高さまで翳し、
『何で今度は僕達を投げ捨てるの!?』
『僕に聞かないでってば……』
『ああぁぁーーっ! 誰か俺に分かるように説明しろお!』
けたたましく重なる声色に、またも呆気に取られることとなった。
◆
フィリップ達が士と言葉を交わすのを視界の端に収めつつ、笹塚は一人黙考していた。
懸案は今回その身柄を巡って一悶着を起こす羽目になった眼鏡の女性――
桐生萌郁のことである。
(あんまりバレてほしくないこともあるからな)
笹塚は萌郁という人間と既に面識があったにも関わらず、今に至るまで彼女に関する情報の一切を照井とフィリップに明かしていない。
その理由は簡単。下手に話したせいで、知られたくない部分にまで触れられるのを避けたためだ。
桐生萌郁とは、黄陣営のリーダーである
カザリ扮するFBの指示に従い、それでいて「自分が本当は誰に従っているか」という肝心な部分に盲目的な、ある種の哀れな使い走りである。そしてこの会場に連れられてから最初に受けた指令に従い、彼女は笹塚(の複製)を殺害している。
これが笹塚と萌郁、そしてカザリ扮するFBの三者の関係である。
さて、笹塚と萌郁の関係については知られたところでまだ許容範囲内だ。
仮に萌郁の前で笹塚の存命を明らかにしたとして、その時はシナプスカードと言うカラクリを明かせば一応の説明は付き、話はそれで終わりだ。精々フィリップ辺りから情報の隠匿を非難される程度だろう。
危惧したのは、萌郁とFBの関係が露呈すること。より正確に言えば、万が一にもFBが照井達の追及を受ける羽目となった挙句、そのグリード・カザリとしての正体、そして笹塚と関係を有していた事実を知られる可能性があることだった。
明確に所属陣営の優勝を狙う者、あるいは今の笹塚自身のような特別な事情を持つ者でない限り、真木清人の手先であるグリードと積極的に関わる理由は無い。それはフィリップや照井にも同じく言えるはずだ。
そんな奴と笹塚が関係を持っていると知られたら、どうなるか?
情報提示などで上手く立ち回れば、少なくとも照井とは共闘関係を維持できるかもしれない。しかし下手を打てば、場合によっては障害と見なされた挙句に対立へと発展しかねない。そうなれば、笹塚は頼れる味方のどちらかを切り捨てざるを得なくなる。
照井という理解者を手放す気は起きず、かと言って今後のバトルロワイアルの展望次第では今カザリに倒れられても困る。
シックスへの復讐が最優先であるからこそ、手駒となりうる存在を下手に奪われては困るのだ。
結局、萌郁が照井達を追及されることは不都合な事態への第一歩となりかねない。ゆえに、ここで回避しなければならない。
(じゃ、ちょっと拝借するか)
とは言え、方法は簡単。照井達に必要以上の情報を与えなければよい。
具体的には、照井達が士に注意を向けている今の内に萌郁が持っている携帯電話を預からせてもらう。
そうすれば、今はFB本人への追及は手掛かり無しとして見送りとなるはずだ。
(いいだろ? 一回やられた時点で、アンタはどうせ手駒失格だしな)
これだけ変化し続ける状況にいながら大した動きも出来なかった萌郁に心中で言い訳を述べつつ、手元に持っている携帯電話に手を伸ばす。
(って、無いのかよ……)
伸ばそうとしたところで、今の萌郁が携帯電話を手に持っていないことにようやく気付く。
照井達の目を盗みつつ、それとなく衣服のポケットもディバッグの中も調べてみるも空振り。
受信機となるアイテムを彼女が手放すとは思えない。だとすれば、大方何者かに先に奪われたのだろう。
そして一番の候補となる人物は、彼女と最後に接触したディケイド――門矢士だ。
その当の本人である士はと言えば、たった今いかなる原理か巨大化したトランプと共に姿を消した。こうなっては、彼が携帯電話を持っているのかどうかすら最早確かめようがない。
(まあ、結果オーライか)
結局FB自身への追及が行われないなら、話は同じことだ。
強いて言うなら、自分の手元に置いておけば任意のタイミングでカザリと再接触が図れたはずだったというのが惜しいことか。
……惜しいと言えば、萌郁が持っていたはずのアビスへ変身するカードデッキも預かることができたなら良かったのだが、それこそ言っても仕方が無い。
(俺も欲しいんだがな、ああいうの)
