青山家の朝。
主人公のミドリ、母の梅子、弟の虎男らの和やかな光景。
一同「おはよう」「おはよう」「あぁ、おはよう」
梅子「ミドリ、トースト焼いてちょうだい」
ミドリ「はぁい」
父の竜夫がタバコを吸いながら新聞を読んでいると、突然、新聞がひとりでに燃え上がる。
竜夫「わぁっ!?」
家族総出で、どうにか火を消し止める。
梅子「タバコ咥えて新聞読むからよぉ!」
竜夫「タバコなんて関係ないさ。新聞が勝手に燃えだしたんだ」
梅子「まさか!? 気をつけてくださいよ」
母の梅子が台所に立つと、急に食器棚が激しく揺れ出し、食器が次々に壊れる。
梅子「きゃあっ!?」
青山動物病院で入院中の犬たちが突然、激しく吠え始める。
虎男「静かにしろ、お前たち! どうしたんだ!?」
竜夫「怯えている…… おかしい、何者かに怯えているんだ」
お隣の白川家。
青山動物病院の常連・菊子と孫の大介のもとでも異変が起こっている。
菊子「ピイちゃん、戻ってらっしゃい! 竜夫さん、大変なのよ。鳥が急にピイちゃん見て騒ぎ出して、鳥カゴ開けたら、あんた」
大介「逃げ出したんです!」
竜夫「鳥までも!?」
小学校での授業中。
ミドリたちの目の前で、担任の雪原先生が突然、宙に浮きあがる。
雪原「きゃあっ!」
ミドリ「先生!?」
雪原「誰かぁ!」
生徒たち「先生が!?」「宙に浮いちゃったぁ!」
雪原「助けてぇ! 早くぅっ! 誰か、誰かぁ!」
ミドリがとっさに雪原先生の体をつかまえ、床に下ろす。
ミドリ「大丈夫ですか、先生!?」
雪原「あ…… あら? 私、どうしちゃったのかしら!?」
ミドリ (妖精たちのいたずらかしら?)
窓を見ると、石の精ドンパが覗き込んでいる。
学校の後、ミドリはドンパのヒゲを引っ張って懲らしめる。
ドンパ「痛い痛い痛い! あっしは無実でやんすよ!」
ミドリ「現場にいたじゃないの!?」
ドンパ「ゼリアン王女に、重大事件をお知らせに来たでやんす!」
ミドリ「重大事件?」
ドンパ「ガンバス大王が、病に臥されたんでやんす」
ミドリ「ガンバス大王が!?」
妖精の国フェアリーの王宮。
ガンバス大王が、病床に臥せっている。
ガンバス王妃、火の精ボーム、水の精オンディーヌ、風の精ジャック、土の精ズーンが、心配そうに寄り添っている。
妖精たち「大王様、しっかりして!」「大王様!」
ガンバス「ゼリアンはまだか…… ゼリアンは……」
王妃「間もなく到着すると思います」
ミドリが王宮に到着する。
妖精たち「おぉっ、王女様!」
王妃「ゼリアン! あなた、ゼリアンが来ました」
ガンバス「ゼリアン、待ちかねたぞ……」
ミドリ「本当に病気だったんですね」
王妃「心の病です」
ミドリ「心の?」
オンディーヌ「王女様恋しさのあまり、とうとう、ご病気になられたのでございます」
ガンバス「ゼリアン…… 手を貸しておくれ」
ミドリの差し出した手を、ガンバス大王がしっかりと握りしめる。
ガンバス「あぁ…… もう、離しはしないぞ」
その言葉に思わず、ミドリが手を引っ込める。
ガンバス「あっ、ゼリアン!? 手を、手を!」
ミドリ「嫌です!」
ガンバス「い、嫌じゃと!?」
ミドリ「できることなら、王女になってあげたい…… でも、私にはパパやママがいます。嘘をつくわけにはいかないんです。嘘をつくわけには」
ガンバス「お前は姫じゃ。わしの娘じゃ」
ミドリ「ドンパ、私を送って!」
ドンパ「えぇっ!? し、しかし、ゼリアン王女様!」
ミドリ「青山家に帰して!」
ドンパ「そんなぁ!? あの、大王様」
ガンバス「……帰してやるが良い。それほどまでに帰りたければ」
ミドリ「お大事に、ガンバス大王」
ミドリがドンパと共に、王宮を去る。
王妃「ゼリアン……」
ガンバス「ゼリアンが悪いのではない。嘘八百を並べ立て、ゼリアンを騙くらかし、青山ミドリに仕立てた奴が悪いのだ。あのパパ、ママと称する動物が悪い…… 奴らが憎い!」
ガンバスの怒りが無意識の内に、念波として放たれる。
ミドリとドンパはフェアリーカーで人間界へ向かっているものの、2人のもとにも念波が及び、車が激しく揺れる。
ミドリ「あぁっ!?」
ドンパ「しっかり掴まるんじゃ!」
青山家に向かう途中の道端に、2人は投げ出されてしまう。
