ウルトラマンギンガの第1話


星の降る町




高校2年の夏休み。本来なら俺は今頃、
ロックミュージシャンをやってる両親と
ロンドンのアビー・ロード辺りにいる予定だった。
でも……



降星町(ふるほしちょう)の朝。
主人公の少年・礼堂(らいどう)ヒカルが、住宅地の道を行く。

ヒカル「7年ぶりか……」
声「キャ──ッッ!!」

少女の悲鳴。
坂道をベビーカーが転がり、その上に少女が、尻餅を突くような姿で乗っている。

少女「誰か、止めて──っ! 止めて──っ!」
ヒカル「マジか!?」

とっさにヒカルが駆け寄り、少女を抱きとめて地面に転がり、事なきを得る。

ヒカル「ふぅ、間一髪」
少女「もう駄目かと思った…… ありがと」
ヒカル「いやいや。大丈夫?」
少女「はい。……ヒカルくん?」
ヒカル「……美鈴?」

少女はヒカルの幼馴染み、石動美鈴。

美鈴「え、嘘。どうして? ここで何やってるの?」
ヒカル「いや、それはこっちのセリフ! お前こそここで何、危険な遊びして……」
美鈴「じゃなくて、坂の上で『そのベビーカーを止めて、中に私の子が』って声がして、で、止めたら乗ってたのが犬で、ワンって吠えられて、驚いて、のけぞって……」
ヒカル「あぁなったと? いや、それにしても、すげぇ格好だったな! お尻すっぽり」
美鈴「やだ! それ、忘れて! お願ぁい!」
ヒカル「ハハハハハ!」

子犬を抱いた女性が駆けて来る。

女性「お嬢ちゃぁん! 大丈夫?」

何者かの影が、その様子を見ている。

謎の声「なかなか見どころある若者だ── もしかして彼は?」


美鈴「ヒカルくん、てっきりイギリスだと思ってた。ね、どうして帰って来たの?」
ヒカル「突然、この町に行かなきゃって思ったんだ。何かに呼ばれた気がして」
美鈴「呼ばれた? 何それ?」
ヒカル「っつぅか、道、違くね?」
美鈴「着いたよ」

2人の着いた場所は母校、降星小学校。

ヒカル「美鈴…… 俺『銀河神社に行く』って言ったよな?」
美鈴「え? ヒカルくん、まさか知らなかったの?」
ヒカル「何を?」
美鈴「銀河神社、火事で焼けたんだよ。1か月前に。なんでも、近くに隕石が落ちたんだって」
ヒカル「はぁ?」

学校の中は無人。
校内の片隅に、奇妙な紋章の付いた小さな祠が設けられ、「銀河神社」の札がある。
神主であるヒカルの祖父・礼堂ホツマがいる。

ヒカル「爺ちゃん」
ホツマ「おぉ、ヒカル! よぉ来たな」
ヒカル「久しぶり。っつぅか、これが銀河神社?」
ホツマ「あぁ。白井先生のおかげでな、間借りをしておるんだ」

校長の白井杏子が現れる。

ヒカル「校長先生!」
白井「礼堂くん! すっかり大きくなって……」
ヒカル「いやぁ」
白井「この小学校ね。残念だけど、今年の春に廃校になったの…… でも、ここに神社があれば、ときどきこうして来られるわ」
ヒカル「なるほど、そういうことっスか」
ホツマ「心配をするな。寝泊まりをする場所は、いくらでもある。それに、ご神体がご無事だったんでのぉ」
ヒカル「ご神体……」
ホツマ「これも、八百万の神のご加護!」
ヒカル「それ、見てもいいかな?」
ホツマ「なんで急に見たい?」
ヒカル「いや、なんつぅか……」

巫女姿の美鈴が現れる。

美鈴「おはようございます」
ホツマ「あぁ、いつもご苦労様。よろしくね」
美鈴「はい」
ヒカル「……?」
美鈴「夏休み、ここで巫女のバイトしてるの」
ヒカル「そうなんだ……」

巫女姿で仕事をこなす美鈴に、ヒカルが見惚れる。

美鈴「あんまり見ないでよ……」
声「おいおい! 何、見とれてんだよ」

同じく幼馴染みの渡会健太、久野(くの)千草が顔を出す。

ヒカル「……健太?」
健太「ヒカル、久しぶりぃ!」
ヒカル「久しぶりぃ!」
千草「わぁ、なんか感激ぃ!」
ヒカル「千草? 久しぶりぃ!」
美鈴「さっき連絡したの。また4人揃ったね」
ヒカル「本当に健太か?」
健太「そうだよ! そんなに変った?」
ヒカル「いや、変ってねぇ」
健太「だろ?」
一同「ハハハハハ!」
ヒカル「千草はそのまんまだな。声でわかった」