カードデッキの存在を一度思い起こした笹塚の思考は、続いて“仮面ライダー”へ向かい始める。
エターナル、ディケイド、そして今は亡きアクセル。笹塚の知る限り最強の存在である魔人には及ばずとも、怪物強盗と同等かそれ以上の力を持つ超人。
それは今更手に入れられない先天的な要素の結果ではなく、今まで見た限りでは専用の装備によって人間の肉体が変化したものだ。
今も何やら呟いているフィリップが持つベルトも、どうやら仮面ライダーに変身するためのツールらしい。
あれが自分の物になれば良いのに、と恨めしく思わずにはいられない。
ディケイドの価値観なぞ知る由も無いが、ともかく笹塚は彼の御眼鏡に適わなかったためにベルトを譲り受けられなかったようだ。
理不尽な話である。
目的のための覚悟の強さなら、笹塚は他者に決して劣りはしないと自負している。
そして、その達成のために生まれる力への渇望の切実さも。
にも関わらず、笹塚には今もお鉢が回ってこない。
肉体的な条件によっては使用にリスクがある可能性も予想はつくし、実際に不適合であると言われたら笹塚とて一応の諦めがつく。しかし、その条件の可否を確かめる機会すら得られないのでは不満も溜まるものだ。
照井やフィリップの口振りを聞く限り、“仮面ライダー”の名を背負うには相応の気質や品位のようなものが求められるらしい。
それこそ、笹塚には興味の無い話であった。
「別にいいだろ、誰がどう使おうが」
力は所詮力。生み出した者が込めた意味やら願いやらに持ち主が束縛されるなど馬鹿馬鹿しいことだ。
このように考えるのは、結局笹塚の住む環境に“仮面ライダー”が存在しなかったための無関心に根付くものかもしれない。だからと言って、照井達の価値観を改めて考察する理由など、笹塚にありはしない。
ゆえに、笹塚の中で欲望は静かに育ち続けている。
俺にも力を寄越せと。
俺を、“仮面ライダー”にしろと。
独善的な黒い炎は、静かに燃える。
◆
デルサー軍団の大幹部ジェネラルシャドウの愛用したトランプの力により、士は戦場からの離脱を果たした。
士が地に足を着けると共にトランプは掌サイズに縮小し、空中へと霧散していく。
支給された枚数がスペードのAからKで13枚。爆弾代わりに使った2枚も抜けば、残りはあと10枚。
先程の戦闘が長引かせる意義の無い内容であったことを考えると、消費が3枚で済んだのは妥当なラインだろうか。
「ライダーじゃないなら、今はあいつ等と戦ってもらうのがマシだな」
肉体的な変身を遂げた結果という意味での“仮面ライダー”は、あの場には一人もいなかった。しかし、正義感の持ち主としての“仮面ライダー”なら、フィリップが最も近いと言える。
これが士の出した結論だった。
そしてこの結論を出すために、士は彼等との交戦に踏み切り、敵視されるべき立場であることを敢えて利用して彼等の敵役を演じることに決めたのだ。
全ては“仮面ライダー”を探し出すために。
ただ単に言葉を交わすだけで人間性を判別する選択肢も確かにあった。そのような穏健な手段を取らず、むしろ傍目にはただ面倒で、体力やメダルの消費をも伴う手段を取ったことにも理由はある。
一つは、フィリップ以外にも姿を見せない者達がいることに薄々感づいており、彼等の出方も伺いたかったこと。
もう一つは、より確実な信頼感を得るためにも、士の求める素質を言葉ではなく行動で見せてほしかったこと。
最後の一つは、友好的な関係の兆しを下手に作ってしまって再び余計な温情を胸中に生むのを避けたかったこと。
そして観察に徹し破壊者として打倒する選択をしなかったのは、仮面ライダーの力を失った者を倒した場合に世界再生の条件が達成されるか、前例が無いために確信できなかったため。
中途半端な見込で事に及んだものの当てが外れ、フィリップを本来の手段で倒すことが永遠に叶わなくなり世界崩壊が確定するなどという可能性だけは避けねばならなかった、というのが実情である。
もしも彼らがいつの時か本来の姿を取り戻したなら……その時には、改めて破壊に向わねばならないのだから。
観察対象となった人間としては、フィリップ以外にも二人が確認できた。
その一人が、かつて仮面ライダーアクセルであったはずであり、しかし今は怪人のアクセルとなった
照井竜。