ミドリ「痛ぁ…… ドンパ、乱気流かしら?」
ドンパ「ガンバス大王の、怒りの念波でやんす」
ミドリ「怒りの念波!?」
青山家にも、ガンバスの念波が及んでいる。
梅子が竜夫にお茶を勧めようとすると、茶碗がひとりでに揺れ出す。
梅子「あぁっ!?」
竜夫「どうした?」
梅子「お茶碗が!」
動物病院の薬品棚も、激しく揺れ始める。
竜夫「地震じゃない。よく見るんだ。家は揺れずに、その薬品棚だけが動いてるんだ!」
隣の白川家では、菊子がかわいがっている犬のジュリが、菊子の腕から飛び出して逃げ去ってゆく。
菊子「あらぁっ!? ジュリ、どうしたっていうの!? ジュリちゃん、どこ行くの!?」
ミドリが青山家に戻って来る。
犬や猫の飼い主たちが動物病院へ来ているものの、犬や猫が盛んに病院を嫌がっている。
男性「こら、こらっ!」
ミドリ「どうしたんですか?」
男性「ここへ来たらよぉ、急に怖気づいて、入ろうとしねぇんだよ」
女性「ミーちゃん、どこ行くの!?」
ミドリ「どうして動物たちは、嫌がるのかしら?」
動物病院では、入院室の檻が次々にひとりで開いてしまう。
竜夫「これはどうしたことだ!?」
梅子「誰が開けたのかしら?」
竜夫「わからん…… 今日は朝から、不思議なことばかりだ。奇怪なことばかりが起きている」
竜夫はやむを得ず、動物病院に「しばらく休診」の貼り紙を貼る。
ミドリ「パパ、何もお休みにしなくたって」
竜夫「『この病院には魔物が住んでいる』との噂が、近所で評判になっているんだ」
ミドリ「魔物!?」
周囲では、近所の人々が動物病院を指して、ひそひそ話している。
竜夫「犬や猫が入りたがらないそうだ。怯えてしまってね」
ミドリ「だからと言って、魔物がいるなんて」
竜夫「急に新聞が燃えだしたり、医薬品の瓶が踊ったり、檻の鍵が破られたり、とても常識では考えられん。この際、徹底的に調べる。それまでは、この病院を開くわけにはいかんのだ」
その夜、青山家の子供部屋の、ミドリと虎男。
虎男「困ったなぁ…… このままじゃ、潰れちゃうよ。パパの病院」
ミドリ「私がフェアリー王国へ行けば済むことなんだけど」
虎男「嫌だ! 姉ちゃんと別れるなんて。そんなこと、絶対に嫌だ! 俺、絶対に嫌だよ!」
ミドリ「私だって嫌よ。家族と別れるなんて」
虎男「行くなよな、フェアリー王国なんて」
梅子の声「きゃあぁぁっ!!」
ミドリたちが驚いて、居間の両親のもとへ。
ミドリ「どうしたの!?」
虎男「ママ!」
竜夫「薄気味悪い声が聞こえたそうだ」
ミドリ「薄気味悪い声が?」
梅子「えぇ、お台所にいたら、まるで地の底から響いてくるように、『ゼリアン、ゼリアン~』って!」
ミドリ「ゼリアン……!?」
虎男「ゼリアン!?」
梅子「そう。確かに『ゼリアン』って聞こえたわ」
ミドリ「空耳よ。風の音よ、ママ」
竜夫「実は、パパにも聞こえていたんだ」
ミドリ「パパにも!?」
梅子「この家は、呪われてるのよ…… 私、なんだか気味悪いわ」
竜夫「取り壊すか、引っ越すか。いずれ、真剣に考えねばなるまい」
ミドリたちが子供部屋に戻る。
虎男「大変なことになったね、姉ちゃん」
ミドリ「事実を話すわけにもいかないし……」
虎男「どうすりゃいいんだ?」
フェアリー王国の掟で、妖精の秘密を人間界に漏らすことはできない。
ミドリがフェアリーベルを鳴らして、ドンパを呼び出す。
ドンパ「ご用でやんすか、ゼリアン王女様?」
ミドリ「ねぇ、ドンパ。助けて。このままじゃ、大変なことになっちゃうのよ」
ドンパ「ガンバス大王はご病気です。無意識のうちに、大王念波を発散してるんでやんす」
虎男「止めようがないってことかい?」
ドンパ「まず、大王のご病気を治すことが先決。そのためには、王女様が大王の手を握り、若い活力を伝えてチャージしてあげる必要があります」
ミドリ「そうすれば治るの!?」
ドンパ「はい、治るでやんす」
ミドリ「……私、もう一度行くわ。フェアリー王国へ」
虎男「姉ちゃん!?」
ミドリ「心配しないで。大王の病気を治したら、必ず帰って来るわ」
虎男「きっとだよ、姉ちゃん!」
ミドリ「約束する」
ミドリは再びフェアリー王国を訪れて、ガンバス大王の手を握りしめる。
ミドリ (これで活力が戻るのかしら?)
