地獄少女(ドラマ版)の第1話


深夜0時にアクセスできる「地獄通信」。

ここに、晴らせぬ怨みを書き込むと
地獄少女が現れて
憎い相手を地獄に堕としてくれる。

子供たちの間で広まった
都市伝説のような噂は
実は、本当だった……



公団住宅の一室で、高校3年の宮崎 優と、母の佳代が食卓を囲んでいる。

佳代「さぁできたわよ。優、合格おめでとう! でも母さん、びっくりしちゃった。まさか本当に推薦受かるなんて思っていなかったから」
優「少しは見直した?」
佳代「おみそれしました。フフッ。優もとうとう、女子大生かぁ……」
優「もう、気が早いなぁ~。まだ半年も先のことだよ」
佳代「そうね。……そうだ!」

佳代が棚から小箱を取り出す。

佳代「はい、合格祝い。天国のお父さんから」

優が小箱を開くと、中には腕時計がある。

佳代「新婚のとき、父さんが買ってくれたの。ずうっと大切にしまっておいたんだけど、これからは優が使って」
優「いいの……?」
佳代「幸せの時を刻んだ時計よ。優にも、素敵な時間を刻んで欲しいな……」
優「……ありがと!」


ひ び 割 れ た 時 間



後日。学校の校庭の片隅で、優がクラスメートの遠藤里奈と、その取り巻き2人に囲まれている。
取り巻きが、優から財布を取り上げ、中の金をつかみ出す。

取り巻き「信じらんない。何これ? ガキの小遣いじゃん」「万札持って来いっつっただろ!」
優「い、今は…… 本当に、それしかないの」
取り巻き「どうする? 里奈」
里奈「このお金、臭くなぁい?」
取り巻き「言えてる。汗臭~い」

