金田一少年の事件簿(FILEシリーズ)の第1話

私立不動高校。
その教室で、七瀬美雪達四人の女子高生が昼食を食べていた。

女子「うっそ~~~~!!美雪ってば加背先輩のことフッちゃったの!?」
美雪「ちょ・・・ちょっとフッたなんて・・・ただ・・・あんまし知らない人だったし・・・!」
冴子「な~~~にが!!サッカー部の加背さんってファンクラブまであんのよ・・・わかってんの?アンタ」
女子「美雪みたいにかわいいコが彼氏作んないなんてフシゼンよ!あたまもいーし・・・」
美雪「ハハ・・・別にきっかけがないだけよ」
女子「まさか・・・あの、金田一 一が好きとか・・・?」
美雪が動揺し、箸で掴んでた卵焼きを落とした。

屋上。
金田一「ぶあ―――っくしょん!!あ~~~―――ったく・・・!!だれだ、ウワサしてんのは・・・」
その金田一一が寝転がっていた。

ファイル1 オペラ座館殺人事件① 



女子「ぷっ」
冴子「やっだあ~~~~!!あんなクズ男と美雪じゃぜーんぜんらしくない!いくらおさななじみでも」
女子「冗談よ冗談。美雪とあいつじゃウンコとケーキくらい差があるもんね」
美雪「・・・・」
(なによっ!!みんなして・・・)

美雪(え――――はじめまして、私、七瀬美雪。ただ今、私立不動高校2年生。演劇部に所属中。そして‘彼‘がウワサの――――)
美雪が後ろを見るも、その机は空いていた。

教師「―――であるからして・・・」

美雪「はじめちゃんたら・・・もうとっくに授業始まってるのに!どこ行っちゃったのかしら・・・」
美雪の横の窓が叩かれる。
美雪「?」
窓の向こうに金田一がいた。
金田一「よっ」
美雪(はじめちゃ・・・!!)
金田一「屋上でぼーっとしてたら寝ちまってよ~~~!!ちょっち手え貸してくんねえ!」
美雪「バカね~~~落ちたら死んじゃうじゃない!」
教師「ほほ―――どこに行ったかと思ったらそこにおったか!金田一!」
金田一「先生!?」
教師「ずい分楽しそーなことしてるじゃないか、ん?」
金田一「えっ、ええ!まあ・・・!見かけほど楽しくもないっすけどね」
金田一が掴んでたパイプが折れ、金田一が落ちだした。
金田一「あららら・・・!?」
美雪「はじめちゃん!」
美雪と教師が金田一の両手を掴んだ。
教師「このヤロー!!お前は後で居残りだっ!!」
美雪「はじめちゃんおも~~~い」
金田一「くくっ・・・」
その時、美雪のスカートがめくれ、下着が露わになった。
美雪「きゃっ!」
男子「おお!薄むらさき色」
驚いた美雪が手を離してしまい、金田一が落ちていく。
金田一「おわ~~~っ!?」
美雪が右手で金田一の手を掴み、左手でスカートを押さえた。
金田一「バ・・・バカ!!殺す気か!!ちゃんと両手でもて!」
美雪「だって~~~^!!」
男子「もう一回!」

美雪(そして―――この少々頼りない彼が幼稚園からの私の幼なじみ、金田一 一君なのです)

職員室。
教師(ジャージ)「―――まぁた、金田一ですか」
教師「しっかしあのアホと学年トップで生徒会長の七瀬美雪が友達ってのが信じられませんよ」
緒方「―――そうかしら、なかなか面白い子じゃないですか、彼・・・」
そう言ったのは、音楽担任で演劇部顧問の女教師、緒方夏代だった。
教師(ジャージ)「緒方先生!そー言えば顧問なさってる演劇部の合宿、あのアホも連れてくるんですって?」
そう言う教師の視線は緒方の足に向いていた。
緒方「ええ七瀬さんの推薦ですわ」
教師「気をつけて下さいよ!奴は典型的オチコボレですからね。何をしでかすか・・・」
緒方「・・・―――なるほど確かに彼はオチコボレですわね・・・遅刻、早退は当たり前、授業なんて半分はサボッてるし、テストはほとんど赤点でその上スポーツもまるでダメ。でも私、それは彼の本当の姿じゃないと思いますの」
教師「え?」
緒方「彼は他の生徒にない「何か」を持っている・・・そんな気がするんです」
教師(ジャージ)「またまたあ」
教師「考えすぎですよ!緒方先生」
緒方「みなさん御存じないのかしら?金田一君がある‘天才‘と言われた人物の血を引いている事を―――!!」