アクセルがフィリップの協力者として姿を現したことは、一瞬だが士を驚かせた。
それでも躊躇うことなく、士はトランプに爆弾機能を持たせて射出した。身動きのできない人間に脅威が迫った時、彼がどのような行動を取るのか見るべきと考えたためだ。
士の見てきた仮面ライダー達の大抵は、同じ状況に置かれたら咄嗟の判断で他人を守ろうとしただろう。もしも照井か、あるいは同行者していた男が同じ行動を見せたら、その者の人柄を士は認める気でいた。それを試すための一撃である。
勿論そのような者に手傷を負わせるのは本意ではないので、爆弾の威力は最小限となるよう意思を込めて、ではあったのだが。
そして結果は、士を少なからず落胆させるものだった。
「仮面ライダーではない……そういう意味だったのか?」
士は確かに目撃した。トランプ爆弾が女に迫るのを前にして、照井竜の身体がほんの一瞬、しかし確実に躊躇いを見せたのを。
身を乗り出せば、女を庇うことも不可能では無かったはずだ。それにも関わらず、照井は動こうとしなかった。動けなかったのではなく、動こうとしなかった。
何もその判断が醜悪だと断ずるつもりは無い。自分の怪我に構わず他者を守れ、と要求するのは些か酷な話ではあるだろう。
ただ、あの女性を保護するための作戦に身を投じ、他者の負傷の可能性に悲痛な叫びを上げたフィリップ程には“仮面ライダー”らしくない、と感じただけの話だ。
もしかしたら、自分を危機に晒してまで身を挺して他者を庇うことを馬鹿らしいと思ったのだろうか。あの逡巡が、“仮面ライダー”の名を捨てたと言う証明であったのだろうか。
そうだとすれば。やはり照井竜に“仮面ライダー”の力を渡すのは、まだ、好ましくない。
こうして観察を兼ねての戦闘を終えた士は、フィリップが最も“仮面ライダー”として妥当だろうと考えるに至り、“仮面ライダー”の資格を譲渡するに至ったである。
デンオウベルトだけを渡し、成り行きで預かることとなったアビスのデッキを手元に残したのは、単に相応しい者の人数が一名きりであったからという理由だけではない。
電王なら、万が一ベルトが悪しき心の持ち主の手に渡ってもイマジンがストッパーとなると期待したためだ。逆に、モンスターという独立した別個の戦力を持つアビスは暗殺の用途にすら使用可能であり、悪用された時が恐ろしい。
せっかく渡したアイテムが正体不明の人物――たとえば、照井の傍にいた素性の知れない男のような――の手に渡った時のリスクを、特に保護の必要がある人物がいる状況では避けねばならなかったのだ。
こうして一人は破壊する必要の無い“仮面ライダー”になる資格を得た。そのことは士に若干の満足感を与えながらも、焦燥を拭い去るほどのものにはならない。
緑の怪人となったフィリップ、赤の怪人となった照井竜。
二人の姿が示すのは、ダブルとアクセルという二人の仮面ライダーが一時的に、もしくは永遠に失われた事実である。
数多くの命が奪われただけでなく、世界を救うために存在し続けなければならない仮面ライダーまで世界から姿を消されてしまった。
「やらかしたな、俺も」
間違いなく、士の怠慢のツケであった。
理解していたつもりではあったが、こうして新たにミスの結果を見せつけられるとやはり苦々しい感覚がある。
「……だったら、もう誰もやらせるわけにはいかない」
全ての敵に一人で立ち向かう覚悟は、とっくに決めている。
ならば、自分に敵意が集中する状況を自ら積極的に完成させていく必要もある。
そんなことを考える士がディバッグから取り出したのは、二枚の青のコアメダル。
メズールを撃破した際に散らばった五枚のコアメダルのうち、ある懸念から士は二枚だけ首輪ではなくディバッグに収納していたのだ。
「こいつを取り込めば、俺が次のリーダーってわけか」
陣営のリーダーが脱落した場合、以後該当する陣営と同色のコアメダルを多数所有していた無所属の参加者が次期リーダーに着任する。陣営戦のこの
ルールに従えば、メズールの身体から排出された青のコアメダルを総取りすれば士が青陣営のリーダーになるのは明らかな話であった。
そのことを理解した上で、敢えて士はセルメダルの代用に必要最低限な枚数しか青のコアメダルを取り込まなかった。
ラウラの編み出した必勝の策を、下手に打ち崩さないように。
「悪いな、ラウラ」