里奈が財布の中身も、そして財布も地面に投げ捨てる。

里奈「私、綺麗好きなの。拾ったら? 明日のパン代でしょ?」

優は何も言い返せず、地面にひざまずいて金を拾い集める。

里奈「母子家庭って大変ねぇ。校則違反なのに、バイトまでしなきゃいけないんだから」
優「それはもう先週……」

里奈は言葉を遮り、金を拾う里奈の手を踏みつける。

里奈「だからって、上納金が無くなると思ったら甘いわよ!」
取り巻き「悔しかったら地獄少女でも呼べば?」「バァカ!」


夜。優が学校から帰宅する。

優「ただいま」
佳代「お帰り。すぐ、ご飯にするからね」
優「うん。ちょっと、手を洗ってくる」

優は佳代に見えないように、腫れ上がった手を、洗面台の水で冷やす。


深夜。優が自室でパソコンを開く。
都市伝説で語られる「地獄通信」のサイトを開こうとするが、画面には「Not Found」の文字。

優「やっぱり、ただの噂……?」

時計が午前0時を指すと同時に、画面が切り替わる。
「あなたの怨み、晴らします」のメッセージと共に、名前の記入欄が表示される。

息を飲みつつ、記入欄に里奈の名を入力するが、どうしても送信ボタンを押せなし。
窓の外から、セーラー服の黒髪の少女がその様子を見つめる。

優「……誰!?」

視線を感じた優が、窓を開ける。だが部屋は2階。外に人がいるはずがない。

優「んなわけ、ないか……」

地面の上でセーラー服の少女が、部屋を見上げている。


後日、とある店先。優が、里奈と取り巻きたちに連れられて来る。

取り巻き「早く行けって!」「びびってんじゃねぇよ、今さら」
里奈「この前バイトしてたこと、学校にバラされてもいいの?」

優がおずおずと、店内に進む。ちらりと女性店員が優を見やる。
周囲を気にしつつ、店頭の品を紙袋に入れる。

取り巻き「あいつ、意外とやるじゃん?」

その様子を、男性店員の1人が目撃する。

店員「おい、君!」

優が驚いた拍子に品物を落とし、慌てて駆け出す。

店員「だ、誰か! その子を捕まえて!」

その様子を先の女性店員が見て、妖しげに微笑む。


ビルの屋上。

里奈「このドジ!」

里奈たちが優を突き飛ばす。そのまま優の体を、次第に屋上の淵へと突き出す。

里奈「このまま落としてやろうか? あんたみたいな使えない奴、生きてる価値ないしね」

優のはるか眼下に、地上の景色が迫る。

里奈「ね、いっそのこと死んじゃってよ!」

がくがく震えつつ、優が声も出ずに必死に首を横に振る。
里奈たちが優を引き上げ、屋上の床に放り出す。

里奈「こっちもあんたのために殺人罪になんかなりたくないしね! 行くよ」
取り巻き「バーッカ!」「ほんっと使えない!」


夜、午前0時。優が自室で、地獄通信のホームページにアクセスする。
入力欄に里奈の名を打ち込み、ついに送信ボタンを押す。

携帯がメール着信音を鳴らす。文面は「受け取りました。地獄少女」。


翌日の学校、優たちのクラスのホームルーム。

担任「店からの報告は以上だ。このクラスに、万引きの犯人がいるとは思えんが…… 心当たりのある者は、職員室まで来るように」


優は校庭の裏に佇み、悲嘆に暮れる。

優「どうしよう、こんな……」

里奈がやって来る。

里奈「なんか大ごとになっちゃったみたいね」
優「……あんたのせいよ!」
里奈「そんな口きいていいの?」
優「……」
里奈「あんたさぁ、桜花大の推薦、決まってたよね? このことバレたら、ヤバいんじゃなぁい?」
優「やめて! それだけは……」

必死にしがみつく優を、里奈が乱暴に振りほどく。

里奈「触んなよ! あんたの母親、PTAの会計だったよね」
優「……?」
里奈「昨日集めた会費、あれ全部持って来な。そしたら考えてあげる。わかった?」

庭仕事をしている老いた用務員が、ちらりとその様子を目にしている。


夕暮れ。優が佳代のいない自宅で、戸棚からPTA会費を取り出し、必死の表情で握り締める。


仕事から帰宅後の佳代が鏡に向かい、洋服を選んでいる。

佳代「PTA会議に行ったら浮くかな? いや浮かない? いや、でもこれ位はいいでしょう……」
優「ねぇ、お母さん」
佳代「ん?」
優「私が推薦受かって、そんなに嬉しい?」
佳代「そりゃあ嬉しいわよ。みんなに自慢できるもん! な~んて」
優「……?」
佳代「本当はね、優が父さんと同じ大学に進んでくれたことが嬉しいの。お父さんだって、今の優をきっと褒めてくれると思うよ。さぁってと、アクセサリー決めなくちゃ」


学校の校庭の裏。里奈の取り巻きの平手が、優の頬に飛ぶ。

優「きゃあっ!」
里奈「持って来なかったってどういうこと?」
優「ごめんなさい…… で、でもあのお金だけは、許して! お願い、お願い!」
里奈「うぜぇんだよ!」

すがりつく優を、里奈が蹴り飛ばす。

里奈「万引きまでしといて、今さらお願いはないだろ?」


夜の繁華街。私服姿の里奈たちと、優。
おどおどと歩いている眼鏡男を、里奈が指差す。

里奈「じゃあ、あれ」
優「でも……」
里奈「簡単でしょ? ナンパして小遣いもらうだけなんだから」
優「……」
里奈「それとも、万引きのことチクろうか!?」
優「……」
里奈「行けよ!」

取り巻きの1人が、優を眼鏡男目掛けて突き飛ばす。

男「な、何? 君」
優「あの、私……」
男「あ、もしかして逆ナン? OK! いいよ、どこ行く?」

眼鏡男が優の肩を抱いて、歩き出す。
向こうから歩いてきたイケメン青年が、眼鏡男にぶつかる。

男「痛!」
青年「やぁ、失礼」

その隙に、優が逃げ出す。

取り巻き「あいつぅ!」
里奈「大丈夫」

里奈が携帯を見せる。眼鏡男が優を抱いている姿が、しっかりと撮影されている。


路地裏。優が万引きを強要されていた店の女性店員が、妖艶な着物に身を包んでいる。
隣には優のイジメを見ていた用務員が、和服を身に纏っている。そして先のイケメン青年。
それぞれ、骨女、輪入道、一目連。