妖精たちは安堵しているものの、ガンバス大王は一向に回復しない。
ガンバス「どうしたことじゃ……? 活力が戻らぬ。実の娘なら、活力が戻るはずじゃ」
ミドリ「えっ? 実の娘でなけりゃ、だめなの?」
ガンバス「なぁに、今に元気になるさ…… こうして、ゼリアンが戻って来てくれたんじゃからな」
ミドリ「私はゼリアン王女ではありません!」
ガンバス「冷たいことを申すでない。一言で良い、言うてくれ。『私は王女だ』と、『ゼリアン王女だ』と」
ミドリ「嫌です!」
ガンバス「う、うぅっ……」
ガンバス大王がついに、意識を失ってしまう。
ミドリ「大王様!?」
王妃「あなた、あなた」
ドンパ「こ、こりゃ一大事! 重体でやんす!」
ミドリ「ガンバス大王!? しっかりしてください!」
王妃「どうすればいいの!?」
ズーン「魔の谷にあるフェアリーグラスの、赤い実を煎じて飲ませるしかないな」
ミドリ「ドンパ、早く摘んで来て。フェアリーグラスの赤い実を」
ドンパ「火の精、行って来い」
ボーム「風の精、頼む」
ミドリ「どうしたの、みんな!?」
オンディーヌ「魔の谷には、恐ろしい巨人が住んでおります」
ジャック「大の暴れ者で、妖精を一口で飲み込んでしまいます!」
ドンパ「うぅ~っ、あの暴れ者は手に負えんでやんす!」
王妃「困りましたね……」
ミドリ「私が採って来ます。フェアリーグラスの赤い実を!」
妖精たち「えぇっ!?」
ドンパ「恐ろしい巨人がいるんでやんすよ!?」
ジャック「食われるぞぉ!?」
ミドリ「このままでは、ガンバス大王の命が危ないわ。私、行きます!」
ミドリは魔の谷へとやって来る。
巨人を恐れるドンパや妖精たちも一応、お供している。
ドンパ「あの…… 気をつけてくださいよ、ゼリアン王女様」
妖精たち「怖いよぉ……」
激しく岩の切り立った大地を進む。
やがて空に暗雲が立ち込め、不気味な声が響き渡る。
ドンパ「出たぁ~っ!!」
妖精たちが皆、一斉に姿を消してしまう。
声「ガァァ……」
ミドリ「……ここで引き返しては、大王の病気も治らないわ」
ミドリは1人で谷を進む。
やがて大地が激しく揺れ、巨人が姿を現す。
ミドリはとっさに、岩場の陰に潜んで姿を隠し、巨人をやり過ごす。
巨人がミドリに気づかずに、行ってしまう。
安堵したミドリが周囲を見渡すと、岩場の陰に木が茂り、1個の赤い実がなっている。
ミドリ「あれが、フェアリーグラスの赤い実!」
ミドリが赤い実に手を伸ばすと、消えたと思った巨人が、目の前に現れる。
巨人「ガアアァ!」
ミドリ「きゃあっ!!」
巨人は赤い実を跳ね飛ばして襲ってくる。
周囲の岩を拾い、ミドリに投げつける。
巨人「ガアアァ!」
ミドリ「きゃあっ!!」
ミドリはどうにか攻撃を避けていたものの、ついに巨人に捕えられてしまう。
巨人「ガアアァ──ッ!」
ミドリ「私を食べても、美味しくないわよ! 私は、女の子の中でもブスですからねぇ~!」
ところが巨人が、急に足を押さえて苦しみ始める。
見ると、足の裏に大きなトゲが刺さっている。
巨人「ガ、ガアァ──ッ!」
ミドリ「トゲが刺さってるわ。待ってて」
ミドリはそのトゲを抜きにかかる。
巨人「グゥッッ!!」
ミドリ「我慢して! ──取れた! もう痛くないでしょ?」
巨人「ガァ! ガァ!」
巨人は嬉しそうな声を上げ、ミドリに手を振りつつ去って行く。
ミドリ「あっ、フェアリーグラスの赤い実!」
赤い実は巨人に跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられて、無残に潰れている。