美雪「それから一週間後―――全国高校演劇コンクールをひかえた私達、演劇部のメンバー9名はクラブ合宿に向かう列車の中にいました」

金田一「う~~~~~あ~~めんどくせっ!!」
金田一が読んでいた台本を放り投げた。
美雪「だめよっ!!ちゃんと台本読んでくれないと。はじめちゃんには音響係をやってもらうんだから。劇の大筋くらいは頭に入れておいて・・・」
金田一「うるせ~~~うるせ―――!どーしても来てくれっちゅーから来てみりゃあ、朝っぱらから大荷物持ってつきあわされてよ~~~」
美雪「だってコンクール前に三人も部を辞められて困ってたのよ」
金田一「フン、まっ辞めた奴らの気持ちもわからんでもないよ。同じ部員の女の子が‘あんな死に方‘しちゃあ誰だって・・・」
美雪「はじめちゃん!!」
金田一「!」
美雪「そのことは絶対口にしないでって言ったでしょ!?みんな普通に明るくふるまってるけど、本当はまだ気にしてるんだから・・・月島冬子さんのこと・・・」
そう言う美雪の肩に誰かが手をかけた。
美雪(え・・・!?)

!?

手をかけたのは仮面をつけた男だった。
美雪「きゃあ!!」
男が仮面を取った、その正体は3年の演劇部部長、布施光彦だった。
布施「あっははは、オレだよオレ。これは劇で使う仮面!よくできてんだろ?」
美雪「ふ・・・布施先輩!!」
布施「美雪ちゃんもおいでよ。一緒にトランプやろうぜ!!」
美雪「ねえねえ、はじめちゃんも行かない?」
金田一「いい、俺ねとる」
布施「美雪ちゃん、なんであんな男連れて来たんだい?」
美雪「え?」
布施「だって奴はグータラでアホなダメ男で有名じゃないか!そりゃ君がめんどー見がいいのはわかるけど・・・」
美雪「やめて下さい!!彼は私がたのみこんで来てもらったんです!!グータラでアホなダメ男なんてはじめちゃん聞いたら気を悪くします!」
布施「みっ・・・美雪ちゃん、声が大きいって・・・!」
金田一(もう気ィ悪くしとるわっ!!ボケ)

布施は美雪と2年の女子、日高織絵の三人とトランプをし始めた。
布施「ほらっ、さっき君が引いたカードはコレだろ?」
織絵「すっごーい!!どーしてわかるんですかぁ?」
布施「まっ、ちょっとした超能力かな・・・美雪ちゃんも引いてごらんよ、オレが一発で当ててみせるぜ」
美雪「え」
金田一「くっだんね~~~~!その角んとこよっく見てみろよ!!」
布施「!!」
織絵「!」
金田一が織絵と美雪の席の後ろから顔を出した。
織絵「あっ、ヘンなマークがついてる」
金田一「どーも♡グータラ・アホ男の金田一でーす!そのマークでカードの絵柄がわかる様になってんだよ。ちゃちい~~~~マジック用トランプさ」
布施「く」
美雪(はじめちゃんでば・・・)
布施「・・・・なるほど金田一君だったかな。じゃ、君がちゃちじゃない手品やってみせてくれよ」
金田一「OK♡」
布施(ケッ!こんなアホに何ができるってんだよ!)
金田一「ではこの中から好きなカードを引いて俺に見せて!」
布施「スペードのエースだ!」
金田一「じゃ、そのスペードのエースをカードの山の一番上にのせてくれ」
布施「・・・・?」
布施がスペードのエースを金田一の持つカードの山に乗せた。
金田一「では質問、今一番上にのってるこのカードは何でしょう?」
布施「―――?スペードのエースにきまってるだろ!!」
金田一「残念でした。一番上はハートの3になってしまいました」
布施・織絵・美雪(え!?)
金田一「センパ――イ!!自分の胸ポケット見てみなよ」
布施「何だと!?」
布施の胸ポケットには一枚のトランプ、それもさっきカードの山に乗せたはずのスペードのエースがあった。
布施「!?」
(こ・・・こいつ!いつの間にオレのポケットに・・・・!?)
金田一「――――とまあ、こんな所かな?やっぱ手品はテクニック勝負でしょ?こーんな今朝、高井デパートで買ったインチキトランプ反則だよね~~~」
布施「お・・・お前!あの時、高井デパートにいたのか!?」
金田一「ノォノォ、そんなことトランプケースを見ればわかるよ」
美雪「このケースを?」
金田一「値段のシールをはがした跡が真新しいだろ?このトランプが買われて間もない証拠だ。そしてこんな手品グッズを売ってて、今朝10時半の集合に間にあう店といえば、駅前の高井デパートしかないでしょ?」
布施「く・・・」
金田一「さらに言っちゃうとトランプを買ったのは10時14分、定価1942円で消費税込み2000円だった・・・!」
布施「な・・・なんでそんな事まで・・・!!」
金田一「ズボンのポケットにこれが入ってましたよ!」
布施「へ・・・?デパートのレシート!?」
金田一「くっくっくっ、ザンネンでした!!せっかく女の子ウケ狙ってたのに」
布施「か・・・返せ!!俺のトランプ!!」
金田一「もー返しましたよ!」
布施「え?わあ!?」
布施のズボンのチャックからトランプがこぼれ落ちた。
布施「な・・・なんだこりゃ!?くそっ!!」