骨女「駄目じゃないか。手出しは禁じられているはずだろ?」
一目連「まぁ、そう固いこと言うなって」
輪入道「相変らず女には甘いなぁ…… そろそろ、行くか」


優が夜の帰宅路を走る。

優「やだ…… もうやだ……」

車道を横切ろうとして、つまづいて転ぶ。

優「きゃあっ!?」

次の瞬間──


いつの間にか優は、どこかの草原に佇んでいる。空は、血の色のように真っ赤な夕焼け。

優「ここは……?」

優の前に、あのセーラー服の少女が現れる。

「私は、閻魔あい」

閻魔あいと名乗ったその少女の右手には、黒い藁人形が握られている。

優「地獄……少女?」
あい「受け取りなさい」

優が藁人形を受け取る。その首には、赤い糸が巻かれている。

あい「あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。怨みの相手は、速やかに地獄へ流されるわ」
優「これを……」
あい「ただし、怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう」
優「代償?」
あい「人を呪わば穴二つ。契約を交わしたら、あなたの魂も地獄へ堕ちる」
優「……地獄!?」
あい「極楽浄土へは行けず、あなたの魂は痛みと苦しみを味わいながら、永遠に彷徨うことになるわ」

死後の苦痛を体現するかのように、突如、優の体を燃え盛る炎が包み込む。

優「きゃああぁぁ──っっ!!」


気がつくと── 元の道路上に、優が座り込んでいる。
しかし優の手には、あの藁人形がしっかりと握られている。

どこからともなく、あいの声が響く。

あい「あとは、あなたが決めることよ……」


後日、学校の職員室。里奈が担任のもとに呼ばれる。
担任のもとには、万引き犯が優であることを告げる手紙が届いていた。

担任「一体どういうことなんだ!? 店には、さっき写真で確認した。お前に間違いないそうじゃないか。本当にこの手紙に書いてある通りなのか?」
優「確かに、万引きはしました。だけど、それは脅されて…… 本当です!」
担任「それなら、これも脅されてやったと言うのか?」

優が逆ナンを強いられたときの、眼鏡男と一緒にいる写真。

担任「残念だがお前の推薦、取り消しだな」
優「そんなぁ、どうして私が!? 悪いのは遠藤さんたちです!」
担任「いい加減なこと言うんじゃない! 真面目な遠藤が、イジメなんかするわけないだろ」
優「本当です! 私を疑うなんて…… そんなの、あんまりです……」

そこへ、母の佳代が駆け込んで来る。

佳代「優! 先生、本当にすみません。この子には言ってきかせますから、推薦だけは…… この子の夢なんです。どうか、お願いします!」

佳代が土下座を始める。

佳代「……お願いします!」
担任「お母さん! あの……やめてください」
佳代「お願いします、お願いします……」


校庭の裏で、優が大泣きしつつ、腕時計を見つめる。

(佳代『幸せの時を刻んだ時計よ。優にも、素敵な時間を刻んで欲しいな……』)

里奈が、取り巻きたちと共に歩いて来る。

取り巻き「やったね里奈。これで代りに推薦決まりっしょ?」「あの大学、里奈が最初に推薦狙ってたんだから当然だよねぇ」
里奈「何だかんだ言って、母子家庭って同情買いやすいのよ」
優「よくも……!」
里奈「何よ?」
優「よくもこんなひどいことを…… 全部、計画的だったんだ! 私から推薦奪うために、わざとやったのね? 取り消して! 先生に言って取り消してよぉ!」

優が里奈に掴みかかる。

取り巻き「何すんだよ!」
里奈「離せよ!」
優「きゃあっ!」

里奈が優を突き飛ばし、はずみで腕時計が床に転がる。

里奈「ひどい? それはこっちのセリフだよ。あんたに推薦横取りされて、私がどんなにプライド傷ついたか…… あんたみたいなショボイ女、大学に行く資格なんて無いんだよ! こんな時計しやがって」

腕時計を取り戻そうとする優を、取り巻きたちが押さえる。

里奈「貧乏人には似合わねぇんだよっ!」
優「やめてぇ──っ!!」

里奈が腕時計を踏みつける。何度も、何度も、何度も……。


里奈たちが去り、優と、砕けた時計が残される。

優「許さない……! 大事な時計を、私とお母さんの幸せの時を…… 許さない! 許さない!!」

意を決した優が、藁人形の赤い糸を解く。
暴風が吹き起こり、藁人形が吹き飛び、虚空へと消え去る。

「怨み、聞き届けたり──」


閻魔あいの自宅。夕焼けの空の下の、藁葺きの古びた家。

祖母「あい、長襦袢を置いておくよ……」
あい「ありがとう、お婆ちゃん」

あいが沐浴で身を清め、黒地に花柄をあしらった着物に身を包む。


満面笑顔の里奈が、取り巻きたちと共に学校内を行く。

取り巻き「いいなぁ里奈~もう女子大生かぁ」「ねぇ、パパに車買ってもらうんでしょ?」「事故って死んじゃえばいいのに」「本当だよねぇ、そしたらスッキリすんのに」
里奈「……? ちょっと、あんたたち!?」
取り巻き「使えない奴……」「バ──カ」