可能な限り多くの者を救済できるリーダー討伐の策に基づけば、士が青陣営のリーダーになれば必然的に士とラウラは対立せざるを得なくなる。
士からすれば彼女の方針を尊重こそすれ阻害する理由も無い以上、敢えて士はリーダーの立場に就くことを避けたのだ。
甘い。見通しが、甘い。
フェイリスが死に、ラウラが傷付き、仮面ライダーが敗れた。それなのにラウラのリーダーとしての立場の尊重しようと……彼女が敵意に晒され、手を汚さんとするのを容認しようなどと考えては、それこそ無責任だ。全てが後の祭りとなってしまった今、最早士は彼女に、いや他の善意ある何者にも余計な負担をかけさせるわけにはいかない。
ならば士が取るべき手は一つ。害意を持つ者達全ての目を、士に向けさせる。
「お前の作戦は、果たされない」
ちゃりん、ちゃりん、と金属音が二度響き、青のメダルが士の首輪に吸収される。直後、首輪のランプが放つ光は紫から青へと変化した。
この瞬間を以て、門矢士が青陣営の次期リーダーに確定した。
これで士を倒さない限り、ラウラもグリード共もバトルロワイアルでの勝利が叶わない。バトルロワイアル自体に反発する者以外の全員が、無視の許されない倒すべき標的として士を追わねばならなくなった。
そして士は、バトルロワイアルでの勝利を目指す気など無い。リーダーでありながら、青陣営に貢献する気もゲームをまともに進行させる気も一切持っていない。
即ち士がリーダーとして君臨し続ける限り、バトルロワイアルが正規の方法で完遂される瞬間など訪れやしないのだ。
これが庇護されるべき人々に刃を向けさせないための士なりの働きであり、ゲームの完遂を望む全ての愚者への反逆にして嫌がらせ。
もう後には引けない。このゲームが終わりを迎えるのはただ一つ――他でもない、ゲームを運営する者達が士の手で討ち取られる時だけだ。
こんなふざけたゲームの齎す恩恵など、知ったことか。
世界を救う鍵である仮面ライダーも、見境なく人々を脅かす悪も、全ての元凶である真木清人も、全て士の手で潰す。
痛みも罪も、この門矢士が背負っていく。
「……誰にも倒されるなよ。仮面ライダー」
想起するのは、今しがた別れたばかりの元・仮面ライダーの姿。
今の彼が敵を倒すための戦いへ積極的に身を投じる必要は無い。ただ、守護者であってくれればいい。
被害者である弱者の命も、正義の行使のために託した力も、道を踏み外しかける者から失われようとしている正義も、彼に守ってもらいたいと士は願う。
つい先程こちらの都合で迷惑をかけて、更にいつか彼を倒すための再会すら考える側の立場からこのような願いを抱くのは、やはり身勝手なのだろう。それでも、士の手の届かない僅かな部分に関して正義の戦士を頼るくらいの自由は、許されてほしいと思った。
紛れも無く、世界の救済を欲する一人として。
「それじゃ……っと」
感傷的な気分を入れ替えるように大きく息を吐きだし、士は一歩踏み出した。
が、その一歩はふらりとよろめいた。
どうやら連戦による疲労の蓄積は、いよいよ隠せない段階に来ていたようだ。
俺が死ぬのはまだ先だからな、と誰に聞かせるでもなく呟き、士は一先ずの休息の場を求めて今度こそ歩き出した。
◆
ディケイドから渡されたデンオウベルトに宿っていたのは、イマジンという一種の精神体だ。
ベルトを装着した上で彼らと精神を一体化させることで、電王――かつてディケイドやクウガと並び立って戦ったあの仮面ライダーへの変身が叶うらしい。
イマジン達との対話を終え、引き出した情報――電王への変身や、フェイリスやラウラや
岡部倫太郎といった知己の人物について――を照井達に話したところで、笹塚に問われた。
「で、そのベルトをどうする? 誰が使うんだ?」
「それは……」
「俺やフィリップにはガイアメモリがある。だったら……」
電王のベルトがれっきとした戦力である以上、誰かが使用するべきだ。
フィリップと照井が別の道具で戦えるとなれば、笹塚が使用するのが必然的な流れだろう。
そこまで冷静に考えを纏めたところで、フィリップと笹塚の目線が交錯した。
「……!」
笹塚の双眸に宿った、暗く、それでいて嬉々とした光。
一瞬で自らの顔が強張るのを、フィリップは実感した。
「…………いや、君は使わない方がいい」
「は?」