織絵「ねえねえ!さっきのおもしろかったわぁハート」
神矢 修一郎(2年 )「本物の手品師みたいじゃん?」
織絵「え―――っとお、金田二君だったけ?」
金田一がずっこけた。
金田一「キンダイチ ハジメ」
織絵「ごめ~~~~ん!!金田一君、あたし日高織絵!オリエでいいよ♡」
神矢「でも、どこであんなの覚えたんだ?」」
金田一「ありゃじっちゃんに習ったんだ」
織絵「へえ、金田一君のおじーさんって手品師だったの?」
金田一「はは、違うって!探偵の金田一耕助!俺のじっちゃんなんだ」
織絵「ええ!?本当」
仙道 豊(2年 大道具係)「金田一浩介って小説の人物じゃなかったの!?」
金田一「おっと」
織絵「ステキ!!じゃあ金田一君も将来、探偵になっちゃうの!?ねぇ!だったら私を探偵の助手にして!!ねっねっ」
織絵が金田一に抱きついた。
金田一「えっ・・・いや・・・オレ探偵になる気は・・・はは・・・おりえちゃん、胸おっきいね。Fカップかな」
美雪「ムッ」
美雪が金田一の足を踏んだ。
金田一「いて!!」
美雪「あら、ごめんなさい」
(ふ――んだ!!)
金田一(なっ・・・なんだよ、美雪の奴・・・)
有森「くっくっくっ、名探偵の弱点みーっけ」
金田一「ぬっ」
金田一の後ろの席に座っていた2年生の小道具係の有森祐二が顔を出してきた。
有森「よっ!!」
金田一「誰だよ、テメーは?」
有森「まーまー、おこんない、おこんない♡俺は2組の有森ってんだ。え―――と、君はたしか・・・カネダイチイチ君だったかな?ん?」
金田一「おめーワザと間違えてんだろ?いい根性してんなコイツ・・・ああん?」」
織絵「ねえねえ!助手のお給料はいくらなの?」
有森「あっ、俺も助手にしてもらおっかな・・・」
金田一「お前らなあ~~~~」
桐生「ちょっと静かにしてくれない!!うるさくって台本に集中できないじゃない!」
怒鳴ったのは眼鏡をかけた女子、2年生の桐生春美だった。
金田一「・・・こ・・・こえ~~~~女」
有森「まあ・・・桐生さんはマジメだから・・・」
桐生「・・・・」
金田一「あんなんじゃ嫁いびりの姑役くらいしかできねぇだろーに」
有森「―――と思うだと~~~~!?ところがどっこい、舞台に立つとガラッと変わっちまうんだぜ、彼女・・・」
金田一「ふーんそんなもんあかねぇ」


金田一達は宿泊するホテルのオーナーである黒沢和馬の運転するクルーザーに乗った。
黒沢「いや―――!!こんなに一度に若い人が大勢来るなんてね!久しぶりに活気づきますよ!はははは、なにしろこんな離れ小島に一軒だけのホテルでしょ、妙な客が多くてねぇ・・・」
緒方「でも孤島のホテルなんてステキですわ・・・」
黒沢「ハハハ・・・まあ建物自体は明治時代の資産家の別荘でしてね。それを十年前買い取ってホテルに改良したんです」
そう言う黒沢の左頬には、大きな傷跡があった。
有森「あのオーナーの顔の傷跡すっげーなー!」
金田一「・・・ああ」
黒沢「ほら!あの島ですよ。島には私と従業員をふくめて3人しか住んでいないんです。島の行き来や食糧その他の調達は全部この船でやっとるんですよ!」
金田一「おい美雪、なんでこんな不便な所で合宿なんか・・・」
美雪「それは・・・ホテルに着けばわかるわ!」