白井「嬉しいです。ここが、久しぶりに賑やかになって……」
ホツマ「私も嬉しいです。白井先生の笑顔が見られて」
白井「……はい?」
ホツマ「いえ。深い意味はありません」


夕暮れのグランドで、ヒカルたち4人がサッカーボールを蹴り合う。

千草「アメリカ、イギリス。いいなぁ、世界中回れて」
ヒカル「でも基本、メジャーな町ばっかだし」
健太「って、どこ行きたいわけよ?」
美鈴「昔、アフリカの奥地に行って、謎の生物見つけるとか言ってなかった?」
健太「モケーレ・ムベンベだっけ?」
ヒカル「よくおぼえてんな」
千草「だって、ヒカルくんの夢、何度も聞いたもん」
美鈴「世界一の冒険家になりたい」
健太「そうそう。誰に憧れてんだっけ? あの、ほら」
ヒカル「エドモンド・ヒラリー! 初めてエベレスト登頂に成功! 誰も見たことない景色を最初に見たんだ!」
美鈴「あの夢、今も変ってない?」
ヒカル「変ってない! 俺も未知の世界を見たい。絶対!」

謎の声「ウルトラ念力──!」

ヒカルの大きく蹴ったボールが、見えない力を受け、またヒカルの手元に戻って来る。

ヒカル「……どういうこと?」


その夜。
ヒカルはこっそりと、校内の銀河神社へとやって来る。

ヒカル「やっぱ、どうしても気になる……」

祠の扉を開くと、中には、見たこともない神秘的な物体。

ヒカル「これが…… ご神体?」

神体が光り、ヒカルの脳裏に奇妙な光景が浮かび上がる。
ウルトラマンが、セブンが、タロウが、多くのウルトラマンたちが、数え切れないほどの怪獣たちと戦う光景。
そして何者かの巨大な黒い影。
ウルトラマンや怪獣たちが黒い波動に包まれ、悲鳴を上げる──

ヒカル「うわ! なんだ、これ?」

我に返ると、手の甲に、祠と同じ紋章が光っている。

謎の声「それは、選ばれし者の紋章── やはり、光の国の言い伝えは本当であったか」
ヒカル「!?」

周りには誰もいない。
声の主を捜すと、そばにウルトラマンタロウの人形がある。

ヒカル「……人形?」
タロウ「私はウルトラマンタロウ」
ヒカル「しゃべった! これ、誰かのイタズラだろ? 声とスピーカー内蔵か?」

玩具のように身動きしない人形だが、確かに人形がしゃべっている。
タロウの人形をヒカルが手にすると、忽然と手の中から消えてしまう。

ヒカル「あ、あれ? どこ行った?」
タロウ「私は君を待っていた── その御神体を持って、降星山に来るのだ」
ヒカル「何なんだよ、お前?」
タロウ「冒険したくはないのか?」
ヒカル「え?」
タロウ「未知の世界を見たいのだろう?」


どこかの真っ暗な部屋。
無数の人形。

不気味な声「もうじき…… 奴が覚醒する…… 憎い、憎い……!」

何者かの不気味な手が、宇宙人・バルキー星人の人形を手にし、先の神体に似た道具を押し当てる。
黒い波動に包まれ、バルキー星人が人間大の姿となって動き出す。

バルキー「イェ──イ! エクセレントォ! ……なんなりと命じてください。我が偉大なる支配者様」


翌朝。
ヒカルはタロウに言われた通り、降星山の林の中へやって来る。

ヒカル「なんでこんな場所に……? ってか、やっぱ夢だったんじゃ?」

大樹のそばに、ウルトラマンタロウの人形がある。

ヒカル「あ、いた」
タロウ「ここで私は目覚めた── はるか昔、恐るべき闇の力で、すべてのウルトラマンと怪獣が人形にされ、この山に降り注いだ」
ヒカル「本当にこの人形がしゃべってんのか?」
タロウ「光の国の言い伝えにある、2つの神秘の道具── 1つは、命あるものの時間を止める『ダークスパーク』」
ヒカル「いや、やっぱ何か仕掛けが……」
タロウ「ちゃんと聞け!」
ヒカル「なんだよ?」
タロウ「私はダークスパークと対をなす、もう1つの存在を、この近くに見つけた」
ヒカル「それって……」
タロウ「『ギンガスパーク』── 闇の呪いを解く唯一の希望。その大きなる力を引き出せるのは、選ばれし者だけだ」
ヒカル「つまり、俺ってこと?」
タロウ「そうだ、ヒカル。君だけが私を、もとの姿に戻せるのだ」
ヒカル「どうやって?」
タロウ「よし、ここなら良かろう。私の足の裏に、君の手にできたのと同じ紋章がある。そこに、ギンガスパークの先端を当てるのだ」
ヒカル「先端を当てる?」
タロウ「驚くなよ」