ミドリ「あっ!? せっかく見つけたのに…… これでもう、ガンバス大王を助けることはできなくなったわ」
そのとき、どこからか誰かの声が聞こえる。
謎の声「誰か…… ここから出してください。誰か、誰か! ここから出してください!」
声の方向を辿ると、岩場の一角に洞窟がある。
ミドリはその中に入ってみる。
謎の声「誰か、ここから出してください! 誰か、誰か! ここから出してください!」
洞窟の奥に、巨大な卵があり、声は卵の中から聞こえる。
謎の声「卵を割ってください…… そして、私をここから出してください。早く出してください」
ミドリ「卵を、割ればいいのね?」
謎の声「お願いします!」
ミドリは地面の石を拾い、卵に叩きつけるが、何度やっても殻は割れない。
ミドリ「ダメだわ…… 割れない」
謎の声「困りましたね…… 私は12年間も、この卵の中に閉じ込められているのです」
ミドリ「12年間!? かわいそうに…… なんとか出してあげたいわ」
謎の声「ドリームボールをぶつけてごらんなさい。卵の殻を割るには、それしかありません」
ミドリ「ドリームボール!?」
透明化の魔法のアイテム、ドリームボールを取り出す。
ミドリ「これをぶつけたら、二度と透明にはなれないわ」
謎の声「早くここから出してください」
ミドリ「仕方がないわ。二度と透明になれなくても…… えぇい!」
ドリームボールを卵に叩きつける。ドリームボールが粉々に砕け散る。
ミドリ「あぁっ! ドリームボールが!?」
頑丈だった卵の殻に、みるみる亀裂が入り、その中から巨大なイモムシが現れる。
ミドリが驚く中、イモムシはみるみるサナギへと変わり、そして、チョウのドレスをまとった少女となる。
その少女こそ真のゼリアン王女、そしてその顔はミドリと瓜二つであった。
ミドリ「あなたは!?」
ゼリアン「フェアリー王国の、ゼリアン王女です」
ミドリ「ゼリアン王女!?」
ゼリアン「12年前、コウノトリがあの巨人に驚いて、卵をこの魔の谷に落としてしまったのです」
ミドリ「じゃあ、巨人がこの洞窟の中に?」
ゼリアン「そうです。秘密調査官のドンパも、この魔の谷には」
ミドリ「えぇ、巨人が怖くて」
ゼリアン「きっと、そうでしょう。でも、勇気あるミドリさんのおかげで、やっと誕生することができましたわ。ありがとう、ミドリさん」
ミドリ「私こそ、感激しています! ゼリアン王女。私たち、間違われても仕方ないわ」
ゼリアン「そっくりですものね」
ミドリ「さぁ、行きましょう! ガンバス大王のところへ」
ミドリがゼリアン王女とともに、王宮に戻る。
ゼリアン「お母様!」
王妃「おぉ、ゼリアン! ゼリアン!」
ゼリアン「お母様!」
ゼリアンと王妃が、涙ながらに抱き合う。
王妃「ゼリアン! さぁ、早く!」
ゼリアン「はい!」
妖精たち「いやぁ、良かった、良かった!」
王妃「お父様の手を」
ゼリアン「はい!」
ゼリアンがガンバス大王の手を握りしめると、大王の顔にみるみる生気が戻ってゆく。
王妃「あなた、ゼリアンですよ」
ガンバス「お……? おぉっ、ゼリアン!!」
ゼリアン「お父様!」
ガンバス「おぉ~っ! とうとう、呼んでくれたなぁ! うんうん」
ミドリ「その方は、本物の王女様です」
ガンバス「おぉ!? え…… え!? いや、ゼリアンが2人!?」
ゼリアン「この方は、青山ミドリさん。お父様が、勘違いなさっていたのです」
ガンバス「勘違いじゃと!?」
ドンパ「申し訳ありません! すべて、このドンパの調査間違い! 秘密調査官失格でやんす!」
ガンバス「いやいや、お前は素晴しい見込み違いをした」