「彼等イマジンと息を合わせられないと、電王としては戦えないらしい。彼等も……本来の変身者以外とは気が合わなそうだと言っている」
「……やってみないと分からないと思うけどな」
「いざという時のことを考えると、当てに出来るか分からない力を持たせるわけにもいかない……本当に拙い時まで、使うのは待ってくれないか? それまでは僕と照井竜で対処する」
捲し立てるような口調になっているのが、喋っているフィリップ自身にも実感出来てしまう。
それほどまでに、笹塚に電王の力を託すことへの恐れにも似た感情が一瞬で成長していた。
話を聞き終えた笹塚は、納得したのかしていないのか分からないような表情で、そーかい、とだけ言ってまた煙草を吸いだした。
ほっと息をついたフィリップに、照井が近寄ってくる。そして、そっと耳打ちした。
「やはり、“仮面ライダー”は大切か」
……見透かされていたか。
照井竜がフィリップの真意を見抜いたのは、フィリップの表情が分かりやすかったか、はたまた照井もまた似た感情を抱いていたのか。
肯定も否定も口に出すことも出来ず、言葉に窮するフィリップを見かねたのか、照井は小声で言った。
「気持ちはわからなくもない。だが、俺達は俺達の目的のために動いているんだ。それだけは忘れるな……お前の我儘に付き合うのも、限度があるぞ」
それだけ言って、照井はフィリップから離れて行く。
どうやら照井は、フィリップの中の“仮面ライダー”への執着にも気付いているようだ。その心情を決して褒め称えることもなく、むしろ妨げとならないよう警告される。
これが、今のフィリップと照井の間にある距離の大きさだった。
フィリップの数歩先に立つ二人の中に、“仮面ライダー”の正義は無い。
それを理解しているために、今の照井と進んで行動する
笹塚衛士が“仮面ライダー”となることに、本能的な部分での拒絶感が湧いたのだ。
そして一応はそれらしい理由を付けることで、フィリップの管理下に置くこととさせてもらっている。
しかし、こんな誤魔化しがいつまで通用するのだろうか。
爆心地まで同行させたことも、ディケイドとの交戦に協力させたことも、電王の力を取り上げたことも。
全ては苦し紛れの言い訳で照井達に協力させただけだ。一応のメリットの提示が可能だったからこそ今まで問題は生じていないが、この先も無理を重ね続けてはいつか限界が来るのは容易に想像が付く。
その時にはいよいよ、彼を繋ぎ止めるのは不可能となるのだろう。
「……そんなことはさせない」
“仮面ライダー”がいなくなった今だからこそ、自分が頑張らなくてはならない。
正義を忘れた戦士達、蔓延る数知れぬ悪、恐らく救うべき対象である女性、解決しなければならない問題は沢山ある。
そのための意思は今も胸にあり、そして、そのための力も――
『良かったじゃねえか、フィリップ。守る人もいて、力も手に入れて、今のお前はまさしく“仮面ライダー”だぜ』
彼の声が、聞こえた。
『で、その程度じゃお前のミスは帳消しになんかならねえって分かってるよな? 結局何もしちゃいないも同然のお前が、また“仮面ライダー”を名乗ろうってのは烏滸がましい話だろ?』
容赦の無い糾弾が、フィリップの耳に突き刺さる。
聞こえない振りをすることなど、不可能だ。
『――――“仮面ライダー”の力が照井達に相応しくないって言ってるけどな、お前にも不釣り合いなんじゃねえのか?』
否定など、できなかった。
「買い被りすぎだ。僕は、そんな器じゃない」
否定の言葉を向ける先は、耳に聞こえる声の主では無く。先程フィリップを“仮面ライダー”と認めた、門矢士だった。
彼からの評価がどうであれ、フィリップは自身を“仮面ライダー”の器だとは思えない。そうありたいとの願望があっても、これまでの醜態とは合致していないのが現実だった。
話を聞く限り、電王として戦ったイマジンとその契約者は立派な戦士であると言える。
今のフィリップは、そんな彼等には到底釣り合わない。照井や笹塚と同じく、フィリップもまた電王に、“仮面ライダー”に変身するべきではないのだ。
だから、ディバッグの中に収納したベルトを次に取り出すのは、きっと自分よりずっと電王の力を継ぐに相応しいと思える人間に会えた時になるだろう。
イマジン達には悪いが、それが彼らに対する礼儀だ。今はそうとしか、考えられそうになかった。