黒沢「さあ!着きましたよ!」
金田一たち「「「!!」」」
金田一たちが到着したそのホテルとは・・・
黒沢「ようこそ、『オペラ座館』へ・・・」
神矢「すっげ~~~~!!」
仙道「まるでオカルト映画じゃん!」
布施「こりゃ、そーとーな年代もんだぜ!!」
金田一「ふえ~~~~!!」

美雪「ねっ、フンイキでてるでしょ?」
金田一「あ・・・ああ・・・」
美雪「まだおどろくのは早いわよ!みんなこっち来て」

オペラ座館の中には、劇場があった。
布施「おお!!」
織絵「すっごーい!劇場じゃん」
黒沢「以前ここの持ち主だった資産家は大の演劇好きでね!わざわざ別荘に立派な劇場を作ったんですよ」
有森「あれ?このドア片方・・・」
黒沢「ああ、そこは壊れてるんです」
「ここが音響室!機材は十年前のものだが今でも充分使えますよ。掃除さえしてくれればね・・・」
布施「でも本当にこんな所タダで貸してくれるんですか?」
黒沢「ははは、心配いりませんよ。この劇場もガタがきてるから、連休明けにとり壊す予定なんです」
金田一「へ―――」
黒沢「まあ・・・ここも色々あったからなあ。いーことも、そうでないことも・・・」
美雪「?」
金田一「以前ここで何かあったんですか?」
それを聞かれた黒沢は一瞬、恐ろしい形相になった。
!?
金田一「え?」
黒沢「いやいや、たいしたことじゃないんです。ただここはネズミが多いからね、気をつけないと衣装の中に入り込むかも!!」
織絵「やだあ~~~~」
金田一「・・・・」
外では雨が降り出していた。
金田一「雨だ・・・」


織絵「そこにいるのは誰?いつまでもこんな所にいると『怪人』が出るわよ」
?「『怪人』?」
織絵「そうよ!この劇場は彼の住処なの」
?「なら今夜現れるとしよいか・・・」
怪人「その『怪人』が!!」
織絵「きゃあああ」
緒方「ちょっと待って日高さん!」
織絵「相手は「オペラ座の怪人」なのよ、もっと恐怖をこめて!今のじゃチカンにあった悲鳴だわ!」
織絵「は、はい」
緒方「じゃもう一回!」
織絵「・・・・」
緒方「今の所からはじめて!」

美雪「いい?はじめちゃん、今の悲鳴で10番の音を流すの」
金田一「へいへい」
仙道「よお!手品師、音響はうまくできそーかい?あ、オレ仙道、今度オレにもあんな手品教えてよ!」
金田一「あんたヒマそーだねえ」
仙道「だって合宿中は大道具使わないし、役も最後の方だから今ヒマなんだよ」
有森「ほ~~~ヒマなのか?仙道~~~!!」
仙道「うっ」
有森「ヒマなら小道具の整理手伝え!!」
仙道「あ・・・有森~~~!!」
有森は大量の小道具を抱えていた。
有森「おっと・・・」
小道具の中から短剣がすべり出て、金田一の傍に落ちた。
金田一「わっ!あぶね!!」
有森「ははっ、ダイジョーブ、そりゃ作り物だって!」
金田一「へ?おっでれーた!!重さまで本物そっくりだ!!」
美雪「有森君は美術部にも入っててね。そーゆー小物作るのがうまいの!」
金田一「へ~~~~、じゃ、これもお前が作ったのか!?」
有森「あ、それは!!」
怪人『わたしの・・・』
金田一が持ち上げたボーガンから矢が放たれ、舞台の「怪人」のすぐ前の壁に突き刺さった。
怪人「な・・・」
有森「金田一!!」
有森が金田一からボーガンを取り上げた。
金田一「あちゃ~~~~!!」
有森「この‘ボーガン‘は本物なんだ!!布施先輩がわざわざ家から持ってきてくれたんだうお!!」
怪人「き・・・金田一~~~!!きっさまあ、俺を殺す気かあっ!?」
『怪人』が仮面を外した。怪人を演じていたのは布施だった。
金田一「あら~~~!?誰かと思ったら布施先輩!スンマセーン!でも仮面つけた方がいい男ですよ、セ・ン・パ・イ♡」
布施「なんだとキサマ~~~!!いい加減にしろ!!」
金田一「おっとぉ、へへへ♡」
布施が『怪人』の仮面を金田一に投げつけたが、金田一は仮面を受け止めた。
更に金田一は『怪人』の仮面を着けた。
金田一「レロレロベ~~~~!!」
美雪「はじめちゃん!」
有森「俺の作った仮面で遊ぶな!!」
有森が金田一から仮面を取り上げた。
金田一「!、有森」
有森「この仮面は劇の中でも一番重要なアイテムなんだぞ!!これは『怪人』のトレードマークなんだ」
金田一「でも『怪人』って主人公なんだろ?こんなんつけっぱなしじゃ顔見えねーじゃん」
有森「お前ちゃんと台本読んでねーのかよ、この仮面はな~~~~!」
緒方「これはね―――『怪人』が醜い素顔を寂すためにつける仮面よ」
金田一「緒方先生!?」
緒方が仮面を取り、更に顔に着けた。
緒方「主人公の『怪人』は音楽の才能があったのだけど・・・顔が生まれ付きあまりに醜かったため、オペラ座の地下で人知れず生きていたの。その彼がかけだしの美しいオペラ歌手‘クリスティーン‘に恋をした!それがすべてのはじまり―――恐ろしい連続殺人の幕開けとなるのよ」
金田一「・・・・」
緒方「布施君、あんまりカンシャクおこして小道具壊さないようにね」
布施「!!」
緒方が布施に仮面を投げ渡した。
緒方「あなたは少し怒りっぽいわ」
布施「は・・・はい・・・!!」