ドンパ「と、申しやすと?」
ガンバス「本物のゼリアンもワンダフルじゃが、青山ミドリ嬢も、ゼリアンに劣らず素敵な娘じゃ! 親思いの心優しい娘じゃ。どうじゃ、このゼリアン共々、このフェアリー王国で暮さぬか?」
ミドリ「いえ…… 私は、大王の病気を治すことができませんでした」
ガンバス「うむ。本当の親子ではないと申すのじゃな?」
ミドリ「私のパパは青山竜夫、ママは青山梅子です!」
ガンバス「うむ、わかった。よぉくわかったぞ。青山ミドリ!」
ミドリとガンバス大王一家、妖精たちが、三日月の船に乗って夜空を渡り、人間界へと降りてゆく。
ジャック「素敵でしょ、ゼリアン王女様!」
ボーム「良かったですね、ミドリさん」
地上では、虎男がミドリを待っている。
虎男「あっ、来た! 姉ちゃぁん!」
ミドリ「虎男!」
ミドリが地上に舞い降りる。
虎男「姉ちゃん!」
ミドリ「虎男!」
そしてガンバス大王たち。
姉とそっくりのゼリアン王女に、虎男が目を丸くする。
虎男「あれぇ!?」
ミドリ「ゼリアン王女様よ」
ゼリアン「さよなら、ミドリさん」
王妃「お元気で」
ガンバス「さらばじゃ。我が、心の娘よ」
ミドリ「さようなら、ゼリアン王女! 王妃様、ガンバス大王! さようなら、ドンパ! 妖精たちよ!」
ドンパ「お名残惜しゅうございますです…… ゼリアン王女、いや、ミドリ様!」
オンディーヌ「心優しい」
ジャック「そして、かわゆい」
ボーム「素晴しいお嬢様!」
ズーン「別れは辛いなぁ、もう……」
ドンパが泣き出す。
ドンパ「うぅっ……」
ミドリ「ドンパ、みっともないわよ。秘密捜査官のくせに」
ドンパ「と申しても、泣けてくるものはどうにもできんでやんす! うぅっ……」
ガンバス「ハッハッハ!」
ゼリアン「さようなら!」
ガンバス「さらばじゃ、さらばじゃ!」
ガンバス大王一家と妖精たちが、三日月の船で夜空へと昇ってゆく。
虎男「お姉ちゃんにそっくりだな」
ミドリ「みんな、さようなら!」
虎男「さようなら──!」
ガンバス「めでたやな、めでたやな、じゃ」
妖精たち「さようなら──!」「さようなら──!」
ミドリ「さようなら──!」
ミドリたちは、ガンバス大王たちの姿が消えるまで、いつまでも手を振り続ける。
あくる日。
青山家や隣りの白川家を襲っていた異変は、すっかり消えている。
大介「ドリちゃぁん! ほら! 帰って来たよ、ピイが!」
菊子「ジュリちゃんも、ご覧の通り!」
ミドリ「何もかも、元通りになったのね」
虎男「良かったね!」
竜夫「あぁ。明日から、忙しくなるぞ!」
梅子「そうですね」
菊子「私たちも、がんばんなくちゃ! フフフ! ……あらぁ?」
青山家では、ミドリのフェアリーベルで作った風鈴が、軒先で風に吹かれ、美しい音を鳴らしている。
菊子「まぁ、なんて涼しげな風鈴なんでしょ」
ミドリ「私が作ったのよ」
菊子「まぁ!」
ミドリ (フェアリーベルが鳴っても、もう妖精たちは出て来ない……)
柔らかな日差しの照らす川岸の道を、ミドリと虎男が駆ける。
竜夫と梅子が、2人を微笑ましく見守っている。
虎男「姉ちゃん、ちょっぴり寂しいな」
ミドリ「何が?」
虎男「だって、透明にはなれないし、妖精たちも呼べなくなったし」
ミドリ「でも、青山家に平和が戻ったわ。私も本当の、青山ミドリに戻れたしさ。幸せよ!」
虎男「そうだね!」
ミドリ「パパぁ!」
虎男「ママぁ!」
ミドリ「早くいらっしゃいよぉ!」
竜夫「あぁ!」
ミドリ「さぁ、早くぅ!」
竜夫「よし、かけっこだ!」
一同「アハハハハハ!」
最終更新:2024年07月13日 13:47