「……とにかく、彼女に話を聞こう」
半ば無理矢理に思考を切り替え、フィリップは次に為すべきことへと臨むこととする。
力無き者と思われる人間の保護に向けての準備。正義感に従えば至極当然である選択だ。
何より、義務的に行動している間は余計なことを考えずに済みそうだった。
『こうして力の無い誰かを守っていれば、“仮面ライダー”を演じられるからか?』
「……そうだとしても、だ」
余計なことを考えたくない。
そんな望みすら、今は叶いそうにない。
◆
桐生萌郁が所持していたはずの携帯電話は彼女の手元から消え、しかし士の手にも笹塚の手にも渡っていない。
ならば一体どこへ消えてしまったと言うのか。その答えは至って簡単。
ミラーワールドの中に置き去りにされてしまっただけだ。
アビスに変身した萌郁が士に気絶させられた際に手放してしまい、士はすぐにアビソドンの追撃を受けたためにいちいち携帯電話に気を回す余裕などなく、結局地面に落下したまま今もミラーワールドの大地に横たわっている。
そして、今後この携帯電話が誰かの手に渡ることは恐らく有り得ないだろう。
萌郁のようにこの携帯電話を必要とする者は、ミラーワールドに入るための手段を既に持っていない。
士のようにミラーワールドに入る手段を持っている者には、わざわざ携帯電話を回収しに行くためだけに手間をかける理由が無い。
仮に何者かがミラーワールドに入る機会があったとしても、回収される見込みは無いに等しい。広大なフィールドの中にぽつんと佇む携帯電話は、まさしく砂漠に落とした針一本。その地点を正確に探し当てろという方が無理な話だ。
結局、桐生萌郁の携帯電話というアイテムは廃棄されたも同然なのである。
話題は変わるが、桐生萌郁が現在に至るまでの間に他者と直接対面した回数は極端に少ない。まともにコネクションの構築が出来ないという意味では不利な事実だ。
しかし不幸中の幸いと言うべきか、他者から敵意や殺意を向けられる決定的な行動に手を染める機会にも殆ど恵まれていない。
この点も一因となっているのだろう。例えば門矢士、例えばフィリップ、そして例えば岡部倫太郎。それぞれに思惑の違いはあれど、数名とはいえ萌郁の生存を望んでいる他者がいるのが事実となっている。
つまり、萌郁は今後の立ち回り次第で今からでも独自に仲間を作ることが可能であると言える。
しかしそれが、FBとの繋がりを断ち切られ、絶対的な心の拠り所を奪われた萌郁にとってどれほどのプラスになるのだろうか。
それは、目覚めた彼女が自身の現状を認識しないうちにはまだ語れない。
【一日目 真夜中】
【C-5 路上】
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】青・リーダー代行
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、左肩に傷跡、フェイリスへの罪悪感、覚悟完了
【首輪】90枚:350枚(250枚)
【コア】ゾウ、シャチ、ウナギ、タコ、スーパータカ
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】バースバスター@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、ジェネラルシャドウのトランプ(残り10枚)@仮面ライダーOOO、
ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド、アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド、
キバーラ@仮面ライダーディケイド、首輪(
月影ノブヒコ)、ランダム支給品1~7(士+ユウスケ+ウヴァ+
ノブナガ)
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
1.ゲームを破壊する。そのためにもゲーム自体をルール通りに完遂させない。
2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊する。
3.仲間はもう作らない(被害者を保護しないわけではないが、過度な同行は絶対しない)。
4.