金田一「あのセンセー役者やな~~~~」
有森「ヘタな女優よりずっと美人だしな」
仙道「おい!もう一人の『役者』が出てきたぞ!」
有森「おっ」
金田一「?」

舞台の上に美しい女性が出てきた。
女性『何をしてるの!クリスティーン!誰と話をしていたの?』
金田一「へ~~~~!あんな美人いたっけっ」
有森「ありゃ電車ん時の‘ヨメイビリ‘だぜ」
その女性を演じているのは桐生だった。
金田一「え!?あれが・・・!?あんなキレーになっちゃうの?」
有森「なっ?あの豹変ぶりはまさに舞台役者そのものさ!役になりきっちゃうことでは桐生春美の右に出る者はないよ」
金田一「・・・・」
仙道「・・・でも舞台の上で一番輝いてたのは、やっぱり‘月島‘さんだったなあ・・」
金田一「えっ、誰だって?」
仙道「あっ・・・!なんでもないよ!一人言一人言」
有森「・・・・」
金田一「?」

早乙女「もういいかげんにして!」
織絵「きゃっ」
織絵が3年生でヒロイン役の早乙女涼子につき飛ばされた。
有森「あっ、日高さん!」
美雪「織絵ちゃん大丈夫!?」
桐生「さ・・・早乙女先輩ちょっとやり過ぎですよ」
早乙女「この子ったらさっきからとちってばっかり!今度のコンクールには劇団のスカウトもくるのよ!?あたしまでヘタに見られちゃうじゃない」
布施「早乙女君、ちょっと言いすぎ・・・」
早乙女「!!」
早乙女が布施を睨み付けた。
布施「・・・・だと思うけど・・・ハハ・・・」
早乙女が舞台から去って行った。
美雪「早乙女先輩、待って下さい早乙女先輩!」
緒方「ほっときなさい・・・ヘタにかまうとつけあがるだけよ」
美雪「・・・・」
金田一「かっわいくね~~~~アマ」
有森「早乙女さんって人はいつもこうなんだよなあ・・・」
神矢「先生!彼女を使うのやめましょうよ!」
そう言い出したのは、2年生の照明兼役者の神矢修一郎だった。
緒方「神矢くん」
神矢「みんな早乙女さんの身勝手には迷惑してるんです!」
緒方「それはムリね・・・」
神矢「なぜ?」
緒方「発表までもう二週間もないのに、セリフの長くて難しいヒロイン役を代えるわけにはいかないわ。それとも―――他に出来る人がいて?」
神矢「・・・月島さんがあんなことにならなけりゃ・・・」
神矢がそう言うなり、演劇部の皆が凍り付いたかのように動きを止めた。
金田一「!?」
神矢「・・・・」
神矢は去って行った。
仙道「ま・・・まてよ、神矢!」

金田一「おい有森、『月島』って例の自殺した・・・」
有森「ああ、早乙女先輩は死んだ月島さんの代わりにヒロインになったんだ!!」
織絵「・・・・」
美雪「―――織絵ちゃんだいじょうぶ?顔が真っ青よ。ひょっとして熱でもあるんじゃない?」
金田一「どうした?美雪」
美雪「織絵ちゃんが具合が悪いみたいなの」
金田一「カゼか?薬ならオーナーに頼んで・・・」
織絵「ち・・・ちがうの、カゼなんかじゃない・・・・金田一君、美雪ちゃん、あ・・・あたし・・・」
金田一「・・・・」