声「ヒカルくん?」

美鈴の姿。
とっさにヒカルは御神体──ギンガスパークを背に隠すが、はずみでタロウは地面に転がる。

美鈴「こんな朝早く、ここで何やってるの?」
ヒカル「さ、散歩だよ、散歩。そういう美鈴こそ、ここで何してんの?」
美鈴「私は、お菓子作りの材料を採りに来たの。この山で、いいヨモギが採れる場所を見つけたの。それ使って、コンクールに出す創作和菓子を完成させるんだ。和菓子職人になるのは私の夢だもの。ヒカルくんが夢を追い続けてるなら、私も負けてられないし!」
ヒカル「そっか。なら材料集め、俺も手伝うよ」
美鈴「本当!? 助かる。こっちだよ!」

ヒカルが美鈴に手を引かれ、タロウを置き去りにして駆けてゆく。

タロウ「おい、ヒカル!?」


やってきた場所では、2人の不法投棄業者が、軽トラックに積まれた粗大ゴミを、次々に山中に投げ捨てている。
そばに生えているヨモギの茂みも、粗大ゴミで潰されてしまう。

美鈴「あ!? せっかく見つけたお菓子の材料が……!」
ヒカル「……あの、このゴミ、片付けてもらえますか」
投棄業者「何言ってんだ、このガキぃ!」「こっちは仕事でやってんだよ」
ヒカル「犯罪だろ!? 山、汚してんじゃねぇよ!」
投棄業者「おい!」「うっせぇんだよ!」

ヒカルが投棄業者たちに詰め寄るが、逆に殴り飛ばされる。

美鈴「ヒカルくん!?」

そこへヒカルの先輩の巡査、柿崎太一が自転車で通りかかる。

柿崎「おい、そこで何してる!?」

慌てて投棄業者2人が、軽トラックに乗り込んで走り去る。

ヒカル「カッキー!?」
柿崎「って、お前、ヒカルかよ!? 久しぶりだな!」
ヒカル「今逃げたヤツら、不法投棄業者だ!」
柿崎「やっぱりそうか? 怪しい軽トラだと思ったんだ。おい、待てぇ!」

柿崎が自転車で、軽トラックを追いかける。

美鈴「ヒカルくん、大丈夫?」
ヒカル「あ、あぁ」

ヒカルが殴り飛ばされた弾みに、ギンガスパークが地面に転がっている。

美鈴「これって…… 御神体?」


逃走中の軽トラックの前方に、バルキー星人が姿を現す。

投棄業者「何だぁ、あれ?」

バルキー星人が、一瞬にして軽トラックの運転席に詰め寄り、怪獣の人形を突きつける。

バルキー「ダーティな人間よ。貴様らのダークな心を使わせてもらうぞ」

バルキー星人の目が妖しく光り、虚空からギンガスパークに似た物体が現れる。

投棄業者「あ、あ、あ……!?」


美鈴「その慌てっぷり。黙って持って来たの?」
ヒカル「そうだけど、これには複雑な事情が……」
美鈴「もしかして、タロウに頼まれた?」
ヒカル「そう、タロウに。……え!?」
美鈴「そっか! ヒカルくんが選ばれし者なんだね!」
ヒカル「美鈴、何でそれを!?」
タロウ「私が話したのだ」

いつの間にか、そばにウルトラマンタロウの人形がある。

タロウ「美鈴に見つかったときにな」
ヒカル「……どういうこと?」
タロウ「私がギンガスパークを調べていたとき──」

ヒカルが町に来る以前、美鈴が祠の扉を開け、中にタロウとギンガスパークを見つけたのだった。

タロウ「この世界に、ウルトラマンや怪獣は存在しない。まして私は人形の姿。だが美鈴は私の話をすべて信じ、私をもとに戻そうとしてくれた」
美鈴「でも、結局駄目。ヒカルくん、私からもお願い! 早くタロウをもとに戻してあげて!」
ヒカル「美鈴…… お前、素直すぎだっつぅの」