首だけの輪入道が飛んでくる。

輪入道「ハハハハ! 弱い者いじめはいけねぇなぁ」
里奈「あ……!?」

里奈が腰を抜かす。取り巻き2人の声が、骨女と一目連の声に変わる。

取り巻き「可愛い顔してさぁ……」「おしりペンペンだねぇ」

取り巻き2人の首がちぎれ、床に転がり、そのまま笑い転げる

取り巻き「ハハハハハ!!」
里奈「きゃああぁぁ──っっ!」

里奈が無我夢中で逃げ出し、そばの扉から外へ飛び出す。
そこは、以前に里奈たちが優に万引きをさせた後、優を突き落とす真似をした屋上。

里奈「ここは……!? 私、今の……」
輪入道「夢じゃねぇよ、あいにくなぁ。ハハハ!」

背後に輪入道。続いて左右に現れた一目連と骨女が、里奈の両腕をつかまえる。

一目連「じゃあ、行こうか」
骨女「あんたみたいな汚い女、生きてる価値も無いからね」

一目連たちが、あのときの優のように、里奈を屋上淵へと引きずってゆく。

里奈「やだぁ──っ! きゃぁ──っ、待ってぇ──っ!!」

里奈の体が屋上淵から乗り出し、眼下に地上が見える。

里奈「助けてぇ! ごめんなさい、助けて! 助けて!!」
骨女「少しはイジメられる辛さがわかったかい?」
里奈「わ、わかったから、助けてぇ!」

骨女が里奈を、床に放り出す。

里奈「ゴホ、ゴホッ…… 畜生、よくもこんなひどいことを!」
輪入道「ひどいたぁ、よく言ったもんだなぁ。自分がやってきたことの方が、よっぽどひどいたぁ思わないのか?」

開き直ったように、里奈が一同を睨み返す。

里奈「私が何したって言うんだ!? ただ受験戦争を勝ち抜いただけじゃん!」
輪入道「ふむ…… こりゃ反省する気は無さそうだな」
里奈「大体、あんな女が大学行くこと自体間違ってんだよ。貧乏人は家で内職してろっつぅの!」
骨女「やれやれ、救いようがないねぇ」
一目連「お嬢。駄目だよ、こいつ」

いつのまにか閻魔あいが、里奈のすぐ隣にいる。

あい「闇に惑いし哀れな影よ。人を傷つけ貶めて、罪に溺れし業ごうの(たま)…… イッペン、死ンデミル?」

あいが右手にかけた数珠の鈴が鳴る。着物の花柄模様が里奈の視界を包み込む──


里奈が気づくと、そこは霧が立ち込める中、川を行く木舟の上。

里奈「……ここはどこ?」

あいが舟の櫂を漕いでいる。

里奈「私をどこへ連れて行く気? ちょっと、答えなよ!」
あい「あなたはもう、死んでいるのよ」
里奈「……お願い、助けて…… お願い、助けてぇ!」

あい「この怨み、地獄に流します……」
里奈「助けてぇ! 嫌だぁ! 助けてぇ!! 助けてよぉぉ!!」

舟の先には、巨大な鳥居。そこは地獄へと流れる三途の川だった──


後日、優が時計店を訪れる。

店主「はい、こちらですね。苦労したけどね、元通りになったからね!」
優「ありがとうございます!」

修理されてきた腕時計を、優が嬉しそうに腕にはめる。

店を出ようとして、店内に置かれている鏡に気がつき、襟元を覗く。
首元に浮かび上がった地獄の刻印。それは死後の地獄行きの証──


優が店を出ると、買物帰りの佳代が歩いている。

優「お母さん!」
佳代「あぁ、優! お帰り。就職面談、どうだった?」
優「うん、そのことなんだけど…… 私もう一度、正規で受験しちゃ駄目かな」
佳代「優……」
優「お願い! 私、がんばるから!」
佳代「……なんか、そう言うような気がしてた」
優「お母さん……!」

佳代「急がないと。時間、少ないよ」
優「……うん、そうだね」
佳代「行こ!」
優「うん!」

2人が嬉しそうに歩き去って行く。

これから時計が刻むのは、幸せの時間か、それとも地獄逝きの時間か──



あなたの怨み…… 晴らします

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最終更新:2017年06月25日 18:16