金田一「そう言ったきり日高織絵は黙ってしまった。だがその瞳はひどく怯えきっていた。何か‘恐ろしいもの‘を見たかのように・・・」

金田一「なあ、有森」
有森「ん?」
金田一「自殺した月島さんってどんな子だったんだ?この部の連中は『月島』の名前を口に出すのさえ、さけてる。なにをそんなに恐れてるんだ?なあ有森、月島って子は一体――――」
有森「無理ないさ、‘あんなの‘目の前で見ちまったら!」
金田一「え」
有森「俺の知ってる月島さんはとてもくったくなく笑う気だてのいい子だったよ。舞台の上でも彼女の明るい声はよくとおった・・・彼女が演じるヒロイン、クリスティーンは本当にはまり役っだったんだ」
「ところが一か月前の放課後―――彼女は理科準備室であやまって硫酸を頭からかぶってしまい・・・彼女の顔は手術でも治せないほど焼けただれてしまった」
金田一「知ってるぜ、噂じゃそれで彼女は自殺したって・・・」
有森「・・・ああ、だがな金田一・・・あの事件には部員以外誰も知らない‘事実‘がある・・・!!」
「実は彼女が死んだあの晩、俺達みんなで病院の彼女を見舞いに行ったんだ。すると彼女が屋上に現れて・・・」

布施「!、お・・・おいあれ・・・」
神矢「!?、月島さんっ」

!?
月島が顔を覆っていた包帯をほどき出した。

有森「ほどけてゆく包帯の向こうで俺達は彼女の声を聞いた―――その声はどんな舞台の時よりもはっきりとおっていたよ」

月島「私はオペラ座の怪人―――思いのほかに醜いだろう?この禍禍しき怪物は地獄の業火に焼かれながら、それでも天国に憧れる!」
そう言って、月島は屋上から――――
布施「月島さ・・・」

有森「―――そう言い残して、彼女は飛び降りた。この言葉は劇中、オペラ座の怪人がヒロインに恐ろしい素顔を見られた時言うセリフさ。彼女がどんな思いでこのセリフを言ったか―――今となってはわからないが――――今でもあの時の彼女の姿――――彼女の声が頭に焼きついて―――」
金田一「・・・・」
(―――なんてこった・・・・美雪が月島のことになるとあれほどムキになって口止めしたのは、このためだったんだ!)

月島(地獄の業火に焼かれながら・・・)
金田一「・・・・」

その頃、美雪は神矢の部屋に来ていた。
美雪「神矢君・・・だいじょうぶ?」
神矢「美雪さん!!さっきはごめんな!妙なこと口走って・・・」
美雪「ううん、そんな!私はあの日見舞いに行けなかったけど、神矢君たちは月島さんの自殺を目の前で・・・」
神矢「なんだよ、美雪さんが気にすることじゃないぜ!?」
美雪「う・・・うん、でも・・・」
「・・・もう夕食出来てるそうだから食堂行ってね」
神矢「ああ、わかってる」
美雪が部屋から出た。
神矢「・・・・」
神矢が広げた台本には、かっての月島の写真が挟まれていた。
神矢「月島さん・・・・」
月島の写真を持つ神矢の手が震える。
神矢「・・・・」


金田一と有森が食堂に来た。
金田一「ひょ~~~~っ、メシだメシ!!」
有森「みんなまだ来てないな」
金田一「かまーねーかまーねー!!もー時間だもん、てきーとーに席ついてよーぜ」
剣持「おい、そこのガキ」
金田一「!?」
中年男性、剣持勇が金田一を怒鳴りつけた。
剣持「そこは俺の席だ!客はお前らだけじゃないんだぜ!!」
金田一「なっ、なんだこのオッサン!!」
有森「まて金田一!!見ろよ、席に全部名札がついてる!」
剣持「フン、そーゆーこった。バカヅラ並べてボーッとしてるんじゃねえぞ、ガキ!!」
金田一「やっなヤロ~~!」
有森「おさえろ金田一!」
布施たちも食堂に入って来た。
仙道「お~~~本格的なフルコースじゃん」
布施「いいニオイだな」
緒方「席には、名札がついてるから。自分の名前の席についてね」
金田一「もっと早く言ってほしかったぜ・・・!!」
美雪「どーかしたの、はじめちゃん?」

結城「オーナー、私ナイフとフォークいりません」
黒沢「は?でも・・・」
結城「使いなれた‘もの‘の方が食が進みますので・・・」

!?
眼鏡をかけた男性、結城英作は、鉗子とメスで食べ始めた。
金田一(こ・・・こいつ・・・手術用の鉗子とメスで食ってる~~~~!?何者~~~~?!)
有森(う、ゲロゲロ~~~~!!)
「お・・・俺達も食おっか・・・?」
金田一「そ・・・そーね」
美雪「もうみんなそろった?」
しかし、席は一つ空いていた。
金田一「あれ?その席」あいてるけど誰だ?――――」
美雪「織絵ちゃんだわ」
金田一「!・・・・・・」
(日高織絵――――)
織絵(金田一君、美雪ちゃん・・・あたし・・・!!)