柿崎は自転車で、先の投棄業者を追う。

柿崎「しまった、見失ったか」

獣の唸り声のような音、山崩れのような音──

柿崎「なだれだぁ!」


美鈴が見守る中、ヒカルがギンガスパークをタロウの足に当てる──が、何も起こらない。

ヒカル「あれ? 何も起きないけど?」
タロウ「そ、そんなはずは……!? もう一度頼む、もう一度!」

何度も繰り返してみるが、一向に何も起こらない。

美鈴「どうして……?」
ヒカル「さぁ?」
タロウ「おかしい、こんなはずでは……?」
美鈴「あきらめちゃ駄目。きっと次こそ」

草むらの中に、怪獣・ブラックキングの人形がある。

ヒカル「恐竜? この人形はどうかな?」
タロウ「ブ、ブラックキング!?」

ヒカルがギンガスパークを、ブラックキングの足に押し当てる。

音声『ウルトライブ! ブラックキング!』

ウルトラマンの変身を思わせる輝きと共に、ブラックキングが巨大な怪獣と化し、動き出す。

美鈴「ヒカルくんが!?」
タロウ「そんなバカな!? なぜだ!?」

ヒカルは自分がブラックキングの中の空間におり、ブラックキングを意のままに操っていることに気づく。

ヒカル「あれ? おぉ、すげぇ! 面白ぇ!」
タロウ「一体どういうことだ? 私は駄目で、怪獣にウルトライブするとは!?」

どこからか電撃が閃き、ブラックキングに炸裂する。

ヒカル「うわぁ!」
美鈴「あっ、何!?」

怪獣サンダーダランビアが現れる。

タロウ「サンダーダランビア!? まさか、ダークスパークの力で!?」
声「みんな黒焦げにしてやるぞぉ!」

サンダーダランビアが電撃を撒き散らしつつ暴れ周り、さらにブラックキングにも襲いかかる。

ヒカル「痛ぇ……!」

サンダーダランビアの中に、先の不法投棄業者2人が一体化している姿が見える。

ヒカル「さっきの不法投棄の!? お前ら!」

ブラックキングとなったヒカルが、サンダーダランビアに挑む。

ヒカル「おい、美鈴! そこは危ない! 逃げろ!」

サンダーダランビアの攻撃で爆風が巻き起こり、美鈴を襲う。
とっさにブラックキングが盾となるが、サンダーダランビアは身動きできないブラックキングを締め上げる。

ヒカル「ぐぅっ……!」

尻餅をついておびえきっている美鈴の姿が、視界に飛び込む。

(美鈴『和菓子職人になるのは私の夢だもの。ヒカルくんが夢を追い続けてるなら、私も負けてられないし!』)

ヒカル「潰されてたまるか! うおぉぉ──っっ!」

その闘志に呼応するように、ギンガスパークが変形。
新たなウルトラマンの人形が飛び出す。
とっさにヒカルがその人形をつかむ── その脳裏に再び、謎の光景が浮かぶ。
神体で見たときの、謎の巨大な黒い影に、そのウルトラマンがギンガスパークを振るって挑む姿──

ヒカル「ウルトラマン……ギンガ……?」

決意と共に、ギンガスパークをそのウルトラマンの人形に押し当てる。

音声『ウルトライブ! ウルトラマンギンガ!!』

その名の通り銀河を思わせる輝きと共に、新たなウルトラマン、ウルトラマンギンガが登場する。
もうもうと土煙を上げて大地に舞い降り、替ってブラックキングは人形となって地面に転がる。

タロウ「なんだ、あのウルトラマンは!?」

サンダーダランビアの放つ稲妻を、ギンガは軽く片手で受け止める。
美鈴が感嘆し、ギンガの中のヒカルも、その力に驚嘆する。

ヒカル「すっげぇ! 凄すぎるぜ、ギンガ! 全身にハンパじゃねぇパワーを感じる!」

サンダーダランビアの巨体の体当たりをギンガが受け止め、強力なパンチ、キックの連続攻撃。

ヒカル「ギンガサンダーボルトぉぉ!! でやぁぁ──っ!!」

空から降り注いだ落雷を、ギンガが強力な放電としてサンダーダランビアに叩きつけ、大爆発──!

サンダーダランビアは人形と化し、地面に落ちる。
内部に同化していた不法投棄業者も、ススだらけの姿となって地面に転がる。

バルキー「アンビリーバブル!」

陰から様子を窺っていたバルキー星人が、退却してゆく。

ウルトラマンギンガも光の柱に包まれて姿を消し、ヒカルが地上に降り立ち、美鈴に駆け寄る。

ヒカル「大丈夫か?」
美鈴「……守ってくれて、ありがと」
ヒカル「……ビビってる美鈴見たら、ベビーカーに乗ってた、あのすげぇ格好、思い出した」
美鈴「もう! それ、忘れてって言ってるのにぃ!」
ヒカル「ハハハ! 絶対忘れねぇ!」
美鈴「駄目、今すぐ忘れて!」



俺が突然この町に来たいと思った理由。
それは…… 運命、とか?



(続く)

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最終更新:2014年07月12日 08:46