イカロスは次に出会えば必ず仕留める。
5.ダブルとアクセルが「仮面ライダー」として復活した時は、今度こそ破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ~キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※
アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※既に破壊した仮面ライダーを再度破壊する意味はないと考えています。
※仮面ライダーとしての能力を失っている人間を破壊することには、現状では消極的です。
※仮面ライダーバース、仮面ライダープロトバースは殺し合いの中で“破壊”したと考えています。
※()内のメダル枚数はウヴァのATM内のメダルです。士が使うことができるかどうかは不明です。
※ディケイドにコアメダルを破壊できる力があることを知りました。
※もう仲間は作らないという対象の中に、
海東大樹を含むか否かは後続の書き手さんにお任せします。
【一日目 真夜中】
【C-5 路上(キバの世界のエリア内)】
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、幻覚症状、後悔
【首輪】5枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero、デンオウベルト+ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。"仮面ライダー"でありたい。
1.照井達と行動を共にする。
2.保護した女性(萌郁)から話を聞く。
3.復讐に燃える照井を放っておく訳にはいかない。
4.あの少女(=
カオス)は何とかして止めたいが……。
5.
バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
6.デンオウベルトは自分以外の相応しい人物に使ってほしい。
7.切嗣を救いたかったが、どの面下げて会いに行けというのか。
8.ディケイドの目的は一体……?
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※T2サイクロンメモリはフィリップにとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依しています。
※萌郁の保護を達成したことでセルメダルが少量増加しました。
【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】激しい憎悪と憤怒、覚悟完了、ダメージ(大)、疲労(小)
【首輪】50枚:0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:全てを振り切ってでも
井坂深紅郎に復讐する。
1.フィリップ達と行動を共にする。
2.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
3.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
4.他の参加者を探し、情報を集める。
5.誰かの為ではなく自分の為だけに戦う。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※笹塚、フィリップと情報交換しました。
【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、
加頭順への強い警戒、照井への確信的な共感
【首輪】60枚:0枚
【コア】イマジン
【装備】44オートマグ@現実
【道具】基本支給品、44オートマグの予備弾丸@現実、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ、煙草数種類
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂。どんな手段を使ってでも生還する。
1.照井と行動を共にする。
2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
6.戦力、特に“仮面ライダー”への渇望。
7.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……。
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。
※照井を復讐に狂う獣だと認識しています。
※照井、フィリップと情報交換しました。
【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康、気絶中
【首輪】50枚:0枚
【装備】無し
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
0.気絶中。
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。
【全体備考】
※門矢士が青陣営の次期リーダーとなりました。これに伴い、元・青陣営で現在無所属となっている参加者は第二回放送を以て青陣営に復帰します。
※桐生萌郁の携帯電話はミラーワールド内部に放置されています。
【ジェネラルシャドウのトランプ@仮面ライダーOOO】
月影ノブヒコに支給。全13枚支給。
『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』に登場したジェネラルシャドウが武器として愛用したトランプ。
カッターや爆弾の他、目眩ましや飛行手段など多岐に渡る能力を持つ。
本来はジェネラルシャドウ本人の使用によって能力が発動するものと思われるが、本ロワ内ではセルメダルの消費により誰でも本人と同様に使用することが可能となっている。
最終更新:2015年08月17日 20:28