美雪「あたしちょっと見て来るわ」
金田一「美雪!?」
美雪「彼女さっき様子が変だったの。何かひどくおびえたような・・・」
布施「ハハ・・・美雪ちゃんの気のせいだろ?」
美雪「―――でも布施先輩!一か月前にあんなことがあったばかりなんですよ!もしも・・・彼女にまで何かあったら・・・・」
神矢「・・・・そ・・・そうだな、俺も一緒に探すよ」
仙道「俺も」
美雪「ありがとう、お願いね」

?「きゃあああああ・・・」
その時、誰かの悲鳴が響いた。

金田一「今のは・・・悲鳴!?」
布施「お・・・女の悲鳴だ!!」
桐生「なんですって?」
仙道「俺も聞こえたぞ」
有森「だ・・・誰の」
美雪「まさか織絵ちゃん!?」
緒方「みんな!日高さんを探すのよ!!」
仙道「は・・・はい!!」
緒方「いそいで!!」
有森「俺は外を探すからロビーの方たのむ」
神矢「ああ!!」

「日高さ―――ん」
「織絵ちゃんどこなの~~~~!?」

美雪「どうしよう!部屋にもどこにもいないわ!」
金田一「おちつけよ!」
その時、ベルの音が聞こえてきた。
美雪「開幕ベルの音だわ!」
金田一「すると劇場か!?」

金田一「後から思えばこのベルこそが、凄惨な事件の‘幕開け‘を告げるベルだったのだ」

金田一と美雪は劇場の前に来た。
金田一「この中か!?」
「真っ暗だ・・・美雪、ライト」
美雪「うん」
ライトが点けられ、劇場の中が照らされたが・・・
金田一「!!」
(それはこれから起こる謎に満ちた連続殺人の凄惨なる序曲だった)

そこには、ライトに押しつぶされた織絵の死体があった。

金田一(まばゆい光が美しく交差しながら変わり果てた日高織絵を闇に照らし出した。重さ数百キロはあるだろう鉄の照明機材が彼女のきゃしゃな体を惨たらしく押し潰していた)
(その死体はまるで完成された芸術品、オブジェのような一種異様な美しさがあった)
(さっきまで血のかよっていた日高織絵の体は人形のように白々として、息絶えていたのだ)

美雪が意識を失い、倒れそうになった所を金田一が抱きかかえた。
金田一「―――!!美雪、美雪~~~~!?」

織絵(美雪ちゃん、たすけて・・・美雪ちゃん・・・)

金田一「美雪!!」
美雪が目覚めた。周りには有森たちも来ていた。
美雪「はじめちゃん・・・・」
金田一「気がついたか」
美雪「織絵ちゃん・・・!?お医者さんを早く!!」
金田一「美雪・・・」
結城「お友達は即死ですよ」
結城が来た。
金田一(あいつはさっきの・・・)
結城「死体は右肩から腰にかけてぐちゃぐちゃ。折れた肋骨があっちこっち内臓に突き刺さって―――まあ、なかなか劇的な肢体でしたね・・・」
神矢「くそっ!なんでうちの部は人が死ぬんだ・・・!?」
緒方「・・・・」
美雪「・・・そんな・・・織絵ちゃん・・・」
美雪が泣きだした所に剣持が来た。
剣持「泣きたいのはこっちだぜ、人の休暇台無しにしやがって!」
有森「!?、あ・・・あんたは一体何者だ!」
剣持は警察手帳を出した。
剣持「俺は警視庁殺人課(捜査一課)の剣持警部だ!まっこんな事件は俺が出るまでもないがね。なにしろ古い劇場だ。照明のワイヤーが老朽化して切れた事故にきまって・・・」
金田一「ちがうぜ!!」
剣持「!?、なんだと!!」
美雪「は・・・はじめちゃん」
金田一「これは事故なんかじゃない・・・!殺人だ!!日高織絵は殺されたんだ!」
「見ろ!!照明を釣ってたワイヤーだ!問題はこの切り口だよ、刃物で切ったようにスッパリと切れてる。もし自然に切れたものならもっとほつれてバラバラになるはずだ、これはあきらかに鋭利な刃物で切られた跡だ。つまち誰かが故意にワイヤーを切り・・・舞台の上の彼女に照明を落としたんだ!!」
「―――これはあんたの管轄だぜ、殺人課の刑事さん」
剣持「く・・・あ~~~~オホン、そんな事は知っとった!!今のはお前らをためしただけだ!!これから取り調べを行う!!全員食堂にあつまれ!!」

食堂に全員が集まった。
剣持「警察は天候が回復するまで来れんそーだ。よってそれまでは俺の指示にしたがってもらう!!おい!そっちから順に名前と学年をいえ!」
布施「え?布施光彦、3年・・・」←部長『怪人』役
早乙女「早乙女涼子、3年です」←ヒロイン『クリスティーン』役
桐生「桐生春美、2年です」←オペラスター『カルロッタ』役
仙道「えっと、仙道豊、2年生」←ワキ役兼大道具係
神矢「2年、神矢修一郎です」←ワキ役兼照明係
有森「有森裕二、2年」←ヒロインの恋人役兼小道具係
金田一「金田一一、2年・・・」
美雪「七瀬美雪、2年です」
剣持「不動高校のガキどもは8名で全部か・・・ほれ!次は!」
結城「私?結城英作、横浜で開業医をしてます」
緒方「ちょっといいかしら刑事さん!」
剣持「!?―――あんたは!?」
緒方「緒方夏代、この子達の引率で演劇部の顧問ですわ。あなたはどうもこの中に犯人がいると疑ってるようですけど・・・日高さんの悲鳴が聞こえた時、私達全員食堂にいたじゃありませんか。それなら私達には彼女を殺せるはずないのでは?」
剣持「・・・む!」
黒沢「あっ」
剣持「どうした!?オーナー」
黒沢「なんてこった!うっかりしてた。実はもう一人、ここにおられないお客様が・・・!」
剣持「なんだと!!」
黒沢「昨日チェックインされた『歌月』様ですが、なんとも奇妙な方でして―――
たまってる仕事を片付けたいから部屋には誰も近付けないでほしいと。食事も総て部屋で済ますからと・・・でも一番妙だったのはあの顔ですよ!なにしろ包帯でぐるぐる巻きだったんですから!!」
布施「顔に包帯!?」
神矢「月島さんと同じだ・・・」
金田一「・・・・」
剣持「よし!オーナー、すぐに『歌月』の部屋へ案内しろ!!」
黒沢「はい」

剣持達は『歌月』の部屋に乗り込んだが、中はズタズタに切り裂かれていた。
剣持「ああっ!!」
布施「へ・・・部屋がズタズタに切りさかれてる!!」
剣持「誰もいない・・・!!もう逃げられたか!!」
金田一「―――!!あれは」
「包帯とスーツケース、ケースもズタズタだ・・中はカラッポ、長期旅行とみせかけた偽装か・・・?」
有森「包帯もケガなんかじゃなくて・・・」
金田一「ああ、顔を隠すためだ!」
美雪「は・・・はじめちゃん!!」
金田一「どうした美雪!」
美雪「あ・・・あれ・・・」
金田一「え?」
浴室の壁に、『地獄の業火に焼かれよ』と刻まれていた。
金田一「!?、この言葉・・・」
月島(地獄の業火に焼かれながら・・・)
金田一「月島冬子が死にぎわに言った『オペラ座の怪人』の台詞・・・!?」
美雪「・・・・」
布施「じょ、じょーだんじゃないよ!!こ・・・こんな殺人鬼のうろつく島、一秒だっていられるか!島を出たい奴は俺といっしょに来い!」
美雪「布施先輩」

布施と仙道がクルーザーの方に向かったが・・・
黒沢「ムチャですよ、こんなしけてちゃクルーザーはムリだ!!」
布施「かまうか」
仙道「ああァ、あれ!!」
布施「クルーザーが流されてる!?」
仙道「だ・・・誰かが船をつないだ縄を切ったんだ」
布施「くそっ、包帯男の仕業か!!」
金田一「悪あがきはやめた方がいいぜ」
布施「金田一!?」
金田一「もう誰もこの島を出ることは出来ないんだ!この嵐が過ぎ去るまでは!!」
布施「・・・・・」

金田一「・・・・・」
『事件の発生とともに姿を消した謎の男―――『歌月』とは何者なのか?
俺には激しい嵐のうなりが、さ迷い歩く『怪人』不吉な笑い声に聞こえた!』


(つづく)

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最終更新:2018年06月02日 23:02